一応、私の2作目の小説になりますが、今作はマイナー(多分)なゲーム作品が元ネタとなっています。
未プレイな方でも読めるようになっていますが、至らぬところがあると思いますので、その都度、感想などでご指摘頂けるとありがたいです。
では、始めさせて頂きます。
キン、とグラスがぶつかる音がする。飲み物が揺れ、グラスからわずかに零れ落ちる。
薄暗い酒場だ。建物の地下、ドラム缶の下に隠された秘密の酒場。ランタンの明かりが部屋を照らす中、三人の男女が、テーブルを囲んでいた。
テーブルの上には沢山のグラスと料理の乗った皿、そして酒の入ったボトル。しかし料理も酒も粗方食べて飲み尽くし、ほとんどが空になっている。
それでも楽しそうに酒を飲み下し、三人はグラスを置いた。
小さな宴会は終盤に差しかかっていた。
「――さてっ! そろそろお開きとしようか」
音頭を取ったのはサングラスをかけたオレンジ色の髪の男だ。手を叩いて宴の終演を促す。
「そうだな、いつまでもここに溜まってるわけにはいかないし」
応えたのは金髪の女。色白の肌が、薄暗がりの中、暖色に染まっている。
「グラップラーを潰した今、これ以上チームを組む必要はない、か」
少年の声だ。金髪で碧眼の少年。
年の頃が十五、六歳の少年は寂しげな表情で言う。
「できれば、これからも旅を続けたかったけどな」
「そりゃあな。でも、俺達は目的を達したし、帰る場所がある」
「アタイにはないけどね」
「ないわけないだろう。なんなら兄貴の墓がある町にでも住めばいい」
「それだとケンとご近所さんになるんだけど」
「いいじゃねえか、それで」
「いや、あの辺鄙な場所に居を構えるのはちょっと……」
「おい怒るぞ。マドは俺の嫁がいる町だ」
「嫁ってイリットちゃんか?カワイイよな、彼女。俺の姉ちゃん程じゃねえけど」
「喧嘩売ってんのかぶっとばすぞ。イリットは世界の誰よりも可愛くて綺麗で愛らしい」
「静かにしなさい、二人してみっともない」
言って女は、ボトルを傾け、ロックグラスに琥珀色のテキーラを注ぐ。
「おいおい、お開きだってのにまだ飲む気か?」
「最後よ最後。別れ酒ってやつ」
「はあ。まあ、いいけどさ」
なみなみと注がれたグラスが三人に行き渡る。その時、少年の足下を柔らかい毛皮が撫でた。
「なんだポチ、そんなとこにいたのか」
テーブルの下から現れたのは、茶色い毛並みの犬だった。毛づやのいい小型犬で、くりくりした黒い瞳が可愛らしい。
「そういえばポチはどうするの、ケン。連れてくの?」
「ああ。一番最初の仲間だし、俺が面倒みるよ。イリットにも懐いてたし」
「ま、それが妥当だな。俺のオヤジはあんまりイヌ好きじゃねえしな。大事にしてくれる人間と一緒にいた方が、イヌも幸せさ」
「実家を継ぐつもりなの?」
「いや、先に働いてた修理屋かな。大分怒らせちまったけど、グラップラーも壊滅したから、雇い直してくれるだろう。ミシカは?」
「アタイはまた流れるよ。ヴラドが消えても残党はいる。そいつら全員根絶やししなきゃ気がすまないね」
男は苦笑いをしながら言う。
「らしいっちゃらしいが、無茶はすんなよな。会う度会う度、死体になってるのを見るのはゴメンだぜ?」
「やめてよ、もうあの頃とは違うんだから。 ケンは?まだハンターを続けるの?」
少年は犬の頭を撫でる。犬は気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「どうかな。クルマも爆発の時に吹っ飛んでどっか行っちまったみたいだし」
「バトー爺さんに造って貰えばいいじゃねえか」
「悪くない案だけど、鉄屑を集める作業はもうこりごりだ。 取りあえずマドに戻って、それから考えるよ。のんびりやるさ」
少年はグラスを手に取った。
「留まるなら落ち着くし、落ち着かないなら、また旅に出る。俺達は生きてる。だから、なんでもできるさ」
「……ああ」
「……そうね」
二人もグラスを手にした。
短くない時間を一緒に過ごした。だから雰囲気で分かる。このメンバーが顔を合わすことは、恐らくもうないのだろうと。
復讐の旅だった。その目的が果たされた今、チームを組んでいる意味はない。だがその道中はビジネスライクで無味乾燥なものではなく、刹那的な刺激と濃厚な平穏に溢れた、確かに楽しい時間でもあった。
だから、こうやって締めるのが、筋というものだろう。
男は言う。
「故郷に」
女は言う。
「友情に」
そして、少年は言った。
「……
カキン、とグラスが鳴って。
「――ワンっ」
と、犬が吠えた。
こうして、一つのチームは解散を迎えた。
復讐から始まった旅は目的を達し、彼らは英雄と讃えられた。
しかし、この物語は英雄の足跡を辿るものではなく、その後の世界の軌跡を追う物語である。
例え名だたる偉人達が幾度も世界を救ったところで、荒廃した世界が滅びゆく様を変えられる訳ではない。彼らは救う手は持っていても、変える術は持ち合わせていないからだ。
だから、そう。もし世界を変えられるとするならば。
それは英雄によってではなく、正義も悪虐もない、有象無象の手によるのだろう。
これは、その後の人々の物語。
用語&解説
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※22/03/20 本文を修正