どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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ギャラルホルン視点です。



第86話

その日、アリアンロッド艦隊総督、ラスタル・エリオンとその配下であるイオク・クジャンは、ギャラルホルンを牛耳る貴族たちに呼び出されていた。

会議のための広間と思しき部屋にて、ラスタルは幾つもの目に睨まれることとなる。

 

「…………」

 

しばしの重苦しい沈黙ののち、貴族の一人が話し始める。

 

「話はわかるな?昨今、圏外圏でコソコソと動き回っているあの海賊共のことだ。貴公らの働きはよくよく分かってはいるが…あまり好き放題されるのも我らギャラルホルンの沽券に関わるのでな」

「『夜明けの地平線団』のことならば、私も聞き及んではおります」

 

ラスタルが如何にセブンスターズとは言え、今回は軍人として招聘を受けた身である以上は相手に頭を下げるより他ない。

そもそもアリアンロッドは規模の大きさに比例して、その任務や責務もまた大きい。

かけられる期待も、負担もまた然り。

 

「そうか…ならば話は早い」

 

痩せ細り、長い眉と髭を生やした男はバラクザン家現当主、ネモ・バラクザン。

家門の上ではエリオン家と同格の、頑固な老人のひとりだ。

 

「早急に部隊を編成し、即刻奴らを殲滅せよ」

「うむ。民草に危険が及ぶのを見過ごすわけにはゆかぬ故」

 

それに同意するのは整えられた髭と、善良そうな雰囲気がトレードマークのボードウィン家の当主であるガルス・ボードウィン。

その他様々な家柄の代表達がそうだそうだと捲し立てる。

しかし、いざ作戦を立てるとなれば綿密な計画や情報収集、使用する武装やらモビルスーツの整備やら武器弾薬の確認やら何やらと、準備が必要がある。

無謀な策や半端な装備では却って兵達の危険は増すし、それは当然指揮にも関わる。

彼らもそれを分かっているはず。

 

にも関わらずこうも急かすとは…。

現状によほど焦っているのか、それとも……水面下で誰かにせっつかれているのか。

ラスタルは彼らの様子を観察して、何か得心を得たように少しだけ目を細める。

 

「しかし!!お歴々方…」

 

軍人の苦労も知らず、上から目線で言いたい放題の貴族たちに我慢の限界なのだろう若きクジャン公の前に、ラスタルが庇うようにグイと出る。

 

「なに、任せておけ」

 

ボソリと告げられる言葉にイオクは唇をかみしめて小さく頷く。

 

「かしこまりました。では…後のことは全て私めにお任せいただければ…」

 

恭しく、礼儀を持って機嫌を伺うラスタルに、貴族達は満足げに頷く。

 

「うむ。では、今回の一件に於いては貴公に全ての権限を一任しよう…では頼んだぞ」

 

そう返事を聞くなり、ラスタルは頭を上げるや、イオクを連れてツカツカと部屋を後にする。

 

「よろしいのですか?何故エリオン公が、年寄りの小間使いのような扱いを…」

 

廊下を歩きながらラスタルの後をついて歩き、困惑と悔しさを滲ませるイオク。

その言動に青さと、今後の伸び代を感じたのか、ラスタルは微かに笑む。

 

やがてギャラルホルン本部にある私室に辿り着くなりラスタルは口を開く。

 

「本質を見誤るなよイオク」

 

イオクを公職の『クジャン公』では無く名で呼び、口ぶりも若干砕けた口調となる。

つまり、この部屋ならば盗み聞きされる恐れは無い、ある程度の安全圏であるということだ。

 

「『夜明けの地平線団』とジャスレイ・ドノミコルスの争いは最早時間の問題だ。恐らくは裏で手引きしている男の目論見があるのだろう。まずはそれを見極めることこそ肝要。ここで迂闊に動けば、それを知る機会すら失われかねん」

 

ラスタルはあくまでも冷静に、そして諭すようにそう告げる。

元々下げたくも無い頭を下げて、それでも懐柔できなかった男のことをよく思っていない年寄り連中は多い。

あわよくば共倒れを狙おうと言う魂胆もあるのだろうが…そこまで頭が回らないほどジャスレイは愚かな男では無いことをラスタルは知っている。

本人に直接告げることこそないものの、マクマードやジャスレイをはじめとしたテイワズという組織が圏外圏で睨みを利かせ、或いは傘下に置いているからこそ、そこに蔓延る賊徒がやぶれかぶれになって地球圏にやって来ないのだということも理解している。

良くも悪くも、ラスタルは嫌と言うほどに現実というものを知っていた。

 

「では…彼らがラスタル殿を急かしていたのは…」

「大方、どこぞの二枚舌の古狸が年寄りの誰かの不安でも煽って唆したのだろうよ」

 

ラスタルは呆れがちにそう答える。

 

「っ…では、やはり…」

 

そこまで言ったところでラスタルは片手を上げてイオクを静止する。

 

コンコン…。

扉がノックされる音が室内に響く。

瞬間、室内は緊張に包まれる。

護衛の兵士は部屋の前にいる。下手な真似はできないだろうが、用心するに越したことはない。

 

「入れ」

 

入り口に目を向けたまま、ラスタルは告げる。

 

「失礼致します」

 

そこに現れたのは一人のメイド。

ティーポットと、スコーンやサンドイッチの乗ったティースタンドの乗ったティーワゴンを押していることから、単に時間の通りに来たと言うだけだろう。

現にイオクは時計を見遣り「こんな時間になっていたか」とこぼす。

 

「…紅茶は自分で淹れるからいいぞ」

「かしこまりました」

 

メイドは二人に再び恭しく礼をするなり、パタン…と扉を閉めた。

…彼女に怪しい動きはなかった。

尤も、これから面倒ごとへの使い走りに使おうと言う男にわざわざ一服盛るマネは早々しなかろうが。

誰が暴走するともしれぬ昨今、権謀術数というのは厄介なことこの上ない。

 

「…いずれにせよ、裏で手引きしているだろう男は捕えねばならん。地球圏の恒久的な平和のためにも…な」

「それほどまでなのですか…?ラスタル殿が顎で使われてまで…そもそも、圏外圏のギャラルホルンの腐敗は誰の目にも明らかではないですか!!それを放置して、何のための沽券なのですか!!」

 

青い怒りに燃えるイオクに、ラスタルは優しく微笑みかける。

 

「なに、私が年寄り連中に顎で使われることで、一時であっても平和が保たれるのなら安いというものだ。それに…私とて、ただで使われてやるわけではないさ」

 

含みのある物言いに、イオクは小首をかしげる。

 

「連中め、私に今回の作戦行動の全ての権限を任せると、そう言ったな?」

 

ラスタルは用意された紅茶のカップを手にすると、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「その言質さえ取れればあとはどうにでも出来る。この作戦の範疇ならば、たとえ誰と手を組むことになろうとも…な」

 

言うと不機嫌になるから黙っているが、不敵に笑うその姿は、もう一人の叔父御にそっくりだと、そう思うイオクなのであった。

 




間が空いて申し訳ないです。

それと、齟齬があったらごめんなさい。
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