今回は別視点です。
「団長!!一体アンタ、いつになったら動くってんだ!!」
映像通信越しにもビリビリと響くような大声で、荒くれた様子の小男は言う。
かつてそれなりに豪華だったろう服装は煤け、頬もこけて眼はギラギラと怪しく光っている。
しかし、そんな彼の様子を見てもなお、その通信相手に動じている様子は無い。
悠々と自身の椅子に腰掛け、黙ってそれを聞いている。
しばし考えるような沈黙を挟み、そして口を開く。
「まぁ落ち着けよ。何事にも準備は肝要だろう。何度も言うようだが、今は動く時じゃあねぇんだよ。ガマンしな。先走ってもいいことなんざねぇさ」
「またそれか!!オレは奴に復讐する機会をまだかまだかと待ち侘びてるんだぞ!!」
子どもが癇癪を起こしたように、小男は叫ぶ。
それを見るなり、ふぅ…と呆れたようにわざとらしくため息をつくと、一拍おいて男は凄んでみせる。
「なぁ…ウィニーくんよぉ…オレが待てって言ってんのがわかんねぇのか?別に行きてぇなら止めねぇがよ。その場合オメェにゃあココを抜けてもらうことになるぜ?」
「くっ…そうかよ、それじゃあこっからは勝手に動かせてもらうぜ」
ウィニーと呼ばれた男は言いたいだけ言って映像通信を切り、側につけていた船から徐々に徐々に離れて行く。
その様子を危惧してか、男の腹心が耳打ちする。
「よろしいのですか?本当に勝手に動きかねませんよ。何せ奴は…」
「なに、組織内の意識統一にゃあちょうど良い。どうせ奴も過去に囚われただけのつまらねぇ男さ。わざわざ自滅してくれるってんならわざわざこっちが手を下す必要もねぇ…むしろ願ったりさ」
「それでもここじゃあ新入り扱い…報われませんなぁ」
同情するような口調とは相反し、船内の空気はそこまで重苦しくも無い。
「しかし…本当にアイツを向かわせてよかったんですかい?」
今度は別の部下が不意に問いを投げかける。
「ん?どう言う意味だ?」
「だって、アイツ今じゃあ落ちぶれてあんなナリしてますが、昔はあの辺りでもそれなりに鳴らしてたって言うじゃあねぇですか。万が一にもヤツがあの男の首を取って来るなんて…」
「できやしねぇよ」
即座に飛んでくる否定の言葉。
「え?」
それに呆気に取られる部下に、男…ロイターは続ける。
「アイツは…ジャスレイの野郎はあの程度の野郎にやられるほどヤワじゃあねぇさ。仮に変装して、バカみてぇに多い警備の網をくぐれればそれだけでも御の字。部下の警護を縫ってジャスレイを討ち取って、あまつさえ生きて帰ってくるのなんぞ、無償でエイハブリアクターを五個やら十個やらポンとくれる奴に会うくれぇありえねぇ話さ」
「ハハハ…そりゃあ砂粒の欠片ほどもありゃあしねぇですねぇ」
「だろう?まぁせいぜいヤツがテイワズのナワバリを掻き乱してる間に、こっちはさっさと牙を研がしてもらうとするさ」
彼らは『夜明けの地平線団』
地球と火星の間をナワバリとし、十隻を数える艦隊と、多数のモビルスーツ、そして三千人の構成員を持つ大所帯の宇宙海賊。
そして…。
「待ってろよジャスレイ」
団長のサンドバル・ロイターと、『JPTトラスト』代表ジャスレイとは、因縁浅からぬ間柄で知られる。
「あの野郎の目ェ覚させるにゃあ、まだ足りねぇんだ」
ロイターは今でも鮮明に覚えている。
かつての己の羨望の対象を、容易く打ち砕いた漢のありようを。
冷酷無比にして、栄華を誇った裏組織の人間に「地獄の悪鬼よりもなお恐ろしい」とまで言わしめ、木星圏を震え上がらせた『圏外圏の虎』の、燃えるような瞳を。
しかし、それを語るロイターの目に宿るのは恨みや憎しみなどではなく…。
「あの男の暴れっぷり…今でも夢に見る」
少年のような、澄んだ色をしていた。
思ったより早めに投稿できました。
でもちょっと短め…。