荒廃した世界の現実譚   作:石持克緒

11 / 11



 以前、ブックオフの中古ゲームコーナーで「METALMAX2:ReLOADED」が売っていたのですが、なんと値段が1万円でした。
 5千円弱で買った私は非常に幸運だったと思います。



 十話目です。



10.売る阿呆に買う阿呆

 

 

 

 数分後には、町中に死体が転がっていた。

 

 穴だらけでハチの巣状態の者。

 頭部が弾け飛んで首なしの者。

 四肢が欠けてダルマな者。

 轢き潰されて挽き肉な者。

 引きずられ過ぎて腹が()いた者。

 

 多様な死に様の人間で描かれる輪。

 真っ赤な肉がそこら辺に鎮座する光景は、意味不明な前衛芸術のように趣味が悪い。ここが地獄の門の入り口なのだと、視覚から訴えかけているようだった。

 

 その殺しも殺した若き死神は、血に塗れた車両を降りる。

 

「あっはははははは! いやー久しぶりの大立ち回りだったわ。タイマンもいいけど、こーいうのも悪くねーよな」

 

 死体と死体の合間を堂々と歩く。

 ウェスタンブーツに赤黒い泥がついても気にしない。

 武装集団を一人で皆殺しにしたミードは、意気揚々と建物の中へと戻る。

 

「終わったぜー。生きてる奴は死んでる奴片付けてくれよな、外のも含めて」

 

 声を張り上げて後処理を促す。

 つかつかと赤い足跡を残しながら、右手のカウンターに近づく。身を乗り出して、床に伏せていた老婆に話しかけた。

 

「ババア、死んでるかー?」

「……行きとるわい」

「Good.」

 

 ミードはカウンターを見渡す。

 自覚できるぐらいに派手に撃ちまくったから、もしや巻き添えをくっているのではと思ったが、どうやら無事なようだ。

 

「んじゃ、約束通りコイツは貰ってくぜ」

 

 ミードは紙箱を手に取って言った。

 

「……しかたないの。持っていけ」

「おーよ。ま、今度はちゃんと買物するさ。いつか、多分」

「今日みたいにならなきゃ何でもええわい」

「だろーな。じゃ、あばよ」

「あばよ、じゃないわよ。何やってんの、あなたは」

 

 振り返ると、赤い髪の女性がいた。

 相棒のメスカルである。

 

「何って……買い物?」

「強請り集りの類いじゃ」

「ちょ、ババア余計なこと言うな」

「ふうん……外の死体は何なのかしら」

「そりゃアレだよ。人助けだよ」

「好き勝手に撃ちまくった結果じゃ」

「おいコラ」

「へえ……ミード」

「あん?」

「よくやったわ。撫でてあげる」

 

 メスカルは手をミードの頭に乗せる。

 柔らかい金髪を触り、手を離す。

 

 そして拳を握り、全力で鉄槌を振り落とした。

 

「イッデぇッ!? 何すんだテメー!!」

「無意味に揉め事を起こしたお仕置きよ」

「起こしてねーよ巻き込まれたんだ! 誰が好き好んで、んなlosers相手にするか!」

「この前、《人がゴミのようだごっこ》したいって言ってたじゃない」

「……言ったか? そんなこと」

「言ったわよ。まあ、もう今更だけど」

 

 メスカルはミードを引き連れて、建物の外に出る。

 

 町の外、シャベルで穴を掘っている男達がいた。あの穴に死体を投げ入れるのだろう。

 町の女性は、血の染み込んだ土をすくう。死体と一緒に埋めるのか、色が見えなくなるまで掘り、その土を穴のそばに捨てる。

 恐らく墓標は立たない。穴の広さからして、埋葬ではなく処分であることは明らかだった。

 存在した痕跡は物理的に抹消される。

 善悪を問わず、しくじったヤツの末路などこんなものだ。

 

「私も数だけは多い木偶の坊が相手だったなら、文句はないわ。頭だって殴ってないし、本当に撫でてあげてたわよ」

「あっそ。つーかまだイテーんだけど」

「我慢しなさい。そして反省しなさい」

 

 メスカルはミードが乗っていた、穴の開いていない装甲車を指差す。

 

「……見覚え、あるわよね」

「……Fack.」

 

 装甲車のドアには、とある絵が描かれていた。

 

 デフォルメされた柑橘類の断面図、その真上からナイフが突き立てられたイラスト。

 

 それは、かつての敵対者のシンボルマーク。

 

「――リモンチェッロファミリー。また動き出したみたいよ。面倒な相手が」

「…………」

「で、どう落とし前をつけてくれるのかしら」

 

 ミードは苦々しげにそのマークを見ていた。

 

 

 

 リモンチェッロファミリー。

 元はデルタ・リオに存在した商業組合の一派閥であり、アシッド・キャニオン北部を中心に勢力を広げていた。

 この集団はモンスターや盗賊まがいの賞金稼ぎ達から町を守る、自警団のような役割を担っていた。

 そして次第に役目を笠に着て、料金を請求するようになった。

 前線で体を張る以上は致し方なしと、町の住人達は報酬を払う。金のやり取りが始まれば、自然、この一派に(かしず)く人間が増えていき、大本の組合を逆に吸収する一大勢力となる。またたく間にデルタ・リオの市場を掌握、町を牛耳る存在として、リモンチェッロファミリーが結成された。

 

 

 メスカルと出会う以前、ミードはこの組織に身を置いていた。

 正確にはリモンチェッロファミリーから雇われていた。

 アルマニャックグループとの抗争において、この組織は多くの兵力を失っていた為、外部から強者を募る必要があったのだ。

 最終的にはミードはこの組織を離れることになるのだが、その経緯は決して円満なものではなかった。

 少なくとも、関係はよろしくない。良く言えば豪放磊落で、悪く言えば能天気なミードが、嫌な記憶として認識しているぐらいには。

 

 脳が沸き立たんぐらいに高揚していたミードには、このマークが目に入らなかったのだった。

 

 

「――ああ、分かったよ。謝りゃいーんだろ謝りゃ。どーもスイマセンでした」

「謝罪を求めてるように聞こえた? まあいいけど……最後、リモンチェッロはどうだったの?」

「ボス含め幹部っぽい奴らは皆ぶっ殺した。けどツラ確認したわけじゃねーし、もしかしたら撃ち漏らしたのもいるかも」

「具体的な損害は?」

「アジトにいたのはほぼぶち殺し。最終的に建物がぶっ潰れたから、九割以上が死んだと思う。装備もクルマもそれの巻き添えで、ついでにアルマニャックの連中も何人か道連れ」

「概ね私の持ってる情報通りね。じゃあリモンチェッロファミリーの残党の仕業って認識でいきましょう。最寄りのオフィス……いえ、ハトバよりはイスラポルトね。情報の確度が違う」

「えー……」

 

 ミードは難色を示した。

 

「それ、あいつに会うってことだろ?」

「そうよ。クリークに会うの」

「ヤだぜあたし。あいつと顔合わせるの」

「我慢しなさい。あの子はオフィスの中では役割が特殊だから、オフィスの誰よりも情報に精通してる。きっとリモンチェッロファミリーの動きも掴んでるはずよ。それに」

 

 メスカルは目の前の荒野を眺めながら、言った。

 

「逃げなきゃいけないわ。あなたのやらかしに気づかれる前に」

「……I see.」

 

 かつて壊滅に追い込んだリモンチェッロファミリー。組織は再興しているようではあるが、どこまで勢力を回復させているかは分からない。

 追加の人員が派遣される可能性を考えると、この場から去るのは無難な選択だ。

 

「飛ばすわよ。日が落ちる前にはイスラポルトに着かなきゃいけない」

「ハトバから連絡船に乗りゃーいーじゃねーかよ。でなきゃアズサのオフィスでも……」

「連絡船はデルタ・リオ経由よ。元とはいえ組織のお膝下、リモンチェッロファミリーが再びそこを拠点にしてる可能性は否定できない。アズサは平和ボケしてて信用できない」

「んだよその理由。ただの印象じゃねーか」

「上層階への合言葉がダダ漏れなのに変えようとしない町が、平和ボケしてなくてなんだっていうのよ」

「そりゃそーだな。訂正するよメスカル」

「……それに、この町よりも早く、拠点になってるかもしれないわ」

 

 アズサはバザースカの西に存在する、山林に囲まれた町だ。

 交易が盛んな町ではない上、人口比率は老人の方が多い。自衛の手段がない訳ではないが、高齢化社会故か、他の町に比べればのどかな土地である。

 要はバザースカと同じだ。他所と比べて、危機意識が低い。

 そういう町が狙われる。悪意を持ってルールを侵す無法者達にとっては、格好の獲物だ。

 

「そんな場所にゃ行けねーか」

「確率はゼロに近いけれどね。否定はできない以上、まず間違いなく拠点にならない町に移動する方が賢いわ」

「そーいう意味でもイスラポルトが最適っつーワケだ」

「ええ。あそこはアルマニャックグループの本拠地でもある。敵対勢力の目の前にベースを構えることはないでしょう」

 

 白線が引かれた駐車場らしき箇所にピタリと綺麗に駐められた、漆黒のバギーに乗り込む。

 後始末に勤しむ住人を尻目に、バギーは勢いよく発進した。

 

 

 

「ところで」

「あん?」

「あのお婆さんから強請り取ったものって何なの」

「……別に大したもんじゃねーさ」

 

 ミードは懐から紙箱を取り出す。それを運転席のメスカルに投げた。

 左手をハンドルに添えたまま右手でキャッチし、メスカルは器用に指で箱を開ける。

 

「あら珍しい。武器じゃないのね」

 

 収められていたのは髪飾りだった。

 蝶の銀細工である。

 翅脈の隅々まで細く繊細に編み込まれた、美しい一品。網目の一つ一つにサファイアとエメラルドがはめ込まれていて、見て分かる程に高級品であった。

 

「私はまた、弾丸でも入ってるのかと」

「ま、確かにあたしの趣味じゃねーよ」

「老狼にでも売りつける気? あのお爺さんなら、こういう美術品は沢山持ってそうだけど」

「いや違え」

「じゃあ……ビリージーン?」

「誰だよそれ」

「レズビアンのソルジャー」

「知らね」

「でしょうね」

「つーかあたしレズじゃねーし」

「冗談よ。で、どうしたのよこれ」

「んー、まあ……」

 

 ミードは助手席の窓から、景色を眺める。

 断崖絶壁の先に広がる湖。

 魚が水面を跳ね、鳥型のモンスターを飲み込んだ。

 

「……やるよ、それ」

「え?」

「あたしの趣味じゃねーから。くれてやるよ、そのガラクタ」

 

 メスカルは驚いた。

 ミードは所有物に対して、基本的に執着が強い。

 金銭は元より、タマゴ焼きの一欠片でさえも他人には譲らない。

 このコンビの財政を握っているのはメスカルだが、実際それを決める時にも一悶着あったわけで、つまり、そんなミードが他者に物品を渡すのは、極めて珍しいのである。

 ましてやミードは装飾品の類が苦手だ。嫌気があるものを好んで集めるような酔狂さも、持ち合わせていない。

 

「……そう。ありがたく頂くわ」

「普段使いはすんなよ。ちゃんと男をオトす時に着けるんだぜ?」

「その点はあなたより経験豊富だから。心配は無用よ」

「……てかメスカルの男性経験って聞いたことねーよな。どーなの、その辺」

「……秘密よ」

「もしかしてメスカルも」

「秘密だけど処女ではないから」

「反応が速えな。ムキになんのは乙女の証拠じゃねーの?」

「自己紹介どうもありがとう――色気のある話が得意じゃないだけ。セクシャルな話題はついていけないのよ。知性がないから」

「あっそ……知性のあるエロってどーいうんだろーな」

「生殖過程を学術用語で事細かく解説すれば知的かしらね」

「生殖……ああ、いいやわかった。後は?」

「後も何も……あなた何が知りたいのよ」

「それこそ秘密だよ」

 

 取り立てて意味のない会話。

 その間、ミードは流れていく風景に身を任せていた。

 メスカルとは顔を合わせずに、荒野の先を見ていた。

 

「メドヴーハなら色々知ってそーだな」

「あの色魔にクルマ以外で関わるとロクなことにならないわよ」

「色魔……どーいう意味?」

「エロスの妖怪、性欲の悪魔」

「ああ、bitchか。そーだな、ありゃ魔女だからな。あのオッサン――名前何だっけ? 一晩明けたら死にそうになってたし。賢い奴はアレだ、アレ。うん、アレ」

「……君子危うきに近寄らず、かしら」

「そう、ソレだ。多分」

 

 景色がぐんぐんと移り変わる。

 当然だ、メスカルがアクセルを踏み続けている。速度が上がるに従ってメスカルの口元も吊り上がっていき、加速度的に彼女のテンションも上がっていく。

 

 窓の外を眺めていたミードには、それが何に起因していたのか知るよしもない。

 

 

 

 

 荒野を爆走するバギーが、トンネルを潜った。

 轍を残し、黒いボディが暗闇に溶け込む。

 

 

 

 風に塗り潰されて、跡形もなく轍も消えた。

 

 

 

 

 

 

 




 用語&解説

・ 宝石の髪飾り
 女性キャラが装備できるアクセサリ(DEF2)。ついでに男らしさを下げてくれる。デザインに関しては作者オリジナル。

・ ビリージーン
 マドの町の酒場にいるソルジャー。男性が話しかけるとそっけないが、女性が話しかけると気さくになり、酒を奢ってくれる。
 そして酔い潰れたら宿屋で介抱してくれる。つまりそういうこと。



 用語解説が短い。これは驚異的なことです。

 感想、誤字報告等よろしくお願い致します。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。