なお、自分はダー○ー兄が好きです。
オセアニア連邦領、ミレニアム島。
よく晴れたその日に、ギャラルホルンから鉄華団への形ばかりの降伏勧告の後、その戦闘は沈黙をもって始まった。
「………」
「………」
ギャラルホルンの部隊は海上に艦隊、そして少し後にフライングボードに乗ってやって来たモビルスーツが七機。
しかし、ギャラルホルンからすれば意外なことに鉄華団は陣形を乱すことはなく、その戦力の大半は周辺の森にバラけて伏せたままだ。
こう言ったことは小回りのきくモビルワーカーだからこそできる芸当だろう。
やがて、様子見とばかりにギャラルホルン部隊がライフルで威嚇しつつ距離を詰める。
「バルバトス接敵します!!」
「グシオンリベイク、同じく誘導の通りに接敵!!」
モビルワーカー隊の通信がオルガの下に集まる。
「海上方面はタービンズの助っ人二人に任せるとして…各自、連絡は逐一入れてくれ」
「ええ、あのお二人なら間違い無いでしょうね」
モビルワーカー隊は付かず離れず、通信の届く範囲でやり取りを繰り返す。
「全車、バラけつつ向かって来る敵機はできる限りカメラや関節を狙え!!下手に逆上されて被弾覚悟で突っ込んでこられたら面倒だ!!ミカもレンチメイスを使って出来る限り腕や脚の破壊を優先してくれ!!お荷物が増えてくれりゃあ、そんだけオレらの護衛任務の安全度も増すからよ!!」
「…了解、やってみる」
通常、モビルスーツのインナー・フレームは装甲によって防護され、滅多なことでは破壊は困難だ。
だが、レンチメイスは通常の打撃武器としての使い方とは別に、敵を挟んで内部のチェーンソーで切断するという戦い方をするために、それを可能にするかなり珍しい兵装だ。
取り扱いに難もあるだろうが、そこは阿頼耶識と三日月・オーガスの戦闘センスからして問題は無い。
人型の兵器には、メリットとデメリットがかなり顕著にあるもの。
メリットとしては剣や銃器などの多種多様な武装が使えること。
そしてデメリットはその分メンテナンスも操縦も複雑で、四肢のいずれかを失えばパイロットの腕にもよるが、大抵は弱体化すること。
それに、相手は動かない木偶ではなく、実際に中に人間がいて、動き回っているわけだ。
正直言ってかなり難しい注文だが、阿頼耶識を装備している鉄華団ならギリギリ不可能とも言い難いラインの注文。
ビスケットは苦笑いを浮かべていたが、その指揮に対して悲観的な返答はない。
艦砲射撃は漏影に牽制され、思うように動けず、それに加えてグシオンリベイクの射撃に痺れを切らしたのか、モビルスーツの部隊が時代がかった口上と共に突っ込んで来る。
グレイズリッターと、ガンダムフレームの距離が正に縮まろうという、その次の瞬間…。
ドォォォォン……!!
ドドォォォォン……!!
響くのは地鳴りのような爆発音。
「地雷?」
立ち止まる機体もあるが、続けて幾つか爆発が起こる。
「地雷原か!!」
「しかし…出来るものなのか?この短期間に…」
「いいや…やりかねん…仮にそうでなくとも出来かねん…あの噂の『買収屋』なら!!」
幾らかが転倒し、残る部隊も急な爆音に気圧されたのか後ずさる。
その様子を見たギャラルホルン部隊にも徐々に動揺が広がる。
瞬間、陣形にも間隙が開く。
「よしよし…対モビルスーツ用に調整された特製地雷の味はどうかな?とは言っても…そこまで期待は出来ないけど。ほんの少しの間だけ恐慌状態にするならこれ以上無く持ってこいだ」
チャドはそう言うなりモビルワーカーのハッチを少し開け、双眼鏡で現状を確認する。
そして、にわかに思い出していた。
自分にイチから勉強を叩き込んでくれた人たちのことを。
「いいかぁ、チャド。戦場の策士ってぇヤツはなぁ…勝てると思っても気を緩めねぇし、負けると思っても決して焦らねぇ。気の緩みは油断に繋がるし、焦りはいざって時のミスの温床だからだ。あと一歩ってとこであっさり死んだ策士気取りのヤツらをオレ達はたくさん見て来た。敵も味方も、山ほどな」
ジャスレイをオヤジと慕う彼らは、普段の可愛がってくれる様子とは打って変わって真剣な表情だ。
「周りが焦り散らかすような状況でもオメェだけはただ平静を装え。この短ぇ間で分かったことだがなぁ…オメェの強みは、引くべきところで引き、攻めるべきところで攻める判断をする、その見極めが抜群に上手いとこだ」
褒められることに慣れていないせいか、萎縮した様子のチャドに、彼らは続ける。
「あとは…まぁちぃっとばかし経験を積みさえすりゃあ大抵のヤツなら手のひらの上で転がせるだろうさ」
ふと、彼らに気になったことを問いかける。
「経験って…どのくらいですか?」
彼らは顔を見合わせるや、考え込むように腕組みをすると
「そうさなぁ…あと二十年か…三十年か…ま、すぐだろうよ」
ニカッと笑ってそう言った。
「よし…見えてきたぞ。地球外縁軌道統制統合艦隊隊長の性格…」
指揮官の性格を知れば対策も容易い。
習ったことは最低限。
文字の読み書きが半分を占めた勉強時間ではあったが、チャド・チャダーンにはそれで十分だった。
「見ててくださいよオジキ、先生方…」
一瞬、双眼鏡を握る手に力がこもるが、教えを思い出し気を引き締める。
森の土の独特の湿った匂いが、いやに鼻につく。
さほど深い訳ではないが、モビルスーツの視界を遮る分には十分。
「あの人たちに報いるためにも…これから団長達の負担を減らすためにも…ここでオレ達の実力を示すんだ…」
その闘志は静かに、しかし確実に、目前のギャラルホルン部隊に牙を突き立てんと燃えていたのだった。
戦闘描写に結構四苦八苦してて投稿遅れましたー。
ガバがあっても許して…許して…。