思った通りに閲覧数が伸びません。まあ、その方が気楽にはやれますが。
余談ですが、本作の登場キャラクターは基本的にゲーム中のモブキャラや各職業のキャラクターのデザインを、ちょっと変化させたビジュアルにしています。イメージが掴みづらい方は、画像検索してみるといいかもしれません。
三話目です。
大破壊以前の主要言語で、スワンとは《白鳥》を意味する言葉である。
と、言ったところで、現代人には白鳥がどの様な生物かは不明瞭で(もしかしたら生物かどうかすら分からないかもしれない)、そもそも言葉の由来や起源など気にも留めない。それでも白鳥の存在を知っている一部の知識人がスワンの町を訪れた時、町の外観を見れば、その妙に気取った名前に、素直に納得するだろう。
スワンは水上移動都市である。
水面を走る、移動する町だ。
「いつ見ても慣れないわね。派手というか奇妙というか」
「? そう? かわいーじゃん」
「いや、不細工ではないけど。何にせよ、印象的よね」
夜、港に着岸したのは、一隻の遊覧船だ。
アシッド・キャニオンでは船舶はかなり珍しい乗り物であるが、その船の外観は特徴的に過ぎる。
船尾に尾羽根、船体に翼、船首には長い首に頭部と、中々に遊び心満載な外装で、明らかに戦闘は意識していない。むしろ見るものを楽しませようというホスピタリティに溢れており、逆に悪ふざけとも捉えられかねない外装だった。
ちなみにこのデザイン、子供には人気である。
「つーか、夜中にライトつけてていーのか? モンスターとか寄って来ねーの?」
「大型の迷彩シールドをいくつも取り付けてるらしいわよ。その上で接敵率の低い航路を選んでるって話だから、問題はないんでしょうね。それでも寄って来るモンスターは、乗客か武器屋が対処するみたいだけど」
「武器屋って……それ商品だろ」
「宣伝にはなるんじゃない?」
「《ここに取り出したるはアクアウォーカーの群れを殲滅せしレーザーライフル、さあ買った買った》――みたいな?」
「みたいな。 叩き売りかは知らないけど」
タラップが降り、乗客が出てくる。フラフラと足取りが覚束ない者もいたが、波に酔ったのか酒に酔ったのか、それとも両方かは分からない。
波間にゲロをぶち撒ける男を尻目に、二人は乗船した。
「おっ、やっぱ賑わってんな」
「アシッド・キャニオン中の賞金稼ぎが集まる町だもの。当然でしょ」
スワンの町は地上一階、地下二階からなる三層構造で、日中の地上階は武器屋と道具屋が開いているが、夜は地下一階を含めて酒場になっている。
老いも若きも男女を問わず、荒くれ者が喧騒の中、酒を煽る様は、大抵の町で見られる光景だ。
とはいえ、この町ならではなものもある。
にゅっ、と突き出されるジョッキ。
「んだよ」
「入場料50G」
「金取んのかよ」
ハチマキに腹巻きにサンダルでビール腹の中年男が、ジョッキグラスを差し向ける。見ると、ジョッキには硬貨が詰まっている。勝手に検問をしている訳ではなさそうだった。
「ちっ……メスカル」
「はいはい」
メスカルが財布を取り出す。このコンビの金庫番はメスカルだった。
「毎度。 しかし惜しかったな。ついさっき勝負が終わったところだったんだ」
「ああ? マジかよ」
「マジもマジ、ホントのホントさ。 いや、スゴかったぜ~。プルケとリリン・サトの一騎討ちはよ」
「プルケ? プルケ・トゥルエノ?」
メスカルは驚いた様に聞いた。
「ああそうさ。アシッド・キャニオンで一番の早撃ち、《雷鳴》のプルケが、さっきまでいたのさ」
ミードの目付きが険しくなる。明らかに敵愾心を燃やしていた。
「へー、《雷鳴》のプルケがなー……確かに惜しかったなー」
「おっ。お嬢ちゃん、腕に覚えがあるみてえだな。だけど奴とやり合うのは止めとけ。ありゃあ人間技じゃねえよ」
「人間技じゃねーのなんか、一歩町を出ればわんさかいるぜ」
「その通りだけどな、プルケはモノが違えよ。 ま、酒でも飲んできな。ココの酒は安いからウマいぞ」
単に金がないことしか言っていない。
男は、ジョッキを持って去っていった。
「……さて、仕方がないから飲み直しましょうか」
「つまりあたしも飲んでいいと」
「そんな訳ないじゃない。あなたはミルクよ」
「またかよ。もう腹がたぷたぷなんだよ。ここらでステロイドサワーなんかで、胃袋を活性化させてーんだよ」
「水分で膨れてるのに水分を足そうとするのね。活性化するのは胃じゃなくて膀胱だと思うけど」
「うっせーな。すんでのところでチャンスを逃したんだ、慰めに飲んだっていーじゃんか」
「気持ちは分かるけど、駄目よ。我慢しなさい」
Boo,とミードは非難するものの、メスカルは無視。どころかカストリチナヤを注文する有様で、それがミードの不満を煽った。
「禁酒中の人間の前で酒を飲むのって、結構ストレス与えてんだぜ?」
「そりゃごめんなさいね。でも、酔ったら暴れるあなたが悪いのよ。マドロス酒場をオープンテラスにしたのを忘れたの?」
「ありゃイカサマで金騙し取るアイツが悪い」
「言っても5G、10Gじゃない。それが稼げないド素人じゃあるまいし、癇癪を起こす必要なんてない。 それに酔っていたとはいえ、騙されるあなたも悪いのよ。このご時世、騙しと脅しと殺しは当たり前なんだから」
「うっせ。ブッ殺してないだけマシだろ」
「ブッ殺してないのは普通なのよ。それに酒場の修繕費は私が払ったんだから、大人しく従ってなさい。それが、あなたが強くなる一助になるわ」
「……一助ってどういう意味だ?」
「助けになるって意味よ」
ミードは深く溜息をついた。ミルクではなく奇怪ケバブを注文し、天井を仰ぎ見る。
白かっただろう壁は黄ばみ、剥げている。
「……リリン・サトってどんな奴?」
「通称《
「胡散くせーヤツだな。宗教家かなんかかよ」
「一度会ったことがあるけど、とにかく自信満々で、格好良さげで、キザったらしい男だったわよ。典型的な面倒臭い人間ね。男はイライラ、女はドン引きで近寄らなくて、完全に孤立してたわ」
「その上で神がかり的にラッキーなのか。勘違いしそうな要素が詰まってやがる」
「そんな状況でもナルシスト気質は変わらなくてね。《孤立と孤高は紙一重。僕という奇跡の天才は、世間一般には認め難いものなのさ》とか、決め顔でぬかしてたわ」
「孤立だろうが孤高だろうが、ボッチなのは変わんねーのにな」
皿に盛られたケバブが運ばれてくる。ミードはフォークで纏めて突き刺し、頬張った。
「……もしかしてまだ死んでないんじゃね? 外見たら奇跡起こして生き返ってるかもしんねーぞ」
「旧時代の神の子みたいに? 是非タイシャーで御神体になってて欲しいわ」
メスカルがグラスを空にする。
「神社も新しい依り代が見つかって、助かるんじゃない?」
メスカルは頭がいい。それだけでなく、そこらのハンターよりも格段に知識に富んでいる。
特に大破壊以前、旧時代の知識に関しては、他の追随を許さない。メスカルはまだ二十代前半ぐらいだが、大破壊以前から生きている数少ない人間と引けを取らないほどだ。一体どこで身につけたのかは分からないものの、それがメスカルというハンターの絶対的な強みの一つであることは間違いない。
そして、ミードに全く足りていないものの一つでもある。
「……あんまし難しい言葉使って欲しくねーんだけど」
「あー……ごめんなさい。わざとじゃないのよ」
「いや、頭の出来具合の差の問題だからな。あんたが悪いわけじゃないさ」
「そうだけど……あなたが言うセリフじゃないわよ」
座学も必要かしらね、とメスカルが呟く。その単語は知っていたミードは、声を荒らげて反対した。
「やめてくれよ! この歳で今更勉強なんかしたくねーよ!」
「この歳って……あなたまだ十五歳でしょう。 ――そういえばあなた、読み書きとか計算はできるわよね。誰に習ったの? あなたのママ?」
「ママって言うな、恥ずかしい……。母親の客に教わったんだよ」
「んー……お母様の、お客ね」
「ああ……」
ミードは続ける。
「金の代わりに、あたしに、わずかばかりでもと教育を施させた。 どこの誰とも知れない野郎とのガキなんだ、あたしなんか見捨てちまえば――もう少し長く生きていられただろうにさ」
「それだけあなたが大切だったってことよ」
「大切ってなんだよ。大切なのは命だろ。 ……まあ恩は感じてるけどさ」
ミードの言葉に、メスカルが驚く。
「意外ね。あなたがそんなセリフを言うなんて」
「ガラじゃねーのは分かってるけど、あたしも人の子だ。恩は感じるし、情も湧く」
「……でも、大抵は仇で返すんでしょう?」
「まーな。だって他人の為に何がするのって面倒くさくね? 他人に構ってる余裕はないし、自分のケツは自分で拭くもんだ」
「あなたみたいに独り者が長かった人間はそうでしょうけど、ほとんどの人間はあなたみたいに優秀じゃないのよ。誰も彼もが頼らなければ生きていけない、そういう時代なの――頼る相手が、例え悪党であってもね」
「……エルニニョでのことを言ってんのか? アレこそ恩返しそのものだぜ」
「……襲撃に関しては、出回ってる情報が少ないから、客観的に話はできない。私が知ってるのも、噂と、あなたの主観しかないからね。 でも、無法者にも流儀があり信条がある。主義がない人間は何をしたところで生き残れないし、強くはなれないのよ――名の通った人間は皆そうよ。ドク・カルヴァドスもバッファロー・ジンも、サトもプルケも、グラップラーも。そして、《英雄》のケンも」
「…………」
「あなたは強い。でも、強くなれるかは、あなた次第よ」
「…………ちっ」
舌打ちをしたミードは、カストリチナヤを注文する。
「ちょっと、あなた」
「一杯ぐらいじゃ酔わねーから許せよ。それに、飲まなきゃやってらんない」
ミードが珍しく――本当に珍しく、神妙な顔つきになる。
感情の昂ぶりが強い彼女だ、怒ったり笑ったり喜んだりすることはあれど、泣いたり悲しんだり憂いたりすることは滅多にない。
だからこういう時は、彼女にとって重い話をする時だ。
「……英雄様がメンドーザを殺ったけど、町の支配が移り変わっただけで、なにかが劇的に変わったわけじゃなかった。治安が多少よくなったけど、立場や扱いは特に変化しなかったし、当然、金なんか入ってこない。 結局あたし達はその日暮らしの貧乏人で――二人して惨めで、汚くて、なにもできないままだった」
差し出された酒を一息で飲み干し、長く息を吐く。
「それでも母親はあたしの将来を考えてくれたよ。 売れない身体を無理矢理売って、なけなしの金であたしを食わせて……そのなけなしの金も貰わずに、あたしを教育しようとした。そもそも行きずりの男がちゃんと約束を守るか、ものをしっかり教えるかどうかも分からないのに、少しでも知識を与えようとしたんだ」
ミードは空のグラスを見つめている。
「その恩に報いないなんて――報いを受けさせないなんて、ありえねーよ」
メスカルはミードの過去を知っている。ミードがどの様に産まれ、生活し、戦ってきたのかは聞いている。
しかし、ミードが自分の母親について語るのは、これが初めてだった。
特段、秘密主義ではない性格なのだが、自分の過去、特に幼少期の頃については、露骨に口を閉ざす。勿論話したくないからなのだろうが、狂ってるとはいえ、基本的には明るい少女だ。それが決して浅くない付き合いのメスカルにすら明かさないのだから、ミードにとっては相応にヘビーな、触れられたくない話題なのだろう。
「…………」
メスカルは、ミードの信頼を勝ち得たことを確信した。
「あなた――」
と、ここで酒場の――もとい、町の扉が開かれた。
精悍な顔つきの若者である。サラトガスーツにマントを羽織った男で、エジプシャンの奥から鋭い瞳が覗く。
砂埃に塗れた出で立ちであったが、歴戦の強者といった風格を醸し出している、容姿ではなく雰囲気が目立つ存在だった。
男は言った。
「連絡船乗り場の駐車場、そこに停めたバギーは誰のものだ!?」
野太い声。それがフロアに響き渡り、ピタリと喧騒が止んだ。
わずかに囁やきが聞こえだした頃、メスカルが呟いた。
「プルケじゃない……一体何なのよ、もう」
「アレがプルケか?思ったより
「ロマンスグレーのジェントルマンだと思った?」
「まさか。 ただ、もっとオッサンなイメージだった」
プルケ・トゥルエノ。
《
パーティを組まない一匹狼の風来坊でありながら、アシッド・キャニオン最強の一角に数えられており、特に早撃ちに関しては比肩する者はいないと噂されている
当然、ミードにとっては目の上のたんこぶな存在であり、面識もないのに敵視している。自分より強いと言われている人間は許せないらしい。
「で、なんだってメスカルに用があるんだ?」
「私というかバギーに用があるんでしょうけど……どうしようかしら」
「案外、邪魔だからどけてくれってだけかもしれねーぜ?」
「いや、私は端っこに停めたからそれはないわ。夜中に物資の搬入もないだろうし……なんにせよ、応じる他ないわね」
そう言ってメスカルは立ち上がり、人混みを抜けて、プルケの前へ現れる。
「こんばんは。私があの子の持ち主よ」
「……女だと?」
「あら、女は嫌い?」
「嫌いだな。前に壁まで吹っ飛ぶほどのパワーでぶん殴られたことがある」
「そりゃ悲劇的ね。 それで、何の用かしら?」
プルケは表情を変えず、けれども躊躇いがちに言った。
「……お前のバギー、譲ってもらいたい」
「――はあ?」
素っ頓狂な声が上がった。冷静なメスカルにしては、かなり珍しい声だった。
そも高名なプルケと対峙して注目を浴びているので、余計に囁やきが増した。流石のメスカルも、こんな状況では居心地が悪い。
メスカルは咳払いをして、気を取り直す。
「ふざけてるの? ハンターにとってクルマは最大最高の武器であり命も同然。それを譲れだなんて……ありえない」
「まあ、それはそうだろうな。そのあたりは、俺も分かってるつもりだ」
「なら」
「そこを押して、お願いしたい」
プルケはエジプシャンを脱ぎ、頭を下げた。
長めの深い黒髪が垂れて揺れる。
「駄目、というか無理よ。今の私にはあの子以外に足がない。頼まれたぐらいでほいほいあげてたら、ハンター稼業は成り立たないわ」
「なら金を出す。いくらがいい?」
「金の問題じゃない、生業の問題よ」
クルマに乗って戦うのがハンターの矜持。
「――ちなみに、いくらまでなら出せるの?」
しかし、金勘定に聡いのは人間の骨子だ。一応聞いておく。
「……20万Gだ。俺の全財産でもある」
「それじゃ駄目ね。出直してらっしゃい」
しっしっ、と手で払うメスカル。即答で、にべもなかった。
「じゃあいくらなら売ってくれる?」
「そうね……。 40万Gかしら?」
プルケが提示した額の二倍である。
実際、現代の価値で20万Gも持っていれば、ほとんど働かなくても生活できる。賞金稼ぎを続けるにしても、足を失うとはいえ、莫大な収入だ。体制を立て直すにも十分な金額だし、取引としては悪くない条件である。
しかしメスカルは倍の額を要求して、それを蹴った。売る気はないのと実質同義であり、明確な拒否の姿勢だった。
「倍かよ……どうやらあのバギーの価値が分かってるみてえだな」
「お褒めに与り光栄の至りだけど、この短いやり取りで熱くなりすぎじゃない? 口調が乱れてるわよ」
「ぬ……」
プルケは口元を押さえるが、変わらず無表情のままだ。
メスカルは呼吸を一つして、プルケに言う。
「それで、他に交渉の材料はあるのかしら? 無いならヤサに帰ってほしいのだけど」
「無いわけじゃない。 が、できることなら、穏便に済ませまかっただけだ」
そう言うと、プルケは大声を張り上げた。
「この俺、プルケ・トゥルエノは! ここにいる女ハンターに決闘を申し込む!!」
「――!?」
「賭けるのは最高のバギーと銃、そしてお互いのプライドと命だ!!」
わあっ、と荒くれ者達は一気に盛り上がる。そんな中、メスカルはやられたとばかりに、額を手で覆った。
スワンの町の最大の特徴は白鳥型の遊覧船がそのまま町を形成しているところだが、最大の売りは決闘制を採用しているところだ。
お互いに譲らず結論が出ない揉めごとは、戦って決着をつけるのが、この町のルールだ。それは町の住人でなくとも例外ではなく、例え文無し宿無しの流れ者であっても、町の敷地に入った時点で適用される。
これだけならまだ、ただの騒動の仲裁法と言えなくもないが、問題はこの決闘により、賭場が成立していることである。スワンにやってくる人間の大半は、この決闘が目当てなのだ。
ギャンブルは有史以前より狂気を生む因子を孕んでいる。
それを利用された。周囲の注目が集まっていたとはいえ、フロアには少なからず喧騒があった。二人のやり取りは他人には届かないし、それを聞き取ろうと野次馬根性に溢れる連中は、注視して聞き耳を立てていた。
そこに有名人であるプルケの宣言である。数分間勿体ぶらせ、観客に期待させて盛り上げた。
ここまで活気づいてしまえば、《まだ了承していない》と否定しづらくなってしまう。理性を放棄した様な暴力的な荒くれ者達は、場が冷めるを極端に嫌う。最悪、暴動に繋がりかねない。
こちらにはミードがいるが、今は距離が開いているから、連携が取りにくい。それに、かなりの人数を殺さなければ収まりがつかないだろう。
そうなってしまえば、ハンターオフィスから目をつけられるのは必至だ。吹っ掛けられただけの喧嘩で賞金首にされるのは、当然ながら御免である。
不本意だが、これは受けるしかない。
覚悟を決めて承諾しようとしたところで、ミードが席を離れてやってきた。
「おいおいおいおい、なーに勝手におっ始めようとしてんだ二人して。あたしを抜きに話進めてんじゃねーよ」
ミードの口元は笑っているが、目は笑っていない。敵意を剥き出しにするミードに、プルケは言った。
「小娘か。お前のガキか?」
「こんな大きな子供がいるほど老けて見える?」
「見えない。見えないが、それ以外に関係性が見えない」
「無視すんなガキ扱いすんな。ぶっ飛ばされてーのかバカ」
絡むミードに、プルケは視線を合わせない。
「バカなガキほど無駄に吠えるものだ。 昔の偉い人も言っていたぞ。強い言葉は弱く映ると」
「んだと?」
ミードの碧い瞳に殺意が籠もる。
暗い思い出に沈みそうだったところに、目下の敵手が現れ、何故か大声で相棒に喧嘩を売ったのだ。心情的にも状況的にも、黙っていることなどできはしない。
見え透いた挑発に乗ってやる。
だから絶対にぶっ殺す。
小柄なミードは睨めつける様に見上げる。
中背のプルケは、必然見下ろす形になり。
視線が
重なった。
「――ッ!!」
左手が銃に伸びる。
大口径の究極イーグルは相当に重い。本来なら十五歳の少女の手には余る代物だが、ミードは一片の鴻毛の様に自在に扱う。年齢相応の細腕でありながら、重量も反動もものともしない。それでいて素早く、正確に射撃を行えるのだから、ミードは反則級の天才、時代によっては英雄と呼ばれてもおかしくない才覚を持っていた。
その才を遺憾無く発揮し、イーグルを抜き取る。瞬きの間に行われた早撃ちは、まさに神技としか言い表しようがない。
神速の抜き撃ち。左腰のホルスターから、大振りのイーグルが解き放たれ
――――――轟ッッッ!!
稲妻。
落雷の如き鳴動と紫電を生んだのは、目の前のプルケだった。周囲に漂う焦げ臭さが嗅覚を刺激する中、既にプルケは銃を向けていた。
右手に黒鉄のワンハンドガリル。
その銃口は、まだホルスターから抜いたばかりのミードを、真っ直ぐに捉えていた。
「んな――」
ありえない。
正直、見縊ってはいた。自分以上の
人間じゃない。
「中々速い。が、俺の敵にはなりえない、な」
「くっ……!」
銃口が向けられ、引き金に指がかかっている。対してミードは、苦々しく睨みつけるしかない。
そのまま先程のミードとラムの構図である。ただし今回は、ミードが明らかに負けている、という点が違う。
「で、どうする? 愚かにもこのまま勝負するか、情けなく尻尾を巻いて引っ込んでるか。もしくは今すぐバギーを寄こすか。好きなのを選べ」
ミードは僅かに振り返り、視線を合わす。
苦々しくはあるが、けれども闘志は萎えていない。
メスカルは軽く頷いて、ミードに託した。
「決まってる。ここにきて退けるわきゃねーだろーが。 ――この決闘! このあたしが代わりに受ける!!」
おお、と歓声が上がる。
「Holl Make MeadとPulque Truenoのぶっ殺し合いは明朝五時! 夜明けと同時に開始する! テメーら、首洗って待っててやがれ!!」
一気に場が沸騰した。諸手を打ち鳴らし、口笛が飛び交う。
アシッド・キャニオンのビッグネーム同士の決闘。それもお互い早撃ちを得意とする二人だ。盛り上がらない訳がない。
むせ返る様に沸き立つ空気の中、プルケは言う。
「いいのか? 身の程知らずが無様に死に恥晒すハメになるぞ」
「うるっせーんだよ
「ほう、つまり本気じゃないってことか」
「ったりめーだ。 あたしの本気はこんなモンじゃーねーよ」
「成程。負け犬の遠吠えにしちゃあ甲高いな」
「ほざいてろ」
プルケは煤けたマントを払い、ガリルを右腰のホルスターに仕舞う。そしてエジプシャンをかぶり直し、マントを翻して背を向ける。
「じゃあな小娘。午前五時、精々お先短い余生を楽しめ」
「それが最期の言葉にならねーことを祈っててやるよ。死に際の吠え面に穴開けんのは、あたしの役目だからな」
プルケが去って。
メスカルはミードの肩に手を置いた。
「作戦会議よ」
元いた席に戻り、身を寄せ合って会話する。
渦中の女二人のひそひそ話に、お気楽な野次馬連中は興味津々だったが、ミードが銃をかざすと、蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。朝一の大一番の前に、当の演者に殺されては元も子もない。
結果、ミードとメスカルの周囲には、人間五人分ぐらいの余裕が出来ていた。距離を取り過ぎであるが、二人にとっては都合がいい。
「それで、勝算はあるの?」
「え? あるからOKだしたんじゃねーの?」
「そうだけど。あなた自身になきゃしょうがないでしょう」
「ごもっとも」
ミードはさらに声をひそめる。重要な話だ、誰にも聞かれないように注意を払う。
「プルケ・トゥルエノ。あいつ、おかしいぜ」
「そうね。ところで、どこがおかしいと思うの?」
「一々聞くなよ。分かってんだろ?」
「あなたの口から聞きたいのよ」
「なんだそれ。 まあ、いいけど」
ミードはメスカルに耳打ちする。
「――成程。 ちなみに、私も気になる所があったのよ」
「なんだよ?」
メスカルもまた、耳打ちする。
「ふーん。 つーことはさ……」
「――――」
「――――」
小さい囁やきと弱い呟きによる密談。
程なくして結論が出て、メスカルは一度手を打った。
「さて、時間が無いわ。 私はマドのトランクルームに行ってくるわ。出来るだけ砲身が長い主砲に交換してこなきゃ。あなたは道具屋と武器屋で必要なものを買ってきなさい。幸い、お金はあることだし、あるだけ買って構わないわ」
「Aye aye ma'am.」
ミードは左手で敬礼し、席を立つ。
「さあ、地味な裏方作業の始まりだ」
「派手な仕事には地味な業務が付き物よ。むしろ裏方作業の方が大事だわ」
「分かってるさ。 ……あの野郎、絶対確実に殺してやるからな」
「是非頼むわ。私はあなたに人生を賭けてるんだから」
そう言ってメスカルも立ち上がる。ここから先は別行動だ。
ミードは階段を上り、上階へ。
メスカルはクルマに乗り、南へ進路を取った。
大きな羽虫の駆除。その支度を整える為に。
そして夜が更けた頃合い。
月明かりに照らされて、白鳥の船首に、二人と一両の影が映った。
用語&解説
・スワン
町の一つ。元は座礁した遊覧船だったが、そこに人が住み着いて町を形成した。あるイベントの舞台となる場所であり、このゲームの世界観を象徴する描写が多い印象的な拠点でもある。
エンジンルームに必要な部品を持っていくと、町を操舵して湖を移動できるようになる。本作はゲーム中の主人公がそのイベントをこなしたという設定。
モデルは諏訪湖に実際に存在する白鳥の遊覧船から。
・迷彩シールド
クルマ用の道具で、ONにしているとモンスターのエンカウント率が下がる。船に乗っていても有効。
・アクアウォーカー
湖に出るモンスター。二回攻撃を1ターンに二回行うという鬼畜。しかも群れでエンカウントする場合が多く、油断していると連続攻撃の嵐に遭い全滅するので注意。
・レーザーライフル
ビーム属性の白兵戦武器(ATK115)。ビームとレーザーは本来別物だが、ゲーム中では一括り。
・ステロイドサワー、カストリチナヤ
酒場にある酒の一つ。元ネタは前者はオリジナル、後者は密造焼酎を意味する「カストリ」とウォッカの銘柄「ストリチナヤ」。
・マドロス酒場
デルタ・リオという町の酒場の名前。イカサマで小金を稼ぐNPCがいる。ミードはコイツに騙されてキレた。
・奇怪ケバブ
酒場にあるおつまみ。材料は不明だが、今回は鶏肉のイメージ。
・タイシャ―
町の一つ。大きな神社がある町で、御神体はなんと戦車。本物の御神体は《大破壊》の最中に盗まれたらしい。モデルは諏訪大社。
・プルケの服装
サラトガスーツ(DEF140)とエジプシャン(DEF22)。共に耐熱・耐寒効果があり、前者のモデルはドイツが開発した同名のNBCスーツ、後者は中東系の民族衣装であるターバンやクーフィーヤみたいなものと思われる。
・フクマル、ホーク
「METAL MAX2」のGBAリメイク版「METAL MAX2改」に登場する賞金首。「2R」に再リメイクされた際にはいなかったので、ここで名前だけ登場。
・ソルジャー
主に白兵戦を得意とする職業で、先制攻撃+バフ効果や連続攻撃、バイク専用の特技が魅力。代わりにクルマでの砲撃は苦手。パーティに加える時は、レスラーとの使い分けを考えるべし。プルケとクリーク(まだ登場していないが)の職業。
・ワンハンドガリル
白兵戦武器(ATK255)で、敵一体に攻撃できる。モデルはイスラエル製歩兵用小銃の「IMI ガリル」と思われるが、ゲーム中では拳銃の扱い。名称も「ワンハンド」とあるので、ガリルシリーズの派生として誕生したという設定があるのかもしれない。
前回も言いましたが、用語多すぎでしょうか……元ネタ知らない人に伝わるのか不安になってきました。
誤字脱字の報告、感想等、お待ちしてます。
※22/03/20 本文と後書きを修正、追記