さて、新事業の合間を縫って水面下でジャスレイが行った買収工作だが…結果としてそれなり以上の成果を挙げていた。
無論、それにも理由というものはある。
まず、テイワズという組織それ自体が裏・表共に多くの商売を行なっている関係上、新事業を立ち上がること自体は珍しくも何ともないし、そのためにこれまでさほど関係もなかった業界の企業にジャスレイ自らが出張るのも、普段の彼のポーズ故に特段訝るようなものでも無かった、というのも大きい。
無論、己の領域に立ち入られて、黙して見ているだけのゴルドンでは無いが…明確な証拠も確信できるだけの理由も無く、ただ感情のままに突っかかるのは悪手と分かっているが故か不気味なまでに動きは無い。
ジャスレイとしても、彼をただの守銭奴などと侮るつもりは毛頭ない。ゴルドンの利に聡く、カネと危険の匂いを嗅ぎわけるその嗅覚は年老いてなお鋭い。
でなければジャスレイもこんな回りくどく、薄氷を渡るようなやり方などしない。
今は傘下を幾つか吸収させたことで、テイワズに貸しをひとつ作れるくらいに思わせておいた方がいい。
「とは言え…やった甲斐はあったな」
歳星の『JPTトラスト』本社、その社長室で椅子を揺らすジャスレイ。
実際、これでゴルドンの包囲網はほぼほぼ出来上がったようなものだ。
「あとはあの男の目端にチラリチラリと見えるように少しずつ網を狭めていきゃあ良いのさ。言うなりゃあ、丸々と太ったタヌキをゆっくりと穴の空いた塀まで追い立てるようなモンだ。
まぁその結果として、ヤツの影響力が幾分目減りするだろうが…なに、命にゃあ変えられねェだろうよ」
ゴルドンは賢い、そして生き汚い。だからこそ次にどうすればいいのか経験則から分かっている。
即ち…ゴルドンと『夜明けの地平線団』との手切れの時は近いと言うことだ。
資金源さえ断てれば後は煮るなり焼くなり…仮に火中の栗が苦し紛れに飛び出して来ることはあっても、喜ぶべきか悲しむべきか…それをかわせぬ程ジャスレイは平和ボケしていない。
テイワズの幹部たる者、常に最悪を想定して、更に最悪が来ても備えてこそだ。
「オヤジ…お疲れ様でした」
「おう。お前さんらも悪りぃな、あっちにこっちに連れ回しちまってよ」
上司からの労いの言葉に、部下達は慌てた様子で、しかし真っ直ぐに答える。
「いえ、このくれぇ苦じゃあねぇです!!」
「ちっとでも恩返しさせてくだせぇ!!」
「ったく…オメェらはそうやって…念のため言っとくが、無茶だけはすんじゃあねぇよ?」
呆れ気味に返すと、ジャスレイは背もたれに軽く体重をかけるように寄りかかる。
「っかし…こう言うのはやっぱ疲れんなぁ…」
短時間で方々を回ったからか、流石のジャスレイも疲れが一気に出たようだ。
「それじゃあ、仕事の方の調整はこっちでしときやしょうかい?」
「オウ頼まぁ。オレァちょいと仮眠をさせてもらうぜ?」
三十分経ったら起こしてくれと、そう言うなり、ジャスレイはソファに横になり、顔を覆うように帽子を置く。
「オヤジ、仮眠ならベッドで…って、もう寝てらぁ…」
無防備に寝息を立てるジャスレイ。
それを見る部下達は、それだけ深く信頼されていると言う事実に内心喜びつつ、同時に気を引き締める。
「それじゃあ、オレらも護衛として気張らねぇとなぁ…」
「だな。今オヤジを守れんなぁ他でもねぇ、オレらなんだからな」
部下たちは軽く気合いを入れ直して、彼らのオヤジの側を固める。
それは、ユハナが不恰好な手料理を手に突撃して来る二十分前のことであった。
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こうして疲れて寝ると、いつも見る夢がある。
とは言っても、起きると大抵忘れてるんだけど。
まぁなんて事のない昔の夢だ。
友人と、家族と、きょうだい達と出会い、死に別れた…ゴミ山の夢だ。
「ジャス」
勝ち気に、しかし優しく呼ぶその声は嬉しそうに、寂しそうにオレの鼓膜を揺らす。
そうして、いつも思い出す。
子どもらが蹂躙され、荒れる世の中を憎む気持ちと、オレ自身のエゴの醜さを。
「姉ちゃん…兄貴達…オレァ…オレを信じてついてきてくれてるアイツらに何をしてやれる?何を残してやれる?」
すり抜ける風を掴むように、通り抜ける幻に縋るように手を伸ばす。
が、それらに触れることは当然叶わない。
………デスヨネー。
そりゃあ夢の中でくらい、縋れるものは欲しいさ。
夢から醒めたら、今度は自分が支える側だから。
でも今更キャラ変なんてできない。なぜなら大人だから。チクショウ。
それに今まで築き上げてきた信頼が……。
「なぁ〜んて、いいトシしたおっさんが考えるモンじゃあねぇわなぁ…」
多分コレは明晰夢ってヤツなんだろうけどもさ〜。
まぁいいか。起きればどうせ忘れてるんだろうし。
あぁ〜…もう少しだけ寝てたい…。
我ながらダメな大人のだなぁ、オレ………。
ホロリ…あ、情けなくってなんか涙が…。
げ、現実の方では流れてないよね?流れてたらなんか恥ずかしい…。
あんまお話進んでないね。申し訳ない。