ジャスレイは木星圏にある巨大艦、歳星のテイワズ本社にて、マクマードとの話し合いをしていた。
その話題とは無論、つい先日贈られて来たエイハブリアクターのことだ。
「そんなわけで、こんだけのリアクターが贈られて来てな。どうしたモンかとオヤジに指示を仰ぎに来たってぇわけさ」
珍しく改まった様子のジャスレイを前に、ふむ…と考え込むマクマード。
机の上には湯気の立つエスプレッソとカンノーリが二人分置いてある。
映像通信ではなくわざわざ顔を突き合わせ、護衛も部屋の前に待機させて、二人だけで話しているのは通信傍受されることへの対策のためだ。
尤も、ジャスレイはまだ誰にも話していない以上杞憂とは思うが、念には念を入れておくに越したことはない。
ジャスレイは用意された椅子に腰掛け、帽子を脱ぎながらふぅ…と一息つく。
「悪りぃなオヤジ、急な話でよ…」
「いや、オメェのことだ。オレを頼るくれぇのなんかがあったんだろう?」
「ハハ…当たり」
「ったく…」
若干おどけた様子で軽くそう言うジャスレイに呆れるようにそう返すと、マクマードはその向かいに腰掛ける。
それを見届けたジャスレイは『モンターク商会』なる組織の資料を取り出して机に並べていく。
「エイハブリアクターをこんなに…確かに怪しいなぁ」
「だろう?」
「なるほど…だからオレに相談に来たというわけかい」
「オウ、オヤジに指示を仰いどきゃあ取り敢えず間違いねぇしな」
「相変わらず調子がいいなぁオメェは…」
少し頬の緩んだマクマードだが、再び真剣な表情になり資料を読む。
普通エイハブリアクターを贈られると言ったことは滅多に無いし、だからこそ、下手に握りつぶそうとれば認識の齟齬を生む。
それこそテイワズやひいてはマクマードへの叛意を疑われてしまいかねない。
無論周囲の信頼などもあるが、それはそれとして根も葉もない噂というのは目に見えないところで広がるもの。故に過信は禁物だ。
それで得をするのはテイワズによる圏外圏の支配を面白く思わないチンピラや『夜明けの地平線団』くらいなものだろう。
「唯一の手がかり…って言っていいかはわからねぇが…なんでも件の商会はギャラルホルン内部の貴族家との繋がりがあるとか言ってたな」
つい先日、映像データ内で男が言っていたことを、ジャスレイが告げる。
が、しかし…マクマードは更に眉間に皺を寄せる。
「だが…それも取っかかりとしちゃあ弱ぇなぁ。ギャラルホルンにはセブンスターズは元より規模の大小問わずその下の連中の家系だったり、分家やその分家、更に分家まで数えたらそれこそ数十じゃあ足りねぇし…現状、その情報だけじゃあ特定まではほぼ不可能だろうなぁ…」
存外、汚名を着せられたりして財産を没収されて没落したかつての貴族連中がギャラルホルンへのやっかみと嫌がらせのためにわざわざ結託してかき集めたリアクターを『モンターク商会』を通じてこっちに流したとか…。
歴史ある商会故にそちら方面へのツテもあるにはあるだろうし、何より映像データ内で男は「我々」と言っていた。
それならこれだけ送ってきておいて、肝心のギャラルホルン側が特に何か文句を言って来ないのも納得は出来る。
とは言え、それだってかなり無理のある話だが…。
何にせよ、半永久機関で知られるエイハブリアクターはたとえ一基であっても「はいどうぞ」と軽々しく差し出せるものでは無い。
その価値をわからないほど彼らは歴史が浅かったり、知識に乏しいわけでも無いだろう。
それこそ、彼らの憎っくき相手の内、誰か特定の重要人物の弱みをモンタークを通してリークでもした方がまだ安上がりだろう。
残る疑念としては、仮に目的がギャラルホルンへの嫌がらせにしても、なぜより力のあるマクマードでは無くその配下のジャスレイなのか。そこが気になる所だ。
「まぁ、話は分かった。向こうの意図するところは未だ判然とはしねぇが…」
「かと言って突っ返そうとしたところでなぁ…」
わざわざあちらの目録にない品を返します。というのは流石に無謀。はっきり言って下策だ。
かと言ってジャスレイ…『JPTトラスト』で運用しようにも設備を整えるので却ってカネも時間もかかってしまうのは明白。
いつ『夜明け』が本格的に動くかもわからない現状、手を離せなくなる人員が増えるのは出来る限り避けたいのが組織としての本音だ。
であれば現状の最上策は……。
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「なぁオヤジこのリアクター、オヤジが預かっててくんねぇか?」
たぶんもうこれしか無いんじゃあないかなぁ〜。
これなら結果としてテイワズの利益にも繋がるし、何より管理がなぁ…。
「ま、それが妥当だろうな」
「そうか。そんじゃあ、後でこっちに運ぶよう手配しておくぜ?」
ああ〜よかったぁ〜。
これで何とか肩の荷が一つ降りた気分だなぁ。
いやまぁ?正直バエルおじさんには悪いとは思うけどもさ?流石にオレ一人にリアクター十基は難しいって。
モビルスーツに組み込もうにもフレームだって有限だし、その予備として遊ばせておくのはあまりに勿体なさすぎる。
それにこういうのもアレだけど、もらった以上は誰に渡そうとこっちの自由なわけで…。
「ま、オレとしてもちょうど新しい事業を始めようと思っててな。早速それに充てさせてもらうさ」
「うん?なんだ藪から棒に?」
「オウ。モビルスーツ開発の拡充と、新装備の開発やらその他諸々のためにな。それで…だ。モノは相談なんだが…」
あっ、なんかヤな予感…。
「オメェがその責任者になっちゃあくれねぇか?」
真っ直ぐにこっちを見据えてそう言って来るオヤジ。
「………あぁ〜なるほど」
ってこれもしかして……。
オレの仕事…また増えた?
絶対多忙なのに時間作ってくれるオヤジ…流石やでぇ。
齟齬があったら申し訳ない。