聖闘士星矢~クリスタルエレジー~Final Edition   作:水晶◆

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ペガサスファンタジーからの例の音楽と田中さんのナレーション


第5話 星矢vsシャイナvs謎の乱入者

 ペガサス流星拳の新たなる可能性を掴んだ星矢と、己の全てを込めた氷河のオーロラサンダーアタックによって、遂に水晶聖闘士は倒れた。

 激闘を制した二人であったが、しかし、その代償はあまりに大きかった。

 消耗の激しい二人の前に、聖域からの刺客として聖衣を纏ったシャイナが現れ、星矢に戦いを挑むのであった。

 

 

 

 

 

 限りなく彗星拳に近付いた流星拳は、まあ良い。

 めちゃくちゃ痛かったが、これを食らうのは想定内。覚悟は出来ていた。

 問題は、その後の氷河の一撃だ。

 

 そこはダイヤモンドダストだろう?

 構えを見てオーロラエクスキューションかと思って焦ったわ。あれ、モーションは一緒だからな。同じモーションでダイヤモンドダストを放つ時もあるが。

 でも、オーロラサンダーアタックは殺意が高すぎないか?

 劣化エクスキューションだぞアレ。

 こっちは空中に吹っ飛ばされているから踏ん張りが効かんのよ?

 全身凍結させられると受け身も取れんのだが?

 

 ちなみに、食らって分かったがオーロラサンダーアタックの『サンダー』って部分、雷的なとか、そういう意味かと思っていたら、凍気の嵐で削り取るって意味でのサンダーなのね。

 おかげさまで、まともに喰らった流星拳のダメージも加算され、とうとう限界を迎えたのか水晶聖衣が――ぶっ壊れてしまいました。

 

 アニメでは壊れなかったじゃん!

 

 いや、逆に考えるんだ。

 つまり、それだけ氷河と星矢のパワーアップには成功したのだと!

 

 しかし、そうすると一つ問題が。

 水晶聖衣が無くなったら、俺はどう名乗れば良いのだろうか?

 水晶聖衣の無い水晶聖闘士って、それただの聖闘士だから。

 自称水晶聖闘士でしかないから。

 ゲームなんかではデフォルトネームで行く派の人だから、名前考えるの苦手なのよ。いや、色々考えられるけどね。

 でも、それはあくまで自分の中で完結するものであって、公開するもんじゃないから。ネトゲとかでも、キャラクターの名前で何となくその人が見える事あるでしょ?

 自分の性癖晒してるみたいで恥ずかしいと言うか。

 ならば本名をと、外の人の記憶――にも、無いってどういう事?

 いや、探れないのか。脳内検索エンジンで本名と検索しても出てこない。サジェスト表示も出ない。

 過去は捨てたって事かこれ?

 薄々分かっちゃいたが、覚悟ガンギマリ過ぎだな聖闘士。

 まあ、名前についてはこの場を凌いでから考えよう。

 

 

 

 絶賛命の危機だからね。

 

 

 

 そう、これが――車 田 落 ち か。

 

 一度体験してみたかったッッッッ!!

 

 嘘です。

 冗談です。

 ニ度とやりたくありません。

 

 何、この何?

 成層圏から地上にダイブ?

 頭から落ちましたよ? 犬神家かよ。

 俺を筆に見立てれば、顔面を筆先にして氷の大地に綺麗な一本線が刻み込まれましたよ?

 どっかの氷壁にぶつかって止まったけど、これ、カッコいい系のキャラの落ち方じゃないよね?

 

 おまけに、その氷壁が衝撃で崩れて俺氏絶賛生き埋め中。

 

 まあ、良い。

 兎にも角にも、水晶聖闘士はこの戦いで命を落とすことはなく。

 二人の成長も促せたようだし、死亡フラグもへし折って、これでミッションは無事終了。

 クリアランクはトリプルAってとこかな?(過大評価)

 後は氷河たちがやって来るのを待ち、『目が覚めたよ氷河』とか言って、それっぽいムーブで和解だな。

 

 ……。

 

 …………寒い、な。

 

 ………………。

 

 来ない、な。

 

 ……………………ちょっと、マジ寒いんですけど!?

 

 小宇宙を高めるのはまずいと思って、寒い中我慢してるんですけど?

 いや、小宇宙ありきの聖闘士だからね? 小宇宙を高めとかないと、それなりに鍛えた逸般人なのよ?

 先生風邪ひいちゃうよ?

 

 …………………………誰も来ない。

 

 え?

 ここは来るところでしょ?

 先生、とか言って駆け付けて来てさ?

 あ、ひょっとして、この氷壁のせい?

 無駄に墓標っぽく見えてる? 『先生はあそこでずっと俺たちを見守って――』的な?

 

 やっべ、どうする?

 

 このまま凍死ルート?

 いやいやいや。

 

 それとも、二人とも、もうこの場を離れてる?

 え、俺氏置いてけぼり?

 隠れんぼで、見事に隠れすぎて誰にも見つけられず、アイツもう帰っちゃたんじゃね、って置いて行かれるヤツ?

 

 しょうがない。

 少し小宇宙を高めて周囲を探ろう。背に腹は代えられないからな。

 この辺りに二人がいなければ、それはそれで良し。

 まだいるなら、『俺は正気に戻った』で、行こう。

 どっちにしろ、結局は俺の見栄の問題でしかないからな。

 

 そう考えると、最初っからやっとけってことになるが、銀色の宇宙刑事も言っていたからな。振り向かないことが若さだって。

 ロクに考える時間も無かったからな。行き当たりばったりも仕方がない。

 若いから良いんだ。何歳か分からんけど。

 

 

 

 なーんて余裕かまして考えている時が……俺にもありました。

 原作知識を生かして俺生存の方向で可能な限りアニメの進行をなぞろうとしていたワケですが。

 

 はい。原作知識はポイよ、ポーーーーイ!!

 

 ゴミ箱にシュート!

 

 超エキサイティンッ!!

 

 

 

 な ん で シ ャ イ ナ が コ コ に 居 る !?

 

 なんで星矢と戦おうとしているの?

 ここ日本じゃないのよ、シベリアよ?

 

 いや、確かに直前での聖域での星矢との戦いは、魔鈴によって水を差されていたワケで。

 となれば、シャイナの性格からして、そのままって事にはしないよな?

 それにしたって、星矢と決着を付けようとするのはもっと先だったろう?

 

 ひょっとして、俺なんかやっちゃいました?

 

 ……時計の針を進めていた?

 …………この言い回しカッコいいな。

 

 本来であれば、村に到着した氷河はヤコフと出会って水晶聖闘士の情報を得て村の外れで一戦交える。聖衣の無い氷河は普通にボコられて一時撤退。

 次に二人が対峙するのが、この氷のピラミッドの前だった。

 アニメの流れだと、あの後直ぐに再戦しているように見えたが、実はこの間に一日ないし二日なりの時間差があったのか?

 そして、シャイナは実はこの空白の期間に星矢を探してこの地に来ていたが、星矢がいないと知ってこの地を離れていた、とか。

 そうすると、今度は星矢がここにいるのが早過ぎる、ってことになるが……。

 

 あ、星矢が吹雪の中を歩いているシーンがあったな。

 ひょっとして、道に迷っていた?

 連れ去られた村人やヤコフの足跡なんか残っているはずも無く、土地勘の無い星矢が誰の案内も無くここに真っすぐ辿り着けたとは考えにくい。

 

 何となくだが、これが正解のような気がする。

 まあ、他に納得のいく理由が思いつかないだけなんだが。

 

 いや、これじゃあそもそも星矢が“東シベリアに早く来ている”理由になっていない。

 

 これは、本気で今がどういう状況なのか確認しないとマズい。

 水晶聖闘士の存在や聖衣の形状から、ここはアニメ版の星矢世界と判断していたが、その前提が間違っている可能性がある。

 

 いわゆる多元宇宙論、だな。

 実際に、原作でも大神クロノスにより様々な色の星雲という形でその事は示唆されていたから、あながち無いとも言い切れない。

 制作会社を変更してのリメイク版とか、タイトルに改を付けた再構成版を原点とした世界とか。

 そもそもが、既存の世界とはまるで異なる――ハリ○ッド実写版的な世界かもしれない。

 あるいはΩを起点とした場合の過去世界とか。

 

 

 

 さて、現実逃避はこのぐらいにして。

 ちょいと真面目に考えよう。この世界がどうのこうのについては、今は重要な問題じゃないからな。

 

 問題は、ここで星矢とシャイナの戦いに介入するのか、しないのか。

 

 する、一択なんだよなぁ。

 

 確か、この時点での城戸沙織はアテナとしての自覚を持ち始めたぐらいで、星矢たちにカミングアウトはしていなかったはず。多分。

 であれば、アテナの聖闘士として戦うという使命も、正当性も、今の星矢たちには無い。

 あるのは、黄金聖衣を奪いに来た連中の親玉を探し出し、一輝の敵討ちも含めてケリをつけてやる、って事ぐらいか。

 

 聖域から青銅聖闘士への抹殺指令が出ていると伝えてはやったが、少なくとも今の星矢ではその程度の理由付けでシャイナとまともに戦うことは出来ないはず。

 女に手は上げられない、とか言っていたがガイスト相手には流星拳ぶっ放していたことを考えると、多分姉的な存在が星矢にとっての特攻なんだろう。倍率3ぐらいで。

 ならば、氷河が代わりに戦う?

 氷河であれば戦えるだろうが、多分星矢が止める。

 

「手を出すなよ氷河! これはオレとシャイナさんとの問題なんだ!!」

 

 実際、今もロクに反撃らしい反撃も出来ずに追い詰められている星矢に氷河が手を貸そうとしたが、こんな事を星矢が言うから氷河も手を出せない。

 いよいよヤバくなったら手を出すのだろうが、少なくともまだその時ではないと判断できるぐらいには星矢にも余裕があるのがもどかしい。

 

 こうなると――場の空気の読めない奴は強い。

 

 相手の事情を考慮しない第三者だな。

 つまり、俺だ。

 

 氷河と違って星矢に気を遣う理由はなく、俺に星矢の制止を聞く理由もない。

 シャイナの事情にしても、何なら星矢と同じ事をしてその矛先を俺にも向けさせる事だって可能だ。

 

 聖衣こそ派手に破損しているが、俺自身のダメージは実はそれ程でもない。痛いものは痛いし、寒いものは寒いが。

 薄々、もしかしてと思ってはいたが、やはり俺の知る水晶聖闘士よりも強い。感覚としてそれが理解出来る。

 原因として考えられるのは洗脳解除と俺の存在だが。

 ……アレか? 観測者側のとか、上位世界の魂が、とかいうヤツか?

 それとも、フュージョンとかツインドライブ的な、二つの魂を融合、同調させて、とかいうヤツかもしれん。

 ……感覚的には後者のような気がする。

 

 現にこうして、俺の意思と、水晶聖闘士の“聖闘士同士の戦いを止める”という意志が一致した今、この身体から立ち上る小宇宙は――。

 

 

 

 

 

 第5話 「白銀の戦い! シャイナ対水晶聖闘士」のタイトルに詐欺の疑いがあるがマジン○ーZ対デビル○ンの理論で行われる生存戦略

 

 

 

 

 

「おふざけじゃないよ、星矢ァアッ!!」

 

「おう゛ッ……!? ゲハァ!」

 

 ゆるんだガードをこじ開けて、シャイナの拳が星矢の腹部に突き刺さる。

 身体をくの字に曲げて吐しゃする星矢に構わず、シャイナの追撃の拳が雨あられと星矢を襲う。

 

「どうした! 水晶聖闘士を倒した時のお前の力はこんなモンじゃなかったはずだ!! ここまでやられてまだ女には手を上げられない、なんて言うつもりかい!?」

 

「クッ、シャイナさん……!? でも、オレは……」

 

「あの時も、あの時も! 終ぞお前はアタシに全力を向ける事はなかった!! 本気で来い星矢! そうでなければ、聖域からの命なんて関係なく――アタシがお前を殺す!!」

 

 

 

 星矢の言葉によって二人の戦いを見届けている氷河であったが、時折見せる星矢の反撃にはキレがなく、さすがにこれ以上は無理か、と介入の意志を見せようとしていた。

 シャイナの言い付けを守り、周囲の雑兵たちは動かない。

 いや、動けない、と言うべきか。

 それほどまでにシャイナの気迫は凄まじく、いくら聖域から青銅聖闘士の抹殺命令が下っているからと言っても、これは異常だと。

 

(星矢の目は、宿る光はまだ死んではいない。しかし、どうした星矢。このままでは嬲り殺しだぞ? それとも、何か考えがあるのか?)

 

 鬼気迫る、という言葉を体現するかのように苛烈に星矢を攻めるシャイナに対し、迷いを振り切れない星矢が取れる行動は多くない。

 最低限、致命傷となるべき場所だけは外してはいるが、蓄積されたダメージは身体を、意志を鈍らせる。

 

(……すまないな星矢。やはり、これ以上は見ていられん)

 

 内心で星矢に詫び、氷河が自らの小宇宙を高め始めた。

 その高まりに呼応するように、氷河の周囲をキラキラと輝く雪の結晶が舞い踊る。

 

「邪魔する気かい、キグナスッ!?」

 

「……お前たち二人にどのような事情があるのかは分からない。しかし、オレも星矢もここでのんびりとしている暇は無いのでな。星矢、オレたちは一刻も早く日本に戻らなければならない事を忘れるな」

 

 向かい合う氷河とシャイナ。

 氷河の高まる小宇宙が白鳥と化してオーロラの空を舞う。

 シャイナの高まる小宇宙が雷光を纏った蛇と化し、その牙を氷河へと向ける。

 

「!? 止せ、氷河! シャイナさん!」

 

 星矢の声も、お互いを倒すべき敵と認識した二人には届かない。

 

「悪いが、一撃で決めさせてもらう! ダイヤモンド――」

 

「邪魔をするなと言っただろうキグナス! サンダーーーーッ・クロ――」

 

 高められた二人の小宇宙が臨界を迎え、強大な破壊の力となって互いに向けられた。

 これが解き放たれた時、どちらかが死ぬ。

 小宇宙を感じる事の出来ない雑兵たちであっても、そうと知れるだけの力があった。

 

 

 

 ――果たして、その力が振るわれる事はなかった。

 

「な、何っ!?」

 

「これは――身体が……」

 

 今まさに、その拳を突き出そうとしていた氷河とシャイナ、二人を止めるべく動こうとした星矢。

 そして、その光景を見る事しかできない雑兵たち。

 

「う、動かないッ!? おれの身体が動かない!」

 

「ゆ、指一本動かせない!? な、何だ? 何がどうなって!!」

 

 その場にいる全ての者が動きを止め、或いは困惑を、或いは恐怖の表情を浮かべていた。

 

 

 

「――これは、光の……小宇宙の糸、か? だが、いつの間に?」

 

「ああ、それも、誰も気が付けずに――全身に巻き付けられているなんて!」

 

 氷河と星矢の疑問の声が示すように、いくら戦闘中であったとはいえ、これは異常な事であった。

 

「一体、何者が? 新たな敵なのか!? ッ、そうだ、シャイナさん!」

 

 敵だとして、ならばなぜシャイナまで?

 星矢の疑問に答えたわけではなかろうが、シャイナが言葉を発した。

 

「……これは一体どういうつもりだ? 事と次第によっちゃあ、ただじゃ済まさないよ」

 

 仮面の裏の素顔こそ見えないが、忌々し気に吐き捨てられたシャイナの言葉から、どのような表情を浮かべているのかは容易に想像がつく。

 

「答えな――アラクネ!!」

 

 ――クククッ。何、たかが青銅の小僧相手にいつまでチンタラと遊んでいるのかと思ってな。

 

 

 

 氷原に嘲るような男の声が響き、星矢たちの身体を縛り付けている小宇宙の糸の輝きが増した。

 光はシャイナの視線の先、氷原の一点に集っている。

 

 ――貴様の手に負えんと言うのであれば、こうして手を貸してやるのもやぶさかではない、と言う事だ。

 

 光の中心、氷原に亀裂が奔り、轟音と共に砕けた凍土が吹き上がる。

 そこから飛び出して来たのは、異形の聖衣を身に纏った巨漢であった。

 

「この白銀聖闘士(シルバーセイント)、タランチュラのアラクネがなぁッ!」

 

 アラクネの両手からは、無数の光り輝く糸が伸ばされ星矢たちに繋がっていた。

 腰を深く落とし、上半身を接地させる程に伏せたその姿勢は、まさしく人の形をした巨大な蜘蛛。

 

「お前たちは既に蜘蛛の巣に捕らわれた羽虫も同然よ! もはや万に一つの勝機もないと知れ!!」

 

「いきなり出てきて何を好き勝手 言いやがる! 白銀聖闘士だか何だか知らないが、こんな糸ぐらいで……な、何だ、ち、力が……」

 

 気勢をあげて立ち上がろうとした星矢であったが、その身を縛る蜘蛛の糸が輝きを増すと、たちまち膝を突き倒れ伏してしまう。

 

「星矢!? これは、やはりただの糸ではない? だが、このキグナスの凍気の前では!!」

 

「止めろキグナス! アラクネの糸にこれ以上触れるんじゃない!! 星矢の二の舞になるよ!!」

 

「何だと!? クッ、こ、これは……まるで、力が吸い取られるように……!?」

 

 シャイナの制止の言葉は僅かに遅く。

 凍気による糸の破壊を試みた氷河を嘲笑うように、その身を縛る糸が輝きを増し、氷河もまた力無く崩れ落ちる。

 

「フッフッフッ。馬鹿な奴らめ。言ったはずだ、お前たちは蜘蛛の巣に捕らわれた羽虫だと。このオレのタランチュラネットは藻掻けば藻掻く程、その相手の力を奪い取るのだ。この様に、な」

 

 構えを解き、立ち上がったアラクネの見渡す限りには、倒れ伏す星矢と氷河、そして雑兵たちの姿が。

 ただ一人、シャイナだけが戦意を隠さずにアラクネを睨み付けていた。

 

「……どういうつもりだ、アラクネ。アタシを巻き込んだことはこの際どうでもいい、だが、雑兵たちまで巻き込む必要はなかったハズだ。アンタならそれが出来た」

 

「どういうつもり、だと? それはこちらのセリフよ。先ほどのキグナスへの言葉、あれこそどういうつもりだ? ああ、やはり――お前が裏切り者だったのか、シャイナよ」

 

「……は? 裏切り者? アタシが!? 何を馬鹿な――」

 

「たかが青銅なり立てのヒヨッコ共が、暗黒聖闘士(ブラックセイント)やドクラテス、カリブの幽霊聖闘士(ゴーストセイント)や、あまつさえ水晶聖闘士すらも退けるだと?

 そんなバカな話があってたまるものか。何者かによる手引きがあったとしか考えられん。そう、例えば――ペガサスと関係の深い者。師である魔鈴や、お前だシャイナ」

 

「――本気で言っているのかい?」

 

「お前は星矢にペガサスの聖衣を与えた前教皇に対し不満を抱いていた。その矛先を恐れ多くもアーレス様に向け、奴らを扇動し、此度の騒動を巻き起こした。それが全てだ」

 

「……反吐が出るね」

 

「今、聖域は新たなる教皇アーレス様のもとで一つになろうとしている。そこに、この様な些末な雑音は不要だとギガース様はおっしゃられているのだ。

 誰もが納得する理由があれば雑音もやがて消える。シャイナよ、お前はここでオレに殺される。だが、誇りに思え。

 お前の、お前たちの犠牲は、聖域の、アーレス様のより良き治世への礎となるのだから!!」

 

「アラクネッ!! ぐッ、うあああああああーーーー!!」

 

「無駄な抵抗など止めておけ。そら、お前の今の反応で、またこのネットの強度が増したぞ?」

 

 アラクネの手から伸びた糸が輝きを増す。

 それは瞬く間に縄のように太く、鎖の如き強靭さをもってシャイナの全身を締め上げる。

 

「同じ白銀聖闘士としてのよしみだ。これ以上苦しまぬよう、一撃で殺して――ほう、まだ動けるか、ペガサス」

 

 繋がる糸の反応を受け、アラクネがその視線を星矢に向ける。

 そこには、ふらつきながらも立ち上がろうとする星矢と氷河の姿があった。

 

「……ふざけるなよ。聖闘士としての掟を破ったオレたちが制裁を受ける、ってんならまだ分かるさ。

 だけど、そんなワケの分からない話で……シャイナさんを殺そうとするのを――黙って見ていられるか!!」

 

「何が正義で、何が悪か。何を信じるか、それはお前の好きにすれば良い。だが、お前のその行為を、聖闘士として、いや男として認めるわけにはいかん!」

 

「全てはアーレス様が築き上げる新たなる聖域の――正義のためよッ!! 来るべき聖戦のためにも聖域はアーレス様のもとに一つにならねばならんのだ!」

 

 アラクネが、その巨腕によってスパイダーネットに縛られた全ての者たちを引き寄せる。

 そして、まるで星矢たちを砲丸に見立てるかのように、回転を始めたではないか。

 

「ぐぅっ!?」

 

「あ、がぁああ!!」

 

 回転が増すごとに加速度的に上昇する圧力は、やがてその身を縛られた者を等しく破壊するだろう。

 

「口先だけは達者だったが……力も無く吠えるなヒヨッコ共が! いいだろう、気が変わった。このまま天高くへと放り投げ、地面へと激突死させてやる。己の浅慮を悔いながら死ねぇい!!」

 

 

 

 

 

 運命の分岐点というものが存在するのであれば、それはまさにこの時であったのだろう。

 

 そこに至る理由が何であれ、“彼”は選択したのだ。

 

 既知の道を外れ、未知へと進む決断を。

 

 

 

 

 

「――地面へと激突死させてやる。己の浅慮を悔いながら死ねぇい!!」

 

 そう叫び、アラクネはその両腕を空に向かって振り抜いた。

 後は、この手を振り下ろせば全てが終わる。

 大地へと視線を向けたアラクネの視界を、眩いばかりの青い光が覆ったのはその時であった。

 

 

 

 さっさと、この気に食わない任務を終えて聖域に戻るのだ。

 青銅聖闘士とはいえ、あの水晶聖闘士を倒し、白銀聖闘士のシャイナが手こずった程の相手なのだ。

 これであれば、このアラクネを白銀聖闘士の紛い物と蔑んだギガース様も認めてくれるだろう。

 そうなれば、オレは真の白銀聖闘士として、何者にも恥じることなく、アテナの聖闘士として皆とこの地上の愛と平和を――。

 

 ――何だ? 

 

 ―――――何だ、この違和感は? この気持ちの悪さは何だ?

 

 頭痛がする、吐き気もだ。

 

 なぜ、この手に何も握られていないのか。

 

 手足が震え、指先の感覚すら覚束無い。

 

 なぜ、シャイナやペガサスたちの拘束が解かれているのか。

 

「お前の小宇宙から微かに感じるその闇の気配。魔拳の影響かとも思ったが、そうではないな。しかし、歪められていることに変わりはない、か」

 

 これは、夢か?

 ペガサスたちに倒されたはずの水晶聖闘士が、このアラクネの目の前に立っている。

 

「どの手合いかは分からんが、状況は私が思うよりも遥かに悪いのかもしれんな」

 

 そうか、貴様もシャイナと同じく我らを裏切っていたのだな。

 倒されたふりをしてまで、このアラクネを欺こうとしたのがその証拠よ。

 

「ここに黄金の盾でもあれば、話は違ったのかもしれん。しかし、生憎とここにいるのは女神(アテナ)ではなくこの私」

 

 そうだ、敵だ。

 星座の守護を持たぬ番外の聖闘士でありながら、教皇にも一目を置かれ、その力を認められているなどオカシいデハないカ!

 どうしてオマえガ、ドウしてコノあらくねガ!?

 ヤツは敵だテキだてきダテキダてき――

 

「私では、おそらくその闇を文字通り打ち払う事しかできないだろう。すまないな。死ぬほど痛いとは思うが――我慢してくれ」

 

 敵は――倒さなければならないのだから。

 

 

 

 ――――――――

 ―――――

 ――…

 

 それは、アラクネの視界が青い光に埋め尽くされた瞬間の事であった。

 閃光が音も無くアラクネの糸を断ち切り、その身を呪縛されていた全ての者が解放されたのは。

 衝撃に身構えていた星矢たちも、一体何が起こったのかを即座に理解することは出来なかった。

 訪れるべき衝撃が訪れず、その身を縛る戒めが消え去ってもなお、である。

 

「水晶聖闘士!? 貴様、生きていたのか? だが、なぜ奴らを助けた! そうか、貴様も聖域の命に背く裏切り者か!!」

 

「聖域の命、か。さて、アテナの聖闘士として地上の愛と平和を守る以上の命などありはしないはずだが?」

 

 先程まで敵対し、倒したはずの水晶聖闘士が、まるで自分たちを守るかのようにアラクネの前に立ち塞がっていたのだから。

 その身に纏われた水晶聖衣が破損している事からも、それが決して見間違いや幻ではない、目の前の人物が先程まで戦っていた水晶聖闘士本人である事の証明となる。

 だからこそ、星矢は混乱し、氷河は戸惑いを隠せない。

 なぜ、どうして、と。

 

「ふざけた事を! 知っているのだぞ、貴様が聖闘士の掟に反して私闘を繰り広げた青銅聖闘士の抹殺を命じられている事を!!」

 

「聖闘士としての掟を破った事への制裁ならば、少なくともこの場にいる氷河とペガサスには既に与えた。そうだな、残りの青銅聖闘士たちにも折を見て与えに行かねばならんか」

 

「抹殺しろと! 殺せと言っているのだ、聖域が!!」

 

「あの程度の戯れで命まで奪う必要はないと判断した。文句があるなら直接言いに来いと伝えるがいい。お前の言うその聖域とやらに、な」

 

「き、貴様ああああああああ! 聖域への反逆の意思を隠そうともせぬその言葉、その不遜極まる態度!! 叛徒として諸共に始末してくれるわ!!」

 

 スパイダーネット!

 アラクネから立ち上る小宇宙が巨大な蜘蛛の姿と化し、その身から無数の光の糸を撒き散らす。

 

「何人たりとも逃れる事の出来ぬこの蜘蛛の巣は! 足掻けば足掻く程に獲物の力を吸い取りこのアラクネの力とするのだ!!」

 

 水面に浮かぶ波紋のように、それは瞬く間に周囲へと広がり、水晶聖闘士だけではなく、星矢や氷河、シャイナや未だ倒れたままの雑兵たちをも呑み込んでいく。

 

「水晶聖闘士よ、この陣に捕らわれた貴様に最早勝ち目は無い!!」

 

 勝利を確信したアラクネの笑い声が氷原に響き渡り――

 

「ウワハハハハハハハ――――は!?」

 

 ――驚愕の声と共に止まった。

 

 伸ばされた蜘蛛の糸は、その全てが突如として現れた氷の壁に阻まれていたのだ。

 

「これは――先生のフリージングウォール」

 

「氷の壁が、オレたちを守ってくれている? いや、オレたちだけじゃない。見ろ氷河、シャイナさんや雑兵たちも無事だ」

 

一本たりとも獲物に届いたものが無かったのだ。

 

「初見殺しとしては非常に優秀ではあるが、だからこそ、それに頼りきりになったか」

 

 そして、アラクネの驚愕はそれだけが理由ではなかった。

 

「触れねば効果を発揮しないのであれば、触れなければよいだけだ。凍気を操る聖闘士にとって、それを身に纏い鎧とするのは造作も無い事」

 

 自分へと歩み寄って来る水晶聖闘士に、無敵のはずのタランチュラネットが触れた傍から凍結し、砕け散っていく光景に驚愕したのだ。

 

 

 

「要は、お前が銀河戦争で海蛇星座(ヒドラ)を相手にした事と同じだ。不意を打たれたとはいえ、その点ではまだまだ修行が足りんな、氷河よ」

 

 そう言って、氷河へと視線を向けた水晶聖闘士の眼差しは、氷河のよく知る温かさを持ったそれであり――

 

「はい、先生! オレはまだまだ先生から学びたい事がたくさんあります!」

 

 ――応じる氷河の声は喜びに震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白銀聖闘士タランチュラのアラクネの必殺技スパイダーネットに苦しめられるオレ達。

 奴はオレ達だけではなく、シャイナさん達も抹殺すると宣言した。

 

 ふざけるなよ、そんなことはさせないぜ!

 

 だけど、奴の能力により力を奪われたオレ達では、悔しいが打つ手がない。

 そんなオレ達の窮地を救ったのは、敵であったはずの水晶聖闘士。

 

 水晶聖闘士、あなたは敵なのか?

 それとも、味方なのか?

 

 水晶(クリスタル)の輝きがアラクネの闇を打ち払い奇跡を起こす!

 

 次回、聖闘士星矢。

 

「闇を払う正義の光! その名はダイヤモンドダスト・レイ」

 

 君は、小宇宙を感じた事があるか。

 

 

 

 

 

 to be continued……?

 

6話からのルートをアンケートしてみようかと思います。

  • TVアニメ版ルート(熱血漢祭り)
  • セインティアルート(俺つえー)
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