特に第三形態超すき。
異論は認める。
えんもたけなわ。
皆が皆、思い思いに呑み、酔い、騒ぎがひと段落したところを見計らい、ジャスレイはマクマードの元へ戻って行った。
「どうだった?鉄華団は?」
マクマードは戻ってきたジャスレイにそう訊ねる。
調整して飲んでいるのと、元々酒豪なのもあるのだろう全く酔っている気配がない。
この辺は流石に大組織の長の器量だろう。
ジャスレイはマクマードの前に腰掛けて帽子を脱いで膝に置くと、自身の見てきた所感を訥々と告げる。
「一生懸命突っ張って背伸びしてる子どもってとこかね。ま、そうしなきゃあ生きていけねぇ事情もあったんだろうが」
そもそも、鉄華団が名を変える以前の組織であるCGSの時代にかなり劣悪な環境、条件下での労働を強いられていたこと、その際ギャラルホルンに盾ついてテイワズに身を寄せる必要が出てきたことから彼らは基本的に大人を嫌悪、敵視していることはマクマードも、そしてジャスレイも想像に難くなかった。
ただ、非人道的装置とされる厄祭戦の負の遺産たる阿頼耶識システムをよく思わず、途中から明らかに手を抜いたタービンズの面々および、名瀬・タービンには不思議と懐いている様子だった。
まぁこれは言ってしまえば拾ってもらった恩みたいなものだろうが。
尤も、普通の感性をしていたら子どもの脊髄に一体化させる装置を使おうなんて考えには至らないだろう。
心を許している人物、特に鉄華団内部の大人で言えば、話を聞く限りで親しそうなのは元々同じくCGSでモビルワーカーの整備士をしていたと言うナディ・雪之丞・カッサパくらいなもので、他はそれほどでも無さそうだ。
先日鉄華団に派遣されたタービンズ所属のメリビットも、正直あまり歓迎されていたとは言えなかったらしい。
「医療スタッフですらあの扱いだ。鉄華団の問題は学の有無以外でも根深そうだな」
腕を組みながらマクマードは悩ましそうに言う。
「オレたち大人がもっとしっかりしてりゃあなぁ…」
悔いるように、ジャスレイはうつむきうめく。
「アイツらの問題はアイツらの問題さ。お前さんが気に病んでも仕方なかろうよ。だが、そうだな。『学』か…」
マクマードは顎に手を当て考える素振りを見せる。
「あぁ、あの鍛えられた…いや、イジメ抜かれた体格からして、メンバーのほぼ全てが戦闘員だろうな。唯一メンバーで事務に理解があって、かつ団長のオルガのヤツに意見を出来そうなのはあの恰幅のいいヤツ…確か名前はビスケットだったか?くらいか。零細組織にしたって圧倒的に内務能力が足りてねぇよ。今みてぇに組織が小さいうちはまだいいが、ずっとあのままだと大きくなった途端に苦しくなるぞ」
小さい組織と大きな組織では求められる能力からして違う。
だからこそ学のある人間を入れたり、他所から引っ張って来たり、或いは組織内で教育したりするものだがそのいずれも現状は難しいだろう。
外から人間を入れるにせよ、少なくとも今はやめておいた方が良さそうだ。
手助けする筈が、却って軋轢になりかねない。
それほどまでに今の彼らは神経質だ。
「やっぱこればっかりは難しいもんだよなぁ……」
「ただでさえ、あの年頃は大人に対して反発したがるもんさ。だからこそほっとけねぇってのが名瀬の言い分だがねぇ」
「兄弟は似るもんだな」
ニヤニヤとそう言うマクマード。
「やめてくれや。名瀬に悪りぃよ」
ジャスレイは苦笑いを浮かべてそう答える。
「ま、お前さんに関しちゃ問題はねぇだろ」
「だといいがねぇ…」
とりあえず、当面の間、鉄華団は名瀬に様子を見させるだけに止めることとなったのだ。
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はぁぁ〜〜。
まぁ〜た問題が山積みだよ〜〜。
オレは人ごみを離れ、静かなテラス席に座る。
「オヤジ。お疲れ様です」
「おう。ありがとよ」
部下が持って来てくれたグラスに氷と酒を入れロックで飲む。
「ふぅ…」
なんとなしに星空を見上げる。
自分の船に乗りながら見るのと、拠点で見る星とではやはり違うもんだなぁ。
仕事中はどうにも楽しむ余裕ってのが無いからなぁ…。
まぁ、余裕ぶっこいて大失態をかますよりはマシと考えたほうがいいか。
「少し休んだらまた仕事に戻らねぇとなぁ…」
「えぇ。今は休んでください。何時間も傘下の組織連中につきあってたんです。ちっとくらい寝たってバチは当たりませんぜ」
「だといいがねぇ」
そう言ってくれた部下としばし談笑をしていたところ、思わぬ客が来た。
「おういたいた。よう兄貴」
鉄血きっての色男こと名瀬・タービンだ。
今日もハンサムだなぁチクショウ!!
「おう、名瀬。どうした?」
まあ、話があるってんなら聞かないとなぁ。
「いや、ちっとばかし気になることがあってよ。あぁ、安心してくれ。仕事の話じゃねぇよ」
気になること?なんか変なことしたかな?
オレはもうお眠さんよ?
「確か兄貴って結婚してなかったよな?」
してないんじゃ無いです〜、出来ないんですぅ〜。
これだからモテ男は…って脱線しそうだったぞーいかんいかん。
「おう、まぁ独身だが」
どっかにいい相手いないもんかねぇ〜。
「さっき兄貴の娘を名乗る子どもがいて…」
ととととととと…。
「お嬢!!今はダメですって!!」
「じゃす、おそい」
そう言って、ぶすっとほっぺを膨らませてオレの足にしがみつく義理の娘…ニナがいたのだった。
ニナはヘブライ語で美しいと言う意味らしいですね。
付けてから知りました。