【影の徒】が聖女様率いる騎士団に倒されてから、5年が経ち、世界は徐々に回復の兆しを見せていた。
無力な旧世界の権力者に代わって世界教アルトラスの陣頭指揮の元、人口は徐々に増加の兆しを見せ今や世界人口は十億人を突破。生き残った人類の大半は、未だ【影人】に侵されていないオセアニア付近で多数のコロニーを作り、人類は多少の繁栄を見せていた。
これらは一重に、世界教アルトラスのお陰であり、聖女様のお力の賜物である。
前世紀の、救ってくれなかった神など、最早我々には必要ない。
世界教万歳。カーレ・ド・ニア様万歳。
〈敬虔な世界教信者の備忘録〉より抜粋
しかし事件は唐突に起きた。
各コロニーに派遣されていた少年騎士団の騎士「奇跡の子供たち」が、コロニーの住人ごと虐殺される事件が発生。コロニーの住人は只の一人の例外もなく、老若男女、大人も子供も、男も女も、善人も悪人も関係なく皆殺しにされていた。特に奇跡の子供は殊更惨たらしく、ギロチンにかけられ胴体から頭を切り落とされ、残った体は、曝しものにするかのように断頭台に残されていた。住民も同様に首を刈り取られた状態で発見された。そしてそれらの遺体は、村の広場にご丁寧にも家族、親戚、職場の仲間、友人等の、関係者ごとに、腕に色の違う紐が結ばれた状態で、安置されていたのだ。
また奇跡的に残った映像記録から、犯人グループの容姿が発覚。
犯人グループは世界教アルトラスのカソックローブを着こみ、頭にはにカピロテ(目出し穴のついた三角頭巾)を被った三十人前後の集団と目される。リーダー格と 思われる人物は、長身痩躯の白髪を長く伸ばした老人で、カピロテをフードのように背中に垂らし、「パッションフラワー」の描かれたストラを肩からかけている事が分かっている。
聖女カーレ・ドニアはすぐさま、復興の為、各地に派遣された騎士団員に招集命令をかけ、事態への対処を指示。
犯人グループのリーダー格、件の老人を【虐殺神父】と呼称。
騎士団長ナルツ・イース、団長補佐ビリア・ブーゲン、作戦参謀ウィン・ベリーを中心に第二次世界教特別恩寵少年騎士団を設立してこれに対抗。
騎士団結成から二週間。
犯人グループの足取りは依然として知れず、少年騎士団のメンバーはまた一人また一人と殺され、それと同時にコロニーも撃滅されていった。
〈NARRATION#01〉
「速報です。世界教アルトラス少年騎士団「奇跡の子供虐殺事件」調査本部が、何者かの襲撃に遭い「作戦参謀のウィン・ベリー」様が命を落とされていたことがわかりました。
現在、「聖女カーレ・ドニア」様、「騎士団長ナルツ・イース」様、「団長補佐ビリア・ブーゲン」様、三名の安否は分かっておりません。
映像記録から、下手人は先の「奇跡の子供虐殺事件」の犯人グループ虐殺神父と断定。
国連は新たに調査委員会を設立し、全コロニー協力の元、聖女様方と虐殺神父の行方を追っております。
ウィン・ベリー様のご葬儀に関しては、聖女様方の行方が分かりしだい……
ええッ‼ 緊急速報です! たった今入った情報によりますと……」
〈カーレドニア公共放送 二X〇〇年 九月十八日 午前二時四八分〉分放送より抜粋
例えば。
例えば、自分にとって欠け替えない存在が居なくなってしまったとして。
それが事故ではなく、人為的な物だったとしたならば。
ワタシならそいつを殺す。一切の躊躇なく。
しかしワタシは、殺したそいつを欠け替えのない存在と思う奴に殺されてしまうだろう。
そうするとそいつはワタシを欠け替えのない存在と思っている誰かに殺されてしまうだろう。
それが誰かは分からない。両親、兄弟、恋人、友人、仲間。それが誰かは分からない。
人間という生き物は協調性がない癖に群れる生き物だから、一人の個人から伸びる関係性の糸に限りがない。
では、全ての点を消してしまおうと思った。点と点が繋がっているからこそ、残された点が喪失感に襲われるのだ。であるならば全てを失くしてしまえばいい。
誰か一人を殺すのならば、残されて悲しむ人を作るべきではない。殺すなら一族郎党皆殺しに。友人も恋人も仕事仲間も。そしてそれらの家族も殺さなければならない。その家族 も。友人も。友人の家族も。恋人の家族も。関係者は一人残らず皆殺しだ。
でなければ、残されたみんなが可哀そうではないか。
誰かが悲しむのは良くない。
では、はじめから殺さなければいいのでは?
それにその理論で行くと、多かれ少なかれ人間を根絶やしにしなければならないのでは?
でも、カレが人間を減らしてくれたから、だいぶゴールが近くなった。
とはいえ、カレのお陰で悲しむ人が増えたのは事実だ。
なんというマッチポンプ。
悲哀に満ちた人々はあと九億九千七百八十二万五千二百三十五人。
そしてあのお方の大願が成就されるまであと少し。
〈虐殺神父「エドゥリアス・カエルレア」の独り言〉より抜粋