次回からまたお話進みます。
とあるコロニーの外れにある廃教会。
かつて敬虔なる祈りの場であったそこは、今宵大いに賑わっていた。
とは言っても、その賑わいは祈りとは程遠いモノではあるが。
仄暗い空間に、ざわめきと嫌な熱気と妙に甘ったるいような、嫌な匂いがたちこめている。
広い礼拝堂には祈りのために用意された椅子は無く、その代わりに雑に仕切りがされ、そこで修道服を着た女達がキセルを片手に下品な笑いを浮かべる、見るからにカタギでない男どもを接待している。
まあ、要するに外見だけ教会の
元々はそこのオーナーとなった男が廃教会を取り壊して新しくソレを建てるはずだったものの、思った以上にその教会が頑丈だったのと、取り壊しにかかる費用、そして建築にかかる時間が割りに合わなかったから、それなら少し修繕した方が安上がりだ。との考えかららしい。
まったく罰当たりなことこの上ないが。
チンピラ達にとって、そんなことはどうでもいいらしい。
そんなどんちゃん騒ぎがされている店の裏手で、酔っ払いどもに絡まれる少女がひとり。
洗い物と、ほんの少しの休憩、そして現実逃避のためにやってきたはずが、ここにきて絡まれる羽目になるとは皮肉な話だ。
「なぁなぁねーちゃん。一杯奢るからよ、ちょ〜っとお酌してくれや」
「な〜な〜いいだろ〜?」
「え…いえ、でも…」
彼女はここで働く商売女の身の回りの世話を仰せつかっていた。
そんな彼女が主人たちの客である彼らを自分の客にするなどもってのほかであるし、そもそもそう言った権限は彼女には無い。
しかし、客の機嫌を損ねて暴れられるのも問題だ。
店に迷惑を掛ければ、ただでさえ少ない給与がその補填に充てられてしまう…。
普段はこう言ったトラブルが起きないよう、わざわざ分かりにくい裏手に来て、仕事に取り組んでいたと言うのに…。
かと言って、うまく相手を言いくるめられるほど、少女は口が上手い訳でもない。
せいぜいが掃除中にたまたま拾った埃を被った聖典を辞書片手に気まぐれに読むくらいで、特に教養豊かと言うわけでもなかった。
「その辺にしときな」
どうしたものかと考えていた最中、耳にしたのは聞きなれない声。
不意に、その場にいた全員がその方向を見やる。背格好からして若い男。
卸したてなのだろう帽子に、さほど高級そうでも無い地味めの色合いのトレンチコート。
少なくとも少女の知る限り、店の関係者ではない。
かと言って、見栄っ張りな小悪党のように嫌味ったらしく高級品に身を包んでいる訳でも無いので、酔っ払い達と同じく店の客とも思えなかった。
なにより、面倒な客の意識をそちらに持っていってくれたことから、普段は警戒しただろう少女も、この時ばかりはこの見知らぬ男に内心感謝していた。
「オメェら、その子にフラれたんだよ」
「ンだぁ!?テメェ!!」
「何モンだぁ!?オレらを誰と心得て…」
かなり酔っているのだろう。
よくよく見れば、手には酒瓶が握られている。
酒臭い息に無駄に大きい声を出して、相手を威嚇する客達。
「おう。カチコミに来た」
ニッと笑うと、男は懐が銃を取り出した。
瞬間、店の表と、そしてこの裏手から爆音と銃声がこだまする。
後世に語られる伝説の幕を開ける。
その合図だ。
「何事だァァァ!!」
店の奥からオーナーである男が異変に気づいて現れる。
即座に部下に周囲を固めさせ、その一番後ろでキョロキョロと震えながら周囲を見回す様は、その小心ぶりを如実に物語っていた。
「よう。随分な馬鹿騒ぎしてるじゃあねぇかよ」
店の入り口から涼しげな声が聞こえる。
「な、なんだ貴様。オレを誰か知ったうえでの狼藉かァ!!」
部下達は威嚇の意味を込めて銃口を向けるが、男はなんてことのないようにふぅ…とため息をつくや、言葉を続ける。
「知ってるさ。ディアブロ兄弟三男、マルチェロだろう?孤児やら浮浪児の子どもらに随分と悪どいことを仕込んでたって話じゃあねぇか」
「あん?ンなこと誰だってしてんじゃあねぇか。幸いギャラルホルンからのお咎めもねぇしな。やりたい放題よ!!」
褒められたと思ったのか、訝しげにしていた先ほどとは打って変わり、ガハハと得意げにそう言うマルチェロ。
「……まぁいい。今宵の要件はたった一つ…」
ざわり…と、男の纏う空気が変わったような気がした。
溢れる熱気が一気に冷え込むような、そんな嫌な感覚。
「テメェの首を貰いに来たんだよ」
男がそう言うや否や、その背後に男の仲間らしき人間が二十名ほどぞろぞろと現れる。
各々手には武器が握られ、物騒な雰囲気を醸し出していた。
その光景に、客達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
それを待っていたと言わんばかりに、逃げる客と客の間を縫うように、刺客たる男達はズカズカと近寄る。
その仲間達もまた、彼に続いて近づいてくる。
そして、マルチェロと呼ばれた男は応援がなかなかやって来ないことから見張りが全員やられたという事実をようやく察したようだ。
「えぇい!!何をぼーっとしてやがる!!撃て!!」
「し、しかし客がまだ…」
「かまいやしねぇ〜〜っ!!敵をぶち殺すのが先だぁ〜〜!!」
いくつもの銃声、そして爆音が響く。
しかし、男達はそれに気圧されることも、ビビることなく死にものぐるいで突っ込んで来る。
それは狂気か、それとも積もりに積もった恨み辛みの故か。
「ハハハハハ!!
「アニキに続けぇぇ!!」
「ディアブロのクソ野郎を生かして帰すなァァァ!!」
小一時間もやり合えば、如何な精鋭とて疲れが見える。
一人、また一人と用心棒が倒れていく様を見て、マルチェロは舌打ちをひとつつくや、悪態と共に逃げの算段をつける。
「畜生!!こうなったら裏口から逃げるぞ!!」
そう言うや、マルチェロが扉を開けるが…。
その先から銃口がヌッと出てくる。
ヒッ…と後ずさりするも、それとほぼ同時についに最後の護衛まで倒れてしまう。
「懺悔しながら死んじまいなァ」
「たっ…たすっ…」
パァンッッッ……!!
幕切れは、ことのほかあっけないモノだった。
その後は弟をやられたディアブロの兄達がジャスレイ達に復讐を果たそうと躍起になっていたものの、結果は今が物語っているので、言うまでもないだろう。
……………………
「ま、中にゃあ人伝に聞いた話もあるけどね。コレがアタシの知ってる限りのアイツの過去さね」
思いの外、喋っていたのだろう。
気がつけば時計の針が一周半ほどしていたことにイングリッドは驚く。
「へぇ〜!!そんなことがあったんだぁ〜」
「アイツは自分のことを、まるで伝説みたいに語られるのは好きじゃあないからねぇ…」
まぁ…そんなアイツだからこそ…
そう続けようとした時、医務室の扉が開いた。
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「お〜う。腰はどうだぁ?」
はぁ〜…部下達の説得が大変だったぁ〜…。
まぁでも待たせた二人は退屈してなさそうだし、まぁいいか。
…….ユハナちゃんがやけにニマニマしてるのが気になるけど。
「取り敢えず、無茶はすんなよ」
肝っ玉すわってんのは分かるけど、何かあったら子どもら悲しむし…。
「フンっ!!アンタにゃあ言われたか無いね!!」
えぇ〜〜………。
ニナといい、イングリッドといい……オレの周りって口の悪い女性が多いのはなんでなんだろ?
なお、本人的にはやけっぱちになってた時期の模様。
八十話とか、我ながら続きましたねぇ。
その割に進まない話よ…orz
これからも拙作を読んでもらえると嬉しいです。