どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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ジャスおじサイドになります。


第67話

テイワズのお膝元、歳星にある地下通路をツカツカと歩く複数の足音がする。

その正体はジャスレイ・ドノミコルスと、その護衛として付き従う彼の部下数名だ。

テイワズの本部ビルのエレベーターで地下まで降り、照明によって真昼の如く照らされた通路をジャスレイ達は進む。

彼らは一番奥の無機質な色合いの扉の前で立ち止まると、決められた暗証番号を入力したのち、懐から取り出したカードキーと網膜、次いで指紋をスキャンする。

二度手間…いや、三度四度手間なようだが、この部署の性質上用心するに越したことはない。

ジャスレイもその部下達も、それを分かるからブツクサと文句を言うことも無い。

ピピピ…と無機質な電子音が響くと、見るからに分厚い扉が横にスライドして開く。

 

中には幾つもの巨大なコンピューターと少なくない人とが忙しなく動き回っており、ジャスレイとその部下たちは彼らの邪魔をしないよう、その間を縫うようにして奥に進む。

時折気付いた人間が立ち上がって挨拶しようとしても、ジャスレイの「忙しいんだろ?掛けててくんな」のひと言で再び仕事に取り掛かる。

やがて辿り着いた一番奥の部屋で、ジャスレイが上部に備え付けられたカメラに向かって「兄貴、来たぜ」と言うと入口よりも更に厳重な扉が二つ、三つと開く。

立ち入った部屋で、ジャスレイが複数の表示画面を見ていた男に声をかけるや、その人物は椅子ごと振り返る。

 

「よう兄貴」

「おう、来たかジャス」

 

椅子ごとクルリと振り返るのは歴戦を思わせる傷に、角刈りの金髪。

歩行に必要なのだろう杖も手を伸ばしてすぐのところに置いてある。

年相応の落ち着きのある雰囲気と、若干刻まれた皺。

年季の入ったパイプを口に咥えて、ジャスレイ達を見つめる様は正に風格を感じさせる。

彼の名はマルコ・サレルノ。

彼はタントテンポ所属の六幹部まで上り詰めたジャンマルコ・サレルノの実父であり、ジャスレイの兄貴分にして、数少ないテイワズ黎明期の生き残りであり、これまでのテイワズを支え、守り続けた重鎮の中の重鎮。

そして、テイワズの情報部長を務める大物でもある。

これまでもちょくちょく連絡を取り合ってはいたが、こうして直接会うのは互いの仕事が忙しかったこともあり本当に久方ぶりだ。

世間話もそこそこに、マルコは本題を切り出す。

ジャスレイも相変わらずだと思いながらも、話を聞くために用意された椅子に腰掛ける。

 

「オメェさんが言ってた『夜明け』の情報だが…どうにもキナ臭ぇ動きを見せていやがるな」

「やっぱりか…」

 

陽動か隠す気が無いのか、それともあえて挑発しているのか…。

マルコの話によれば『夜明けの地平線団』は、テイワズの領域をかすめるように、連中のモビルスーツ…ユーゴーが行ったり来たりを繰り返しているとのこと。

今のところ、テイワズのナワバリへの襲撃やそれによる実害も無いため放置してはいるものの、ナメられっぱなしは性に合わないと、現場からは武力行使の許可を求める声も届いているらしい。

 

「次に連中の支援者だが…部下達が調べて浮上してきた名の中にコイツもいた」

 

カタカタカタ…とマルコはとある人物を中央の一番大きな映像に映し出す。

映像に映る男を見たジャスレイはピク…と眉根を寄せる。

心なしか、彼の背後に控えている部下達も顔には出さないが不機嫌そうな雰囲気を醸し出す。

 

「……ノブリス・ゴルドンか」

 

低く、うめくような声でジャスレイは呟く。

 

「おう。正解だ」

 

ノブリス・ゴルドン。

 

彼は海千山千の武器商人で、それこそ圏外圏にその名を響かせるほどの富豪だ。

個人の資産という点で言うならば、恐らく圏外圏でも五本の指に入るのは確実だろうほどの。

それだけでも彼がとても利に聡い男だと言うのが分かる。

さりとて、その本質は必要とあらば誰とでも組むし、用済みとなればあっさりと切り捨てることも厭わないという、良くも悪くも強かで、何より商人らしい商人だということ。

そんな男がクーデリアのパトロンを買って出たのは、まかり間違っても彼女の理念に共感、賛同したからでは決して無いだろう。

そんなものはよくある口先三寸のおべっかに過ぎない。

ろくに世間の悪意に晒されたこともない良いとこの小娘など、利用価値が無くなれば手放すに躊躇わないだろう。

少なくともジャスレイの知るノブリス・ゴルドンという男はそう言う人間だ。

むしろ、彼女の死を引き金にさらなる戦乱を画策して一儲けしようと言う算段をしていたとしても不思議では無い。

尤も、肝心のクーデリアは果たしてその目論みのどこまで分かっていたのか。

或いは初めて本格的な協力者ができたことに喜んで彼と言う人間を盲信してしまったのか。

世渡りのコツは他者を適度に信じ、同時に適度に疑うこと。

信じすぎては足元を見られるし、信じなさすぎても相手は気を許したり、積極的な協力などしてはくれないのだから。

ただ相手の腹の内を探り、正しく人を見る目を養うには、それこそ人生経験を積むより無いのだが。

商売のやり方からして、義理も仁義も節操もない男のため、ジャスレイからは個人的に避けられているが、しかし今のところは他ならぬオヤジの客だから…という理由から放置されている。

無論、個人的な好き嫌いで取引相手を選ぶほどジャスレイも子どもではない。

それにマクマードの方も滅多なことはしないよう目を光らせてはいるだろう。

とは言え、あちらはあくまでも取引相手。

マクマードとの契約外のことでああだこうだと指図される謂れもあちらにはない。

 

「いずれにせよ、あのタヌキはどっかでなんとかしねぇとなぁ…」

 

ジャスレイの声に震えが洩れる。

それは怒りか、それとも失意によるものか。

 

「アホ。今は妙な事考えんじゃあねぇぞ?」

「……まぁ、そりゃあそうだな」

 

マルコの釘を刺すような言葉に我を取り戻したのか、ジャスレイは「フゥ…」と落ち着きを取り戻す。

彼らにとって、自分達は世間の弾かれものだ。

少なくともジャスレイ達にはその自覚がある。

だからこそ守るべき掟やルールがあり、それに従うことで秩序を維持している。

特に仁義は必要なものだ。

それはここにいる人間の共通認識と言ってもいい。

なのに写真のこの男は、自身の利益のためにそれを悠々と飛び越え他者を害する。

しかし、実力があるのもまた確か。

でなければマクマードほどの大人物と仕事上の手を組むなど出来はしない。

 

「連中の行動範囲や運んでる物資の量からして、すぐに動くこたぁねぇだろうが…」

「ここ数年が勝負か」

 

『夜明け』とノブリス・ゴルドン。

両者のつながりを示す明確な証拠はまだ幾分か必要なのだった。

 

□□□□□□□□

 

ほへー、普通は尻尾掴めないだろう相手の情報まで引っ張り出すとか、やっぱマルコの兄貴はやり手なんだなぁ〜…素直に尊敬できるわ。

しっかし、ノブリス・ゴルドンかぁ〜…。

何度か会ったことあるけど、結構調子がいいっていうか、明らかに腹芸タイプというか…うん。ぶっちゃけオレ的には苦手なタイプだわ!!

 

「にしても相変わらずだなぁジャス」

「何がだ?」

「いや、また仁義で他人様ばっか助けてんだろう?あん時みてぇに…」

 

あん時?ああ…クジャン公の時のことか。何を言うかと思えば、そんなことかい。

 

「兄貴、そりゃあ買い被りってやつさ。オレはただ…オレが救われてぇだけなのさ」

 

バツが悪りぃや。

オレは思わず帽子で顔を隠す。

いやぁ〜.恥ずかしい。

そりゃあ、精神的に擦り切れたとこもあるけども…。

 

「オレが誰かを助けんのはいつだってオレのため、オレが嫌な思いをしないため…そういう意味じゃあ、オレほどのエゴイストもそうはいねぇだろうさ」

 

ただでさえ恨み買いやすいお仕事だからね。

だったら恨まれるよりは好かれた方がいいよね〜って考えるのはむしろ自然って言うか…。

まぁ、ある意味保身よね。

 

「ジャスよぉ…オメェはやっぱ変わんねぇなぁ」

 

それって、いつまでもガキってことかぁ?

いやまぁ、否定できないとこはあるけどもさ…。

 

「たぶん…たぶんだがな…オメェはオメェ自身が思ってるよりはいい奴だと思うぜ?」 

 

兄貴が背中向けてそう語る。

シブイなぁ〜…カッコいいなぁ〜〜!!

 

「だといいがね…」

「ま、そんなわけだ。これから付き合え」

 

そう言うなり、兄貴は足元をゴソゴソし出す。

え、ちょっまさか…。

 

「いい酒が入ったんだ。部下ともども俺の私室で呑もうや」

 

…出た。

兄貴ってばいい酒手に入ると取られまいとしてこっちに隠すんだよなぁ〜…。

まぁ、仕事中は飲んでないらしいから、オヤジからも特にお咎めは無いんだけどもさ…。

 

「えぇ〜…兄貴昔っから絡み酒なんだもんよぉ〜…」

「まま、娘っ子のためにもそう長居はさせねぇからよ」

 

ほんとかね…。

渋るオレに兄貴はズイッ…と顔を近づけ…。

 

「…カンノーリも出すぜ?オヤジのお気に入りの一番いいヤツだ」

「お供しますぜ兄貴」キリッ

 

付き合いは大事だからね。仕方ないね。

 




けっこう入手に苦労したガンプラって、なんか組み立てるのがもったいなくなる…ならない?

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