『JPTトラスト』大会議場。
それは、ジャスレイと幹部達の会議に用いられる特別な部屋だ。
とは言え、その室内はちょっとした掛け軸や花の生けてある以外に何かゴテゴテと飾り立ててあるわけでも無く、ジャスレイの要望の通りあくまで幹部たち全員が入るくらいに広く、清潔感もあるシンプルな和室だ。
そこが今、和装姿の幹部達が正座で待機する満員の状態となっていることが、今回の事態の重要性、重大性を示していると言えるだろう。
「オホンッ…では、我らがオヤジが来る前に決定しておくべきこととして…司会進行を務めさせていただくのはこの私、ティアンユということでよろしいですかな?」
ジャスレイの座るだろう上座の近くで、ティアンユは大仰に咳払いをすると、そう言って先に集まっていた幹部一同を見回す。
「ま、良いんじゃあねぇの?適材適所でよ」
まず、ゲパードがそう返す。
「反対する理由もねぇだろうしな」
駆けつけた弟分である名瀬も、異論はなさそうだ。
「時間を無駄には出来めぇよ」
「んだな。せっかく久々にオヤジの言葉が聞けるってぇのに、無駄はいらん」
レオパルドも、他幹部に続いて返答する。
「……………」
オールソもまた、言いたいことはなさそうだ。
その他幹部陣からも特に異議の申し立てはない。
ティアンユも同意見であるのか、それに静かに頷くのみ。
「えぇ、それでは…皆の意見の通り…むっ?」
ティアンユは何かしら報告があったのだろう。
片耳につけたイヤホンに手を当て、そこから伸びるマイクに恭しく応答している。
「ハイ…ハイ…では、そのように…」
慇懃な口調に反し、口元は嬉しそうに若干吊り上がっている。
その様子に、周囲は何かを感じたのか、一瞬ざわつく。
「喜びたまえ諸君、オヤジの方の準備も整ったそうだ」
その言葉に、場は沸き立つ。
入り口の襖が開き、中に入って来るのは一同が見慣れた人影。
いつもと変わらぬ姿、いつもと変わらぬ声色。
服装こそ場に合わせて和装であるものの、トレードマークの帽子は忘れていない。
そのミスマッチがまた、程よく緊張をほぐしてくれる。
幾ら歳を重ねたとて、それを忘れられる者などこの場には居ない。
「おうオメェら。久しぶりだなぁ」
襖を開けた部下に軽く礼を告げ、両隣に部下を引き連れたジャスレイが居た。
その一言で、大会議場は割れるような歓声に揺れる。
「みんなァァァ!!オヤジが来たぞ!!」
「お久しぶりですオヤジィィ!!」
「オレらも来ましたぜ!!」
「オジキ〜!!オレたちも来たよ〜!!」
沸き立つ歓声にジャスレイはニコリと微笑んで手を挙げ、応える。
「オウオウありがとうよ。元気そうで何よりさ」
彼は声をかけて来た幹部ひとりひとりと握手をして周り、それぞれ労いの言葉をかける。
そうして一番奥の席に座ると途端に神妙な面持ちになる。
それを感じ取った一同は先ほどの騒がしさとは打って変わって今度は水を打ったように静かになる。
皆が皆、ジャスレイの言葉を聞こうと躍起になっているのだろう。
「オメェら。オレは嬉しく思う。まずはこうして集まってくれたことに礼を伝えさせて欲しい」
そう言うなり、ジャスレイはそのまま頭を下げる。
その間の数秒、部下たちは黙ってジャスレイが頭を上げるのを見守る。
「そして本題だが…『夜明けの地平線団』に、いよいよもって怪しい動きがあったとの情報があった」
ざわつく一同に、ティアンユが目配せをすることで、再び静かにさせる。
「連中が何を目的としてんのか、未だ判然とはしねぇが…確かに言えることは、明らかに数で劣る連中が何かしでかそうってのは、何かしら勝算あってのことだろうな」
そうして周囲を見回し、一拍置いてジャスレイは続ける。
「とは言え…だ。これは明らかに、仁義を欠いた愚行に等しい。そうだろ?」
ジャスレイは震えている。
それは恐れからくるモノでは断じてないことはここに集った一同はわかっている。
「オヤジが、オレらが、そしてオメェらが何十年かけて築き上げて来た圏外圏の秩序を、平穏を乱そうなんてふてぇヤツらは放っちゃあおけねぇ…そうだろ?」
その言葉に、場は熱気が支配する。
「当っったり前っスよ!!」
「たとえ命に代えてでも、連中を追い出してやりましょうぜ!!」
「バカヤロォ」
シン…と熱気が冷めるのを感じる…が。
「命に変えられるモンなんざありゃあしねぇさ。オレらは勝つ。だが…間違ってもオレより先に死のうなんていう親不孝な考えはやめな。オレが悲しむ。まぁそんなモンはオレのエゴでしかねぇって、分かってんがな…」
自嘲気味に、しかし同時に柔和にはにかむジャスレイ。
「オ…オヤジィィィィ!!」
「一生着いてくぜ〜〜!!」
「オジキィィ!!」
今度こそ、場のボルテージは最大にまで盛り上がった。
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う、うぅ〜ん…。
どうにかこうにか話し合って今後の方針が固まったはいいけど…。
やっぱこの子らテンション高いなぁ〜。
いやまぁ。確かにそんなに会えてないけどもさ。
そんなに上司と会いたいモンなんかねぇ?
オレはそう言うのなぁんか詰められそうで苦手なんでなぁ…。
だから傘下連中も基本やりたいようにやってもらってるし…。
「では、情報の精査や警備艦隊の編成、そして非常事態の発生時には常に駆けつけられるように幾重に策を巡らせましょう」
ティアンユのヤツが得意げに整ったヒゲをいじっている。
やっぱデキるヤツは頼もしいなぁ〜。
「おう。頼んだ。とは言え…だ」
「ハハ…無論、無茶は致しませんとも。とは言え…」
うん?なんかあんの?
「やはり、再びオヤジと共に戦える歓喜は…皆等しいのでしょうなぁ…」
目を細めて何かを思い出し、懐かしそうにそう言うティアンユ。
え、マジで言ってる?
そう思い、オレは動揺を隠しつつそろりそろりと周囲を見やる。
「いやぁ〜またオヤジの指揮で戦えるなんぞ、夢みてぇだなぁ〜」
「一番槍はオレらだかんなぁ〜」
「バカ言うない!!オレらがオヤジに褒めてもらうんだよ!!」
「オヤジの指示通りにやってりゃあ問題はねぇだろうよ」
「えっ?オジキってやっぱスゴかったの〜?」
「おうともよ!!アレは忘れもしねぇ…」
…………………
マジかこの子達。
いや、信頼してもらえてるのは嬉しいんだけど…。
クッソ〜、ロイターめ!!
なぁ〜に考えてやがるんですかね。
オレの胃に穴が空いたらどうしてくれるってんだ!!
いやまぁ、今まで一度も開いたことないんだけど‥。
はぁ〜…オレにゃあ平和が一番なのになぁ〜。
こりゃあもう、全力で取り掛かってさっさと終わらせよう。
「平穏を乱されりゃあ、こんなことすら出来なくなっちまう」
「……オヤジ?」
「ティアンユ。何があっても勝つぞ。ここにいる全員でな」
そんくらいしないと、ロイターのアホはまぁた挑んで来そうでなぁ。
「…!!そうですなぁ」
うん?ティアンユくん、なんでそんなしみじみしてんの?