聖闘士星矢~クリスタルエレジー~Final Edition 作:水晶◆
いつものテーマから田中さんのナレーション。
エンディングは争い死にゆく者たちに祝福を。
次回予告は古谷さん。
この世に邪悪がはびこる時、必ずや現れるという希望の闘士――聖闘士。
星矢たちはそれぞれが持ち寄った情報により、世界各地で起こる謎の異変や、黄金聖衣を狙う敵が聖域を支配する新教皇アーレスである事を知る。
一方、聖域ではギガース失脚の後に新参謀となったパエトンが、星矢たちの抹殺のために白銀聖闘士たちを送り込んだ。
地上の愛と平和を守るべき聖闘士同士の戦いは、発端の地となったグラードコロッセオにて新たな展開を迎えようとしていた。
参謀長ギガースという人物について問われれば、多くの者がこう答えるだろう。
虎の威を借りた狐、教皇の腰巾着である、と。
少なくとも、好意的な回答を行う者は少ないと言える。
それでも、幼少時に拾われて彼に育てられた炎熱聖闘士のように、聖域内にはギガース自身を慕い、多少なりとも恩義を感じている者がいることからも、その本質は決して悪ではなかったことが窺える。
元々、彼は聖域における文官的な立場の――その中でもいわゆる裏方的な役割を与えられた人物であり、決して表舞台に立つような人物でもなかった。
今より数十年以上も昔のことであるが、若き頃の彼もまた、地上の愛と平和を守るアテナの聖闘士となるべく修行に励み、聖闘士として戦うことを夢見ていたのだ。
日常的に死を間近に感じられる修練の果てに、彼は己の中の小宇宙に目覚めた。これで、自分も聖闘士として――そう希望に満ちた彼の想いは打ち砕かれる。
彼は、目覚めた小宇宙を戦闘に用いる事が出来る程には高める事が出来なかったのだ。
いわゆる雑兵と呼ばれる者たち以上の力がありながら、しかし聖闘士として認められるには及ばない。
自分は雑兵たちとは違うのだという自負心と、しかし、夢見た聖闘士には届かない、なれないという現実に、ギガースの心は徐々に摩耗していくこととなる。
見かねた教皇やイオニアによって、戦いの矢面に立つことだけが全てではないと諭されたことで、失意の中にあった彼は、自分でも地上の平和のために出来る事があるはずだと裏方に回ることを決意した。
その心の内に、己も気付かぬ澱みを抱えたまま。
そんな彼に転機が訪れたのは、聖域の体制が新教皇アーレスによって一新され、新たな役職として設けられた参謀長を与えられた時であった。
日々の仕事に疲れを感じる程に老いた身では、近頃は現場よりも後進の指導に回ることも多くなっている。
そんなギガースにとって、新教皇から与えられた権限は彼が戸惑う程に大きなもので「なぜ自分にこの様な役割を」と問い掛けても、新教皇アーレスは「期待している」と告げるだけで、ギガースが望む答えを返すことはなかった。
身の丈に合わぬ期待と、与えられた大き過ぎる権限に悩んだギガースであったが、ある日、その耳に囁く声に気付く。
――これで、お前は教皇に次いで実質的に聖域の支配者になったも同然ではないのか、と。
――お前の言葉一つで、聖域の聖闘士が望むがままに動くのだぞ、と。
その声が何であったのか。幻聴であったのか、誰かから囁かれたのか、それとも内なる自分の声か。
今となっては、それはギガース本人にも分からない。
はっきりとしている事は、その日から聖域の表舞台に参謀長ギガースという存在が現れたことである。
第21話 我らと共に、地上に新たなる秩序を築こうではありませんか
それは、瞬たちがグラードコロッセオに突如として現れた謎の勢力と対峙し、それを率いていると思われるギガース参謀長が己の目的を語り始めた時の事であった。
物理的な現象として、何かが起こったわけではなく。
ただ、聖闘士としての感覚が、何もない空中に眩いばかりの光と衝撃を捉えたのだ。
巨大な小宇宙の爆発。
そうとしか形容のできない何かが起こり、瞬が己の感覚を取り戻した時には、コロッセオの観客席に見慣れない男と沙織の姿があったのだ。
男は着崩したジャケットとジーンズというラフな格好であり、少なくとも財団が沙織に付けたSPには見えない。
そして、サングラスに隠されたその視線が何を捉えているのかを窺い知ることもできない。
鎖からは警戒の意思こそ感じるが、明確な敵意を感じてはいない。あるのは戸惑い、か。
ただ、どことなく氷河に近い、それよりも数段研ぎ澄まされた、いうなれば氷の刃と称するような冷たさと鋭さを瞬は感じ取っていた。
「――貴方は、まさか!?」
紫龍の口ぶりから、謎の男に心当たりがある事が分かり、少なくとも敵ではなさそうだと判断した瞬は、男の側に立つ沙織へと呼び掛ける。
「沙織お嬢さん! 無事だったんですね!!」
コクリと、頷いて見せた沙織の姿に瞬は安堵する。
先程、マユラと呼ばれた女性聖闘士が城戸沙織こそがアテナであると言っていたが、少なくとも瞬からすれば、事の真偽はともかく、一介の少女に過ぎない沙織が守るべき対象である事に変わりはない。
変わりはないのだが――
「え?」
最初は気のせいかとも思っていた瞬であったが、沙織からこれまで感じる事の無かった感覚――小宇宙を感じ取り、思わず声が漏れてしまう。
それは、強さと、何よりも慈悲に満ちた、これまで瞬が戦い中では感じた事の無い、安らぎを感じる小宇宙であった。
「これは……。アテナ、小宇宙が……」
マユラの呟きに、瞬ははっとして、側にいた二人の白銀聖闘士を見た。
「……オイオイオイ、マジかよこいつぁ!?」
「……小宇宙の大小で語るならば、大したモノではない。だが、このような慈愛に満ちた小宇宙の持ち主など聞いたことがない」
頭を抱えたユアンと、どこか呆然とした様子で沙織に視線を向けているゲオルク。
紫龍も同じように困惑した様子を見せていることに気付く。
(まさか、本当に沙織お嬢さんが、ボクたち聖闘士が守るべきアテナなのか?)
内心に浮かぶ疑問に対する回答を求めるように、視線を沙織へと向けようとして、瞬はアンドロメダの鎖が激しい敵意を感知して防御態勢に入ろうしていることに気付く。
「な、何者だ貴様はッ!! それに、お前は――城戸沙織!!」
敵意の発生源は――ギガース。
「……確か、
「ほう」
矢座の魔矢が興味深そうに。
「フン……」
盾座のヤンが、不満げに。
「ククッ」
「……フッ」
「フム、この時代で我らのことを知る者がいるとはな。いささか驚いたぞ?」
オリオン星座のジャガーが感心した様子で。
自分たちの素性を言い当てた男に、暗黒の鎧に身を包んだ戦士たちがそれぞれの反応を返しながら、明確な敵意を向けていた。
彼らも感じているのだろう。
今、この場における絶対的な主導権を、誰が握っているのかを。
「そして、暗黒スワンに暗黒ドラゴンか。お前たち暗黒四天王も、そこにいる奴らと同じく既に死んだはずの人間であったと記憶しているが?」
「「……」」
「だんまり、か。ならば、聞ける者から話を聞こう……」
――なあ、ギガース参謀長?
男の口調は、決して乱暴なものでもなければ高圧的なものではない。
しかし、彼が言葉を発するたびに、周囲の気温が加速度的に下がっていくように感じられ、瞬は過剰とも言える鎖の防衛反応を抑えるのに必死にならなければならない程。
であれば、彼に意識を向けられている相手はどれほどのプレッシャーの中にあるのか。
「……そ、その声は!? ま、まさか……貴様……水晶聖闘士かッ!!」
震える身体、手にした杖を両手で握りしめながら、ギガースが問う。
それは、もはや絶叫に近い。
「私のことなど、この際どうでもいい! 今重要な事は、お前が死んだはずの者たちを従えていることと、その身に纏わり憑かせた闇の気配よ!」
男はそれに構わず、沙織を抱き抱えると音も無く紫龍の側に降り立ち、沙織の身体を瞬へと向けた。
あれ程反応していた鎖がピタリと動きを止めた事で、瞬は沙織の手を引きアンドロメダの鎖が生み出す結界の中へと迎え入れる。
「……沙織お嬢さん、あの人はいったい? 水晶聖闘士だとすれば、氷河の先生だと聞いていますが」
「わたしにも分かりません。ですが、恐らくこの場の誰よりも、現状を理解している方であり――」
瞬と沙織の目の前で、男の身体が白銀の光に包まれた。
巨大な肩当てと小手、そして胸部の円の意匠が特徴的な聖衣――祭壇星座の白銀聖衣を身に纏った男がそこに立っていた。
彼は、口元の開けられた銀色のマスクを取り出すと、サングラスを外してそれを装着する。
静まり返ったコロッセオに、カチャリと音が鳴った。
まるで、何かのスイッチが入ったと感じたのは瞬だけではなかったのだろう。
聖衣を纏った。
ただそれだけの行為であるのに、男の存在感が遥かに増し、ピンと張りつめた空気に各々が身構えてしまう程に。
「――この先の、わたしたちの戦いの鍵を握るであろう方です」
――――――――
―――――
――…
つまり、ここでコイツら纏めてぶっ飛ばしたら終わりって事だな!
などと考えていたら、ギガースが顔色を変えてジャガーの影に隠れていた。
よく見れば、ジャガーたちも微妙に戦闘態勢に入っているような気がする。
緊張感が増したというか、どうにも妙な空気になったなと、サングラス越しにちらちらと周りに視線を向ければ、どうにも俺に視線が集中している。
しかも、白銀の二人からは物凄い警戒を感じるし、紫龍や瞬も少し腰が引けていないか?
何故だ?
何処からどう見ても、俺はそっちの味方だと分かるだろうに。
こうも警戒をあらわにされると、さすがに傷付くぞ?
君たち、全く動じていない沙織お嬢さんを見習いなさい。
……あ。
俺、いつの間にか祭壇星座の聖衣を纏っている。
あまりにも想定外の事が起き過ぎて、何もかもが面倒臭くなって、いささか脳筋寄りの思考になっていたことは認めるが、まさか無意識のうちに聖衣を纏っていたとは。
成る程。お話の最中に相手がいきなり聖衣を纏ったらそりゃあ警戒するよな。
失敗、失敗。
となれば、聖衣にサングラスはさすがにアレなので、アイガードタイプのマスクと交換して。
あれ、圧の強いマユラさんの視線に熱が籠ったように感じる。
え、なんで?
この聖衣?
いや、正規の手順かどうかは置いておいて、ちゃんと継承したものですよ?
あれ、圧の強いマユラさんの視線に更に熱が籠ったように感じる。
いや、祭壇星座の担い手ならとか、一人でうんうんと頷かれても、何の事やら分からないんですけど?
さて。それでは改めて。
さあ、ギガース君。
お話をしようじゃあないか。
あるんでしょう? 言い分。
聞いてあげるから。
さあ。
「教皇からの命令を失敗し続けて後が無くなり、炎熱聖闘士を連れて日本に来た」
それは知ってる。
「作戦は成功目前まで進み、射手座の黄金聖衣のマスクを手にする寸前まで行ったところで死んだと思われていた一輝が現れて作戦は失敗した」
それも知ってる。
「日本へ連れてきた手勢や、頼みの炎熱聖闘士も失い、失敗続きの儂は聖域に戻っても粛清されると考えて身を隠した」
それは予想できた。
「失意と絶望の中で、ふと、なぜ自分はこんな事になってしまったのかと考えた」
……ん?
「そもそも、一介の青銅聖闘士が自分の引き連れた手勢たちを打倒できるのがおかしい。何かがあるはずだと考えた」
……んん?
「そこで、そもそも日本に十三年前に聖域から失われた射手座の黄金聖衣がある事がおかしいと考えた」
……んんん?
「残った伝手を使って、そもそもの発端と思われる十三年前のアイオロスによるアテナの誘拐未遂事件について調べた」
……。
「アイオロスについては確認できなかったが、当時の渡航歴などからグラード財団の代表である城戸光政という日本人が、入国時には連れていなかった女児を連れて帰ったことを知った。
そして、旅行中に手に入れたとされるアンティークについても。
人の記憶など曖昧なものだが、何かの切っ掛けを与えてやればふと思い出すことなど幾らでもある。それが十年、二十年前の事であろうと。
聖域内で、その手のノウハウに最も長けているのはこの儂であったからな」
……おい、意外と有能だぞコイツ。真実に辿り着きかけてないか?
「そして、日本で行われた銀河戦争参加者に対しての制裁についても違和感があった。今でこそ抹殺となっているが、当初はキツイお灸を据えてやる程度のものであったのだ。
しかし、開催者の城戸沙織について調べた内容を新教皇へと報告したことで、その命令が抹殺へと切り替えられ、同時に黄金聖衣の奪取と城戸沙織の捕縛も加えられたのだ。
相手はたかが青銅、そして財団のトップとは言え十三歳の小娘相手。いかようにでもなると考えたのか、実行部隊のほとんどが城戸沙織の捕縛については後回しにしていたようだが」
……ああ、確かに。一輝たちは沙織お嬢さんを無視してたしな。
「な、なんだって!?」
お?
星矢がやって来たか。絶妙なタイミングだな。説明が省けるか。
「え、先生!?」
で、氷河君。ギガースもそうだけど、何で一発でこの変装を見抜けるの?
「この状況はいったい……。な!?
そして……なんでミスティがいるの?
オネエの仕業か? ヤツの姿が見えないが……まあ、いいか。
「ペガサスにキグナス、そしてミスティか。フン、まあ良かろう。貴様らも聞くがよい。
こうまで状況が揃えば見えてくるモノもあろう。水晶聖闘士よ、貴様も分かっていたのではないのか?
だからこそ、ああも儂に、いや、新教皇に対して反抗的な態度を取り続けていたのであろう?
十三年前より、聖域にアテナは存在しなかったのだ!
そう、居もしないアテナを居る者として振る舞い、己の言葉をアテナの言葉として、我々を謀ってきたのは誰かを!!
教皇よ!! 全ての元凶は教皇なのだ!!」
……大正解。いや、前教皇については冤罪だけど。
「その真実に気付いた時! 儂に大いなる神より天啓が与えられたのだ!!」
……んんんん?
「我らを謀った逆臣アーレスを討てと! 聖域を正しきアテナの秩序の下に取り戻せと!!」
おい、コイツ妙なこと言い始めたぞ?
「さあ、城戸沙織――いや、アテナよ! 儂と共に、大いなる神により与えられたこの者たちの力をもって、悪しきアーレスに支配された聖域を討ち果たしましょうぞ!!」
……ギガースの周りの黒い靄が広がっている。
ギガースだけじゃない、後ろの亡霊聖闘士たちもだ。黒い聖衣ってことは、暗黒聖闘士扱いって事だとして。
つまり、ギガースの大いなる神ってのは――十中八九エリスだろうが――暗黒聖闘士を従えたと見て間違いない。
エリスが暗黒聖闘士を従えたって設定は知らないが、感じる気配はまさにアレだ。さしずめ、エリスの聖闘士ってところか。
となれば、暗黒聖闘士をアニメ基準で考えるのは危険だな。
しかし、暗黒ドラゴンと暗黒スワンの二人の靄は、他の奴らに比べて薄いんだが……何かあるのか?
元々の暗黒聖闘士に対しては、それ程の影響を持てていない?
「さあ、アテナよ、この手をお取り下さい! 我らと共に、地上に新たなる秩序を築こうではありませんか――!!」
さて、この提案。言葉面だけなら、まるっきり考慮に値しないという事もないが。
あれ、圧の強いマユラさんの視線に更に更に熱が籠ったように感じる。
え、なんで?
え?
アテナへの不敬は万死に値する?
遠慮なくやってしまえ?
何この人、めっちゃ怖い。
いや、俺は文明人らしく対話優先ですから。
とにかく、ここは沙織お嬢さんの意見をですね……。
――口出しは無用だ、水晶聖闘士。いや、今の君ならば
脳内に響く声。周りの様子を見るに、俺個人へのテレパシーか。
『……好きに呼べばいい。で、どういうつもりだアフロディーテ?』
『なに、周りが頼りになり過ぎるのも考え物だという事だ。君の存在は、アテナの成長を阻害しかねないのでね。
私は、アテナが己の意思によってどのような答えを出すのかを知りたいのだ』
要約すると、ジェイガンは出しゃばらずに赤緑やカチュアのレベルを上げさせろと。
……アフロディーテってこんな奴だっけ?
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いったい、オレたちの周りで何が起こっているんだ!
魔鈴さんは見つからないし、一輝とも連絡が取れない。
聖域での決戦を控えていたハズが、こうも混乱した状況じゃ動けやしないぜ。
あれ、氷河?
水晶聖闘士、いやクオーツさんか。彼はどこに行ったんだ?
次回、聖闘士星矢
「この命、アテナのために!」
君は、小宇宙を感じた事があるか。
to be continued……?