日間ランキング、今見たら三位でした。
読んでくださる方々、アイデアや情報を下さるコメント主様に感謝です。
「ま、こないだそんなことがあってな。近いうちにみんなに顔合わせしようとは思っちゃあいたんだが、色々と準備する前に今日の盃だろ?オヤジには一応報告はしてたんだが…」
ジャスレイは気まずそうにそう言う。
「あぁ、だからラフタはその娘のことを言わなかったのか」
名瀬も名瀬で納得した様子だ。
ジャスレイが既にニナを名瀬に紹介していたならラフタも話くらいは聞いていたはず。しかしそれが無いのは、その日に知ったことはまだ内密にしておくべきことなのかもしれないと。そう思い至ったのだろう。
ジャスレイは「たぶんな」と頷くとグラスをテーブルに置く。
カラン、と小さく氷が鳴る。
「ったく…酒嫌いっつってたのに、何で来るかねぇ?」
くしゃり、と髪を撫でると、蜂蜜のような金髪が少し乱れる。
「むー……」
ニナはジャスレイのズボンに顔を押し付け、拗ねたような声を出す。
「唸ってたてって分かりゃあしねぇよ。だいたい本ならあん時買ったのがまだどっさり残ってんだろ?」
ジャスレイにはニナが不機嫌になる原因に皆目見当がつかないようだ。
すると、ニナは顔を上げて言う。
「暗いと本、読めない」
「ぷっ…」
その言葉を聞いて、名瀬・タービンは思わず吹き出す。
帽子で顔を隠すように俯いてはいるが、表情は見るまでも無い。
「あぁ〜。なるほどなぁ、そりゃあ悪かったよ」
「………」
沈黙。
「どうすりゃあ許してくれる?」
「死んで」
久しぶりに聞いた毒舌だが、ふくれっ面でそう言われても全く怖くは無い。
「こりゃ手厳しい」
ニナはその言葉を受けてプイとそっぽを向く。
年のわりに大人っぽくても、こう言うところはまだまだ子どもだ。
「だが、この時間は寝るって約束だろ?デカくなれなくていいのか?」
「……」
ニナは今度は首を横に振る。
「じゃ、どうした?屋敷の鍵はお前さんにつけた部下が持ってるだろ?」
しっかり者の部下がまさか鍵を紛失したとは思えない。
仮にそうだったとしてもとっくに連絡はジャスレイに入っているはずだ。
「………」
無言。
「……………………」
無言。
「……………………………………………」
まだ無言。
ジャスレイが辛抱強く待っていると、意を決したように、しかしすこし恥ずかしそうに言う。
「ひとりで寝るの。いや」
「あん?」
「本を読むときは静かな方がいい。でも…あの部屋、ひとりで寝るには静かすぎる」
部屋の電気のスイッチはニナには少しばかり位置が高すぎる。
かと言って、手元を照らすライトは目を悪くするし、夜ふかしの元になるのでジャスレイが長時間の使用を禁止しているのだ。
「う〜〜ん……そうかぁ……」
理由を理解したジャスレイ。
しかし、ジャスレイが家を開けるのは基本的にほぼ毎日だ。
帰った時もたいてい書類の整理をしていたり、マクマードに頼まれた仕事をこなしているのであまりニナに構ってやれていない。
そして、それはニナ自身も分かっていたことのはずだ。
どうしたものかとジャスレイが頭を抱えていると、すぐそばで黙って話を聞いていた名瀬・タービンが口を開く。
「そんじゃあ、オレんとこで預りましょうかい?」
ジャスレイは顔を上げて弟分を見やり、そしてふむと考える。
「まぁ、たしかに名瀬のとこなら悪いようにはしねぇか…」
視線を再びニナに戻す。
「ニナ、どうしたい?」
「………」
ニナはうつむき沈黙する。
「なにもサヨナラするってわけじゃあねぇよ。オレが忙しい時は名瀬んとこに上がり込むってだけさ」
「や」
帰って来たのは断りの言葉。
正直言って余り好かれていないと思っていたジャスレイに、その反応は意外だった。
「でもなぁ…」
「や!!」
切り出す前に強く反発してくる。
しがみつく力も強くなっている。
「あ〜、どうやら余計なお節介でしたかね?」
名瀬は気まずそうにそう言う。
「いや、気持ちは十分伝わったさ。ありがとよ」
ジャスレイはニナの頭を今度は先ほどよりも努めて優しく撫でる。
「ならよかった…まぁ、これで兄貴も人の親になったってこってすよ」
「その点はお前さんの方が先輩だなぁ」
「ま、そうなりますかねぇ。子育てで分からなかったら聞いてくださいや。尤も、アミダやリジー達の聞きかじりになっちまうが」
「おう。頼れる弟を持つってのは嬉しいねぇ」
その言葉を聞くと、名瀬は用が済んだとばかりに部屋を出て行った。
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う〜ん。参ったなぁ〜〜。
正直ここまで懐かれてるとは思いもよらなかった。
オヤジに言って、仕事の量調節してもらうか?
いやでも今後も鉄華団と関わっていくんならある程度融通を効かせるためにもオヤジの心象はいいに越したことはねぇしなぁ〜…。
「……ニナ、取り敢えず今夜は一緒に寝るか?」
「うん!」
おおぅ。急に明るくなったなぁ。
子どもの気まぐれはわからんねぇ。
心なしか、部下たちのニナを見る眼差しも優しい気がする。
そうだよなぁ…。子供の頃の一人ぼっちの夜は寂しいもんだよなぁ…。
大人になるとすっかり慣れちまうもんだけども。
ましてあんな過去があったんだ。暗がりはまだ怖いか。
そこに考えが至らないオレの不甲斐なさよ……。
その後、意を決してオヤジにかけ合ってみたら少しだけ仕事は減った。
ちょうど若手に経験を積ませたかったからとかなんとか。
コレばっかりはテイワズ様々だなぁホント。
次は日常?回にしようかなぁなんて思ってます。