どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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鉄華団サイドです。


第61話

それは、新たに護衛任務を請け負った鉄華団がオセアニア連邦の領土を抜け周囲が一面の銀世界に変わってしばらくしてからの出来事だった。

 

「後方にエイハブリアクターの反応アリ!!ギャラルホルンのモビルスーツ、来ます!!」

 

鉄華団通信手、ダンテ・モグロのその言葉をきっかけに、空気がいっそう引き締まる。

流石にギャラルホルン。立て直しも早い。

油断はしていないつもりだったが、やはり対応の迅速さには驚かされる。

 

「よし!!各員戦闘体制に入れ!!」

「応!!」

 

オルガの指示で鉄華団の団員達がバタバタと騒がしく動き出し、列車内の緊張感が高まる。

列車を止め、周囲の警戒に入る。

確認できたモビルスーツは四機。

どうやら修理できないものは後回しにしたらしい。

しかし、どうにも様子が変だ。

既に敵の射程内に捕捉されているというのに、敵側に一向にこちらを攻撃してくる気配がない。 

ガンダムフレームを警戒してのことだろうか。

団員達が違和感を感じていると、少し離れたところに降り立ったあちらのモビルスーツからの呼びかけがあった。

 

「列車内の総員に告ぐ。我らが隊長からの書簡を持って来た。ついてはその内容をあらためていただきたい」

 

そう言うなり、蒔苗氏の別荘で攻撃してきた見覚えのあるモビルスーツ三機から、それぞれパイロットが降りて来る。

団員達は銃口を向けるも、彼らはそれに怯むこともなくその目の前で銃を投げ捨て、先程述べていた書簡を持ってやって来た。

なんの目的があるのか分からない相手を撃つわけにもいかず、団長であるオルガ、その参謀的相棒でもあるビスケット。そしてライドとチャドの計四名がその受け取りに向かう。

クーデリアは自分が行くと言っていたが、流石に依頼主を敵兵の前に出すわけにはいかないと言う判断故の選出だ。

無論、パイロット達はいつでも動けるようスタンバイ済みだ。

 

ちょうど列車とモビルスーツの中央辺りで両陣営の使者と代表は落ち合った。

 

「まずは、我らを撃たずにいてくれたこと…その賢明な判断に感謝する。そして…これが先ほど述べた書簡だ」

 

そう言って簡素な飾りと、リスの紋様を描いた蜜蝋が付いた封書を持ち、その中から一枚の紙を取り出す。

ギャラルホルン兵は、鉄華団側の全員が目を通したのを確認するや再び仕舞い、代表として来たオルガに手渡す。

 

「刻限は三時間でよろしいか」

 

オルガはビスケット、そしてライド、チャドとそれぞれアイコンタクトをとり、頷く。

 

「ああ、問題無い」

「では色良い返事を待っている」

 

そう言って敬礼をすると、ギャラルホルン兵は再び背を向けて自身のモビルスーツに向かい歩き出した。

 

「…なんだぁ?」

 

列車内に戻ったオルガが渡された封書を開け、ライド達がそれを覗き込む。

 

「えっと…決闘の申し出?」

 

内容としてはあちらの隊長の名と、隊員達の署名及び血判があり、この文書のギャラルホルンの公文書としての正当性を謳う文句が続く。

そして、肝心の鉄華団がこの決闘に勝利した際のあちらが呑む条件として挙げられているのは……

 

ひとつ。

隊長であるカルタ・イシュー以下、地球外縁軌道統制統合艦隊はこれ以上貴公ら鉄華団を追い回すことはしない。

 

ひとつ。

なんなら、勝者への敬意としてそちらの望む支援もある程度は検討する。

 

ひとつ。

全責任は地球外縁軌道統制統合艦隊隊長、カルタ・イシューが負うものとし、その責任下に於けるこれまでの鉄華団側の一切の咎を免ずる。

 

そして、敗北したり決闘を拒んだ場合の条件も目を通す。

 

ひとつ。

こちらの勝利決定後、速やかに投降すること。

 

ひとつ。

その際、無駄な抵抗をすれば命の保証はない。

無論、大人しくしていればセブンスターズとその家門に誓って手荒な真似もしない。

これは、そちらを侮っているからでは無く、そちらの勇気を讃えるためである。

 

ひとつ。

仮に決闘を拒否したり、こちらの待機中に不意打ちをしたならば、叛逆者として周囲のギャラルホルン部隊がこちらに向かう手筈になっている。了承されたし。

 

追伸

余計な血を流したくなければ、潔く投降するか決闘を受け入れることを推奨する。

 

ざっとこんな感じだ。

 

「なんの義理でこっちが乗ってやる必要があんだよ…」

 

不満げにオルガは言うが、ビスケットが「いや…」と考えるそぶりを見せる。

 

「でもこれはチャンスかもしれないよ」

「チャンス?」

 

訝しげに言うオルガにビスケットが頷く。

 

「うん。地球外縁軌道統制統合艦隊ってことは、簡単に言えばこの地球の周囲を鎮護する部隊ってことだよね?」

「まぁ、長ったらしいが…名前からするとそうなるのか」

 

その返答に、ビスケットは頷く。

 

「その隊長が、これ以上追わないって言ってるんだ。ご丁寧に署名と血判、そして家紋の蜜蝋までしてね」

 

そう言って封を指し示す。

書体といい、内容といい、堅苦しくそして古めかしくはあるものの、わざわざ血判までして来られるところからして誠実さは伝わってくる内容だ。

わざわざ書面で『セブンスターズに誓う』と言う旨の文言を使っている以上、それを反故にして恥をかくのは向こうだ。

であれば、こちらが勝利した際のメリットも「やっぱり無し」とはならないし、その誠実さ故に引っ込められない可能性が高い。

尤もそれは裏を返せば、書面にある他部隊が周囲に控えていると言うことの真実味が増す結果にもなる訳だが。

焦れてここを強行突破して更に別部隊を敵に回すより、敢えて今ここで相手の提案に乗る方が手間も時間的にも後々楽になるかも知れない。

三日月・オーガスはじめ、鉄華団のパイロット達の技能と、これまでの実戦に裏打ちされた実力は確かだが、だからこそ必要以上の消耗は避けたくもある。

阿頼耶識というシステムはそれだけ使用者を蝕むものだし、そのリスクがあるからこそ、メリットもまた大きいのだ。

加えて、こちらには切り札としてγナノラミネートアックスもある。

手の内を晒すリスクや強度の問題もあり、何度も使えるものではないが、勝機自体は十分にあると考えていいだろう。

 

「…どうする?」

 

幸い刻限までにはまだ猶予はある。

真っ先にクーデリア及び蒔苗氏に確認を取ったが、どちらも「そちらの判断に任せる」とのこと。

クーデリアはこれまで鉄華団と行動を共にしていたが故の信頼であろうが、蒔苗氏はテイワズ…特に名瀬やジャスレイと言ったビッグネームへの信用故のものだろう。

 

「だが、これ以上アニキやオジキに頼るわけにもいかねぇ…」

 

あの二人ならばどうするか…?

そんなことを考えても詮無いが、しかし考えずにはいられない。

自分は…自分達は今、運命の分かれ道に立っている気がしてならない。

一団を背負うと言うことの重責を、オルガは今ひしひしと味わっていた。

しかし…決断の時はゆっくりと、しかし残酷なまでに刻一刻と迫っているのだった。

 




受ける?受けない?
どっちが正解なんでしょうね。

バエルおじさんはいっそのことギャグ要因にするのも面白いかも…。

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