THE STUPID HOAX   作:森岡幸一郎

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【6】犯人の自白

「騎士団殺しの犯人の正体が分かった。至急調査本部に戻ってくれ」

 作戦参謀から、騎士団長に連絡が行ったのは、昨夜の真夜中の話。

 調査本部は、豪州東北部にある群島の一つに建てられた古い洋館を改装した物で、普段は船で行くところを参謀から「最速で戻ってこい」とのお達しだったので、一度旧ブリスベンを経由してから、教団保有の水上機に乗り換えて、二人は本部へと向かった。

 

 重たい扉を開けると、そこには、

「ようこそおかえり。こんな朝早くからご苦労様です」

「オマエはッ‼」

 そこには、玄関ホールの両階段の中央に立つ長身痩躯の、白髪を伸ばしたキャソック姿の老人の姿が。

「お初にお目にかかる。ワタシは、世界教アルトラス特設救済異端審問会筆頭審問官、神父エドゥリアス・カエルレア。どうぞお見知りおきを」

 慇懃に頭を下げる老神父に対し、騎士団長は作戦参謀の安否を問う。

「ああ、カレならここに」

 そういって、ジャラジャラと音を立てて、鎖につながった首枷ギロチンに捕らえられた作戦参謀が姿を現す。メガネのツルが折れ曲がり、かろうじて顔にひっかかっている状態  で、全身に酷い切り傷を負いながら今尚鼻血が床に垂れている。

 それを見て息巻く団長が剣を抜く所作をするや否や、それよりも早く神父は巨大な鉈を取り出し参謀の頭上で振りかぶる。

 あからさまな人質に、文字通り手も足も出ない団長。あまりの急展開に事態についていけずわたわたと混乱する補佐官。

「さあ、奥へ。【現人神】がお待ちです」

 神父が鉈を、階段を上った先、作戦参謀の執務室へと向け移動を促す。成す術もなく指示に従うしかない二人。

 

「キルシウム」の紋様の描かれた扉を開け、中に入ると、

 

「おはよう。待ちかねましたよ」

 

 凄惨な戦いの果て、荒れ果てた執務室の中央、横たわる事務机の奥の大きなプレジデントチェアに座る人物。

 褐色気味の肌に、煌びやかなブロンドの長髪。

 純白の修道服に金飾りを付け、頭には顔の半分以上を覆う「アザミ」を模した黄金の仮面を着けている。

 その仮面の下で微笑を湛える聖女の姿が、そこにはあった。

 虐殺神父が深々頭を下げ厳かに後ろへ下がる。

 

 かくしてボクは語り出す。

 

〈NARRATION#02〉

 

 

 

 

 

 犯人はボクです。全てのね。

 ボクが奇跡の子供たちとその周りにいる人間を殺すように命令させました。

 

「一体どうしてっ? なぜアナタがそんなことを」

 

 長年の目標を達成させる為に。

 プテリドピュタの影もその一環。

 ボクとカレとは共謀(ぐる)だったという訳。

 

「影の思想には賛成できないと言っていたじゃないですか。

 オレもアナタの考えに賛成だった。

 だからアナタの為に世界を救ったのに。どうしてアナタが……」

 

 それはボクがそういう役柄だったから。

 神父ユリアヌスの思想には、ボクも大いに共感するところではあるけれど、ボクはボクの目的を果たすために、カレに対立する必要があったのです。それにカレの理想郷はボクにとっていささか退屈過ぎる。この意見はボクの一側面としてあるのは事実です。

 進化も進歩もないぼんやりとした停滞。

 夕暮れのベンチに座って、日陰の中から流れる雲を見ているような、そんな穏やかな世界。

 心底素敵だが、いささか退屈が過ぎる。そんな世界はつまらない。

 

「実際オレ達はアナタにそういって焚きつけられた」

 

 そうでしたね。懐かしいわ。

 

「・・・・・アナタの目的は一体なんなんだ」

 

 一つは古い友人であるカレの理想郷を確固たるものにすること。

 優れた物語というものにはテーマとなる一つの思想があり、必ずそれに痛烈な批判を与えるもう一つの思想が登場する。

 今回は、ボクがその批判を与える役割を買って出たという訳です。

 しかし、ボクの批判があまりに痛烈だったためか、カレはそのまま敗れ去り、ボクが勝ってしまった。

 

「じゃあ、オレたちは捨て駒だったって事ですか!」

 

 いえ、厳密にはそうではありません。アナタ達が勝っても良かったし、カレが勝っても良かった。

 重要なのはボクの状態です。今やボクはこの世界を支配しているに等しい。あらゆる事柄が思いのまま。

 実に愉快痛快、ですが、ボクのありたい状態とは違う。

 

 ボクという人間はね、ナルツくん、ビリア。ずうっと、昔から死んでしまいたかったのですよ。

 

 先のユリアノス君の件でも、ボクの最大の目的は戦いの中で華々しく戦死することだった。

 いくら死にたいとは言え、ひっそりと誰も知らない場所で、誰にも知られず死ぬのは御免です。なんの面白味もない。だから、ボクは何かしら死ぬための大義名分を欲した。

 その為の「ユリアノス・プテリドピュタ」、その為の「世界教アルトラス」「聖女カーレ・ド・ニア」。

 

「ふざけるなよ! 誰がそんなくだらないことに付き合うってんだ!」

 

 付き合いますよ。なぜなら、アナタたちはボクなのだから。

 

「なッ!?」

 

 アナタたち少年騎士団を含む、世界教アルトラスに名を連ねる人間は皆、ボクのクローンなのです。厳密には「完全な複製」という訳ではありませんが、それでもボクの遺伝子 情報を基盤に、少し多様性を持たせた色違いの様な存在です。

 あの「ユリアノス・プテリドピュタ」も元は教団の人間。

 この神父エドゥリアス・カエルレアもそう。

 アナタだってそうだ、ナルツ・イース。

 この一連の物語に登場する役者は皆が皆、全員がボクなのです。

 一人何役でしょうね。

 

「オレが……オマエのクローン……」

 

 その通り。

 土台、この手の目標を一人で達成するのは無理があるのです。

 実際、アナタの言う通り始めは誰も手伝ってはくれませんでした。

 故にボクは自分で自分を手伝う事にした。ボクならボクが死ぬのを喜んで手伝ってくれる。

 さあ、種明かしをしたところで、次のシナリオに移りましょうか。

 次は前回よりもシンプルな復讐劇です。

 思想や矜持が一切絡まない、只々純粋な、恨み辛みが動機となる復讐劇。

 ユリアノス君のはスケールは大きかったですが少々複雑すぎました。その分役者も多かったし、ボクの手が届かない要素が多すぎです。なにせ世界全体が舞台ですから。役者が 足りません。

 でも次は大丈夫。役者はたったの四人だけ。

 

「……四人?」

 

 悪の親玉とその側近。そしてそれに復讐を誓う主人公とヒロイン。

 ウィン・ベリー。今までご苦労様。ボクもいずれそっちに行きますよ。

 

「La muerte es salvación!!!!」

 

 ──ギロチンにかけられていた作戦参謀の首が、虐殺神父の振り下ろした巨大な鉈で切り落とされる。

 

「ウィン君ッ‼」 ──悲鳴を上げる団長補佐。

「ウィンベリーッ‼」 ──激高する騎士団長。

 

 さあ、これでアナタ達がボクを殺す理由は十分です。

 今頃は残りの騎士団の子たちも舞台を降りてる頃でしょう。でしょ? 神父カエルレア。

 

「は。既に」

 

 実に結構。

 

「カーレドニアァァッッツ‼‼」

 

 ──抜刀する騎士団長。しかし聖女に斬りかかろうとした瞬間、神父がそれを大鉈で制す。

 

 ユリアノス君では無理だった。

 だから、次はキミだ、ナルツくん。

 世界教アルトラス少年騎士団団長ナルツ・イース。

 キミがボクを殺すんだ。

 理由は十分。

 ボクは裏切り者だ。

 キミの仲間を大勢殺した。

 キミの存在を否定した。

 キミはボクを倒さなければ、本当のキミにはなれない。

 さあ、殺しにきたまえ。

 悪役はすぐ目の前だ。

 とはいえ? ここでじゃない。

 ラストステージは別に用意してある。

 世界教の総本山、アイスランドの大聖堂へ。

 そこをボクの墓場にしようと思う。

 では、後程♪

 

〈聖女カーレ・ド・ニアの自白〉より抜粋

 

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