聖闘士星矢~クリスタルエレジー~Final Edition   作:水晶◆

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オープニングはペガサスファンタジー。
エンディングは争い死にゆく者たちに祝福を。



サバイバルウォーズ編~暗黒の章・争い死にゆく者たちに祝福を~
第20話 前編 少しアタシとお話しましょうか


「ほざけ! 暗黒聖闘士ごときに、我ら白銀聖闘士が遅れなど取るものかッ!!」

 

「お前たち二人の相手は、オレとモーゼスで十分よ」

 

「そうか、ならば――」

 

 暗黒ペガサスが一歩踏み出し、その拳をモーゼスに向ける。

 

「その判断が誤りであったと後悔しながら――」

 

 暗黒アンドロメダが、その手の黒い鎖をアステリオンへと向ける。

 

「「――ここで死ぬがいい!」」

 

 

 

 ――――――――

 ―――――

 ――…

 

 暗黒ペガサスの両手が、空に浮かぶペガサスの星座の軌跡を描く。

 

「モーゼス! 奴は星矢と同じ流星拳を使うぞ!!」

 

 来るか、と身構えるモーゼスの耳が、アステリオンの忠告を捉えた。

 ならばと、モーゼスは迎撃するべく腰を落としスタンスを広げる。

 そのモーゼスの動きに、暗黒ペガサスがニヤリと笑みを浮かべたことと、星矢が叫んだのは同時であった。

 

「――避けろモーゼス! 暗黒ペガサスの攻撃は食らってはいけないんだ!!」

 

「――何だと!?」

 

「遅い――ッ! 黒死拳の恐怖を、その身で存分に味わうがいい!! 暗黒流星拳――ッ!!」

 

 ある程度のダメージは織り込み済みでのカウンター。

 それを狙っていたモーゼスであったが――

 

「これはッ!? 黒い流星が――迫るッ!! は、速いッ!? ええぇいぃッ!!」

 

 彼が選んだ行動は――回避であった。

 腰を落としていたことが功を奏したのか、身体を投げ出すように左前方へと転身することに成功し、右拳を突き出した暗黒ペガサスの側面を捉える。

 

「もらったぞッ! カイトススパウティングボンバー!!」

 

 そして、即座に暗黒ペガサスの腕を掴み取り、必殺の投げ技によって天高くに放り投げる!

 あとは、無防備に墜ちてくる相手に必殺の一撃を打ち込むのみ。

 アステリオンが、ミスティがモーゼスの勝利を確信する中で、再び星矢が叫んだ――逃げろモーゼス、と。

 

「……フッ、さすがは白銀。あのタイミングで良くぞ躱した、と褒めてやりたいところだが――」

 

 何を言うのかと。アステリオンたちが浮かべた疑問に返答したのは、空中でその身を翻した暗黒ペガサスである。

 

「な、何いッ!?」

 

「馬鹿なッ!! あの技を受けて態勢を整えられる訳が!?」

 

 星矢には見えていたのだ。

 モーゼスが躱したと思われた黒い流星、そのうちの幾つかがモーゼスを貫いていた事を。

 

「――黒死拳の恐怖は既に、お前の身体に刻み込まれているのだ!」

 

 暗黒ペガサスのその宣言と同時であった。

 カイトススパウティングボンバーの体勢のまま、両手を天へと伸ばしていたモーゼスに異変が起こったのは!

 

「熱が……あ、熱い!? か、身体が……うごか、ん!! な、なんだ、こ――」

 

 ビキィッ、という甲高い音と共にモーゼスの右半身を覆う聖衣に亀裂が入り、瞬く間に砕け散る。

 そして、露わになった素肌にはどす黒い斑点が幾つも浮かび上がり、全身へと広がろうとしているのだ。

 

「ぐぅっうぅおおおおおおおおお――!!」

 

「さあ、これで終わりだ!」

 

 空中から急降下する形となった暗黒ペガサスが、動きを止めたモーゼスに迫る!

 

「暗黒飛翔脚――ッ!!」

 

 空中から、モーゼスを踏みつけるように繰り出される連続蹴り!

 それは、まるで削り取るようにモーゼスの身体を打ちのめし、止めとして放たれた杭打機のような一撃によって、砂浜深くにその身を沈み込ませた。

 

 

 

 

 

 第20話

 

 

 

 

 

「モーゼス!!」

 

 砂浜へと沈むモーゼス。その光景に、アステリオンは普段の冷静さをかなぐり捨てて走る。

 

「おっと、この暗黒アンドロメダを差し置いてどこへ行く気だ?」

 

「退けっ!!」

 

 邪魔者を排除するため、アステリオンはサトリの法を用いて暗黒アンドロメダの心を読む。

 繰り出される鎖による攻撃は囮。

 本命は、鎖を掻い潜り、飛び出してきたところへの拳打である、と。

 

「退けと言われて退く奴がいるのか? さあ……受けてみろ、この暗黒のネビュラチェーンを!」

 

 一本のはずの鎖が、暗黒アンドロメダの手元から放たれた瞬間に何匹もの黒い蛇の姿と化し、その牙を剥き出しにしてアステリオンへと襲い掛かる!

 

暗黒流牙星雲(ブラックファングネビュラ)――ッ!!」

 

(――来たかッ!)

 

 扇形に広がる攻撃範囲を認識したアステリオンは、あえて前進することを選択した。

 

 アステリオンの脳裏に浮かぶ暗黒アンドロメダが、放った鎖を引き戻そうとする。間に合わないと悟ったのか、後方へと下がろうとする。

 アステリオンの視界に映る暗黒アンドロメダが、放った鎖を引き戻そうとする。間に合わないと悟ったのか、後方へと下がろうとする。

 

 読心による相手の行動の把握と、それに対応できる己の速度に対する自信がそうさせた。

 結果として、アステリオンは暗黒ネビュラチェーンがその効果範囲を最大とする前に接敵することに成功し――

 

「この距離ならば、逃さんッ!」

 

 ――脳裏に浮かぶ暗黒アンドロメダと、視界に映る暗黒アンドロメダの姿が完全に重なり合ったその瞬間に、アステリオンは必殺の一撃を繰り出した。

 

 無数に分かたれたアステリオンの幻影が宙に浮かび、暗黒アンドロメダを取り囲む!

 

「一気に仕留めるッ!! ミリオンゴーストアタ――ック!!」

 

 迫りくる無数のアステリオンが繰り出す必殺の蹴撃が、暗黒アンドロメダに襲い掛かる!

 

 勝利を確信するアステリオンだったが、脳裏に浮かぶ暗黒アンドロメダと、視界に映る暗黒アンドロメダが――笑っていた。

 

猟犬星座(ハウンド)のサトリの法。確かに恐ろしい術ではあるが……心が読まれていると分かっていれば、幾らでも打つ手はある。特に――」

 

――この暗黒アンドロメダならば、な。

 

 不敵な笑みを浮かべた暗黒アンドロメダ。その意識に浮かぶのは勝利の二文字。

 

 いったい何を――と。

 だが、アステリオンの思考はそこで途切れる。

 

 砂塵を巻き上げて飛び出してきた暗黒の鎖に打ち据えられて。

 

 それは、まるで突如噴出した間欠泉の如く。宙に浮かぶ無数のアステリオンを呑み込み、全て吹き飛ばしたのだ!

 

地獄の間欠泉(ゲイザーオブヘル)と名付けた。この暗黒の鎖は、オレにも抑えきれぬほど気性が荒くてな。

 オレが何もせずとも、敵と見れば勝手に動き、その血肉を食らおうとするのだ」

 

 ザン、と。

 空高く打ち上げられたアステリオンが、鮮血を撒き散らして砂浜に墜ちる。

 

「この暗黒アンドロメダの心は読めても、この鎖の意思までは読めなかったようだな」

 

 

 

 倒れ伏した二人の白銀聖闘士。

 それを見下ろす二人の暗黒聖闘士。

 

 目の前で起こされた信じ難い結果に、星矢とミスティはしばし言葉を失っていた。

 お互いに大きなダメージを抱えていた状態であったとはいえ、自分たちを敗北寸前にまで追い込んだ相手が、こうもあっさりと、と。

 なまじ、一度は拳を交えた経験がある分、星矢の受けた衝撃はミスティ以上であった。

 

「強い……あの時よりも!!」

 

 そもそも、死んだはずの人間がなぜ生き返っているのか、その強さはいったいどういう事なのか、何の目的が――。

 いくら聖闘士となったとはいえ、その常識や価値観は年相応の星矢である。混乱の極致にあったと言っていい。

 

「……さて」

 

 そう呟き、暗黒ペガサスが、それにつられるように暗黒アンドロメダも星矢たちへと視線を向けた。

 

「クッ……」

 

「……やるか……」

 

 白銀聖闘士二人が倒され、残るは自分たち。

 次はオレたちかと、身構えようとする星矢とミスティであったが……。

 

「……フン。死に損ないなど、いつまでも相手にしていられるか」

 

「その命、暫く預けておいてやる」

 

 暗黒アンドロメダが不機嫌そうに鼻を鳴らし、星矢たちに背を向けた。

 そして、暗黒ペガサスと共にこの場から立ち去ろうと歩き始める。

 

「お、おい!」

 

 その様子に、戦うんじゃないのかと、思わず星矢が制止の声を上げてしまう。

 

「……先に行くぞ?」

 

「ああ」

 

 足を止めたのは暗黒ペガサス。

 暗黒アンドロメダは、ちらと星矢たちを一瞥すると、興味がないとばかりに一人立ち去って行った。

 

「……何の用だ、星矢(ペガサス)

 

「あ、ああ……」

 

 この場に残った暗黒ペガサスからそう言われたものの、まさか本当に立ち止まるとは思っていなかった星矢は、咄嗟のことで言葉に詰まる。

 その姿に何かを察した、という訳でもなかろうが、暗黒ペガサスは一度目を閉じると「一つ」と指を立てた。

 

「……知らぬ仲でもない。一つだけ、お前の質問に答えてやろう」

 

「……星矢」

 

 ミスティが星矢に小さく声を掛けた。

 ああ、と頷きを返して星矢は考える。

 当初は復讐に来たのかとも思ったが、そうであればこの場で決着をつけているはず。

 質問に答えると言ったが、正直、聞きたいことが多すぎて何を聞けばいいのかが分からない。

 

 だから、星矢は深く考えることを止め、今一番気になることを尋ねることにした。

 

「……一輝は、お前たちのことを知っているのか?」

 

「……」

 

 その星矢の質問は、想定すらしていなかったのだろう。

 暗黒ペガサスは一瞬、大きく目を見開くと、「やはり、お前たちと……」と、何かを呟きかけ――。

 星矢に背を向けると、こう言った。

 

「せっかく拾った命だ。死にたくなければ……オレたちの邪魔はするな」

 

 

 

 ――あら、それじゃあ質問に答えた事にはならないんじゃない?

 

「――ッ!?」

 

 海岸に静かに響く男の声に、この場から立ち去ろうとしていた暗黒ペガサスの足が止まる。

 背後から感じる圧倒的なまでの存在感は、まるで己が巨象を前にした蟻であると錯覚してしまうほど。

 その場から跳躍し、空中で反転。

 即座に身構え、己の背後に現れたであろう存在を見た。

 

「ふぅん、良い反応ね。でも、声を掛けただけでソレって、けっこうヒドくない?」

 

 首周りの大きく開いたシャツとデニムパンツ、そして薄手のストールを肩から流し。

 その顔にはうっすらと化粧が施され、濃い目のアイシャドウが、やや垂れ目がちな目を強調している。

 口元のローズカラーのリップが知的で柔らかな印象を与える、どこか妖艶な雰囲気を持った――男だった。

 

「……貴様、何者だ?」

 

「あら、それ聞いちゃう? そうね、デス……デスクィーンなんてどう?」

 

 らしいでしょう?

 そう言って男――デスマスクが、暗黒ペガサスに笑みを向けた。

 その両手に、意識を失った星矢とミスティを抱えながら。

 

「安心なさいな。この子達ってば、随分と無茶をしたみたいだから、ちょっと休ませただけよ」

 

 聞かれたくない話もあるでしょうから。

 星矢とミスティを砂浜に寝かせて、デスマスクが続ける。

 

「暗黒聖闘士の噂は聞いているわ。その外道っぷりもね。フェニックスが纏めて少しはマシになったとは聞いたけど。

 フェニックスが居なくなって、また箍が外れだしたのかしらね?

 だとすると、あなたの行動原理がイマイチ分からないのよ。

 あの二人の白銀が死んでいない事もそうだし、この二人も見逃そうとしたでしょう?」

 

 ねえ、と。

 首を傾げながら、暗黒ペガサスに問いかけるデスマスク。

 口調こそ気安く穏やかであったが、その視線は鋭く、一切の虚偽を許さないという凄みがあった。

 

「……貴様も、聖闘士なのか?」

 

 意図的に向けた圧にも屈することのない暗黒ペガサスの姿に、デスマスクの笑みが深みを増した。

 

「少しアタシとお話しましょうか」

 

 

 

 雨が振りだす前に、ね。

 

 

 

 

 

 to be continued

 




前編のため、次回予告はなし。
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