親愛なる友へ
決心がついた。
ワタシは自分の理想郷を実現することにする。
キミがなんというかは大体想像がつく。
が、ワタシにこの思想を植え付けたのは、紛れもないキミだという事を忘れないでくれ。
キミがワタシに寄越した本は、今でもワタシにとってのバイブル、経典もイコールだ。
経典にはこう書いてある。
『世界は 怒りと哀しみを産み続ける。
奪い合い 殺し合い。
それで当然と言わんばかりに。
お互いが自身を正当化しようとしている。
誰かを殺していい理由など存在しない。
命を奪う行為は等しく悪だ』
『奪う行為は等しく悪だ。
我々は生まれ落ちたその瞬間から何かを奪い続ける。
食物 関わり合う人々 肉親からですら。
生きる限り屠り 殺し奪い続ける。
「命」とは罪を犯し続けるものの事。
「命」とは「悪そのもの」
私は自覚する私は「悪」だ』(1)
この本はワタシの生き方を変えた。
周りを見てみれば正にこの通りだった。
ワタシがこの残酷な世界に対して抱いていた不信感を、この本は見事に言い表せて見せた。
この本を読んで気づいた事だが、あの一見無害そうな植物でさえそうだ。
カレらは陽の光を受け、大地から養分を吸って、一見自己完結している──誰の命も奪っていない──ように見えるが、光を受ける為に葉を茂らせ、根を伸ばす。他の植物よりも 多くそれらを享受するために。
他人がどうなろうとお構いなし。
誰も彼もが自分一人では生きていけないくせに、手を取り合う気配もない。
「弱肉強食」
ワタシはこの言葉が嫌いだ。
この星の生き物は、他者から何かを奪わないと生きられないようにデザインされている。
ワタシは、こんな残酷なだけの世界にはもう嫌気がさした。
誰かを傷つけ、奪い合うのはもうたくさんだ。
誰かが傷つき、奪われる様を見るのはもう御免だ。
だからこそワタシは自分の理想郷を実現する。
他から生きる為のエネルギーを奪わなくても、自分一人でエネルギーを作って消費して、また作る、自己完結した者達だけで構成された理想郷。
お互い何の干渉もせず、只々純粋にそこに在るだけの生命。影の世界。
昔の哲学者の言葉を借りるなら『自らゼンマイを巻く機械。永久運動の生きた見本』となるのだ。
気に入らなければ止めに来たまえ。
しかし、ワタシは【プテリドピュタ】。「夢」の体現者であればこそ。
願わくば、キミの願いが叶わんことを、ワタシは切に願っているよ。
いざ、さらば。
Julianos Pteridophyta
〈ユリアノス・プテリドピュタの手紙〉より抜粋
(1)石田スイ 2011-2018『東京喰種トーキョーグール』漫画 集英社