どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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お久しぶりです…。


第63話

雪原にて待つ四機のモビルスーツに乗るパイロット達は、万に一つが起きないように見張りを立てて警戒しつつ、代わる代わる暖をとっている。

 

「しかし、カルタ様」

「なんだ?」

 

部下からコーヒーを受け取りつつ、地球外縁軌道統制統合艦隊隊長カルタ・イシューは答える。

 

「連中、本当に乗ってくるのでしょうか?」

「さてな。それはあちら次第だ。だが…」

「だが?何ですか?」

 

問いかける部下にカルタは思案し、鉄華団の乗る列車の方を見遣る。

 

「奴らが最初にあそこを目指して降り立ち、そして此度の調べで目的地がわかった以上、何がしたいかも…あそこに誰がいて、今がどんな世情か考えてみれば自ずと分かる。であれば連中がすることは二つに一つ。ここで交渉に応じるか、さもなくば…」

「さもなくば?」

 

グッ…と質問を投げかけた隊員のカップを持つ手に力が入る。

 

「これ以上の時間の浪費を嫌い、力づくで推し通るかだ」

 

周囲に伏せた兵達はいわば証人。

カルタ・イシューの実力の、あるいは失態の。

それはメリットであると同時にリスクでもある。

 

「それは…」

 

先の戦闘から、隊員達には、相手が子どもだからという敵への侮りはもう無い。

ガンダムフレームの性能も、もはや噂で聞いたと言う程度の眉唾では無く実際に肌で感じた。

だからこそ、こうしてわざわざ回りくどい真似をしてまでこちらの土俵に引き出す算段を立てたのだ。

こうして釘付けになってくれていれば、それだけこちらには有利に、あちらには不利になる。

仮にやけっぱちになって突っ込んで来て、再び自分達を退けたところで、その後から数に任せて周囲の軍勢から連日連夜攻め立てられれば、エイハブリアクターを二つ装備しているガンダムフレームと言えど、ひとたまりもないだろう。

若く、勢いのある名を売りたい集団が次にどんな手を取るか…カルタは見ものだと言わんばかりに目を細める。

 

「いずれにせよ…戦いの趨勢とは、戦場で決まることの方が稀だ。重要なのは事前の準備に根回し…戦場はそれを再現する場に過ぎん。如何なる戦いもギャラルホルンにとっては結局、政治の延長線上にあるものなのだからな」

 

今は更迭されたとは言え、セブンスターズとして相応しい教育は受けているカルタだからこそ、一度受けた屈辱は忘れず奮起する。

産み育ててくれた父母には感謝しているし、だからこそイシュー家のためになることをしたいという純然たる思いもある。

そして、その姿を見ていたからこそ、彼女と彼女の部下達との間の信頼は不動のものといえる。

 

「カルタ様。先ほどの四名がこちらに向かい歩いてきています」

「……来たか」

 

カルタはすっくと立ち上がり、歩み寄ってくる使者たちを見遣った。

 

時は少しばかり遡り……。

 

「交渉?」

 

鉄華団の幹部陣…とは言っても本当に形ばかりだが…が集う列車内で、そう訊ねるビスケットにライドは頷く。

 

「うん。この文章は一見、これで完結してるように思えるけど、よくよく見るとおかしな点も少なくないよね」

 

そう言って渡された封書を示す。

そして、ライドがそう思う根拠を順々に並べる。

 

「まず、明確な決闘の内容が記されてない。次に、ある程度の支援って言っても食糧や物資の支援くらいなのか、それともエドモントンに駐在しているだろうギャラルホルン部隊に根回ししておいてもらえるのかって言うのも気になる」

 

さらに言えば決闘がつつがなく終わったとして、仮にあちらに死者が出た場合ギャラルホルン側は本当に遺恨無く立ち去ってくれるのか。

逆にこちらに欠員が出た場合の補填…というと言い方は悪いが、その分の埋め合わせもしてくれるのか。

パッと思い浮かぶだけでもこのくらいの不確定事項、不安要素がある。

 

要は、ここに記されている事柄はあくまでも交渉のスタートライン。

三時間以内というのは団内の意見をまとめるというだけで無く、あちらへの交渉の制限時間でもあるのだろう。

裏を返せば、やはりそれだけあちらが功績を求めていると言うことでもあり、交渉の余地はこちらが思っている以上にあるだろうことは明白。

元より個人対個人では無く、組織間でのやり取りである以上、はいそうですかと丸呑みして、後出しでこちらの思惑と違うと知ってから後悔しても遅いのだ。

 

「なるほど。あっちは刻限を聞いてはきたが、だからって交渉してくるなとも言っちゃあねぇな…」

 

オルガは顎に手を当て思考する。

 

「ちょっと待てよ!!」

 

そう食ってかかるのはユージン・セブンスタークだ。

 

「どうしたの?ユージン?」

 

ユージン以外の全員の視線がユージンに向く。

 

「どうした?はこっちのセリフだ!!交渉するってぇのか!?よりにもよってギャラルホルンを相手に!?」

 

眉間に皺を寄せ、険しい表情を浮かべるユージン。

 

「百歩譲ってジャスレイのおっさんが信用できる人なのはまぁ分かったさ。オレだっていつまでもいじけてるほどガキでも恩知らずでもねぇし、実際それで結果だって出たわけだからな。だがなぁ!!アイツらに…ギャラルホルンの兵隊に火星でどんだけ仲間をやられたと思ってる!!お前らまさか忘れたわけじゃあねぇよなぁ!?」

 

ユージンのその怒りは至極尤もなものだ。

それと言うのも、彼はオルガがCGSにやって来る前から、不器用ながらも仲間思いで、弟のように純粋に自分を慕ってくれた連中をなんやかんやいいつつ世話を焼いていたのだ。

オルガやビスケットもそれを微笑ましく見てきたし、なによりその子どもたちがそう話していたのを知っている。

ユージンが怒ったり、意見をするのはいつでも団員たちの言いにくい気持ちの代弁だ。

だからオルガも彼を副団長に据えているわけだし、シノ達も文句…というか小言を言いつつも彼を見放さないのだ。

 

「だが、何にせよこの文言に対する問合せはするべきだ。こっちの勘違いで後から文句言われても面倒だしな」

「それは…まぁ、そうだけどよ…」

 

今度はオルガから尤もなことを言われ、徐々に尻すぼみになっていくユージン。

そんなユージンを見て、オルガは確信めいた笑みを浮かべる。

 

「ありがとな。ユージン」

「はあ!?オレなんか礼を言われるような事したかよ!?」

「いや、みんなのこと、本気で心配してくれてんだろ?それが嬉しくってよ」

「そ…そんなんじゃあねぇよ!?」

 

アワアワとするユージンをよそに、話し合いは進む。

 

そして、時は今に戻り…。

 

「ギャラルホルンさんよぉ…いくつか聞きてぇんだが…応じてもらえると助かる」

 

「無論」

 

…鉄華団の、タービンズ以外では恐らく初の直接交渉が今、はじまった。




久々の投稿なのに、話の進みが遅くって申し訳ない…。

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