以前、ブックオフの中古ゲームコーナーで「METALMAX2:ReLOADED」が売っていたのですが、なんと値段が1万円でした。
5千円弱で買った私は非常に幸運だったと思います。
十話目です。
数分後には、町中に死体が転がっていた。
穴だらけでハチの巣状態の者。
頭部が弾け飛んで首なしの者。
四肢が欠けてダルマな者。
轢き潰されて挽き肉な者。
引きずられ過ぎて腹が
多様な死に様の人間で描かれる輪。
真っ赤な肉がそこら辺に鎮座する光景は、意味不明な前衛芸術のように趣味が悪い。ここが地獄の門の入り口なのだと、視覚から訴えかけているようだった。
その殺しも殺した若き死神は、血に塗れた車両を降りる。
「あっはははははは! いやー久しぶりの大立ち回りだったわ。タイマンもいいけど、こーいうのも悪くねーよな」
死体と死体の合間を堂々と歩く。
ウェスタンブーツに赤黒い泥がついても気にしない。
武装集団を一人で皆殺しにしたミードは、意気揚々と建物の中へと戻る。
「終わったぜー。生きてる奴は死んでる奴片付けてくれよな、外のも含めて」
声を張り上げて後処理を促す。
つかつかと赤い足跡を残しながら、右手のカウンターに近づく。身を乗り出して、床に伏せていた老婆に話しかけた。
「ババア、死んでるかー?」
「……行きとるわい」
「Good.」
ミードはカウンターを見渡す。
自覚できるぐらいに派手に撃ちまくったから、もしや巻き添えをくっているのではと思ったが、どうやら無事なようだ。
「んじゃ、約束通りコイツは貰ってくぜ」
ミードは紙箱を手に取って言った。
「……しかたないの。持っていけ」
「おーよ。ま、今度はちゃんと買物するさ。いつか、多分」
「今日みたいにならなきゃ何でもええわい」
「だろーな。じゃ、あばよ」
「あばよ、じゃないわよ。何やってんの、あなたは」
振り返ると、赤い髪の女性がいた。
相棒のメスカルである。
「何って……買い物?」
「強請り集りの類いじゃ」
「ちょ、ババア余計なこと言うな」
「ふうん……外の死体は何なのかしら」
「そりゃアレだよ。人助けだよ」
「好き勝手に撃ちまくった結果じゃ」
「おいコラ」
「へえ……ミード」
「あん?」
「よくやったわ。撫でてあげる」
メスカルは手をミードの頭に乗せる。
柔らかい金髪を触り、手を離す。
そして拳を握り、全力で鉄槌を振り落とした。
「イッデぇッ!? 何すんだテメー!!」
「無意味に揉め事を起こしたお仕置きよ」
「起こしてねーよ巻き込まれたんだ! 誰が好き好んで、んなlosers相手にするか!」
「この前、《人がゴミのようだごっこ》したいって言ってたじゃない」
「……言ったか? そんなこと」
「言ったわよ。まあ、もう今更だけど」
メスカルはミードを引き連れて、建物の外に出る。
町の外、シャベルで穴を掘っている男達がいた。あの穴に死体を投げ入れるのだろう。
町の女性は、血の染み込んだ土をすくう。死体と一緒に埋めるのか、色が見えなくなるまで掘り、その土を穴のそばに捨てる。
恐らく墓標は立たない。穴の広さからして、埋葬ではなく処分であることは明らかだった。
存在した痕跡は物理的に抹消される。
善悪を問わず、しくじったヤツの末路などこんなものだ。
「私も数だけは多い木偶の坊が相手だったなら、文句はないわ。頭だって殴ってないし、本当に撫でてあげてたわよ」
「あっそ。つーかまだイテーんだけど」
「我慢しなさい。そして反省しなさい」
メスカルはミードが乗っていた、穴の開いていない装甲車を指差す。
「……見覚え、あるわよね」
「……Fack.」
装甲車のドアには、とある絵が描かれていた。
デフォルメされた柑橘類の断面図、その真上からナイフが突き立てられたイラスト。
それは、かつての敵対者のシンボルマーク。
「――リモンチェッロファミリー。また動き出したみたいよ。面倒な相手が」
「…………」
「で、どう落とし前をつけてくれるのかしら」
ミードは苦々しげにそのマークを見ていた。
リモンチェッロファミリー。
元はデルタ・リオに存在した商業組合の一派閥であり、アシッド・キャニオン北部を中心に勢力を広げていた。
この集団はモンスターや盗賊まがいの賞金稼ぎ達から町を守る、自警団のような役割を担っていた。
そして次第に役目を笠に着て、料金を請求するようになった。
前線で体を張る以上は致し方なしと、町の住人達は報酬を払う。金のやり取りが始まれば、自然、この一派に
メスカルと出会う以前、ミードはこの組織に身を置いていた。
正確にはリモンチェッロファミリーから雇われていた。
アルマニャックグループとの抗争において、この組織は多くの兵力を失っていた為、外部から強者を募る必要があったのだ。
最終的にはミードはこの組織を離れることになるのだが、その経緯は決して円満なものではなかった。
少なくとも、関係はよろしくない。良く言えば豪放磊落で、悪く言えば能天気なミードが、嫌な記憶として認識しているぐらいには。
脳が沸き立たんぐらいに高揚していたミードには、このマークが目に入らなかったのだった。
「――ああ、分かったよ。謝りゃいーんだろ謝りゃ。どーもスイマセンでした」
「謝罪を求めてるように聞こえた? まあいいけど……最後、リモンチェッロはどうだったの?」
「ボス含め幹部っぽい奴らは皆ぶっ殺した。けどツラ確認したわけじゃねーし、もしかしたら撃ち漏らしたのもいるかも」
「具体的な損害は?」
「アジトにいたのはほぼぶち殺し。最終的に建物がぶっ潰れたから、九割以上が死んだと思う。装備もクルマもそれの巻き添えで、ついでにアルマニャックの連中も何人か道連れ」
「概ね私の持ってる情報通りね。じゃあリモンチェッロファミリーの残党の仕業って認識でいきましょう。最寄りのオフィス……いえ、ハトバよりはイスラポルトね。情報の確度が違う」
「えー……」
ミードは難色を示した。
「それ、あいつに会うってことだろ?」
「そうよ。クリークに会うの」
「ヤだぜあたし。あいつと顔合わせるの」
「我慢しなさい。あの子はオフィスの中では役割が特殊だから、オフィスの誰よりも情報に精通してる。きっとリモンチェッロファミリーの動きも掴んでるはずよ。それに」
メスカルは目の前の荒野を眺めながら、言った。
「逃げなきゃいけないわ。あなたのやらかしに気づかれる前に」
「……I see.」
かつて壊滅に追い込んだリモンチェッロファミリー。組織は再興しているようではあるが、どこまで勢力を回復させているかは分からない。
追加の人員が派遣される可能性を考えると、この場から去るのは無難な選択だ。
「飛ばすわよ。日が落ちる前にはイスラポルトに着かなきゃいけない」
「ハトバから連絡船に乗りゃーいーじゃねーかよ。でなきゃアズサのオフィスでも……」
「連絡船はデルタ・リオ経由よ。元とはいえ組織のお膝下、リモンチェッロファミリーが再びそこを拠点にしてる可能性は否定できない。アズサは平和ボケしてて信用できない」
「んだよその理由。ただの印象じゃねーか」
「上層階への合言葉がダダ漏れなのに変えようとしない町が、平和ボケしてなくてなんだっていうのよ」
「そりゃそーだな。訂正するよメスカル」
「……それに、この町よりも早く、拠点になってるかもしれないわ」
アズサはバザースカの西に存在する、山林に囲まれた町だ。
交易が盛んな町ではない上、人口比率は老人の方が多い。自衛の手段がない訳ではないが、高齢化社会故か、他の町に比べればのどかな土地である。
要はバザースカと同じだ。他所と比べて、危機意識が低い。
そういう町が狙われる。悪意を持ってルールを侵す無法者達にとっては、格好の獲物だ。
「そんな場所にゃ行けねーか」
「確率はゼロに近いけれどね。否定はできない以上、まず間違いなく拠点にならない町に移動する方が賢いわ」
「そーいう意味でもイスラポルトが最適っつーワケだ」
「ええ。あそこはアルマニャックグループの本拠地でもある。敵対勢力の目の前にベースを構えることはないでしょう」
白線が引かれた駐車場らしき箇所にピタリと綺麗に駐められた、漆黒のバギーに乗り込む。
後始末に勤しむ住人を尻目に、バギーは勢いよく発進した。
「ところで」
「あん?」
「あのお婆さんから強請り取ったものって何なの」
「……別に大したもんじゃねーさ」
ミードは懐から紙箱を取り出す。それを運転席のメスカルに投げた。
左手をハンドルに添えたまま右手でキャッチし、メスカルは器用に指で箱を開ける。
「あら珍しい。武器じゃないのね」
収められていたのは髪飾りだった。
蝶の銀細工である。
翅脈の隅々まで細く繊細に編み込まれた、美しい一品。網目の一つ一つにサファイアとエメラルドがはめ込まれていて、見て分かる程に高級品であった。
「私はまた、弾丸でも入ってるのかと」
「ま、確かにあたしの趣味じゃねーよ」
「老狼にでも売りつける気? あのお爺さんなら、こういう美術品は沢山持ってそうだけど」
「いや違え」
「じゃあ……ビリージーン?」
「誰だよそれ」
「レズビアンのソルジャー」
「知らね」
「でしょうね」
「つーかあたしレズじゃねーし」
「冗談よ。で、どうしたのよこれ」
「んー、まあ……」
ミードは助手席の窓から、景色を眺める。
断崖絶壁の先に広がる湖。
魚が水面を跳ね、鳥型のモンスターを飲み込んだ。
「……やるよ、それ」
「え?」
「あたしの趣味じゃねーから。くれてやるよ、そのガラクタ」
メスカルは驚いた。
ミードは所有物に対して、基本的に執着が強い。
金銭は元より、タマゴ焼きの一欠片でさえも他人には譲らない。
このコンビの財政を握っているのはメスカルだが、実際それを決める時にも一悶着あったわけで、つまり、そんなミードが他者に物品を渡すのは、極めて珍しいのである。
ましてやミードは装飾品の類が苦手だ。嫌気があるものを好んで集めるような酔狂さも、持ち合わせていない。
「……そう。ありがたく頂くわ」
「普段使いはすんなよ。ちゃんと男をオトす時に着けるんだぜ?」
「その点はあなたより経験豊富だから。心配は無用よ」
「……てかメスカルの男性経験って聞いたことねーよな。どーなの、その辺」
「……秘密よ」
「もしかしてメスカルも」
「秘密だけど処女ではないから」
「反応が速えな。ムキになんのは乙女の証拠じゃねーの?」
「自己紹介どうもありがとう――色気のある話が得意じゃないだけ。セクシャルな話題はついていけないのよ。知性がないから」
「あっそ……知性のあるエロってどーいうんだろーな」
「生殖過程を学術用語で事細かく解説すれば知的かしらね」
「生殖……ああ、いいやわかった。後は?」
「後も何も……あなた何が知りたいのよ」
「それこそ秘密だよ」
取り立てて意味のない会話。
その間、ミードは流れていく風景に身を任せていた。
メスカルとは顔を合わせずに、荒野の先を見ていた。
「メドヴーハなら色々知ってそーだな」
「あの色魔にクルマ以外で関わるとロクなことにならないわよ」
「色魔……どーいう意味?」
「エロスの妖怪、性欲の悪魔」
「ああ、bitchか。そーだな、ありゃ魔女だからな。あのオッサン――名前何だっけ? 一晩明けたら死にそうになってたし。賢い奴はアレだ、アレ。うん、アレ」
「……君子危うきに近寄らず、かしら」
「そう、ソレだ。多分」
景色がぐんぐんと移り変わる。
当然だ、メスカルがアクセルを踏み続けている。速度が上がるに従ってメスカルの口元も吊り上がっていき、加速度的に彼女のテンションも上がっていく。
窓の外を眺めていたミードには、それが何に起因していたのか知るよしもない。
荒野を爆走するバギーが、トンネルを潜った。
轍を残し、黒いボディが暗闇に溶け込む。
風に塗り潰されて、跡形もなく轍も消えた。
用語&解説
・ 宝石の髪飾り
女性キャラが装備できるアクセサリ(DEF2)。ついでに男らしさを下げてくれる。デザインに関しては作者オリジナル。
・ ビリージーン
マドの町の酒場にいるソルジャー。男性が話しかけるとそっけないが、女性が話しかけると気さくになり、酒を奢ってくれる。
そして酔い潰れたら宿屋で介抱してくれる。つまりそういうこと。
用語解説が短い。これは驚異的なことです。
感想、誤字報告等よろしくお願い致します。