どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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出来上がりに少しばかり時間が掛っちゃいました。
分けて書こうと思ったけども、後半部分が思ったより短かったのでそのまんまくっつけることに…。

ちゃんと考えて書けよ自分…。

orz


第64話

 

「まず、聞きてぇことがいくつかある」

「ふむ。聞こう」

 

簡易的ではあるがギャラルホルン側に用意された席につき、オルガは話を切り出す。

なお、双方の護衛は立って後ろに控えている。

 

この話し合いの席に着くに際し、鉄華団の団長であるオルガ・イツカにはいくつかの疑問、懸念点があった。

 

「まず組織同士のやりとりとは言え…そもそもの話、鉄華団とギャラルホルンとでは歴史背景も、その規模も、何もかもが違う」

「まぁ、そうだな」

 

カルタはそう相槌を打つ。

 

「にも関わらず…だ。アンタら何故交渉をしようと思った?」

 

両者の間には、例えるなら矮小なネズミと巨大なクジラほど…特にギャラルホルン全体で見るならそれ以上の差があり、開きがある。

その時点で最初から対等な交渉など望めないだろうことは分かりきっていた。

 

「次に、包囲したオレらをさっさととっ捕まえねぇのは何故だ?」

 

最初の油断していたろう頃ならばいざ知らず、こちらよりも多い兵力をわざわざ周囲に伏せている旨を書面で伝えるよりも、それだけの兵達で鉄道を通行止めするなり、待ち伏せして強引に引っ捕えることだって出来たはずだ。

自分達は確かにテイワズの傘下とは言え、言ってしまえば使いっ走り。

上層部からすれば潰しの効く程度の小勢がいいところだ。

手柄が欲しいのならなおのこと、正面切って決闘だなどと非合理極まるのは明白。

阿頼耶識とガンダムフレーム、この二つこそ鉄華団のアイデンティティであり強みだが、それを分かった上での決闘などと無謀にも程がある。

そもそも、何故依頼主に直接ではなく、テイワズ内でも新参のわざわざ鉄華団を交渉役に名指しで選んだのかも不明だ。

彼らの組織内での立ち位置だって、せいぜいがジャスレイに資金援助してもらったり、兄貴分の名瀬ともども可愛がってもらっているくらいで…。

 

「…ん?」

 

まさか…と思い至る。

しかし、同時に疑念も湧いて出る。

ジャスレイとの接触が目的ならば、何故チャドとライドの二人を届けに来た時にしなかったのか。

 

「或いは…オレらがいたから出来なかった?もしくは…」

 

オルガは考え込むように口元を押さえて小声で呟く。

 

「大丈夫?オルガ」

 

隣で心配そうな顔をするビスケットに「ああ」と短く返す。

 

「そもそも…何でわざわざ決闘ってしち面倒なことをしてぇのか、それに関係して、決闘っても方式はどんなモンなのか聞きたい」

 

なるほど、とカルタは頷き答える。

まとめて答えるつもりだったのか、相槌を打つ事はあっても、途中に言葉を遮ることは無かったため、比較的スムーズに話は進んだ。

 

「なに単純なことだ。我々の手を煩わせる貴公らのその実力を評しただけのこと。それに組織の大小、生まれの貴賎、そんなものは関係無い」

「…ハァ?」

 

その言葉にオルガは困惑する。

 

「我々は、我々の脅威なり得る存在に敬意を表したと言うだけのこと。一息に踏み潰すのは簡単だ。だが、そちらの実力が惜しいと言うのも事実」

 

それはある種の傲慢なのか。

それとも余裕の現れなのか…。

もしくは、挑発のつもりなのか。

ギャラルホルン側はオルガの反応を観察しつつ、言葉を続ける。

 

「改めて言おう。その研鑽、その実力、賞賛に値する」

 

なればこそ、正々堂々と決着をつけようと、そう言うことなのだと言う。

 

……なるほど。そう言う建前か。

オルガは内心何かがあることを察しながらも、再び納得したように僅かに頷く。

あちらが多少…いや、かなり上から目線なのは気になるが、今のところあちらが数でも地の利でも有利なのは事実である以上、必要以上に刺激するのはよろしくない。

 

「また、決闘に関してはそれぞれ三名ずつ選出しての一対一を三度行う。先に二度負けたら三戦目はやらず、二連敗した方の敗北だ」

「仮に人的損害が出た場合は…」

「その場合も後腐れないよう取り計らおう。我らは軍人。死を賭して戦うは当然のこと。そちらの損害分の補填も、必ずすることを約束しよう」

「…なるほど。理解した」

 

カルタの隣にいる部下が、時代がかった羊皮紙を取り出し、約束事をひとつひとつそれにしたためる。

 

「次に、支援の内容についてだが…」

「ああ。食料でも服でも医療品でも、出来うる限り手配しよう」

「そうか…それじゃあ…」

 

一拍置き、オルガはカルタに問いを投げかける。

 

「エドモントンの軍への根回しは出来るか?」

「エドモントン…ああ、なるほど」

 

何が言いたいのか分かったように、カルタは返す。

 

「貴公らの考えているようなことは恐らく難しいだろう。そもそも管轄が違うのでな」

 

ひとくちにギャラルホルンと言っても色々な家や部隊があり、例えば地球外縁軌道統制統合艦隊の場合はそれこそ地球圏の入り口の守護と、そのための武力行使の許可、そして侵入者の排除のための各貴族への協力要請が権限としてある。

逆に言えば、その範疇の外に於いては協力を取り付けるのは難しいということでもあるわけだが。

 

「流石にそれはそうか…」

 

話を聞いたライドは顎に手を当て思案する。

しかし…カルタはだが、と続ける。

 

「時間稼ぎくらいならば或いは、出来るやもしれん」

「…なんだと?」

 

少し考える素振りを見せると

 

「今エドモントンを影響下に起きたがっているファリド公の倅と私は昔馴染みでな。多少の根回し…というより、貴公らのことを伏せつつ、多少伺いを立てる程度ならば…」

 

その発言にオルガはガタリ、と立ち上がる。

 

「いや、いやいやいや!!それが本当だったとして、何でオレらにそのことを教える?そっちの内部情報だろうが!!」

「……そのことについては、黙秘させてもらう。こちらもこちらで事情があるのだ」

「それが口約束だけじゃあねぇってこと、証明してもらえるか?」

「貴公らが我らに勝利を収めた暁には必ず」

 

そう言って差し出された誓紙には、再びリスの印が捺されていた。

 

 

カルタ・イシューが鉄華団が地球に迫って来たという報告を受けた時、最初に思ったのはチャンスだということだ。

手柄を立てるチャンス…でもあるが、同時にギャラルホルンの内部でコソコソとした動きを見せる勢力への牽制にもなると考えてのことだ。

故に、ジャスレイの船から鉄華団の人間が降りて来たと言う情報はカルタにとって、それだけで万金の価値があるものだった。

『JPTトラスト』の内情を少しでも知っているかもしれない者達がいるという、その事実だけで十分。

無論ほとんど知らされてはいないだろうが、彼らの身柄を確保しさえすれば、あとは救出を試みるなり、拉致しようとする連中が出てくるのを待って引っ捕え、そこから芋づる式にその勢力…ジャスレイ派の根拠地を見つけ出せばいい。

わざわざ決闘を持ちかけたのも、武人としての血が騒いだのもそうだが、大部分はそのための方便だ。

ただ、気をつけなければならないこともいくつかある。

まず当のジャスレイに知られないこと。

彼の情報網に引っかからないようにするのはギャラルホルンで力を持つセブンスターズでも骨が折れるし、外部の人間に事情を話して借りを作るのも憚られる。

そもそも、組織外の人間の派閥が出来るというだけでもかなり異常なうえ、ましてやそれが暗躍しているなどと言っても鼻で笑われるのがせいぜいだろう。

次に、内部…特に事前の査定で怪しいと思われた連中に知られないこと。

これは彼女の昔馴染みの監査官からのタレコミのため、信用性はかなり高い。

ギャラルホルンの内部は、側から見ればわからない程度にだが、ここ最近幾らかに割れている。

まぁ、それ自体はいつものことだ。

どこかの家が別のどこかの家へ、自分達の利権のために謀略を仕掛けたり、或いは結託してそれに備えたり…程度を弁え、さりとて突っ込みすぎないよう…ギャラルホルンという器を壊さないよう、細心の注意を図りながらセブンスターズやその傘下がマネーゲームを続ける様は最早見飽きるほどに見てきた。

そんな中で噂程度でしかないにせよ、ジャスレイ派なるものが新たに出来ているという。

カルタはセブンスターズの次代を担う者としてその動きは看過できない。

ただ、その噂が広まった時期というのもジャスレイ当人が地球圏から離れていた頃なため、わざわざ本人が蒔いた種、と言うことはない。

…そこまで計算されていたと言うのなら、その限りではなかろうが、しかしやったところで割に合わないのが実情。

鼻のきく商人であり、裏社会の住人でもあるジャスレイがそれをわからないはずもない。

そもそも彼は既にギャラルホルン内部に協力者を得ており、それが一部とは言え半ば公然ともなっているのだから、わざわざそんなことをする必要もない。

そもそもそのような狼藉を働けば、他のセブンスターズが黙ってはいないうえ、如何なジャスレイとて、セブンスターズと関わりを持っている以上、他の家の怖さや面倒臭さはわかっているだろうし、それだけの面倒ごとは抱え込みたくはないのが本心だろう。

であれば、何者かがジャスレイの名を使い密かに暗躍している可能性がある。

ならば、大事になる前に不安のタネは取り除いておくに限る。

 

いずれにせよ、ここまでやった以上は勝利せねば。

 

カルタは自然、手に力がこもるのを感じていた。




なんか長くなりました。
ちょっと説明っぽすぎたかなぁ…。

齟齬があったら申し訳ないです。

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