聖闘士星矢~クリスタルエレジー~Final Edition   作:水晶◆

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オープニングはTOUGH BOYからの田中さんのナレーション。
エンディングは黄金魂なノリの聖闘士神話~ソルジャー・ドリーム~。


第16話 青銅聖闘士vs白銀聖闘士

 聖域との決戦に備え、水晶聖闘士よりアンドロメダ島へと向かうように指示されたガイストたち。

 その目的は、黄金聖闘士に匹敵する実力を持つと言われたケフェウス星座の白銀聖闘士ダイダロスの後継者であり、アンドロメダ瞬の兄弟子でもあるアルビオレの協力を得る為であった。

 聖域の不穏な空気を感じ取っていた彼は、教皇の招集や、裏切り者とされる聖闘士への制裁の勅命にも応じることなく、地上の平和を守るアテナの聖闘士として中立の立場を示し事態を静観していたのだ。

 しかし、カリブの幽霊聖闘士として悪名を轟かせていたガイストたちの言葉では、アルビオレを動かす事が出来ない。

 闇に落ちた自分たちを光の下へ引き上げ、アテナの聖闘士としての誇りを与えてくれた水晶聖闘士に報いるためにと、決して諦めないガイストたちの姿に、アルビオレは一つの条件を出す。

 それは、ケフェウス星座の鎖が作り出す攻防一体の戦陣を一人でも突破する事が出来たならば、話を聞こうというものであった。

 アンドロメダのネビュラチェーンにも匹敵するケフェウス星座の鎖。それに挑むという事は、自ら死地へと飛び込む事と同意。

 アルビオレの試しに、ガイストたちは躊躇う事なく踏み込んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 イオニアの手記より

 ・ダイダロスの失踪について

 その誠実さと強さをもって、多くの聖闘士から慕われていたダイダロスであったが、彼は数百年ぶりにアンドロメダ星座の青銅聖衣の資格者が誕生した事を見届けた後に姿を消している。

 この際、自身の纏っていたケフェウス星座の白銀聖衣は、弟子のアルビオレへと継承させていたが、アルビオレはその聖衣を持ってジャミールへと向かっていたとの報告がある。

 聖闘士がジャミールへ向かうなど、その理由は一つしか考えられない。だが、その前後の時期に、少なくともダイダロスやアルビオレが何者かと戦ったという記録は残されていない。

 

 

 

 

 

 海岸線沿いを一人歩く氷河。

 押し寄せる波の音と、サク、サクと砂を踏む音だけが静かに響く。

 

 時計の針の様に、規則正しく、ざあん、ざあん。

 サク、サク、と。

 

 そうして、どれほど進んだのか。振り返ったとしても、遥か後方にある星矢の墓標はもう見えない。

 

「……いつまで、そうしているつもりだ?」

 

 そして、唐突に、氷河の歩み(時計の針)が止まった。

 一つ息を吐いた氷河は、後方へとゆっくり振り返ると、夜の帳の下り始めた虚空を睨み付ける。

 

「出て来んのか? それとも……」

 

 怖気づいたか?

 そう呟いた氷河は、懐から一枚のカードを取り出すと、視線の先へと向けて投擲した。

 

 ――ほう、気付いていたのか。

 

 何もない空中で、投擲されたカードが燃える。

 そして、ぼう、と大きく広がった炎の中から、白銀の鎧を纏った男が現れた。

 

「ミスティの小宇宙を辿って来てみれば、ターゲットと接触するとはな。しかし、青銅(ブロンズ)の分際で、よく気付けたものだ。そこは褒めてやろう。

 しかし、言葉には気を付けろよ小僧――」

 

 音も無く降り立った男の身体から、戦意に満ちた小宇宙が立ち昇る。

 赤く熱量すら感じさせる強大な小宇宙。

 それは、物理的な炎と化して、瞬く間に周囲へと燃え広がり、男と氷河を取り囲む。

 

「――白銀聖闘士が青銅聖闘士を相手に怖気づくなど有り得んこと。むしろ、怖気づくのは貴様の方だ。白鳥星座(キグナス)氷河」

 

「オレを知っているのか。見たところ、白銀聖闘士のようだが……。察するに、聖域からの、いや、教皇からの刺客か」

 

「サントール星座の白銀聖闘士バベル。勅命により、お前たち青銅を始末するためこの地に訪れた白銀聖闘士の一人よ」

 

「……その言い方。聖域からの刺客はお前一人ではないという事か?」

 

蜥蜴座(リザド)白鯨座(ホエール)猟犬座(ハウンド)。このバベル以外に、三人もの白銀(シルバー)が、たかが青銅の小僧どもを制裁するために動いている」

 

 この意味が分かるか?

 そう言ってバベルは続ける。

 

「それだけ、教皇はお怒りだという事だ。お前たちは知らぬことであろうが、世界の平和は今、邪神の残党共によって乱されようとしているのだ。

 事ここに至っては、お前たちのような道理も弁えぬ未熟者に構っている暇などない。そう――」

 

 ――教皇は、速やかなる解決を我らにお命じになられたのだ。

 

 すっと、バベルの指が氷河の左肩へと向けられた。

 その瞬間――

 

「むッ!? これは……火か! オレの肩が燃えている!? この熱さ、幻覚ではない!!」

 

 突如として氷河の左肩が燃え上がる。

 

「何を驚いている。お前は本物の炎を見たことがないのか? このバベルにとって、空気の摩擦により炎を生み出すことなど雑作もない」

 

 バベルの拳が炎に包まれ、氷河に向かって幾つもの炎の塊が放たれた。

 

「うおッ!?」

 

「ドクラテスや炎熱聖闘士たちを退けていい気になっていたのだろうが、やつらは所詮参謀の私兵に過ぎん。真の聖闘士たるオレたちと、その力は比べるべくもない」

 

 両手、両足、腹部へと、氷河の身体に次々と着弾した炎の塊が、その勢いを増して激しく燃え上がる!

 

「せめてもの慈悲だ。言い残すことがあれば聞いてやろう。このバベルの地獄の炎に焼き尽くされる前に、な」

 

「……そうか。ならば、一つだけ聞きたいことがある。お前は、いや、お前たちは、今の教皇が本物の教皇を殺して入れ替わった偽者だと――」

 

 ――聖域に潜む邪悪であると知っているのか?

 

 炎に包まれた氷河からの言葉に、バベルは一瞬呆けたような表情を見せると、次いで怒りに顔を歪ませて――叫んだ。

 

「貴様ッ!! よりにもよって教皇を偽物と、邪悪だと言うのか!? 水晶聖闘士と結託し、その力を己の欲望のために振おうとする悪党の分際でッ!!

 慈悲など与えようとしたオレが愚かだった! 聖闘士の風上にも置けんお前は――この場で塵一つ残さず焼き尽くしてくれるッ!!」

 

 周囲に燃え広がっていた炎が渦を描きながらバベルの元へと集まる。

 

「己の愚かさを悔いる時間すら与えん! 受けろ!! 我が地獄の炎!!」

 

 ――FOTIA ROUFIHTRA(フォーティアルフィフトゥラ)――!!

 

 バベルの怒りに呼応するように、高まる小宇宙が螺旋を描く炎の渦と化して氷河へと迫る!

 獄炎とも呼ぶべき炎が氷河を包み、巨大な火柱となって夜空を赤く染め上げた。

 

「全く不快なッ! だが、とにかく、これで一人片付けた。先行していたミスティたちの動きが分からんが、まあ、いい」

 

 何なら、このままオレが残りの奴らも始末するだけよ。

 そう呟き、踵を返したバベルであったが、ゾクリと、背筋を走った悪寒に振り返る。

 そして、目の前の光景に絶句し、思わず一歩後ずさっていた。

 

「な、ば、馬鹿な!? このバベルの炎が……炎が凍り付くなどとッ!!」

 

 氷河を包み込み、夜空へと向かって立ち昇った炎の柱。

 それが、バベルの目の前で氷の柱と化して起立していたのだ。

 

 ――そうか、お前は、お前たちは教皇を正義であると信じているのだな。

 

 ガシャンと音を立てて砕け散る氷の柱。

 身体に当たる氷の破片に目もくれず、バベルは浮かび上がる人影に対して声を荒げた。

 

「まさか……これを、お前が……。青銅聖闘士のお前がやったというのか――氷河!!」

 

「青銅だの、白銀だの、そんな事は関係ない。ただ、オレの小宇宙が、お前よりも静かに、そして熱く燃え上がっただけの事」

 

 吹き荒れる凍気を身に纏い、傷一つ見当たらない氷河がそこにいた。

 

「そ、それ程の小宇宙がありながら、なぜお前は聖域に、教皇に逆らおうとするのだ? なぜ……正義のために、その力を振おうとしないのだ!?」

 

「正義、か。バベルよ、正直に言えば何をもって正義とするのか、この氷河には答えられん。しかし――」

 

 氷河の左右に伸ばされた両手が、まるで白鳥の羽ばたきの様に振るわれる。

 凍気が舞い、キラキラと光り輝く氷の粒子の中で白鳥が舞う。

 

「――正義とは、決して弱者を虐げる事によって得られるモノではないはずだ!!」

 

 片足立ちとなり、斜めに広げられた両手から、バベルは氷河のその姿に白鳥星座の軌跡を見た。

 

「氷河ッ! お前は聖域を敵に回して、逃げ切れると思っているのか!?」

 

「バベルよ、オレは逃げない! 教皇の真意を知るためにも、小宇宙が燃え続ける限り戦い抜くだけよ!!

 

 ――ダイヤモンドダストーーーーッ!!」

 

「う、うぉおおおおおお――!?」

 

 吹き荒ぶ氷の嵐がバベルの身体を包み込む!

 砂浜が、海が、氷の嵐が通り過ぎた場所が瞬く間に凍り付く!

 

 そうして、嵐が過ぎ去った後には、凍結した砂浜と氷の棺に閉じ込められたバベルの姿があった。

 

 

 

「……バベルよ。その意図が何であれ、お前はこの氷河に対して慈悲を見せた。ならば、こちらもそれを返そう。

 白銀聖闘士のお前であれば、時間を掛ければその氷の棺を内側から砕くことも出来るだろう」

 

 そう言うと、氷河は懐から一枚のカードを取り出すと、それを氷の棺に突き刺した。

 カードに描かれたのはキグナス。

 

「これで、バベルを倒したのがこのキグナスだと、他の白銀聖闘士たちも知るはずだ。奴らの狙いがオレに向くのであればそれで良い。

 だが、先生が言っていたように沙織お嬢さんが狙われた場合は少々厄介な事になりかねんからな。コロッセオの方から感じた小宇宙も気にはなる」

 

 星矢の事は気がかりだが、一度、紫龍たちと合流するか。

 そう考えた氷河は、一度海岸線へとその視線を向けたが、やがて市内へと向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 第16話 正義のために、恐れることなくその道を行くのが聖闘士だ

 

 

 

 

 

 グラードコロッセオの中央に設けられたリングの上で、白銀の輝きとエメラルドグリーンの輝きが幾度となく交差する。

 ユアンと紫龍だ。

 

「俺自身はよ、別に気にもしちゃあいないんだけどなッ! 外野がうるさくて敵わねえんだよ!! オレの盾とドラゴンの盾、どっちの盾が上なんだ、ッてな!!」

 

「くッ、この男。繰り出される攻撃のどれもが――速く、重い!! これが、白銀聖闘士の力……しかしッ!!」

 

 次々と繰り出されるユアンの拳が、蹴りが。

 僅かな隙を見逃さず、流れを断ち切る様に放たれる紫龍の拳が。

 

 幾度となく紫龍の盾に阻まれ、ユアンの盾に阻まれていた。

 

「コイツ、どんだけ器用に捌きやがる! ホントに青銅かよ!? さすがは五老峰の老師の秘蔵っ子ってか!!」

 

盾座(スキュータム)の盾、聞きしに勝る恐るべき盾だ! この最強の矛たるドラゴンの右拳をもってしても傷一つ付けられないとは!!」

 

「ハン、こちとら年季が違うんだよ年季が! って、うおっ!? あっぶねェ!」

 

「はぁああああッ――!!」

 

 原子を砕く究極の闘法を身に着けた聖闘士。その攻撃はただの拳打であっても一撃必殺の威力を誇る。

 この二人の戦いの様に、お互いが何度も拳を交わし合うことなど非常にまれな事である。

 それが成されているのは、お互いの聖衣の特徴でもある堅牢強固な盾と、両者の非常に高い技量が良くも悪くも噛み合ってしまった事にあった。

 

 

 

「ユアンめ、与えられた任務を忘れて何をやっているのだ」

 

 二人の戦いを、リングより僅かに離れた所から苦々しい表情で見ているのがゲオルクである。

 

「しかし、ドラゴンの動き、あれは放送で見たペガサスとの戦いに比べて、遥かに洗練され強くなっている」

 

 まるで別人のようだ。

 そう言ってゲオルクは、その視線を自身の背後から油断なく見据える瞬へと向けた。

 

「男子三日会わざれば刮目して見よ、と言ったか? 君も、な。試合で見せた姿は本気ではないと思っていたが、実際にこうして顔を合わせる事で分かる事もあるものだ」

 

 ゲオルクの足元では、瞬の右手から伸びた鎖――アンドロメダの星雲鎖(ネビュラチェーン)、その攻撃を司る角鎖(スクエアチェーン)が、複雑な文様を描きながらその動きを封じるべく結界を作り上げていたのだ。

 

「……動かないで下さい。この鎖はぼくの意思に関係なく、あなたの敵意に反応して攻撃を開始します。

 いかに白銀聖闘士とはいえ、このネビュラチェーンの威力の前では無事には済みませんよ」

 

「……ふむ」

 

 瞬の言葉にゲオルクは一つ頷くと、おもむろにその右手を、地面を這うネビュラチェーンへと向けた。

 

「な、何を!? いけない、鎖に触れては! この鎖には防御本能があるんです!! 敵が触れれば何万ボルトにも値する衝撃を――」

 

 瞬の制止を無視するように、ゲオルクがネビュラチェーンを掴んだ。

 バチィッ、と乾いた音が鳴り響き、空気の焦げた臭いが周囲に広がる。

 

 しかし、ゲオルクの表情には驚いた様子もなければ、苦痛に顔を歪めるといった事もなく、変化を見せない。

 

「なかなかの威力ではあるが……この程度か」

 

 そう言って、鎖を掴み上げて見せるゲオルクの拳が、バチバチと音を立てて帯電していた。

 その現象が、鎖によるものではない事を瞬は理解する。

 

「――それは!?」

 

「見ての通り、私は雷撃を操る。君の自慢の鎖の防御本能とやらも、私には通じないようだな」

 

 驚愕する瞬であったが、その動揺を受けた鎖が、瞬の意思を越えて過敏に反応してしまう。

 

「ッ!? 駄目だ! 今すぐ鎖を離して下さい! 角鎖が――攻撃を開始する!!」

 

 ザンッ、と音を立てて、ゲオルクの足元の鎖が大きく、激しく波打った。

 それは、まるで火山の噴火の様な勢いをもって、ゲオルクに襲い掛かる。

 

 ガガガガガッ、と絶え間なく鳴り続ける打撃音。それは、鎖がゲオルクの身体を、聖衣を打ち付ける音。

 これにはさすがにダメージを受けたのか、聖衣に覆われていないゲオルクの生身の部分にいくつもの傷が刻まれる。

 

「無事では済まない、君はそう言ったなアンドロメダ」

 

 だが、並の相手であれば昏倒する一撃を何度も受けても、ゲオルクは怯まない。

 

「聖闘士に対してその問い掛けに意味はない。例え傷付くと分かっていても――」

 

 ネビュラチェーンの作り上げた結界の中を、一歩、一歩と、踏み締めるように、確実に瞬へと近付いて行く。

 

「――正義のために、恐れることなくその道を行くのが聖闘士だ」

 

 

 

 ―――

 ―――――…

 

 紫龍と瞬の登場により、奇しくも三対三となったグラードコロッセオでの戦い。

 それは、間を置かずに紫龍とユアン、瞬とゲオルク、そしてマユラとカティアという形で分けられていた。

 

「あの青銅聖闘士たちがここに来たのは想定外であったが、この状況になったことは必ずしも悪い事ばかりではない、と思いたいな」

 

 そう独り言ちたマユラは、傷付き倒れたカティアの喉元を掴むと、そのまま片手で宙に吊り上げる。

 紫龍たちがある程度拮抗した戦いを見せているのに対して、マユラとカティアの戦いは、もはや戦いとは呼べぬ程に一方的であった。

 

「――ッ、カハッ……!」

 

「さて、このまま縊り殺してやっても良いが、何も知らずにお前を守ろうとしたあの二人の白銀聖闘士に免じて聞いてやる」

 

 何か言い残すことはあるか?

 ギリと、マユラがカティアの喉元を掴む手に力を籠めた。

 それは、メッセージであった。

 嘘偽りなく、お前の知る事を全て話せ、と。

 

「……う……」

 

「奴らはそれぞれの相手をするのに精一杯だ。こちらへと意識を向ける余裕はあるまい。……今なら、わたしの他に誰も聞かぬ」

 

 そう静かに呟かれたマユラの言葉には、これまでの苛烈さの一切がなりを潜めていた。

 

「わた、しには……」

 

 そうして、カティアが口を開く。

 語られたのは――

 

「……なに、も……言うことなど、ない。……殺せ、もう、終わりだ」

 

 ――アテナ……教皇の、手に……。

 

 拒絶と、諦観であった。

 

「……カティア、お前は――」

 

 その先をマユラが告げようとした、その時であった。

 マユラの感覚が、強力な光を放つ星がアテナに近付く事を予見したのは。

 

「強力な星がアテナに近付いている!? これは、山の結界が破られたのか――!」

 

 

 

 これが、魚座の黄金聖闘士アフロディーテが翔子を倒し、沙織を聖域へと連れ去った時の出来事であった。

 

 

 

 ――――――――

 ―――――

 ――…

 

 目覚めた沙織の目に、戦女神が彫られた巨大なレリーフが映る。

 

「……ここは?」

 

 薄暗い、神殿の中、なのだろうか。

 沙織は、背中に感じる冷やりとした感触に、自分が祭壇のような場所に寝かされていたことに気付く。

 未だ霞がかった思考の中で、自分の名を呼ぶ翔子の声と、アフロディーテと名乗った聞き慣れない男性の声を思い出す。

 気付けば、ドレスの胸元に一輪の真紅の薔薇が添えられていた。

 

「皆は――」

 

 無事なのだろうか。

 そう声に出そうとした沙織であったが、薄暗い闇の中に自分以外の気配、息遣いを感じ取る。

 傍に置かれていた黄金の杖を手に取ると「そこにいるのは誰ですか」と闇に向かって問い掛けた。

 

「……お待ちしておりました」

 

 闇の中に、落ち着いた男の声が響いた。

 青みがかった長い髪の男であった。

 高位の神官と思われる装飾の入った法衣と、ロザリオを身に着けた男は、暗闇の中で両膝を突き、沙織に向かって頭を下げている。

 

「……あなたは?」

 

「恐れ多くも、あなたに代わって……この十三年間、全てを欺きながら、教皇としてこの聖域をおさめておりました……」

 

 そう言って、顔を上げた男の右目からは、一筋の涙が流れ落ちていた。

 年の頃は二十代後半と言ったところであろうか。

 しかし、眉間に刻まれた深い皴と、全てに疲れ果てたような、まるで老人の様な覇気の無さが、もっと年を経ている様にも感じさせる。

 

「あなたが……教皇?」

 

 沙織の口から出たのは疑問の声であった。

 星矢たちから聞かされた教皇の悪行と、辰巳より聞かされていた祖父城戸光政の言葉にあった邪悪なる存在。

 それが、自分の目の前で膝を突き、涙を流している男による所業である等と、到底信じる事が出来なかったからだ。

 エリスとの戦いによる後遺症によって、神としての小宇宙を自在に扱えない状態ではあるが、それでも人を見る目、相手の小宇宙を感じ取る力まで失くしたわけではない。

 

「アテナよ。この時を、ずっと待ち望んでおりました。あなたが、わたしの前に現れる日を……」

 

「十三年前、あなたはわたしを殺そうとしたと聞いています。わたしを殺すことが、あなたの目的ではないのですか?」

 

「いいえ。わたしの願いは十三年前より変わっていません。わたしはあなたに、この聖域にはびこる邪悪を討ち払ってもらいたいのです。アテナよ――」

 

 ――今ここで、このわたしをお討ち下さい。

 

 

 

 ―――

 ―――――…

 

 アテナ神殿。

 そこは、聖域の最奥に位置し、黄金聖闘士が守護する十二の宮を抜け、教皇の間を抜けた先にある。

 アテナの、教皇の許しがなければ、例え黄金聖闘士であろうとも、みだりにその足を踏み入れる事さえ許されぬ場所。

 

 その入り口に、十二宮最後の宮――双魚宮の番人たる魚座の黄金聖闘士アフロディーテの姿があった。

 彼は、柱に背を持たれ掛けさせながら、手にした純白の薔薇を、指先でくるり、くるりと回している。

 

「……さて、我らがアテナはどのような正義を示すのか」

 

 そこに奇妙な点があるとするならば、くるり、くるり、と薔薇が回るたびに、その色が白から黒へ、黒から白へと変化している事か。

 

「この世に戦いがある以上、何者にも負けない力を持つ者こそが正義を成す事が出来る。何者をも倒せない者は、何者をも守れない。

 地上を守るべき聖闘士が、弱者であってはならない」

 

 白から黒へ、黒から白へ。

 

「アテナよ、あなたがただの感傷的な少女であるのならば、このアフロディーテの忠誠があなたに向くことはない。そして――」

 

 アフロディーテが手にした薔薇を、まるで夜空に浮かぶ月に捧げる様に放り投げた。

 

「それは、あなたに対しても言えることだ。あなたの正義を見極めさせてもらうぞ――」

 

 舞い散った白と黒の花弁が、さあっと、夜空に広がり、風に吹かれていずこかへと流れていく。

 

 

 

 ――サガよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アテナ神殿で目覚めた沙織お嬢さんの前に現れたのは、俺たちが倒すべき真の敵である教皇だった。

 自らを邪悪と呼び、アテナによる裁きを、自らの死を願う教皇。

 これは一体どういう事なんだ?

 

 戸惑う沙織お嬢さんを前に、時間がないと叫ぶ教皇。

 すると、教皇の髪が灰色に代わり、その瞳が赤く輝いた。

 そして、変貌した教皇は手にした黄金の短剣を振りかざし、沙織お嬢さん目掛けて振り下ろそうとする。

 

 沙織お嬢さんが危ない!

 誰か、教皇を止めてくれ!!

 

 

 

 次回、聖闘士星矢

 

「アテナ神殿の死闘! 教皇対アフロディーテ」

 

 君は、小宇宙を感じた事があるか。

 

 

 

 

 

 to be continued……?




主役(星矢)と主役(翔子)と主役?(中の人)の影が薄くなるのは星矢のお約束。
アフロさんは、セインティア成分増量です。

星座カーストを許すな!

アフロディーテさんの今後についてのアンケートです。期間は短いですが参考にさせて頂きます。

  • 聖域に戻る(アフロさん)
  • 沙織の護衛(デロア・テフィさん)
  • 沙織の護衛(アフロさん)
  • 星座カーストに負けるな!
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