どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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鉄華団サイドです。


第56話

 

「ええい!!猪口才な!!地雷原など迂回して回りなさい!!」

「はっはい!!カルタ様!!」

 

カルタの喝が入ったからか、膠着状態に陥っていたギャラルホルンの部隊は、陣形を整えて射撃に専念していた鉄華団モビルスーツ…グシオンリベイクと流星号の方へと向かう。

 

「やっぱ、モビルスーツから潰しにくるよなぁ…」

「だが、だからこそ誘導も容易いな」

 

無論、油断もできはしないが。

 

「オジキは…三日月さんに武器を渡した以外は本当にただ居座っただけだ」

 

それは、言葉にすればただそれだけのこと。

しかし、大切なのはその事実。

 

「そうとも。オジキはここにいた…いてくれた…。それでいい。その事実だけで、奴らの思考を鈍らせるには十分な毒となった。入れ知恵はここに来るより前に、既に終わっていたんだよ」

 

鉄華団からすれば、ジャスレイの整えた舞台で存分に力を振るえることで士気の向上に繋がり、逆にギャラルホルンはジャスレイの影に常に警戒しなければならない。

 

そして、その意味するところはまるで逆だ。

 

観察の末、オルガ達策士組は敵隊長の性格を見極めて、そしてその情報の共有もしていた。

 

「あの機体…頭のトサカからして多分隊長機だよなぁ。常に前線に出ている…と言うことは、乗り手はかなりの見栄っ張りか、或いは相当責任感が強いのか…」

「だが、前者にしちゃあ部隊の統制がかなり取れてる。相当に慕われているのか、教練だけは上手いのか…」

「…たぶんだけど、それなり以上には慕われてるんだと思うよ。部隊の動きもキビキビしてるし」

 

そうしてチャドはカチリ、と合図の狼煙を上げる。

それを見つけたオルガが、すぐさま反応する。

 

「ミカァ!!今だ!!突っ込め!!」

「了解」

 

三日月・オーガスはオルガの指示に短く返すと、ショートカットするようにそこを通って今まさにグシオンリベイクとモビルワーカーに攻撃せんとし団子状態の敵部隊を急襲する。

 

「なっ…馬鹿な!!そこは…」

 

驚きと共に吹き飛ぶ脚部。

なんとか立て直そうとするも、急なことでもたつき、更に二機が無力化させられる。

 

「馬鹿な…」

「そこは地雷原じゃあ、無かったのか…」

 

空気を読む、とよく言うようにその場の雰囲気や印象は誰がいたか、どれだけいたか、その時の彼、或いは彼女の機嫌はどうだったか…等々で幾らでも変わるものだ。

 

例えば、誕生会で主役が思いっきり不機嫌な時にクラッカーを鳴らしたりする人間が好意的な反応をされないように。

野球で九回裏、ツーアウト満塁で一打サヨナラ逆転ホームランが望まれる状況で空振り三振してしまう選手が、バッシングを受けるように。

場を支配する空気というのはそれだけ目に見えない強い力を有するものだ。

ライドとチャドの二人はジャスレイがこの場にいないと言うことを利用し、数度の爆発でもって疑念の種を蒔いていた。そこが、さも危険極まりないかのようにそのエリアそのものをギャラルホルンにとっての心理的な地雷原と化した訳だ。

 

元々あちらの、特に隊長はそのプライドの高さ故か、自分達の部隊だけで鉄華団を捕らえることにかなり強く執着している。

この期に及んでモビルスーツ戦の経験者たる他部隊を増援として頼もうともしていない時点でそれは明白だ。

これが他部隊…特にアリアンロッドの熟練兵なら見抜けたのだろうが、地球外縁軌道統制統合艦隊は、ここに来て少しずつ…しかし確実に経験不足のボロが出始めてきた。

 

「くぅぅっ…」

 

カルタはギリっと歯噛みする。

 

「海上部隊はどうした!!」

 

上陸予定の部隊からなかなか報告が来ないことにも腹を立てている様子だ。

 

「も、申し訳ありません…それが…」

「例の所属不明のモビルスーツが予想以上に手強く、防戦がやっとです…」

「ちぃ…」

 

こうなれば、カルタ・イシューに取れる手はかなり限られてしまう。半壊したモビルスーツ部隊で無理やり突っ込むか、それともこれ以上実害が出る前に退却するか…。

幸いと言うべきか、自分達の部隊に重傷者はいない。

もたもたしてこれを好機と、ジャスレイがやって来ればそれこそ台無しと言うものだ。

 

「カルタ様!!」

「なんだ!?」

 

「地球外縁宙域に、船舶反応!!中型船舶、複数確認しました!!」

「なんですって!?」

 

これはカルタにとって最悪の報告だ。

恐れていた事態、招かれざる客が再度やって来るということだ。

更にタチが悪いことに、状況的にここで引くのも憚られる。

それは別に功名欲しさだけでは無い。

真に問題なのは、自部隊の損害があまり無い状態で引けば、それは臆病者の誹りも免れないということ。

嫌がらせのような散発的な攻撃こそあれ、決定的な打撃はあちらもこちらも出来てはいない。

今まさに切り込んできた敵モビルスーツも、浮き足立っていたところへの機体破壊がメインの嫌がらせばかりで、ちょこまかと鬱陶しい。

『買収屋』が近づいて来ていたから仕方がなかったんです。なんて言う言い訳を現場もろくに見ていない上層部が容認するのか?

疑念はただ、深まるばかりで

 

「くぅ…」

 

カルタ・イシューの決断の時は、刻々と迫っていたのだった。

 

□□□□□□□□

 

彼女に協力してもらう手筈も整い、木星圏へと近づきつつある船内で、オレは部下に話しかける。

 

「心配性だねぇ…一体誰に似たんやら」

「すんません…」

「謝んじゃあねぇよ。オレにとってもアイツらは可愛い甥っ子分なんだからよ」

 

協力をとりつけたのは、オレの中で五本の指に入るだろう出来れば世話になりたく無い人物、ナナオ・ナロリナ。

 

今回頼んだのはナナオの船とレーダーに反応する大型のデコイを用いたいわゆる欺瞞作戦だ。

オレはその時のやりとりを思い起こす。

 

「それじゃあ、いつもの口座に支払いヨロシクね〜♪」

「おう。世話んなるなぁ」

 

ってかなんですぐ出たんだ?

 

「…も〜、張り合い無いわねぇ…」

 

何故だかぶーたれたような反応を返して来るナナオ嬢。美人だなぁ…怖いけど。

 

「そりゃあな。さっきも言ったが、可愛い甥っ子分の依頼達成がかかってんだからよ」

「叔父馬鹿…で、ホントにいいの?レーダーに映るだろう距離まで近づくだけで」

「おう。映像に映るとこまで近づいちゃあ目的がバレて本末転倒だしなぁ。指定したポイントでしばらく止まって、適当に頃合い見て退散してくれれば良いさ」

 

途中ギャラルホルン部隊に遭遇するリスクもあるだろうが、まぁ彼女なら問題無いだろうさ。

 

「さて、ここを抜けりゃあ、懐かしの木星圏だ」

 

しっかし…こりゃあしばらく晩酌もお預けだよなぁ〜。

 

ガックシ。




さて、カルタ様は生き延びるのか、否か。

ガバはお見逃しいただければ…。

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