「オレは黙って金出すしか能がねぇ男だよ」
ジャスレイ・ドノミコルスは常々そう嘯く。
それは彼の包み隠さぬ本心であり、また自己に対しての評価であり認識だ。
つい先日、まさにジャスレイが再びの散財する羽目になるのだった。
「ん」
正式にジャスレイの養女となり、ニナ・ドノミコルスという名になった少女が本をこちらに向けて来る。
「うん?それが欲しいのか?」
「……」
ニナは黙ってコクリと頷く。
碧い瞳が期待に揺れている。
「お勉強…たのしい…」
「こないだ買った本はもう読み終わったのか?」
「うん」
再び頷く。
「それじゃ、気になる本いくつか持って来てもいいぞ」
「…いいの?」
「おうよ。いちいちここに来て買うのも面倒だろ?」
それを聞いて、早歩きで本棚を物色し始める。
幾つも持つのは重いだろうと、世話役の部下も一緒に書店の中へ入る。
その様子も、わくわくと言う音が聞こえて来そうなほどに生き生きして見える。
きっかけはジャスレイ邸に着いたニナが、なんとなしに差し出された本を僅か二、三日で読破したことだ。
最初からある程度の読み書きを出来ていたことから、元々の生まれはある程度上流階級のお嬢だったのかも知れない。
あばらやでの慣れてると言う発言も、小さい頃から誘拐され慣れているということだったのだろうか。
尤も、本人に直接確認したわけでもないので、これはジャスレイらの憶測の域を出ない話だ。
かと言って詳しく聞かずにいるのも、ヘンに聞いてしまった結果トラウマと言う地雷を刺激したらそれこそ今後埋まらぬ溝ができてしまいかねないからだ。
「オヤジもすっかり親バカですねぇ」
部下が和み顔でそう言う。
「ま、こんぐらいしかしてやれることもねぇからな」
ジャスレイは部下と一緒にニナが気になった本を物色し終えるのを待つ。
あの好奇心の塊が、いったいいくつの本を見つけてくるのか気になるところ。
「あれ、ジャスレイさんじゃん!!」
そんなジャスレイに声をかけて来る人物がいた。
「お、ラフタか。久しぶりだなぁ」
振り返ってみると顔見知り…というか、ジャスレイの弟の名瀬・タービン率いるタービンズのメンバーであり、モビルスーツのパイロットも務める女傑、ラフタ・フランクランドが居た。
「珍しいねぇ。ジャスレイさんが本屋に用事なんて」
「おう。ツレがちょっとな」
その言葉にラフタはニマニマし出す。
「……何だ?」
「いやぁ〜、ジャスレイさんにもついにそんなお相手が現れたなんてねぇ〜」
「うん?あぁいや、多分お前さんの想像してるもんではないぞ」
「またまたぁ〜〜」
何やら肘でツンツンされる。
「で?お前さんは何してたんだ?」
今度はジャスレイが問いかける。
「アタシ?アタシはホラ」
手にした紙袋を見せつける。
「新作の服とか〜、ネイルとか〜…」
ラフタはイキイキと手にした荷物の説明をし出す。
「ま、相変わらず元気そうで安心したよ」
「んで、ジャスレイさんは実際誰待ち?」
近くにあるベンチに二人で腰掛けると、ラフタは再び訊ねる。
今度は茶化す感じではなく純粋な興味からとわかる口調だ。
「ま、娘だな。義理のだが」
「へぇ、養子取ったんだ〜」
意外そうにそう言うラフタ。
「ま、こないだの仕事の時にな」
「あぁ〜………」
一瞬、ラフタの表情に影が差す。
「…スマン。お前さんにする話じゃねぇよな」
「いやいいよ。こっちから振った話題だし」
少し、場の空気が重くなる。
どちらがどう話題を振ろうかと四苦八苦していたところに、小さな救世主がやって来た。
「きまったー!!」
「おぉ、そうか」
「あっ、ジャスレイさん。その子が?」
「そうだ。ニナ、コイツはラフタ。オレの弟のコレだ」
「いやいや、コレじゃわかんないでしょ」
苦笑いを浮かべるラフタが、ニナに視線を合わせるようかがんで自己紹介する。
「ラフタ・フランクランドだよ。ヨロシクね!!」
そう言って右手を差し出す。
「にな。よろしく」
そう言うと、ニナはおずおずとラフタと握手するのだった。
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いやぁ〜、ニナもすっかり丸くなったなぁ〜。
最初の方はマジでツンケンしかしてなかったって言うか、口を開くなり短い罵声のオンパレードだったからなぁ。
本を買い与えるようになった時くらいからかなぁ?そういうのがなくなったの。
「じゃす、これ買って」
「おう。またけっこう持って来たもんだなぁ」
どっさりの本が台車いっぱいに載せられている。
いくつかって台車の数じゃ無いんだけどなぁ〜……。
呼び名もぱぱとかとーちゃんじゃなくってじゃすだしよぉ〜。
子どもにまでナメられるオレよ……。
いやまぁ?別に?いいけども?
「ジャスレイさんって結構いいパパじゃん」
「そうか?」
ラフタちゃんよ、それどの辺見て言ってる?
「あっ!!」
「うん?どうした?」
ふと、腕時計をみたラフタちゃんは、何やら慌てた様子だ。
「ゴメン、ジャスレイさん。アタシそろそろ行かなきゃ!!」
「あぁ、誰かとどっかで待ち合わせでもしてたか?」
「そーなの!!またアジーに怒られる〜!!」
うんうん。早く行ってあげたほうがいいぞ〜。
「そうか。それじゃ、そろそろお開きだな」
「らふた、はしる」
ニナが腕を振るジェスチャーをする。
「うん!!そうする!!」
「ケガすんなよ」
「心配ありがとーー!!」
そう言って、ラフタちゃんはあっという間に走って行ったのだった。
嵐みたいな子だったなぁ…。
さて、こっちもこっちでお会計…。
分かっちゃいたけどなかなかの額だなぁ…。
あの独特の形なんかすき。