聖闘士星矢~クリスタルエレジー~Final Edition 作:水晶◆
エンディングは永遠ブルー。
エルダの目の前で、黄金の光に焼かれたミトが苦痛の叫びを上げていた。
ミト、と。エルダが思わず伸ばしそうになった腕を、デスマスクが止める。
「な、何を!」
なぜ止めるのかと睨み付ければ、デスマスクは静かに頭を振り、その指先を頭上へと向けるとゆっくりと円を描いた。
その指先につられる様にして、エルダが視線を動かせば、周囲から次々と邪霊が集まって来ていることに気付く。
しかも、それは先程まで周囲に集まっていた邪霊とは明確に異なるモノであった。
「……邪霊の鬼火? いや、違う。まさか―――そんな!? あれは!!」
「アナタにはちょっと酷な話かもしれないけれど。これも勉強よ、知っておきなさい。邪霊に取り込まれた魂がどうなるのかを」
呪怨。
鬼火には、そうとしか表現の出来ない表情を浮かべた――少女たちの顔が浮かび上がっていた。そこにはエルダにも見覚えのある顔が幾つもある。
それは、まるで――
「宙に浮かぶ――
祭壇星座の白銀聖闘士の呟きに、エルダの膝から力が抜ける。
死。
そう、死者だ。
彼女たちは、皆、死んでしまったのだと、理解してしまったから。
途端に、宙に浮かぶ彼女らの目が、自分を見ている様に感じてしまう。
なぜ、アナタは生きているの、と。
――死ね。
なぜ、アナタは聖闘士になったのに私たちを助けてくれなかったの、と。
――死ね。
声なき声が、重圧となってエルダに圧し掛かり、身に纏う聖衣が、まるで鉛の様な重さを感じさせる。
身体の芯から熱が奪われていく様な感覚に、遂にエルダは膝を――
「しゃんとなさいな」
幼子をあやす様に、迷子の子供を導くように。
「――あ」
デスマスクの手によって、ぽん、と叩かれた背中から、まるで陽だまりのような温かさを感じ。
その瞬間、エルダは、ここがどこで、自分が今何をしていたのかを思い出す。
「ッ!」
「感受性の高さは、アテナの側に仕える聖闘少女としては良いんでしょうけど、こういう時は良し悪しよね。
アナタは、気性的にも、どちらかと言えば聖闘士寄りみたいだけれど。だったら、なおさらこういう手合いに弱みを見せちゃ駄目よ?」
「あ、ああ。すまない、もう大丈夫だ」
そう言って立ち上がったエルダは、先程まで感じていた聖衣の重さも、重圧も、熱が奪われるような感覚も、全て消えていたことに気付く。
それを成した黄金の男へと視線を向ける。
黄道十二星座を司る黄金聖衣。その輝きは太陽の光なのだと、エルダはレベッカから聞いたことがあった。
「さて。それじゃあ、綺麗な花に集る害虫の駆除を――始めましょうか」
ならば、先程の暖かさは、この黄金聖闘士によるものだったのか?
聖アカデミーの生徒を、巻き添えを承知で攻撃したこの男の?
あの陽だまりのような温かさを感じさせた男が、あのような非道を行ったのか?
分からない。
あたしには分からない。
「――じゃあ、クーちゃん、後は宜しくね?」
……ホントに分からない。
この、黄金聖闘士のことが分からない。
あ、あの白銀聖闘士がすごい勢いでこっちに来た。
あ、グーで殴った。
黄金聖闘士を殴りつける白銀って……。
「いった~い、もう、何すんのよう!」
「……うるさい黙れ」
何コイツら。
これが、ホントに聖域の聖闘士の――白銀聖闘士と最強たる黄金聖闘士の姿なのか?
やっぱり、今の聖域は駄目だ。
アテナ様と一緒に、
第13話 勝った者が己の意を貫けるという事だ!
「行くぞミスティ! 食らえ――ペガサス流星拳ッ!!」
「……芸がないな、星矢。確かにお前の放つ流星拳、その内数発はこのミスティの防御を突破した。それは事実だ。しかしッ!!」
開手で前に出されたミスティの両手、その旋回速度が増す事で、空気の防御壁の密度がより強固なものとなる!
パァン! と連続して鳴り響く破裂音は、星矢の流星拳のことごとくが弾かれた証明であった。
「くッ、まただ! やはり、見えない空気の膜のような何かが、ヤツの前に存在している!! 流星拳が通じないのはそのせいかッ!?」
「今のわたしに先程までの慢心はない。このミスティが本気で作り上げた防御壁の前では星矢よ、お前の流星拳はもはやただの一発も通すことはあり得ないと知れ!」
沈みゆく夕日に照らされる両者の足元を、満ち始めた波がざあんと押し寄せる。
ミスティを中心として、構えを崩さぬまま星矢が円を描くようにゆっくりと動く。僅かな隙も見逃さない、と。
対するミスティもまた、開いた両手を常に星矢へと向けていた。この防御は決して打ち破れぬ、と。
沈黙を破ったのは星矢だ。
「一つ、気付いたことがある。ミスティ、お前のその鉄壁の防御が最大の効果を発揮するのは、正面からの攻撃に対してのみじゃないのか?
全方位とはいかなくとも、側面までカバーできるのならば、こうもぴったりとオレの動きを注意して軸を合わせる必要はないはずだ。
まさしく盾なんだ、お前のその防御術は。つまり、どうにかしてお前の背後を取る事が出来れば――」
「フッ、そうだとしても――それで、いかなる奇策を用いてこのミスティの背後を取るつもりなのだ?
先にも言ったが、白銀と青銅との差は小賢しい小細工如きで埋められるものでは――」
「……取らないさ」
「……何?」
「背後なんか取らないって言ったんだ。気付いたことを確認したかっただけなんだ。水晶聖闘士は言っていた。オレたちは今、大きな流れの中にいると。
それは悪意をもって、否応なくオレたちを巻き込むのだと。決して逃れる事の出来ない運命にも似たナニかなのだと」
そう言って立ち止まった星矢は、両手を大きく広げると、その手で独特の構え――空に浮かぶペガサスの星座の軌跡を描く。
「だからこそ、立ち向かえ、と。顔を上げて真っすぐに前を向け、とな!! ミスティ! オレはどんな困難が待ち受けようとも止まらないぜ! 目の前の壁なんか打ち砕いて突き進んで見せる!!」
「フフフッ――ハハハハハ! そうか、このミスティが文字通りのお前の壁だと言うのか! 良いだろう、ならばわたしからも一つ教えておいてやろう。
お前はこのミスティの技を盾と表現したが、それは正解でもあり間違いでもある。そう、これは盾でもあり矛でもある攻防一体の戦陣なのだ」
「な、何だ!? ミスティの前の空気が歪んでいる? 二つの巨大な渦のようなものが見える!! これは――」
「知るがいい星矢! お前の壁は遥かに高く、強固なモノだという事を!! これが必殺の――」
「渦が迫るッ!! な、何だこの圧力は!?」
「――マーブルトリパー!!」
「か、身体が動かな――うわぁあああああああああああああ!!」
ミスティの繰り出したマーブルトリパーの渦に飲まれた星矢の身体が宙に舞う!
そのあまりの衝撃に、ムウによって修復され強化されたペガサスの聖衣に亀裂が奔る。
受け身を取ることも許されず、星矢は頭から海中へと叩き落された。
ざんっ、と音を立てて、ミスティの足元に血に濡れたペガサスのマスクが落ちた。
そして、星矢の沈んだ海面が、じわりと赤く染まる。
「……この私に、マーブルトリパーを使わせたことは褒めてやろう。
そう呟き、ミスティは踵を返す。
じくりと、熱を帯び始めた脇腹に、ミスティの口元には知らず笑みが浮かんでいた。
「――そうだ。これこそ、この熱こそが、戦いなのだ」
同格である白銀聖闘士同士での立ち合いでも、ミスティの防御を破れる者はいなかった。
無論、それは訓練であり、お互いが全力を出したうえでの結果ではない。
しかし、聖闘士として完成された白銀聖闘士同士が全力を出して立ち合えばどうなるのか?
その答えは、銀河戦争が示している。
青銅聖闘士同士の戦いであったとはいえ、星矢と紫龍の戦いでは、紫龍は心停止まで行ったのだ。
それが、より強大で、洗練された破壊の力を振う白銀同士であるならば?
双方が無事で済むはずもない。
「水晶聖闘士との戦いを経て、星矢とキグナスは化けた、か。いくらシャイナの言葉であろうと、所詮は成り立ての青銅と思い、半信半疑ではあったが……」
負ける事は無かろうが、他の白銀では手こずるかもしれんな。
だが、その前に、勅命に背いた魔鈴の始末が先か。
水平線に消えようとする夕日に目をやりながら、そう考えていたミスティであったが――
「……あのまま大人しく沈んでおけば見逃してやったものを」
僅かに目を細めると、その足を止めた。
「――死にに来たか、星矢」
そう言ってミスティが振り向けば、肩で息を切らせながらも、その眼には依然として闘志の炎を宿した星矢の姿があった。
「……おかげさんで、海水はたらふく飲ませてもらったよ。お礼に、今度はこっちがたっぷりとごちそうしてやるぜ、ミスティ!」
気勢を吐く星矢に、ミスティはただ静かに問う。
「何故だ? お前は、何故そうまでして戦うのだ? 聖闘士としての掟を破ったお前たちは、聖域からすれば明確な悪よ。依って立つべき正義はないと言うのに」
「お前には分からないだろうなミスティ。城戸光政に訳も分からず集められたオレたちは、生まれも育ちもてんでバラバラ。共通点なんて孤児であるって事だけさ」
百人だ。ウマの合う奴合わない奴、憎たらしい奴もいれば、許せない奴もいた。
「聖闘士になって生きて帰るか、なれずに死ぬか。同じ地獄を見て、生きて帰った十人だ。そんなオレたちだからこそ、どうしたって根っこの部分では繋がっているって――思ってしまうんだよ」
兄弟みたいなモンなんだって、な。理屈じゃないのさ。
両手を大きく広げた星矢は、再びその手で独特の構え――空に浮かぶペガサスの星座の軌跡を描く。
「正義とか悪とか、そんな事は関係ないんだ。お前がアイツらや、オレを助けてくれた 魔鈴さんを粛清すると言うのなら、オレは何度だって立ち上がり、そして――お前を倒す!!」
そう叫んだ星矢の身体から、天翔けるペガサスと化した小宇宙が立ち昇る!
「そうか。ならば、もはや何も言うまい。お前は魔鈴たちを救うために戦う、私は聖闘士として聖域の命に従いお前たちを討つ」
対峙するミスティの身体からも、渦巻く嵐と化した小宇宙が立ち昇る!
――勝った者が己の意を貫けるという事だ!
「――受けろ星矢ッ! この大地すら揺るがす衝撃――マーブルトリパーをッ!!」
「燃えろ……オレの小宇宙よ! 全てを燃やせ!! 今こそ、白銀を超えたその先へ!! ペガサス――」
「無駄だ星矢ッ!! 今の私に流星拳は――な、何ぃ!? これは、流星が、無数の流星が一か所に集まろうとしている!! 流星が束ねられて――これは、彗星!!」
“ペガサス彗星拳”――――ッ!!
「マーブルトリパーが――貫かれる!? これは、この星矢から感じる小宇宙は、青銅を超え白銀すらも……う、うぉおおおお――!?」
それは百に近い流星が、一つに束ねられた彗星の拳!
全てを撃ち貫く、星矢の全てを込めた決死の一撃!!
マーブルトリパーの渦を貫き、蜥蜴座の白銀聖衣が砕け散る。
その拳は空を引き裂き、その蹴りは大地を割った。
ギリシアの市井に伝えられる聖闘士の伝承の如く。
砂浜を、海を割り、光り輝く尾を残して、地上を彗星が通り抜けて行った。
――――――――――――――――――――
一時の休息を過ごす星矢たちと同じく、城戸沙織もまた来るべき戦いの時に備え己の決意を新たにしていた。
そこに、聖域から教皇の使いとして魚座の黄金聖闘士アフロディーテが現れる。
沙織を行かせまいと、アフロディーテに立ち向かう翔子であったが、その隔絶した力の前になす術もなく倒されてしまう。
次回、聖闘士星矢~Saintiaセインティア翔~
「
ご期待ください。
to be continued……?
アフロディーテさんの今後についてのアンケートです。期間は短いですが参考にさせて頂きます。
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聖域に戻る(アフロさん)
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沙織の護衛(デロア・テフィさん)
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沙織の護衛(アフロさん)
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星座カーストに負けるな!