でも、ドラグーンシステムってファンネルとどう違うんでしょうね?
ギャラルホルンが誇るセブンスターズのひとつ、イシュー家当主代理を務めるカルタ・イシューは苛立っていた。
決して、あのニヤケ面に焚き付けられたから…では無い。
どちらかと言えば外野に正当な力の行使に水を差されたことに対して憤っているのだ。
ジャスレイ・ドノミコルスが戻って来たかと思って急いで引き返してみれば、反応があったと言う場所には何も無く、十中八九あちらの妨害行為だろうことは誰の目にも明らか。
だが、理由も証拠も無く手を出せば手痛いしっぺ返しを喰らうのは必然。
ならば公文書なりなんなりで、鉄華団だけでも拘束したいところだが…今からとなるとどうしても時間がかかる。
連中の目的地は特定した列車の種類、そして走行経路からしてエドモントンだろう。まず間に合わない。
それでは本末転倒だ。
しかし、カルタはハッとする。
「ん?文書?」
「カルタ様?」
隣で機体の修理を見てみた部下達が心配そうに声をかける。
「…よし。これならば、あちらも乗ってくるかもしれん」
思いついた案は正直言って賭けもいいところだが、何もしないよりはマシだ。
思い立つなり、カルタは行動に移ることとした。
「機体は必要最低限の数を残して修理を後回しにしても構わん。私含めて三…いや、四機あれば良い。着いてくるパイロットに関しては後ほど伝えるのでしばし待て」
そう伝え、自室に戻った。
◇
「ふむ…」
ギャラルホルンの研究施設。
長いこと実験が凍結されていた黒い大型のグレイズ・フレームを用いた阿頼耶識の実験用モビルスーツの前で、データと睨めっこしている男が一人。
外見は金髪碧眼。容姿も端麗で美男子と言って差し支えなく、それでいて若く仕事面でもかなり有能と評判の彼はギャラルホルン特務三佐、マクギリス・ファリド。
「カルタの方は、上手くいきそうだが…」
そう言って顔を上げる。
「しかし…ジャスレイ・ドノミコルス…か」
『買収屋』と称され、同時に圏外圏でも屈指の影響力の大きさで知られる男の名を呟く。
つい先日も、月の企業の事実上の買収を成立させたと言うことから、それなり以上に経営者としての手腕もあるのだろうことは想像に難くない。
「モンタークとして接触するのは…些か尚早か?」
その声には、少なからず警戒の色が宿る。
なにぶん、彼がいるからこそ彼は未だに鉄華団とコンタクトが取れていないのだ。
それと言うのも、鉄華団はテイワズ傘下の組織という扱いであり、ならばまずは上に話を通さねば組織の横紙破りに当たる。
そして、テイワズはそう言ったことにかなり敏感だ。
彼らの直接の上役である名瀬・タービンもそうであるし、もし鉄華団団長、オルガ・イツカが相談を持ち掛ければ、まず間違いなくジャスレイにまで話が行くだろう。
他組織の方針に口を出さないからこそ、ジャスレイは忌憚なく意見を言うし、それを踏まえても組織のためになるのならば受け入れるよう名瀬はオルガを説得するだろう。
「まぁ…最悪カルタが生きていても計画に支障はない」
元より幼馴染二人に関して、利用するつもりと友情…と言えるかは分からないが、それに近い何かが混在しているのは確かだ。
それに加え、二人の実家…イシュー家とボードウィン家はセブンスターズ内でファリド家よりも発言力こそあるものの、次期当主たる二人はマクギリスのことを強く信頼している。
まして、ガエリオの妹、アルミリアとマクギリスとは婚約関係にある。
長い目で見て、ここで目先の目的を達成できずともそれはそれでいい。
己の背を押す逸る気持ち、胸の内に渦巻く様々な感情もあるが、計画は準備こそが重要。
「ふぅ…」と気持ちを落ち着け、マクギリスは再び思案する。
「しかし、ちょうどいい機会だ…」
マクギリスは見ていたデータを閉じると、用事は済んだとばかりにツカツカと、出口に向かって歩き出す。
「生ける伝説か、三百年前の英霊か…どちらが勝利するのか…その行く末を見守るのも悪くはない」
ジャスレイのことは彼個人としてはなんとも言えない。
厄介だとは思うが、しかしその実績は確かだ。
それは事実として素直に認められる。
それ故に…興味も向くというもの。
部下に調べさせ、かつてラスタル・エリオンと友人関係にあったことは知っているが、疎遠になって以降は、少なくとも個人としては険悪だと聞く。
であれば、厄介な二人が手を組むことはまず無いだろう。
そこはまずひと安心か。
自分は今、人生に於いても歴史に於いても岐路に立っている。
その自覚があるからか、歩む足取りはどこか重く、しかし確かなものだった。
はい。
マッキー登場回でした。
齟齬があったら申し訳ない……。