ジャスレイ達は襲撃のあった翌日に、ウィニーを港の部下達に預けてマザー・イングリッドを護衛達と共に孤児院に送り届けた。
前もって連絡しておいたのもあって、まだ子ども達の起きていない早朝に、若いシスター数名が頭を下げていたが、ジャスレイはそれをやめるように「頭ァあげてくんな」と、ひとこと言う。
詫びの言葉も要らないと、それはむしろこちらが言うべきことだと、そう言って孤児院で働く大人達の心労をかけまいとしていた。
それを察してか、イングリッドはつまらなそうに言う。
「ったく…仁義だなんだって厄介なモンだねぇ…」
「ま、それがオレらさ。たまにゃあ見栄のひとつも張らせてくれや」
事もなげに飄々と返すジャスレイ。
「本当はあなた方のためにお祈りの一つでもさせていただきたいのですが…」
イングリッドを隣で支えるシスターがそう言うが、ジャスレイは軽く首を横に振る。
「なぁに気持ちだけもらっておくさ。それによ、ここで言うことでもねぇだろうが…オレにゃあいるかもわからねぇ神サマなんぞよりも、今確かにオレなんぞを慕ってくれてる連中の方が…そいつらの未来の方が、遥かに大事にきまってんだろうがよ。それを守るためなら…オレぁ何だってするのさ」
格好つけなクサいセリフ。
それにイングリッドがまた返す。
「フン…確かにアンタらしい罰当たりな言葉だね。子どもらが寝静まってなきゃあぶん殴ってるとこさ」
いつもの如くそう言うイングリッドは慣れ半分、呆れ半分と言った様子だ。
「そりゃあなぁ…確かにオレは善人たぁ程遠いさ。引き返す道なんぞもうありゃあしねぇ。だが…だからこそ…」
そっと瞼を閉じて、遠い日に大人にすらなれず無念のうちに死んでいった友を、きょうだいを想う。
己の無力ゆえに何も出来ず、逃げて逃げて…せめてそのかつての償いにと大立ち回りを演じて今の地位にまで上り詰めたジャスレイにとって、今自分を支えてくれている部下達や子どもたちは何にも変えられないもの。
たとえ取り戻せない過去だとしても、いや、だからこそ……。
「オレの仁義は何より子どもらのため、その未来を守るためにこそあんだよ」
ふんっ…といつものように鼻を鳴らすが、それ以上は言うだけで無駄と思ったのか、それとも何か思うところがあったのか…クルリと背を向け去る男に、それ以上何かを言うでもなかった。
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さ〜て、ウィニーくんは預けたし、あとは守りを固めて、つい昨日起こったトラブルのことと到着したことをオヤジとマルコの兄貴にも伝えて〜。
「オッジッサ〜ン♪」
「うん?どうしたユハナ」
急に隣にやってくるユハナちゃん。
イヤにテンション高いなぁ…。
「あの人、いい人だね」
「あの人?ああイングリッドのことか」
まぁ、家事全般とか諸々ベテランだしなぁ〜。
肝っ玉も据わってて、まさに頼れる母ちゃんって感じだよなぁ…。
「お母さんって、あんな人なのかなぁって…」
えっ…なんで急にそんな重い話を?
いやでも…そんだけ心開いてくれてるのかもしれないし…。
「さてなぁ…親子っつっても人によりけりだろうよ。きちんと愛情を注いでもらえるかもわからねぇ。双方無関心が当たり前の家庭だったり、毒親なんてのも中にゃあいるしなぁ」
日和った返事ですねぇ〜はい。
「アタシさ…親の顔って覚えてないんだ〜…。物心ついた時にはサンポしか頼るあてがなくって…それで、色々と生きるために悪いこともして…それで…」
あれ?今度は俯いて肩が震え出したぞ?
もしかして…泣いてる!?
と、取り敢えず落ち着かせよう。
一番頼りになりそうなお兄ちゃんのサンポくんも、こんなことあんま無かったみたいで部下達と一緒になってアワアワしてるし…。
かく言うオレもどうしたもんかわからないモンで、ニナにしてるみたく頭をくしゃり、と撫でる。
「ユハナよぉ…そん時ゃあ…楽しいこと、なりてぇ自分を思い浮かべてみな…それで過去が変わるわけじゃあねぇが、それでもずっと沈んでるよりはマシだろうさ」
「…オジサンは?」
えっ?オレ?
オレは〜…う〜ん…。
「オレはなぁ…カッコいい男になりてぇのさ」
名瀬ニキとか、オヤジとか、マルコの兄貴とか、もう死んでるけどテッドとか…オレの周りにはカッコいい漢が多くってなぁ〜…。
今でもたまに凹むからなぁ…。
って、コレなんか関係ある?
「まぁ…まだまだ道は長えがなぁ…」
しばらくして気持ちが落ち着いたからか、徐々にユハナちゃんの震えは止まる…と同時に…
「‥プッ」
うん?吹き出した?
「あははっ!!オジさんヘンなの〜!!」
そう言うなり、またご機嫌に戻って走り出した。
相変わらず、女心は分からんなぁ…。
次回、あの男再び?