荒廃した世界の現実譚   作:石持克緒

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 数少ないご覧になっている皆様。閲覧、本当にありがとうございます。



 四話目です。






4.夜明け前、死合前

 

 

 東から日が昇り始めた頃。

 アホウささみの干し肉を齧っていたミードは、連絡船乗り場の防波堤の先で胡座をかいていたラムを見かけた。

 一晩明けただけにも関わらず、妙にやつれて見える。

 何の気無しに、声をかけてみた。

 

「オッサンどーした? 絶好の身投げポイントで」

「ああ? ああ……《掘削作業(ホールメイク)》か」

 

 血色が悪く肌ツヤもない、生気の抜けた顔をしていた。身投げするまでもなく、すぐにでもぽっくり逝きそうな雰囲気である。

 さしものミードも、これにはたじろぐ。

 

「おい……マジでどーしたよオッサン。一晩で一気に老け込んでんぞ」

「ああ……いや、なあ……」

 

 ラムは深く長い溜息をついた。

 

「あの女にな……」

「あの女?」

「ゴム風船を人魂にされそうだったんだよ」

「ああ……」

 

 あの女。とは、メドヴーハの事だろう。そういえば昨夜、二人は連れ立って()()に出かけたのだったか。

 

「ヤバいだろあの女。絶倫とかいうレベルじゃねえぞ。ゴム風船が膨らむまで抜かずに搾り取るってお前……出し過ぎて失神したのは初めてだ」

「ご愁傷様。 でも相手が死神クラスの性豪だって見抜けなかったオッサンが悪いからな。自業自得だよ」

「分かってる……もう痛みを通り越して感覚がねえよ。筋肉が働いてる気がしねえ。このまま一生、小便垂れ流しかもしれねえ」

「おい、やめろよ。あたしの前で漏らしたらマジで殺すからな」

「努力はする……でも、自信がねえ」

 

 もう一つ溜息をついて、ラムは懐からシガレットケースを取り出す。一本咥えて、ライターで着火。深く吸い込んで、深く吐き出した。

 

「煙いんだよバカ。 うわくっさ。腐ったオイルみてーな臭いしてんぞ」

「そうかあ? 自分じゃよく分からん」

「鼻が死んでんじゃねーか。そんなんだから目の前の女が危険かどうか、判断できねーんだよ」

「返す言葉もねえ……」

 

 ラムはもう一度紫煙を吹き出す。

 

「まあ、センサーパンジーの安煙草だしな……反省はするが仕方ねえ。 ところでお前、プルケと殺り合うんだって?」

「なんだ、もう知ってんのか」

「この狭っ苦しい町に飛び込んだビッグニュースだぜ? 五分後には犬でも知ってるよ。 しっかし、エラい相手に喧嘩吹っ掛けたもんだな、《掘削作業》」

「無謀だってか?」

「無謀だな。どう考えても勝ち目が無え。お前も随分だが、プルケは全くレベルが違う」

「だったらプルケに賭けな。大損こかせてやるよ」

「まさか。俺はお前に賭けるつもりだぜ」

「は?」

 

 意外だった。昨日の一件から好かれているはずはないし、それに大抵の人間は、下馬評では本命であろうプルケに賭けると思っていたからだ。

 

「プルケじゃねーのか?」

「ああ。俺はお前に賭ける」

「なんで?」

「お前は自分に自信が無えのか。あるだろ? それが理由だ」

「嘘つけ。カッコつけんなよオッサン」

 

 ミードはさらっと嘘を見抜き、ラムの背中を蹴った。

 

「痛っ。 おい蹴るなよ。落ちたらどうすんだ」

「ドザエマンになるんだよ。つーか、カッコよくもねーし、意味も分かんねーっての。モンスターうじゃうじゃの水中に放られたくなきゃ、さっさと狙いを吐きな」

「狙いもなにもねえよ。そりゃ穴のお前が勝ちゃあ大儲けだが、有り金全部突っ込むほど肝は太くねえ。 ただ、俺に勝った奴があっさりと負けてほしくはねえって、それだけのことさ」

 

 ラムは煙草を地面で捻じり消した。

 

「見た目と違ってロマンチストなんだな」

「男は誰でもピュアなハートの持ち主なのさ」

「ああ、だから見た目で騙されるのか」

「うるせえよ。お前だって、将来はヤリチンの優男(ロメオ)に孕まされる運命なんだ。ここで暴言吐いたことを後悔する日が絶対くるからな。覚悟しとけ」

「あっそ。そもそも、あたしに手を出そうって勇者がいるとは思えないんだけど」

「…………確かに。現実は悲しいな」

「うるせーよ」

 

 ミードはまたラムを蹴った。脇腹の、筋肉のつきが薄いところだ。

 

「いってえっ!? ふざけんなてめえ! そこ下手したらマジで死ぬんだぞ!?」

「本来なら昨日死んでるところだったんだ。今死んでも同じだろ」

「んな訳あるか! くそっ、昨日はブーツだったくせにハイヒールなんか履きやがって。色気づいてんじゃねえぞ小娘」

「こいつは野暮用で履いてんだ。趣味じゃねーし、似合ってねーのも分かってるってーの。 まったく、中敷きに細工すんのも中々手間だったし、こういうのはこれっきりにしたいもんだぜ」

「あ? 中敷き?」

「おっと」

 

 口が滑った。ミードは口を押さえるが、ラムは追求する。

 

「中敷きがなんだ? お前やっぱりなんか企んでるのか」

「企んでねーよ。女を疑う奴はモテねーぞ。現にモテてねーし」

「黙れ。質問に答えろ。 ――お前、コアントローに寝床くれてやっただろ」

 

 傍からは意図が不明な問いかけ。だが、ミードはラムが勘付いているのを感じ取った。

 

「……くれてやったらなんだってんだ?」

「それがもう一つの理由ってことだ。お前はプルケとの決闘に対して、なんらかの手を打ってるな?」

「まーな」

 

 ミードはニヤリと笑う。

 

「キャンプキットを渡す代わりに、プルケを見張るように頼んだ。あたしとメスカルが()()()をする間、プルケが動いたら伝えにくるように」

 

 昨夜の話し合いで生まれた策。最大の懸念は、プルケ自身に知られてしまうことだった。

 ミードはメスカルと別れ準備を整えた後、プルケの動向を探った。スワンとハトバの両方にも滞在していない、町の外で野営をしているという情報を掴むと、すぐさま連絡船乗り場で黄昏れているだろうコアントローに声をかけた。

 なぜコアントローなのかというと、それは彼が確実に暇であるから、また絶対に釣れるだろうからである。

 

「コアントローは車内を消火液塗れにするようなグズで、間抜けだ。そのグズは宿を追い出された状態。雨風をしのげる設備をちらつかせれば、多少怪しくても見張り程度の条件は飲むさ。ただでさえオッサンを怒らせてるのに、体調崩してさらに怒られるわけにゃいかねーからな」

「――ったく、あのバカは……」

 

 ラムが頭を掻く。

 気持ちは分からないでもなかった。コンビを組んでいる片割れが、自分の知らないところで知らない行動を取っていたら、やはり不安に思う。いくらグズで間抜けでバカであっても、背中を預け合う仲なのだ。このご時世、なにに利用されるか分からない。心配になるのは当然である。

 

 メスカルもそうだ。宿屋でミードが寝ていると、時たま部屋を出てどこかへ行ってしまうことがある。彼女のことだから、酒場に寝酒を飲みに行ったとかだろうが、親しい間柄の人間が突然いなくなるのは、ミードにとっても気分のいいものではない。

 

「ま、一時間もしないちょっとの間だけさ。町の入口から焚き火を見つめるだけの野暮仕事、コアントローのデカブツでも問題はなかった。褒めるとはいかなくても、怒るこたーねーんじゃねーの?」

「別に怒りゃしねえよ。ドタマ引っ叩くだけだ」

「怒ってんじゃん」

「怒ってねえよ、叱ってんだ。 それで、うちのボンクラを使ってまで仕掛けた策なんだ。当然、勝ち目はあるんだろうな」

「進んで賭けようとしてるクセに変な確認すんなよ。 まあ、勝率はこれで五分五分ってところだな」

「はあ? 確実にぶっ殺せるんじゃねえのかよ」

「残念ながらな。オッサンも知ってんだろ? プルケの早撃ちは爆発する」

「ああ、そんぐれえ速いらしいな」

「くそムカつくがそのとーりさ。 Fack……思い出したら腹立ってきた」

「おいおい、滾らせんのは決闘の前にしとけ」

「分かってんよ。 だけどオッサン、勘違いしてるぜ。プルケの早撃ちは爆発するんだ」

「さっき聞いた。ボケたのか?」

「違えよバカ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この違いは決定的だぜ?」

 

 ささみの干し肉を齧る。塩味が薄い。

 からからの肉を咀嚼している間、ラムは考えこんでいたが、答えは出なかった。

 

「……分かんねえけど、その作戦で条件は五分になるんだな?」

「ああ。多分」

「多分かよ」

「仕方ねーだろ、リハーサルなんかできねーんだから。でも人生は大体ぶっつけ本番だろ?なんとかなるさ」

「まあなあ。 俺も野バスに襲われた時は……」

「昔話はいらない」

「聞けよ」

「どうせ車後部(リア)に体当たりくらうまで気付かなかったってオチだろ? あの辺りじゃ珍しくもねー」

「……その通りだよ、クソっ」

 

 ラムは立ち上がり、砂埃を払う。やはり下半身に違和感があるのか、なんとも言えない表情をしていた。

 

「そろそろ行くか。日の出からだろ、決闘は」

「ああ。早く行かねーと賭けが締め切られるぞ」

「お前が入りをちょっと遅くしてくれれば、問題ねえよ」

「股間が宙ぶらりんだから?」

「そういうことだ」

「はあ……ま、いいけどさ」

 

 二人共に、防波堤を離れる。

 

 ハトバの町に防波堤は二つある。船着き場としても利用されるそれらは、一つはハトバからデルタ・リオ、イスラポルトを繋ぐ連絡船用、もう一つは個人で船を持つ人間が利用するためのものだ。スワンの町は後者の防波堤に停めてあり、行くには町中を通って迂回しなくてはならない。

 ミードが干し肉を咀嚼し、嚥下する間、二人は無言だった。昨夜の小競り合いの後にしては打ち解けたものだが、やはり相性はよくない。お互いにプロの賞金稼ぎで、つまりは商売敵だ。昨夜のことを抜きにしても、敵愾心は拭えない。

 

 スワンの町のタラップ前に、黒いバギーが停まっている。そこにメスカルとカシャッサがいた。 

 

「――あら、お帰りなさい。昨日の今日で仲良しさんね」

「どこが」

「ふざけんな」

「ほら、仲良し」

 

 メスカルは微笑む。カシャッサも笑っていたが、落ち着くと今度は欠伸をした。

 

「で、なんでカシャッサがいんだ? 店はどーしたよ」

「店はさっき閉めた。ヤサに戻って寝ようと思ったんだが、夜明け頃のわりに活気づいてたから、気になって見にきた。そしたら、興味深いことになってたって訳だ」

「ふーん。どっちに賭けんだ?」

「当の本人がそれを聞くか。 私は賭けない。ギャンブルの類は好きじゃないからな」

「へー、珍しいな。いかにも好きそうなのに」

「どういう意味だ……興味がないわけじゃないが、眠気には勝てない。ミード、お前とは知らない仲じゃないから、寝る前に見送りにきたんだ」

「あたしより睡眠優先かよ。 じゃあ、賭けるとしたらどっちに賭ける?」

「そりゃお前だよ、ミード」

「意外。カシャッサもか」

「も? まさかラムはミードに賭けたのか?」

「俺はこれからだが、そのつもりだぜ。 じゃあな」

 

 そう言ってラムはタラップを上っていった。力が入っておらず、よろけていたが、無事に地上一階へ入った。

 

「大丈夫かあいつ。怪我したのか?」

「メドヴーハに()から(タマ)を取られそうだったんだと」

「……なるほど。自業自得というか因果応報というか」

「自業自得だよ。でなきゃタダの間抜けさ」

「下半身でものを考えるからそうなる、か」

「その通り。 で、カシャッサは何であたしに賭けるんだ?」

 

 カシャッサはもう一つ欠伸をし、頭を掻く。

 

「お前も言っただろ。私は女を軽んじる奴が嫌い、そしてプルケは女が嫌い。つまりプルケは女の敵で、私の敵だ。だからあいつには賭けない」

「そんな理由かよ。好き嫌いの問題じゃねーか」

「大人同士の人間関係なんてそんなものだ。敵対してるか、()い愛してるか。詩人が歌うような微妙な距離感の関係なんて、このご時世そうそうない」

「感情論だろ。くだらねー」

「感傷論だ。くだらないのは、確かだな」

 

 強く風が吹いた。砂埃が舞うが、水辺だからか、涼しくて心地よい。

 

 カシャッサはミードの腰回りを指差す。

 

「そいつがお前の頼みの綱か?」

「あ? なんのことだよ?」

「見てすぐ分かるのに恍けるな。昨夜とホルスターの位置が違う上に、一つ増えてる。手数を増やすことがお前の対策かと聞いてるんだ」

 

 確かに、ミードの装いは大きく変わっていた。

 普段着のような迷彩キャミソールはともかく、革のウェスタンブーツから真紅の神風ハイヒール、ケブラーグラブからレーサーグローブと、装備を変えている。さらにガンベルトを巻き、左の太腿と右腰にホルスターを装着、それぞれに銃を収めていた。

 右腰に備えるのは究極イーグル。太腿から覗く銃は、グリップだけでは何なのか、カシャッサには分からない。

 

二挺拳銃(アキンボ)は別に反則じゃないが、それがプルケに通用するのか? それにその銃、見たことがないぞ。どこのモンスターから引っ剥がしてきたんだ? ごみあさりの腹から出てきたやつか?」

「質問が多いぞ。気になるなら観にくればいいだろ。そーすりゃー結果で証明できる」

「駄目だ。私は眠い」

「知らねーよそんなの……」

 

 やり取りを見て、メスカルはくすくすと笑いながら言った。

 

「素直じゃないのね。心配なら心配だって言えばいいのに」

「馬鹿、そんなんじゃない。マスターがいない間に常連客がいなくなるのは避けたいだけだ」

 

 カシャッサの顔が若干赤くなる。咳払いを一つして、気を取り直す。

 

「ともかく、それで勝てるのか? プルケの早撃ちは尋常じゃないぞ」

「オッサンにも聞かれたけどな、上手くいっても勝率は五分五分ってとこさ。負けるつもりはさらさらないけど」

「自信があるんだな。つまり、奴の抜きは詐術(トリック)だと知っているわけか」

「まーな」

 

 ミードはイーグルを引き抜き、スピンさせる。

 

「むしろカシャッサが知ってるのが驚きなんだが」

「以前、プルケの戦闘を目にする機会があった。吸血バルーンの群れに襲われてたんだが、プルケの手が銃把に触れた時、一瞬光ったんだ。その時から、なにかしらの仕込みがあるとは思ってた」

「なーる。カシャッサ、あんたも相当運が太いらしい」

「ツキのない奴はとっくに死んでるからな。ラッキーで当たり前だ。 それでミード、メスカル。お前たちはもうプルケの細工に当たりがついてるんだな?」

「そりゃそうよ。でなきゃとっくに夜逃げしてるわ」

「手も打ってる?」

「当然」

「自明よ」

「ならいい」

 

 カシャッサは大きく伸びをした。

 

「私はヤサに戻る。結果は酒場で教えてくれ」

「タマゴ焼き、サービスしてくれるんだろな」

「私特製のワインソースで、もてなしてやるよ」

 

 カシャッサは後ろ手に手を振って、去っていった。

 ミードはスピンを止め、ホルスターに仕舞う。

 

「なーんか、意外と皆勘づいてるもんなんだな」

「見た目に反して有能な人間は少なくないわ。決して多くもないけど。不自然を指摘してもお金にはならない。いつかの為に取っておくのが利口な判断よ。 それでミード、首尾は?」

「ざっと探ってみたけど、問題ない。誰にも見られてないし、多分プルケにもバレてない。そっちは?」

「三十分前にプルケが()に着いたわ。見張ってたけど、動きがないから、仕掛けには気付いてないでしょうね」

「Good. そんじゃ、行くとするか」

 

 二人はタラップを渡り、地上一階へ入る。

 昨夜会ったビール腹の男が、硬貨の入ったジョッキを差し出してくる。

 

「よう、件のお嬢ちゃん。入場料は50Gだ」

「おいおい、演者相手にも金取んのか?」

「そういうなよ。町の運営の為なんだ、協力してくれ」

「ったく、しゃーねーな。メスカル頼む」

「はいはい」

 

 硬貨を支払い、町に入る。朝一番にも関わらず、既に酒気と興奮で場は盛り上がっていて、ミードの登場を確認すると、拍手や指笛で囃し立てた。

 

 二人は喧騒を掻き分け、フロアの奥にいた老人に声をかけた。

 

「おう、ジーサン。まだ天に召されてねーみてーで何よりだ」

「久しいのうミード、それにメスカル。中々厄介なことに巻き込まれたようじゃの」

「そうなのよ長老、よく分からない因縁をつけられちゃって。あのソルジャーにガツンと言ってくださらない?」

「そうしたいのは山々じゃが、既に賭場が立ってしもうとるでの。この状況では、流石のワシでもどうにもできんよ」

「どうにかする気なんかねークセによく言うぜ。 で、ジーサン。決闘するから許可しろよ」

 

 随分な物言いに、老人は苦笑いを返す。

 スワンの町で決闘をするには、町の長の許可が必要である。

 元々スワンは《大破壊》の影響で湖面が下降して座礁した船に、人々が寄り集まってできた町だが、英雄の協力によって、再び水上を走ることができるようになった。しかし水上を移動する以上、燃料の確保は必須であり、その為には、より多くの人間が町を訪れ、金を落とさせる必要があった。

 現在のスワンにおいて、決闘など、金を吸い取る為の見世物でしかない――それも他人の諍いを利己的に利用したショービジネスである。

 それでも、この因習だけは残った。胴元にとっては商売でも、本人達にとっては殺し合いで果たし合いだ。

 ルール無用の真剣勝負。ガチンコのタイマンに、立会人は不可欠だ。

 

 ミードの言葉はつまり、《踊ってやるからさっさと始めろ》という意味で、皮肉混じりの煽りであった。

 

「勿論、許す。存分に戦うがよい」

「どーも。 オッズはどうなってる?」

「お主が3.2倍、プルケが1.06倍といったところかの。下馬評ではプルケ有利じゃな」

「ほー。んじゃ……」

 

 ミードは懐から巾着を取り出し、長老に投げ渡した。

 

「300Gある。あたしが自分に賭けるぜ」

「豪胆じゃのう。三途の川の渡し賃などいらんというわけか」

「おう、よく分かんねーけどそういうことだ」

「おう、じゃないでしょ。分かってないのに応じちゃ駄目。というか、よく私の目を盗んでへそくりなんか……」

「別に稼ぎから抜いてるわけじゃねー。気にすんな」

「だったら入場料ぐらいは払いなさいよ、まったくもう」

 

 二人は長老から離れ、階段を下り、地下一階へ向かう。

 人混みを掻き分けて壁際に着き、一つの通路の前まで進む。

 

 通路に佇むガタイのいい男は、ミードを見て言った。

 

「《掘削作業》か。準備はできてるか?」

「スカした野郎をぶち抜く準備ならいつでも」

「上等だ。行きな《掘削作業》」

 

 男が通路を空ける。ミードは通ろうとしたが、立ち止まって、振り返った。

 

「……何か言ってくんねーの?」

「あら、不安?」

 

 メスカルが答える。

 

「んなわきゃねーだろ。このHoll Make Meadが殺し合いでビビるこたーねーっつーの」

「じゃあ何よ」

「万が一、今生の別れになるかもしれねーんだぜ。最期に言っておくこととかさ、あったりしねーの?」

「いつでもどこでも今生の別れになることしかしてないのに、今更言うこともないでしょう」

「えー……」

「えーって……仕方ないわね」

 

 メスカルはミードを引き寄せ、両手で頬を掴む。顎を上げさせると、自然、ミードは上背のあるメスカルを見上げる形になった。

 

 

「なん――っ!?」

 

 

 左頬、目尻の下辺り。

 メスカルはミードに口付けした。

 

 

「――元気薬。気付けになったかしら」

 

 ミードの頬には真っ赤な唇の跡が残っていた。ほのかにイチゴの甘い香りがする。

 

「……口じゃねーんだ」

「そっちは未来の旦那様の為に取っときなさい。それとも、知らなかっただけで、実はそういう趣味だった?」

「いや別にレズじゃねーけど。つーか、あたしにダンナなんかできんのかね。我ながら想像できねー」

「できるわよ。あなた、性格はアレだけど、成りかたちは美形だし」

「アレだから男ができねーんじゃねーのか……自分で言うことじゃねーけどよ」

 

 照れくさそうに笑うミード。口紅の下も、赤みが差していた。

 

「ま、いーもん貰ったよ。景気づけにはなった」

「そりゃなりよりだわ。だから餞別にはしないでね」

「分かってるさ」

「……Good luck.」

「No, all I need is devil's luck.」

 

 

 

 メスカルと別れ、通路を進む。

 突き当りにはハシゴがかかっていて、それが船首に繋がる唯一の道である。

 

 ミードは段に手をかけ、ホルスターを揺らしながら、ゆっくりと登っていった。

 

 

 

 




用語&解説

・アホウささみ
 鳥形モンスターがドロップする、ささみっぽい食べ物。酒場で買い取ってくれる。

・センサーパンジー
 植物系のモンスターで、レーダーで命中率を上げたり、音波攻撃でパーティ全体にダメージを与えたりする。今作では、一部の植物系モンスターは煙草の原料になる設定。

・ドザエマン
 湖に出没するモンスターンスター。潜水服を着た半魚人みたいな見た目。名前の元ネタは水死体を意味する土左衛門。

・キャンプキット
 クルマ用の道具で、使うとその場で一泊して体力を回復するとともに、プレイデータをセーブできる。本来セーブは町のメモリーセンターという施設でしかできないので、ドロップマラソンに便利。

・野バス
 ノボトケ周辺でエンカウントするモンスター。《大破壊》の際にコンピューター管理されている無人バスが暴走、野生化したもの。バスの本能からか、バス停の前に人がいると停車して乗せてくれるので、これを利用することで自分のクルマとして戦闘に使用できる。

・ミードの装備
 神風ハイヒール(DEF 24)とレーサーグローブ(DEF 18)には素早さを上昇させる効果がある。対プルケ用の早撃ち対策。また、迷彩キャミソールには耐熱・耐寒効果がある。こちらは普段着。

・アキンボ
 元はファッション用語で、両手を腰に当てた体制のこと。西部劇で腰の銃に手を添えているシーンから意味づけされた。

・吸血バルーン
 遊戯王で言えばキラートマトみたいなモンスター。嚙みつき攻撃で与えたダメージ分、体力を回復する。

・いちごの口紅
 ステータスの《男らしさ》を-3~4する。ほのかにいちごの香りがする。



 用語の多さが気になってましたが、もう諦めます。今作はこんなスタイルで行こうと決めました。
 誤字脱字の報告、感想等、お待ちしてます。




 ※ 22/03/22 本文と後書きを修正、追記
   
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