戦車つながりという事で一応。
広江礼威先生の「341戦闘団」。オススメなのでぜひご覧になってください。
九話目です。
空に向けての機銃掃射。
典型的な威嚇だ。示威行動に出れるということは、相手には精神的に余裕があるということだが、ミードからするとこの声の主は馬鹿っぽいので、単純に頭数を揃えているから安心しているだけだろう。
では、具体的な人数はどれほどか。
ミードは目を閉じ、耳をすませ、鼻から息を吸い込む。
埃に混じる硝煙と鉄鋼の匂い。それらに、人間のオス特有の、脂肪分の強い汗の匂いが重なる。
この匂いが強い。清潔でない、というのもそうだが、それ以前に人数が多いからだろう。イヤな匂いが、乾いた風に乗ってきて不快だ。
撃鉄を起こす音。マガジンを入れる音。スライドを引いた音。火器を鳴らす様々な音に、下卑た笑い声が入り混じる。
靴音も多い。バタバタ駆ける奴が多いが、スパイクに絡んだ土を取ろうとこそぐ音もする。
十人弱の集団と判断。
統率が取れてないのは、見ずとも明らか。
「……いーちっ!」
カウントが始まる。
ミードは老婆に話しかけた。
「ババア、生きてるかー?」
「……幸か不幸か、まだ生きとるわ」
カウンター越しに、老婆の声が聞こえる。
「確かに、遅かれ早かれ畑の肥料になってもおかしくねーな。栄養満点、枯れた大地も潤うぜ」
「笑えない話じゃの」
「人間食ってるモンスターを食って生きてるわけだしな、あたし達」
「にぃーっ!」
「さてババア。大地の肥やしになるのを後回しにできる方法があんだが、聞いてみるか?」
「嫌な予感しかせんが……どうするつもりじゃ」
「今、あたしの左手には銃が収まってる」
「さーんっ!」
「……殺り合うつもりか?」
「つもりじゃねー、殺るんだよ。ついでに命を助けてやろうってだけさ」
「……何でそんな話をする。勝手に出ていって勝手に殺し合えばいいじゃろう」
「よーんっ!」
「ま、そーなんだけどな。勿論、目的があってのことだぜ」
「何じゃそれは」
「簡単なことさ。
今すぐ死にたくなきゃ、あのブツよこしな。
そうすりゃー、ついでに助けてやんよ」
ガチリ、と安全装置が外れる。
老婆の胸中に緊張が走り、同時に困惑を覚える。
そして、その意図を理解する。
建物の外にいる愚連隊。その目的はバザースカの占領と統治だ。しかし集団の戦闘力と維持管理能力は別種であるから、彼らがバザースカを活動拠点にするつもりなのだとしたら、戦闘以外の雑務は立場の弱い者に押しつけて、分業化してしまった方が効率的である。
つまり、多少の死傷者を出すとしても、町の人間を全滅させることはないのである。
老婆は生き長らえる可能性がある。それもある程度の、高い確率で、死亡を回避できるのだ。
だが少女は本気で殺すだろう。
即座に、この場で、老いた白髪頭を、弾丸で掘削してしまうだろう。
老婆は目の前の少女が《
状況を有効に使った脅迫。商品を惜しめば死に、くれてやれば助かる。
どうするかなど聞くまでもない。金の為に命を落とすなんて、こんな閑散とした町でも笑い者だ。
「ごーっ!」
「……一つ聞きたい」
「あんだよ」
「嬢ちゃん、外の連中に勝てるのか?」
「ろーくっ!」
「Ham,しょーもねーこと聞くんじゃねーよ」
ミードは言った。
「粉になるまで、ほじくり返してやるよ」
「ななーっ!」
ミードは腰元のポーチから、楕円型の球を取り出す。DDパイナップルだ。頭頂部のピンに手をかける。
タイミングとしては次だ。コイツを奴らに食らわせ、先手を奪う。
「はーちっ!」
「Set――」
カウンターの影から身を起こす。
割れた窓から、外の景色が覗く。
小銃を構えた男が数人、ペンキでマーキングされた装甲車が二両。
ミードはこの手榴弾を歩兵――そう呼ぶにはおこがましい、防具もマトモに揃えられていない、ただのチンピラだが――に向けて放つつもりだったが、標的を装甲車に変えた。
目標は左。カーキ色のクルマ――の、砲口。
「――Hut!!」
旧時代の
格子状に走る溝を指にかけて、横回転を描く様にぶん投げる。
弾丸さながらに空気を裂いて一直線。
砲塔に備えた95ミリ砲へ、寸分のズレなく侵入し。
ズガアァンッ!!
砲身から黒煙が上がる。
普段から炸薬を爆発させているのだ、ハンドグレネード程度の炸裂で壊れるほどヤワではない。
しかし、明らかにいつもの砲撃音とは違う爆発音が、突然に大砲からすれば、歩兵の意識はそちらへ向く。
そのスキを逃す手はない。
「うぎゃあっ!?」
「ぐがはッ!?」
右手に究極イーグル。
左手にデスペローダー。
割れた窓越しに発射された弾丸が、歩兵達を襲う。
歩兵はそれぞれ体格が違う。デカいのもいればチビたのもいるし、恰幅のよい奴らに混じってガリガリな男もいる。
それらのデコボコガタガタな的の頭部を、確実に弾丸で貫く。
「Thank your god,dick faces!!」
ミードはカウンターを足蹴に跳び上がり、窓から外へ躍り出た。
「……I'll reborn you from your mother's womb.」
「テメエッ、これでもくらえ!」
口汚く罵りながら、両手で携えたショットガンをミードに向ける。
粒状の散弾を多数詰め込んだ実包は、発砲とともに放射状に発射される。故に近距離での面制圧に優れている。窓から飛び出して壁を背にした少女に対しては、非常に有用なシチュエーションと言えた。
ただし相手は《掘削作業》だ。理性を衝動で制御する狂犬である。
引き金が引かれる寸前、ミードが地を跳ねて接近する。
タックルで押し倒す様に低空を翔けるミードに、歩兵は反応できなかった。
中腰に構えたショットガンのその下、鼠蹊部に二つの銃口が押し当てられたその時、ようやく歩兵は目の前の小娘が、人の皮を被った猛獣だと知った。
「――――ひ」
ボジュウッ! と歩兵の背から鮮血が吹き出る。
骨肉に包まれた弾丸はあらぬ方向に抜け出て、三本の赤い噴水を造りだす。瞬間的に皮を破り、肉を突き、臓を削り、骨を砕かれた男は、失血するよりも早く、ショックで死んだ。
「――
七時の方向。
ミードからは、ちょうど死角になっている場所だった。
レスラー体型の男だ。斧を振りかぶっている。くたばった仲間ごと両断し、金色の頭蓋を叩き割ろうと、奇声と気勢を上げて襲いかかってくる。
ミードは全く動揺しない。
荒野の土は乾燥しているものだが、建造物の近くの土は、人や物やモンスターで踏み固められている。硬くはあるが脆くもあるので、軽い摩擦でも十分に掘れる。
落ち着きを保ったまま、左脚のウェスタンブーツで蹴り上げて。
踵で掘り返した土塊を、レスラーに向けて放り込む。
「うべっ!?」
拳大の土が口の中に飛び込んできた。
絶対に消化できないジャリジャリしたマズイとも表現できない異物感に、レスラーは怯む。
その隙が致命となった。
翻ったイーグルが、鼻先で睨む。
「取った? 脳ミソをかよ」
口から土塊を吐き出すまでもなく、爆ぜた口内から血まみれの土が飛び散った。
顔を掘られた衝撃で、レスラーはうつ伏せに倒れた。
ギャギャギャッ!!
ミードが空色の目を向けると、装甲車が一両、バック走行を始めていた。
「……流石にちっとは冷静なヤツもいるか」
距離を取って攻撃するつもりだ。
さしものミードも、白兵戦のままクルマを相手にするのは分が悪い。
今のミードの装備では、クルマに対しては有効なダメージは与えられない。先のDDパイナップルがいい例で、手榴弾程度の威力では、戦闘仕様の車両の装甲を破壊するには弱いからだ。
ではどうするか。
答えは決まっている。
ミードはデスペローダーをホルスターにしまい、ポーチから別の拳銃を取り出す。
重厚な金属ではなくプラスチック的な光沢があるそれは、少女の手のひらに収まるぐらいに小型だ。ともすればオモチャに見えるが、しかし手に伝わる重量は比ではない。ズシリと重く、ある意味では究極イーグルやデスペローダーよりも、ずっと危険な代物である。
とはいえ、これで装甲車とやり合えるとは思っていない。
クルマの相手は、やはりクルマである。
駆け出した先にはもう一両の装甲車。
先に爆弾を投げつけたクルマだ。未だ混乱しているのか動きがない。ミードは運転席側のタイヤと足場を使い、クルマの上部へ駆け上がった。
足下には出入り口としてハッチがある。このハッチのヒンジは、リングに太い鉄棒を通したシンプルな造りで、耐久性に優れる。生半可な威力の銃撃では傷一つつかない。
ミードは左手の銃をヒンジに向ける。
引き金を引く。
ブシュウッ! と勢いよく発射されたのは、弾丸ではなく液体だった。その粘度の高い白濁液がかけられたヒンジは、液体と接触すると同時に溶けだした。
破壊できないなら溶解する。強力な酸液を噴射する酸鉄砲により、蒸し焦げた嫌な刺激臭が立ち上るが、気にしない。
そこに弾丸を撃ち込んでヒンジを破壊する。ただの歪んだ鉄板となったハッチを蹴り飛ばし、開いた穴から飛び降りる。
「――ぐへっ!?」
操縦士の脳天めがけて両足で着地。
首の骨が折れた様な感触がしたが、それも気にしない。
死体を引き摺り倒して、代わりに運転席に座る。狙い通りにエンジンはかかったままだ。
コイツで雑魚共を鉄屑に変えてやる。
当然だが、このクルマの射撃統制システムはミードのゴーグルとリンクしていない。よってモニターに映し出された照準サイト、または備え付けの補助照準器を使わなければならない。
ミードの戦闘センスは天性のもので、かつ一級品だが、馴染みのない武装では戦いにくいのも確かだ。
例えば、Cユニットは自動で照準を補正する能力があるが、いざ発射すると狙いとはズレた箇所に着弾した、なんてことは往々にしてある。
この補正をさらに補正するのが、ハンターとしての腕の見せ所だ。しかし、そのクルマの癖を掴むには相応の時間が必要である。早急に敵をブチ殺さなくてはならないミードに、健康体操で身体を慣らしている暇はない。
だからこうする。
ミードは、思い切り全力でアクセルを踏んだ。
車輪が空転した次の瞬間、グンッと勢いよく加速した。
急発進した装甲車が、体勢を整えた相手の照準から外れる。
接近してくる同型のクルマを捉える。再度バックしてさらに距離を取るか、砲の角度を調節し直すか。
迷っている時間はない。
ないが、選択している時間も、また、なかった。
後退するよりも速く前進し、あっという間に距離を詰める。
95ミリ砲の砲塔が動いたが、ミードは構わずアクセルを踏み続ける。
「あたしなら」
カーキ色のシャーシが目前に迫る。
それでもミードはスピードを落とさない。
「あたしなら、退がんねーで轢き殺したぜ」
激突した。
十数トンの鋼の塊同士の衝突。
機関部を保護する衝撃吸収システムによりあらかたの衝撃は緩和されるが、それでもエネルギーは相当なものだ。
それにミードはシートベルトをしていない。車内を跳ね回った末、搾りたての果汁百パーセントジュースになってもおかしくないが、ミードは前方にひどくつんのめっただけで、らしい怪我はなかった。
対する装甲車はバランスを崩し、横転寸前だったが、地面を捻るように車輪が動き、踏みとどまる。フロント部の装甲はいくらか凹んでいたが、まだまだ戦闘は可能だろう。
だが可能と実行は別のものだ。
スキを晒した奴は即効で食われる。
「
精を解き放つように、砲弾が吐き出される。
超至近距離弾がフロントガラスから装甲を貫く。
偶然にもエンジンには接触しなかったようで、車体は一本のドリルが通ったように大穴を開けている。
操縦士は直撃を受け、血煙となって消えたようだった。
「――ああ? 徹甲弾かコレ。マジでブチ込んでイカせちまったなこりゃ」
緊急かつその場のノリで動いていたから、装填されている砲弾の種類を確認していなかった。
開いた穴の先は、普段と変わらない地面だった。なんてことはない、乾いた砂地。一摘み程度の興味も失せたミードは、すぐに機銃を操作しにかかる。
銃声と叫声に砲声。ほんの数十秒で一気に上がるには不自然だ。しかも明らかな鉄塊の破壊音が閑静な土地に響けば、何かあったかと気にはなる。
バタバタと足並みを乱しながら、町に広がったチンピラ兵士が集まってくる。虫のように。
そして少女は、矮小な虫ケラは踏み潰す主義だ。
装備されていた7ミリ機銃が動く。
同時にうんとアクセルを吹かす――。
用語&解説
・装甲車
クルマの一種。戦車ではなく装甲戦闘車両。ゲーム中では人が寄り付かなさそうな砂漠に埋まっており、金属探知機で探らなければ入手できない。ヒントもほぼないに等しいので、未入手のままエンディングを迎えるプレイヤーも少なからず存在した。
モデルは自衛隊の82式通信指揮車と言われている。
・95ミリ砲
クルマ用装備で大砲(ATK330~396)。特筆すべき点はない。
・ショットガン
言わずと知れた白兵戦武器(ATK35)。攻撃範囲内いる敵を複数体まとめて攻撃できる。人型のモンスターがドロップしやすいので、武器屋で買わなくても数を揃えられたりして、序盤の金策にも貢献した。
・あぶないオノ
敵一体を攻撃する白兵戦武器(ATK55)。植物系のモンスターに大幅なダメージ補正が入る……が、攻撃力が物足りないので採用されない事が多い。
・酸鉄砲
広範囲を攻撃できる白兵戦武器(ATK155)。一定確率で敵を酸に侵し、ターン終了時に小ダメージを与える。守備の堅いマシン系モンスターも酸状態にできるので、汎用性はかなり高い。
・徹甲弾
鋼鉄等で弾体の質量と硬度を大きくし、装甲を貫通させる目的の砲弾。マシン系モンスターのパーツを破壊し、行動を制限する事ができる。
・7ミリ機銃
クルマ用装備の機銃(ATK100)。実はクリティカル率が他の装備に比べて6倍あるという驚異の性能を誇るが、いかんせん攻撃力が低い。序盤では重宝する。
バギー入手時の初期装備で非売品。コレクター気質のプレイヤーは大事に保管しておく事。