「馬鹿野郎、遮二無二突っ込みすぎだ…」
その言葉に、ユハナは閉じかけた瞼を驚きに開いた。
そこにはテイワズが誇る最新鋭の機体である辟邪が、フラウロスをはがいじめにして、その動きを封じていたからだ。
時は少し遡り……。
「ティアンユ」
「は…」
『黄金のジャスレイ号』内で、ジャスレイは己の腹心に問いかける。
「ユハナ達から一番近い部隊は救援にどのくらいかかりそうだ?」
「オジキ…?」
ライドが疑念を口にするも、それは耳に入っていない様子だ。
事態が急がねばならなかった状況ゆえに、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが。
「短くて十五分、急いでも十分はかかりますなぁ」
淡々とそう告げるティアンユに、ジャスレイは頷く。
「そんじゃあ間に合わねぇな…。じゃあよ、仮にこっから辟邪を飛ばしたとしたら…どうだ?」
「そうですなぁ…。辟邪の大型ブースターを、帰りのことまで度外視して、限度いっぱいまで使えば…理論的には最短で三分程度かと…」
それにジャスレイは笑顔で答える。
「そうか。そんだけ聞けりゃあ十分だ」
ティアンユの肩を叩き、ジャスレイが視線で言葉なく語ると、ティアンユは黙って頷く。
ジャスレイはライド、チャド両名の頭を軽く撫でると、その横を通り過ぎて、デッキから出る。
幸いと言うべきか、それを止められる部下達は皆部隊を組んで戦闘中。
護衛団はティアンユからのなんらかの指示によって、しばしそのままであった。
「だぁぁ!!ジタバタすんな!!アブねーだろうが!!」
ユーゴーのパイロット達は突然の乱入に驚いたのか、ユハナとサンポを縛るワイヤーが一瞬緩み、それに気づいたユハナは咄嗟に腕部のチェーンソーを用いて、ワイヤーを切断。
間一髪のところでダインスレイヴをかわした。
「オジサン…」
「なるほどなぁ…ユハナとサンポをエサにして、オレか幹部連中を引っ張り出そうって算段かよ?そんなら大成功だ、クソッタレ!!」
元より、あの距離から救援に入れるのはジャスレイかその近くにいた幹部陣のみ(それでも間に合うかはギリギリの賭けだったが)。
それ以外は敵艦隊やモビルスーツ部隊を相手に大立ち回りを演じているため、その場から手が離せない。
最新鋭である辟邪の速度と、ジャスレイの判断力があってなんとか見える光明。
しかし、放っておいても策に引っかかったガンダムフレームをひとつ潰せるうえに、運が良ければ幹部も道連れにできるという算段。
捨て身かと思えば…いやだからこそ、こうして策を弄するロイターの嫌らしさに、ジャスレイは内心舌打ちする。
とは言え、流石にジャスレイが直接やってくるのは想定外のことだったろうが…。
「っちぃ…」
形勢逆転を恐れてか、フラウロスのパイロットはなんとか辟邪の拘束を抜け出そうとする。
「サンポォォ!!コイツを使え!!」
そう言って、無重力空間に腰部から取り外した武器を放り投げる。
「えっ?はい!!ジャスレイさん!!」
サンポはγナノラミネートブレード(トビグチ)を何とか受け取る。
「無駄だ!!伝説のガンダムフレーム様に、そんなおもちゃが効くかよォォ!!」
油断か慢心か、それとも敵艦を沈め続けたことによって、テンションが悪い意味で高くなっていたのかそれはわからない。
そのためか、周囲のユーゴーも殊更に止めようともしなかった。
ガンダムフレームに対抗できるのはガンダムフレームのみ。
その常識が頭から抜けていなかったが故に。
しかし、サンポは迷わずそれを受け取り…フラウロスを切りつけた。
瞬間、空間に赤い稲妻が走ったのだった。
□□□□□□□□
うお〜、コエー!!
イヤ〜な予感がしたから指揮をティアンユに丸投げして、コッソリ辟邪に乗り込んだはいいものの…。
このワイヤー掴んでなかったら今にもバランス崩しそうだっつーの。
クセの無いって評判の機体でこんだけとか、パイロットの皆んなには頭が下がるなぁ…。
実際、ここに来るまで何度デブリにぶつかりそうになったことか…。
「オジサン!!」
ユハナちゃんがこっちに寄ってくる。
そんな焦りなさんなって…。
『夜明け』の連中は…半壊状態のフラウロスを回収して一時撤退かぁ。判断早えぇな。
って、オレはもっと焦れって話だよね!!分かってるよ!!うん!!
ただなぁ…ロイターの野郎の思う壺になるのがどうにも腹に据えかねてなぁ〜…。
「ジャスレイ。そんな小娘は放っておけばよかったろうに」
って、いつの間にやらモビルスーツの通信まで割って入ってくるとか…オレのこと大好きかぁ?あん?にしても、なぁに言ってんですかねコイツは。
「それとも何か?そのガンダムフレームがそんなに惜しかったってのか?」
いやまぁ…それもぶっちゃけゼロでは無いんだけどもさ…。
にしても、何で今回はいつになくこんなに突っかかって来てんですかね。
それとも挑発のつもりとか?
もしくは、ガンダムフレームを割とあっさりやられた腹いせ?
「フン…愚問だろ、ロイター」
「あん?」
「逆だよ。こんな時に、ついこないだちぃっと知り合った程度の小娘ひとり守ってやれねぇで、こんだけの大所帯の大将張ってられるほど、オレぁ落ちぶれちゃあいねぇつもりさ…」
いやまぁ、最低限大人の男としてね?
船はやられたけども、それだって人命には変えられないわけで。
矛盾してるようだけど、オレに今できることってぇとこんくらいしか無いし…。
って言うか、これ後がヤバいんだよなぁ…。
一応味方に分かるように、一定感覚で信号出しながら来たけども、ほぼ無断で突っ込んじゃったからなぁ〜…。
後で幹部たちからのお説教コースだぁ…。
「テメェ…」
「それによ…オレは信じただけだぜ。オレについて来てくれた…いや、今でもついてきてくれてる連中をよ」
ご機嫌取りご機嫌取り…。
まぁ無駄なんだろうけどもねぇ〜。
「オヤジィィ!!」
「兄貴ィィィィ!!」
「ご無事ですかァァァ!!」
って、あれぇ〜?思った以上に突っ込んできてるぅぅ〜!?
「流石だ、ジャスレイ・ドノミコルス…」
「あん?今なんか言ったか?」
オレがそう聞き返そうとすると、もう回線は切られていた。
ともあれ、連中自慢の砲塔は潰してやった…。
コレでだいぶ楽になった…はずだ。
いつものことながら、齟齬があったら申し訳ない…。