荒廃した世界の現実譚   作:石持克緒

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本編、1話目です。






Story of the certain hunter.
1.バギー乗りの二人組


 

 抜ける様な青空の下は、砂と土が混じり合う荒野である。

 

 元は広大な森だったのだろう、辺り一面に枯れ木が繁茂しているこの土地は、通称《ホロビの森》と呼ばれる地域だ。《大破壊》による直接的な被害は免れた地域だが、それに伴う急速な気候変動や環境汚染の影響により地面が痩せ細ってしまい、立ち枯れた木々ばかりが立ち並んでいる。

 どことなく物悲しく、不気味で、不吉な雰囲気がする。そんな場所に好んで行くのは、大抵の場合、物好きばかりだと相場が決まっている。

 なにしろ本当に枯れ木しかないのだ。ハトバの町で一番の長生きと言われている老人曰く、大破壊以前は荒野や砂漠は珍しく、それを眺めるためだけに遠出する人間は多かったそうだが、今ではそんな景色は日常であり、珍しさもありがたみもありはしない。

 現代人にとって当たり前の風景とは荒野であり砂漠であり、海であり山であり、そして廃墟だ。世界全体が寂れているのだから仕方がないが、だからこそ、決して物見遊山で訪れる場所では、ホロビの森はないのである。

 

 しかし、そこを訪れる物好きは、一定数存在する。

 観光なんて日和った目的ではない、確固とした意志を持って足を踏み入れる者達が。

 

 例えば。

 

 例えば、無骨な大砲を取り付けた厳ついバギーに乗って。

 荒野を縦横無尽に爆走する様な、狂おしい程に酔狂な奴らが。

 

 この、枯れた森に、時たま表れるのである。

 

 

 

「うおおおおおおおぉぁあああああああっ!!」

 

 

 

 黒塗りのバギーが、木々の合間を縫って走っている。分厚い車輪が二列の轍を描く様は、まるで番の蛇の様だ。ぐねぐねと不規則にうねる砂の大蛇は、地平線の彼方から果てしない長さを這っていて、大きく特徴的な鱗の跡を地面に残していた。

 咆哮を上げるのは、運転手である女性だ。真紅の髪をゴーグルで束ねた美女が、狂ったように笑いながら吼えている。

 ぐるぐるぐるぐる、素早く左右に全力でハンドルを切るその姿は、まさしく走り屋でスピード狂であり、瞬きもしていないからか、眼が血走っている。それが彼女の赤い瞳と相まって、眼球が血で染まった様な錯覚を起こさせて、見る者を恐怖させる様な狂人さを、ありありと見せつけていた。

 

 しかし、その様を見ているのもまた、狂人である。

 

「あっははははははは!! やっべーやっべー!」

 

 金髪に空色の瞳をした少女である。ゴーグルキャップを被った美少女が、助手席で手を打ち鳴らしながら爆笑している。

 サクランHIが効きすぎて頭がトンでしまったのだ、と言われれば信じてしまいそうになる。右に左に身体が揺れるのも意に介さず、なにがおかしいのか、口汚く笑う様は実に悪魔的で、正しく狂っていた。

 

 だが彼女らは、所謂()()()ではない。テンションがハイになってしまっているだけである。

 戦闘に入ればリミッターが外れる。ただ、それだけだ。

 

 

 ズドォン、ズドォンと、轟音が響く。

 装甲の内側をも震わす衝撃。激しい地鳴りが、空気を通じて車体を揺さぶった。

 

 その元凶は、バギーの背後に迫る巨人である。

 極彩色の、鉄屑の巨人だ。

 

 《スクラヴードゥー》と呼称されるこの巨人は、身の丈5メートル強はある機械だ。ホロビの森を根城にするこのモンスターは、素早く動くものはなんでも敵として認識し、攻撃をしかけ、追いかけてくる。

 スクラップで構成された身体から鉄屑が剥がれ落ち、投げつけてくる。絶え間なく、連続して投擲されるそれは、隕石のようだ。

 蛇の轍を潰していく隕石を避けるバギー。鉄屑は枯れ木も巻き添えに薙ぎ倒していくが、黒塗りのバギーには当たらない。

 明らかに法外なスピードが出ているからだ。軽量の車体に高性能なエンジンを積んでいると見てとれるが、かなりの改造も施されているのだろう。マフラーから黒煙を撒き散らしながら、爆音を上げて疾走している。そして運転のテクニックも相当だ。背後からの攻撃を、障害物を避けながら躱すのは至難の技だ。それを容易に可能にする赤髪の彼女の実力は、相応のレベルに達しているのだろう。

 美女は限界までハンドルを切る。バギーがドリフトし、180度方向転換した。

 

「そろそろいくわよ! 合わせなさい、ミード!」

「Aye,ma'am!」

 

 赤髪の美女――メスカルがアクセルを踏み込む。同時に金髪の少女――ミードが、制御モニターを操作し、照準サイトと射撃統制システムを作動させる。そしてゴーグルを目元に下ろし、右側頭部のスイッチを押した。

 照準サイトがゴーグルに映し出される。ミードは座席に取り付けられた、二つのレバーを握った。

 黒塗りのバギーが急加速する。

 がくん、とミードはつんのめるが、いつものことである。もう慣れたし、こんな運転も嫌いじゃない。むしろ大好きだ。

 

 スクラヴードゥーが大きくのけぞり、灼熱の炎を放射した。バギーはすんでのところでそれを避け、自ら開けた距離を縮めていく。

 勢いよく、立ち枯れた木々が燃える。

 

「あっはー! よく躱せたな今の!」

「私を誰だと思ってんの!? 私よ!? 当然じゃない!」

 

 負けてらんねえ、とミードはレバーを操作して、砲塔を動かす。ゴーグルに表示されたサイトで照準を定め、左レバーの頭頂部に設置されているボタンに親指をかける。

 右手で制御モニターを操作して、《Cement Shell》を選択する。ガゴン、と地鳴りとは違う衝撃が、後方から響いた。

 狙いは巨人の足元。

 

「――Fire!!」

 

 轟音と共に打ち出された砲弾は隕石と火炎の嵐の中を抜け、巨人の脚部に命中する。

 スクラヴードゥーの脚部は多数のスクラップで構成されており、それを()()()()()移動する。驚異的なのは、そんな移動方法のくせにやたらと速いということだが、足が速いのならば遅くさせればいいだけのことだ。

 敵の足を止めるのは、古来より伝わる伝統的な戦法である。

 セメント弾は、砲弾内部の火薬や焼夷剤が詰められる部分に、ゲル状のセメントが詰められた砲弾だ。建築用のセメントと比べ、ごく短時間で硬化し始めるため、相手の行動を妨害するのに適している。

 特にスクラヴードゥーの様な足の速い相手には有効で、目に見えて動きが鈍くなった。

 

 ミードはすかさず通常弾(HEAT)に切り替え、砲撃する。

 

 酷い横揺れの最中で、見事に巨人の胴体に着弾させ、スクラップが爆発する。それを二度、三度と繰り返した時には、巨人との距離は10メートルもなかった。

 

 スクラヴードゥーは右腕を振り上げる。

 左腕こそ普通だが、右手は夥しい量の棘がついた球状の鉄塊である。在りし日の打撃武器であるモーニングスターを思わせるそれは、非常に巨大で、そして強大だ。質量と硬度に任せた一撃は、ヒットと同時に対象を押し潰し、修復不可能な残骸に変えるだろう。

 無論、当たれば、だが。

 

「だらっしゃああああああああああっ!!」

 

 スクラヴードゥーの振り下ろしの右。それを振り下ろす直後、メスカルはハンドルを切りきっていた。

 バギーの車体に遠心力がかかり。

 左側の車輪が浮いた。

 

「あああああああああぅうおおおおっ!!」

 

 巨大な右ストレートを片輪走行で躱したバギー。メスカルは、今度は逆にハンドルを切る。

 ガスンッ、とスクラヴードゥーの腕に乗り上げて、バギーはそのまま腕の上を走行する。

 

 片輪走行は数あるカーアクションの中でも難易度が高く、台や段差といった、車体を傾ける補助がない場合の走行は特に難しい。それも大砲と機銃を積んだ、とびきり重い車両で、だ。バランスの保ち方が段違いに難しく、一歩間違えば横転し、最悪、搭乗者は粗挽き肉になって死亡する。

 驚天動地のドライビングテクニック。メスカルの死を恐れない狂気と、もはや変態めいた技術でもって初めて成立する、悪魔の走りだった。

 

 這い寄り近づくのを嫌ったか、巨人が腕を回して振り落とそうとする。

 それを察してか、バギーは動く直前に腕から離脱した。漆黒のバギーが飛ぶ様は蜘蛛が滑空する様で、巨人の左腕への着地を目論んでいるのが、糸で繋がっているかの如く、よく分かる。

 だが、蜘蛛の牙は敵を見据えている。

 黄金色のデリック砲、その砲塔が、スクラヴードゥーを狙っている。

 

「ッ、 Seeeeeeeeeet!!」

 

 腕から腕へと飛び移ろうとしている以上、照準は否応なく、高速でずれていく。

 しかしミードはこの異常な条件下であっても、正確に狙いを定めていた。

 ボタンを押す。

 

「Hut!!」

 

 ズガァン!!と、爆音が轟く。見事に着弾し、スクラップを壊し剥がす。

 反動で飛行がぶれる。しかしそれでも、砲身は着弾箇所を捉えていた。

 

「Hut!! Hut!! Hut!!」

 

 ズガァン!! ズガァン!! ズガァン!!

 反動が治まらないうちに三連射。

 

 一発の起爆が、スクラヴードゥーの腹部を抉る。それが二発、三発と連続し、穴を大きくする。

 そして四発目の着弾で、スクラヴードゥーの腹部は貫通した。

 

「はっはー!! さっすがあたし!」

「着地するから黙ってなさい舌噛むわよ!」

 

 核を破壊したのか、スクラヴードゥーの四肢は崩壊を始めていた。

 バギーは崩れ落ちる左腕に飛び移り、すぐさま飛び降りて荒々しく着地。崩壊に巻き込まれないように距離を取った。

 

 盛大に砂煙を巻き上げる姿を見ながら、ミードは言う。

 

「見た見たメスカル!? あたしの超絶テクニック!」

「そりゃ見たわよ、隣で運転してんだから」

「えー……テンション(ひき)ーよメスカル。ホント、スピードとテンションが連動してるよな。毎度のことながら」

「走り屋なんてこんなもんよ。普段から上げてたら、びんかんバニーみたいに早死にするわ」

「なんだそりゃ。イキ過ぎて死ぬってことか?」

「腹上死するってことよ」

「意味同じじゃん」

 

 はー、とミードは溜め息をついた。

 

「たまにゃー褒めてくんねーとさー、やる気なくなっちまうぜあたしー」

「そんなんでいちいちやる気なくしてたら、身が持たないわよ。エルニニョあたりじゃ、そんな出来事ばかりが日常でしょう?」

「まーな。いつでもどこでも誰でも、そんなことばっかりだったさ」

 システムを落とし、ゴーグルを上げる。

「思い出したら、胸くそ悪くなってきた……」

「……ま、実際、あなた優秀だから褒めるところが逆にないのよ。特に最近じゃ見慣れちゃったし、褒めようにも褒められないっていうか」

「えー……そんな理由かよ。 ……優秀?優秀って言った今?」

「言ったわよ。あなたは凄い、一流。敏腕凄腕ハンターね」

「だよなあ! あたしは優秀、あたしは一流、あたしはスゴい!」

「そうよあなたは凄いのよー優秀なのよー」

「ありがとう!あたしはスゴい! いやー、さっすがメスカル。あんたの見る目は確かだ。ついてきてよかったー」

「優秀で扱いやすいの助かるわー」

「ん?今何か言った?」

「優秀で助かるって言ったのよ」

「そりゃそーさ。あたし、優秀だもん!」

 

 一気に気をよくしたミードは、ばしばしメスカルの肩を叩く。

 

「さ、殺ること殺ったし、メシ食いに行こーぜ。 あたしアレ食べたい。アリのタマゴ焼き」

「相変わらず好きねえ……その前に、使える物引っぺがすわよ。何かいい物持ってるって話だし」

 

 バギーが発進した。先程の爆走とは打って代わって、比較的ゆっくりとした、安全運転である。

 砂煙が治まって、巨大な鉄塊と化したスクラヴードゥーの残骸に近づく。

 

「これでオフィスから賞金8千G(ゴールド)……クルマも損傷なし、砲弾代払ってもお釣りがくる。ボロ儲けね」

「しっかしなんでこんな雑魚敵に賞金がっぽりかけるんだろーな。《今週のターゲット》枠にしちゃー、大枚はたきすぎじゃね?」

「私達だから雑魚なだけで、並大抵のハンターじゃ手も足も出ないわよ。それにコイツ、他所の地域だと普通に賞金首らしいわ」

「マジで? いくら?」

「5万G」

「高いなー。 よし、ぶっ殺しに行こーぜ」

「無理よ。私のアラミアちゃんでも、山は越えられないもの」

「そこは、ほら。気合いで」

「気合いでどうにかなるのは、命のやり取りだけよ。 さあ、降りなさい」

 

 これまた安全に停車し、二人はバギーを降りる。

 残骸を眺めながら、メスカルは言った。

 

「身体のどこかが、武器に使えるらしいのよね」

「どこかってどこよ」

「さあ?オフィスのクリークから聞いた話だし」

「クリークぅ?」

 

 ミードは顔を顰めた。

 

「あいつの情報かよ。信用できんのか?」

「……あなたのそういうところ、よくないわ。嫌いだとか、馬が合わないとか、そういうのは抜きに人を評価しないと駄目よ」

「無理だな。あいつはいけ好かん」

「だから」

「だからも何もねーんだよ。いけ好かねーし、気に食わねーし、虫が好かねーんだ。 ヤツの話はもう止めだ、気分が悪くなる」

「……いいけどね。今は、この話は止めましょう。 でもミード。イスラポルトに行かなきゃいけないから、多分クリークには会うわよ」

「はあ? 何でだよ」

「受領した街のオフィスじゃないと賞金は受け取れないから。 まあ、受付の当番があの子じゃないのを祈るのね」

「マジかよ……やだなあ」

 

 ぼりぼりとミードが尻を掻いていると、それをメスカルがたしなめる。

 

「ちょっと。いくらガサツでも女の子なんだから、お尻掻かないの」

「別にいーじゃん。誰も見てないし」

「私が見てる」

「うるせーなー……あんたはあたしのおかんか」

「私は私。 あなたのママは墓の下」

「母親の墓なんかねーよ……ん?」

 

 ミードは首をかしげた。違和感を覚えたからだ。

 

「…………」

 

 地響きがする。ほんの僅か、靴底から揺れを感じる。

 辺りを見渡してみるが、強い日差しの下、荒野に広がっているのは立ち枯れた木々と乾燥した土に砂、そして目の前の残骸だけだ。昔はもの凄く足の速い謎生物がこの辺りを駆け回っていたらしいが、それらしき物は影も形も見当たらない。

 

「……メスカル」

「逃げるわ。乗りなさい」

 

 嫌な予感がした二人は、即座にバギーに乗り込む。この時には、すでに地響きは、体感で分かる程に酷くなってきていた。

 地響きがするということは、相応のスピードと質量の物体が移動しているということだ。

 周囲にそれらしい生物、または非生物はいない。空中は鳥一匹飛んでいないし、地鳴りがするレベルのモンスターならば、さすがに気づかないわけがない。

 よって、相手は地下から迫っているということだ。

 そして今、バギーに対地中武器は積んでいない。

 

「逃げるが勝ちか」

「三十六計逃げるに如かずよ」

 

 メスカルがアクセルを踏む。

 急発進すると同時に、地中から何かがせり出してきた。先程まで作動していたスクラヴードゥーよりもさらに巨大な鋼鉄の何かが、鉄塊を飲み込む。

 

「おい何だよアレ!? スナザメか!?」

「いえ……」

 

 モニターを見る。車外の状況が映し出されているのを確認して、メスカルは襲来した相手を把握した。

 

「鉄サメね。 スナザメの亜種だけど、強さは桁違いよ」

 

 体長10メートルはゆうに超える鋼鉄のサメ。真っ赤で大きな眼球を輝かせながら、鋭い牙でスクラヴードゥーの残骸を噛み砕き、咀嚼している。

 その姿を助手席の窓から見て、ミードは大声を上げる。

 

「鉄サメ!? 前に討伐されたって情報出てなかったか!?」

「ええ。よく分からないから逃げるわよ。サポート頼むわ」

「ああ。 って、おい」

 

 瞳まで赤い眼球が動き、逃走するバギーを捉える。すると食事を中断して、バギーに向けて進路をとった。

 

「バレた。追いかけてくる」

「ヤバいわね」

 

 砂煙を上げて、鉄サメは地中に潜り、泳ぎ出す。

 鉄の背ビレが地面を割り、高速で追いかけてくる様に、ミードの背が震えた。

 震えて、笑っていた。

 

「やっべー! すっげー恐えんだけど!」

「楽しそうね」

「ったりめーじゃん! 食われちまう瀬戸際だぜ!?ぞくぞくするわ! メスカルだってそうだろ!?」

「そりゃねえ。 ドリルキャノン持ってきてればぶち込んでたわ」

「だろ!? あー、ねえ、メスカル。殺り合っちゃだめかな。デリック砲じゃぶち抜けねーかな!?」

「駄目よ」

 

 メスカルは冷静に返した。

 

「今積んでる大砲でも殺せるかもしれない。けど、すでに討伐されたはずのモンスターが、今ここにいる。そんな異常事態は確かに心引かれるけど、異常な事態だから何が起こるか分からない。資金面で切羽詰まってるわけでもなし、無理して殺しに行く必要はないわ」

「でもさあ!!」

「体勢を整えるのよ」

 

 メスカルは言う。

 

「スクラヴードゥーの賞金を貰って……そうね。明日、朝一でぶっ殺しにいきましょう。極小脳みその畜生如きが、人間様の獲物を横取りするなんて許されないわ」

 

 だから今は抑えなさい、とメスカルはなだめた。ミードは唇を尖らせて、渋々頷いた。

 

「わーったよ。明日! 一足先に地獄に送ってやる」

「いい子ね」

 

 メスカルがゴーグルキャップ越しに、ミードの頭を撫でる。乱雑ながら優しい撫で方が照れ臭くて、ミードは撫でている手を払った。

 

「くそッ……そもそもちゃんと伝えておきゃー、こんなことにゃなってねーってのに。クリークの野郎、後で文句言ってやる」

「程々にね。 さて、思ったより速いわね。本気出さなきゃ追い付かれるわ」

 

 言って、メスカルはさらにアクセルを踏み込み、バギーを加速させる。

 木々の合間を縫って走行するバギーに対し、鉄サメは木々を根元から掘り起こしながら泳ぐ。曲線を描くバギーに対し、鉄サメは直線だ。木を避ける分、バギーの方が遅くなるのは道理である。

 しかし、メスカルの腕前は悪魔的で、積んでいるエンジンも《無双ドライブ》と、高性能かつスピード特化の改造を施された一品だ。

 アクセルをベタ踏みしたバギーは木々を避けながらも、みるみるうちに鉄サメを引き離す。悪魔が駆る化物マシンに追い付ける存在はそういない。スピードのみで語るなら、メスカルが乗るバギー(アラミア)は、ここ《アシッド・キャニオン》で最速と言えるだろう。

 

 ただし、追跡するは詳細不明のモンスターだ。ただ敵に向かって突撃するだけでは怪物足りえない。

 鉄サメが、その大きな口を開く。

 すると、唾液にまみれた砲身が咽喉から伸び、照準を合わせていた。

 

「ッ!? メスカルッ!」

「分かってる!」

 

 ドオォン!と砲口が火を吹いた。バギーはすんでのところでそれを躱し、駆け抜けていく。

 ホロビの森を抜ける。蛇の轍を潰す様に、鉄サメもそれに続く。

 鉄サメの二射目、三射目を避けた頃、メスカルは危機感を覚えていた。

 

「マズイわね。森を抜けても諦める気がないわ」

「このままじゃイスラポルトまで付いてくるかもな。どうする?」

「引き離す。 頼むわ」

「Yes, ma'am.」

 

 ミードはドアを開けて、後方に向けて身を乗り出す。

 ベルトにくくりつけたポーチからDDパイナップルを取り出し、下手で鉄サメに放り投げた。

 眼球に当たって大きく跳ねる。遅れてミードは、発煙筒を転がした。

 ドン!と眼球の真上で爆発する。続き、鉄サメの目前で、一気に黒煙が吹き出す。

 DD パイナップルは、いわゆる手榴弾の一つであり、その威力は人体を文字通りに四散させる程に強力だ。それを陽動に使い、気を逸らしたところに、本命の発煙筒で視覚と嗅覚を奪う。それが逃走のプランだった。

 動揺と困惑。鉄サメがそれらを覚えたかは不明だが、ともかく、鉄サメは進行を急停止し、追跡を止めた。

 

「……撒けたか?」

 

 ドアを閉めて、ミードは言う。

 

「分からない。 だから、このまま全速力でイスラポルトまで行くわ」

「思ったんだけど、タイヤ跡を辿ってきたりしねーかな?あのしつこさなら、ありえそうなんだが」

「否定はできないけど、さすがにそこまでの知能はないでしょう。 ま、その場合は、私たちみたいな流れ者が加勢してくれるでしょうし、心配はいらないわ。クリークもいるし」

「オフィスのスタッフにどうこうできんのか?」

「あの子は優秀よ。事務仕事も、戦闘も」

「あたしより?」

 

 ミードは窓から後方を確認している。遠くでもうもうと立ち上る黒煙を見つめていて、表情は伺えない。

 

「……勿論、あなたの方が優秀よ」

「ならいい」

 

 メスカルの言葉に、ミードは淡白に答えた。

 メスカルは小さく溜め息をついて、懐に手を伸ばす。が、思い止まって、運転に努めた。

 御しやすいのは良いが、手綱を握り続けるのは意外と労する。

 こんなご時世でも思春期か、とメスカルは思い、ハンドルを握り直した。

 

 快晴の下、荒れ果てた大地を、黒いバギーが走る。

 後には、長い長い轍が残っていた。

 

 

 

 




用語&解説

・大破壊
 スーパー・コンピューター「ノア」が引き起こした世界規模の大災害。世界中のコンピューターにハッキングし、軍事基地から勝手にミサイルを発射したり、あらゆる業界に誤情報を蔓延させて世界中を混乱させたりし、混乱の最中、短期間のうちに世界を崩壊させた。
 ゲーム中の世界観では、この大破壊から数十年が経過しており、災害当時の状況を知る人物も僅かとなっている。

・バギー
 オフロード走行が可能で軽量の自動車のこと。技術的にはバイクやオートバイに近い。ゲーム中のような兵器を搭載したバギーはFAVと呼ばれ、アメリカ軍が民生のオフロード車を改修して採用した。

・サクランHI
 戦闘用道具。敵を混乱状態にする。かなりの劇物とみられる。

・スクラヴードゥー
 通称「最強の雑魚敵」。高い攻撃力と連続攻撃でHPをガリガリ削る上、素早さが高く攻撃が通りにくい。明らかに通常エンカウントするモンスターの範疇を超えているのだが、実は前作「METAL MAX3」で賞金首だった敵で、つまりはボス格のモンスター。そのデータをそのまま「2R」へ流入し、通常エンカウントさせているので、油断しているとどんなにレベルが高くてもパーティは全滅する。
 正直、製作側の嫌がらせだとしか思えない。

・通常弾
 造語。ゲーム中における主砲で発射される砲弾を指す。wikiを見てる感じでは成形炸薬弾(HEAT)に近いのではと推測し、ルビを振らせてもらった。

・びんかんバニー
 雑魚敵。時々、「びんびん感じている」。何を感じているのかは不明。

・G
 この世界での通貨単位。この作品では硬貨として扱う。

・今週のターゲット
 「ハンターオフィス」という施設で公示されている、期間限定の賞金首制度。中でもスクラヴードゥーの賞金は高い。

・鉄サメ
 とあるイベントでのみ登場する敵。賞金首である「スナザメ」の色違いだが、強さはこちらが上。




 解説がやたらと長くなりましたが、完全に初見だという読者様のことを考えると、まだ描き足りない感があります。分からないところは感想欄でコメントを頂ければ解説致します。また、誤字脱字等のご指摘も頂ければ幸いです。

 次回は近日中に投稿しますので、今作でもよろしくお願い致します。



 ※22/03/22 本文と後書きを修正、追記
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