荒廃した世界の現実譚   作:石持克緒

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 こんにちは、石持克緒です。

 
 「BLACK LAGOON」を読みながら「METAL MAX2R」をプレイしつつ、この小説を書いてます。ルマジュールさんが最近のお気に入りです。

 そういえば、前話から閲覧数が50件程増えました。閲覧ありがとうございます。



 五話目です。






5.刹那を掴む決闘

 

 

 上蓋がある。ハシゴに手足をかけながらなので難しいかと思ったが、簡単に外すことができた。

 

「よっと……おっ、たっけーなー。やっぱり」

 

 船首に出る。白鳥の船首とは、つまり頭部にあたる部分で、町で最も高度がある場所である。

 そしてその先端、オレンジ色の嘴の上が、決闘の舞台だ。

 

 

 空の白みが強くなってきた。灰色がかった風景が、色味を取り戻していく。

 湖は群青に、森は翠緑に、砂漠は乳白色に。そして町並みは錆色に。日が昇るにつれて明るさを足していき、落ちるにともない薄めていく。

 ミードは景色を長めながら、蒸し暑い風を受ける。

 

「最期に見る景色は決まったか?」

 

 嘴の先端、そこにプルケはいた。昨夜と変わらずサラトガスーツの上に煤けたマントを羽織っており、頭にはエジプシャンをかぶっている。

 

「んなもんはここに来る前から、とっくのとうに決まってる」

「ほう。なにかは知らんが、それは叶わないようだな」

「あたしがここで死ぬからか?」

「そうだ。 メスカルとか言ったな。死に目に会いたいのはあの女か?」

「いや、死に際にはイケメンの泣きっ面を添えるつもりさ。メスカルは毎日見てるから、今更どうとも思わん」

「いつも隣にいるから感慨もない、か。なら、今見てるその景色でも問題ないだろう。人ではないが、顔が見いいだけで見ず知らずの男と、そう価値は変わるまい」

 

 風光の中に寂れた人工物が浮かぶ景色は壮観ではあるが、それは高所から眺めているからそう感じるだけで、地を這うように生活している現代人からすれば、感慨もなにもない。精々《見晴らしがいい》程度にしか感じない。

 ハトバから北西に行けばアズサの町、北のトンネルを抜ければバザースカ、西の森には巨大アリが巣食う洞窟、遠く南西へ向かえばイヌの村。iゴーグルに頼らない天然の地図が見られるだけだ。景観に気を取られる程、今の人々に余裕はない。

 だから、全てのものは等価で低価だ。

 なんでも代わりは効くし、値打ちはない。

 

「今の世の中の死生観、死亡と生存の境い目は、恐らく正常ではない。少なくとも大破壊以前のヌルい感覚であれば、口にすることもできない考え方だろう。だが、今はそれが正常で常識だ」

「それがどーした」

「故に重要になるのは、どんな事柄に価値の重きを置くかだ。なにを大事にし、どれを心の支えにするか。生き長らえるには、そういったものが重要だ」

「…………」

「お前にはそれがあるか? ないなら、些細な願いも叶わず、ここで死ぬだけだ」

「…………」

 

 思えば、昨夜メスカルにも同じようなことを言われた気がする。

 ミードの目的は強くなること、目標は最強になることだ。強くなることで生き残り、生き残って天寿を全うするのが、ミードの人生設計である。

 主軸に据えるのは破壊、滅殺に伴う悦楽や快感。享楽的に生を全うする。それでいいし、むしろそれだけでいい。

 母親のようにはならない。恩義は感じているが、あんな惨めで情けない生活には戻りたくはない。

 しかしメスカルは、それだけでは不足だと言う。必要なのは主義であり信条。くしくも、プルケはメスカルと同じことを語る。

 有ろうと無かろうと、結果はなにも変わらないというのに。

 

「――じゃあ、あんたの重きを置く価値あるものは、あのバギーってことか?」

 

 プルケの言を借りるなら、そういうことになる。

 プルケはアラミアに並々ならぬ執着を燃やしている。理由は不明だが、強引な手段に出て手中に収めようとするぐらいには、あのクルマを重要視しているのは間違いがない。

 代わりの効かない価値のあるもの。それがプルケにとっては、他人が駆る漆黒のバギー。

 

「……お前らには、あのバギーの値打ちが分かってない。あれがどういうモノか、ちゃんと分かってんのか?」

「そっちが素か。熱くなんなよ、みっともねー。 知るわきゃねーだろ、こちとら売られた喧嘩を買っただけのカワイソーな被害者なんだぜ? あたし達にとっちゃバギーはバギー、愛着以上のもんは持ってねーよ」

「その割には金を積んでも動く気はないみてえだが」

「感情を金で買おうってハラが気に食わねーんだよ。少なくともあたしはそういう野郎は嫌いでね、いくら積まれようが売る気はねーよ。メスカルは知らねーけど」

 

 メスカルは拝金主義のきらいがある。この時世にハンター稼業などやっていれば、もれなくそうなるものだが、特にメスカルは、金儲けや損得勘定には、シビアでクレバーな一面を持っていた。

 20万Gで売らなかったのは、アラミアにかけた改造費を思うと、20万Gではペイできないと考えたのだろう。クルマを使い戦闘をこなすには、クルマ自体の強化が不可欠だ。ましてや高額の賞金がかかった危険な相手――例えば史上最大級の賞金首である軍艦サウルスや、グラップラー四天王最強の男と恐れられたテッド・ブロイラーのような――と対峙する場合、シャシーもエンジンも大砲もノーマルのままでは、返り討ちにあうのは必定だ。

 そういった強敵と戦うには、クルマの改造は欠かせない。しかし兵器の改造は、モンスターだらけの世の中であっても高額だ。苦労して稼いだ儲けが軽く吹き飛ぶ。

 

「つーかよ、じゃああんたはあのバギーの価値が分かってることになるけど、その根拠はなんだ? あたし達はまだ、あんたがあのバギーに拘る理由を聞いてねーぞ」

 

 今回の悶着で、一番の疑問点。

 そもそも、何故プルケはアラミアを欲するのか。プルケはソルジャーだ。クルマでの撃ち合いより、銃や剣でど突き合う方が得意なスタイルである。クルマに乗ることは少ないだろうし、乗るなら履帯(タンク)四輪(ヴィークル)より二輪(バイク)であって、バギーを欲しがるのは、それなりの理由があるはずだ。

 それも望んでいるのは他人の所有物である。普通に考えて譲ってくれる道理はないし、必要に迫られたのであればレンタルタンクがある。契約条件は中々厄介だが、便利は便利だ。決して多くはないものの、借りに行くソルジャーは珍しくない。

 どうしても自前がいいのであれば、野ざらしになっているクルマを手に入れればいい。数は少ないだろうし手掛かりはほぼないけれど、砂漠に埋没していた装甲車や、旧時代の施設に放置されていた戦車の話は、たまに耳にする。また、ノボトケ周辺には野バスもいるし、方法さえ知っていれば鹵獲は難しくない。

 戦車の製造を生業にする学者がいるという噂もある。その学者を探し出して造ってもらうのも、一つの手段ではあるだろう。

 

 しかし、それらの方策を退けて取った手段が、他人のクルマを合法的に奪い取ることだ。つまり、単にクルマを必要としているのではなく、アラミアそのものに、なにかしらの拘りや因縁、執着を覚えていることになる。

 

 そして、プルケはその理由を明かしていない。

 

「……聞いたところで無駄だ。お前らには理解できねえ」

「おいおい、話もしねーで理解もクソもねーだろーがよ」

「無駄なものは無駄だ。お前らはあのバギーのルーツを知らねえ。知らねえ奴らに理解は求めてねえよ」

 

 説明するつもりはないようだった。当然だ、つもりがあったら決闘などけしかけてはいない。

 

「それに……」

「それに?」

「時間だ」

 

 プルケは横目で湖を見た。水平線から、強い日差しが上ってきていた。

 勝負の時。

 

「……Shit. まあ、仕方ねーか。代わりに愉快な死に様が拝めるから、これ以上は聞かねーでおいてやるよ」

「同感だ。そして俺はバギーという特典がつく」

「オマケが欲しけりゃ、自販機でエロ本でも買ってろよ。 ああ、くたばる前にマス掻いてくか?最期の絶頂(ecstasy)ぐれーは、待っててやってもいいぜ?」

「……昨夜は、小生意気でうるさいガキだと思っていた」

「あん?」

「今は下品で身の程知らずな小娘だ」

「……はっ、そーかよ」

 

 事実ではあったので、正直、返す言葉がなかった。

 それに末期の侮辱だ。殺してウサを晴らせばいい。

 

 

「定刻じゃ!決闘を開始する!」

 

 

 しわがれてるが、大きい声が響いた。長老の声だ。

 それを受けてか、多くの歓声が上がった。見渡すと地上階には多くの観客がいて、スワンの外側、つまりハトバの防波堤にも、取り囲むように人々が集まっている。

 

 

 二人に緊張の色はない。

 二人して賞金稼ぎで、早撃ちの名手で、人殺しだ。緊張も焦燥も恐怖もない。肝要なのは覚悟と度胸、そして自慢の武器。必要最低限、それだけでいい。

 

 

 

 

 強さに理由は必要か?

 

 

 

 

「互いに背を合わせ、三歩歩く! 三歩目で同時に振り返り、銃を抜いて攻撃する! これで生き残っていた者を勝者とする!」

 

 古くから伝わる銃による決闘の作法、その一つ。

 数多の銃使い達が、この決闘法により、勝敗と優劣を示してきた。

 特に二人は早撃ちを得意とする。射撃の正確性と反応速度を競うには、うってつけのルールである。

 

 二人は嘴の中央に立ち、お互いに背を向ける。

 背丈は頭一つ分、ミードの方が低い。体格ではプルケが圧倒的に勝っていた。

 

「そういえば」

「あん?」

「銃を一挺、増やしたようだな」

 

 ミードは左腿の銃に意識を向ける。今回のミードの武装は、左腿と右腰の拳銃が二挺だけだ。

 

「その銃がお前の秘密兵器というわけだ」

「どーかな、もしかしたらオモチャかもしんねーぜ? 鉛玉じゃなくて銀玉吐き出すヤツ。他は、そうだな、水鉄砲とか。ああ、ハンドガン型ライターなんてのもあったな。そういうのかも」

「……答える気はない、か」

「当然。正解はくらうまでのお楽しみだっつーの」

 

 

 湖面から太陽が昇る。空が穏やかに燃える。

 温い日が入った宙空に、激しく殺意が沸き立った。

 

 

「準備はよいな!」

 

 長老の言葉に、騒がしかった下階が一気に静かになる。

 《雷鳴》と《掘削作業(ホールメイク)》の一騎討ち。ものの数秒で決まるだろう対決を見逃すまいと、視線は船首に集まっていた。

 

 

「――――一!」

 

 カウントが始まる。

 二人は一歩を踏み出す。死出の歩みだ。今から数秒後には、二人のうちどちらか――もしかしたら二人ともに、この世から滅殺している。

 

「――――二!」

 

 仕込みはした。だが、それがしっかりと機能しているかは賭けだ。上手くいかなければ、恐らくミードは死ぬ。

 

 死に恐怖は感じない。棺桶で寝起きをするが如き稼業をしていて今更だし、そもそも感じろという方が無茶だ。病気だろうが事故だろうが殺人だろうが、そこかしこで死体が量産されている日常を生きている。現代人にとって《死》という概念は、あまりにも身近にあり、当たり前のように生活に馴染んでしまっているのだから。

 《死》そのものに恐れはない。だから恐怖するのは《死》にいたる道程、途中の過程、忍び這いずり寄る経過だ。無感に対して不感になるなど、恐れるには値しない。

 

 

 ましてやこの少女は――ミードは狂っている。

 狂人は、恐怖を享楽に変える。

 

 

「――――三」

 

 二人は同時に動いた。

 

 

 右脚を軸にバックターン、併せて左腿の拳銃を抜いた。左半身に振り向いての横撃ち。速く構えて速く撃つ、スピード偏重の撃ち方。

 通常、こんな撃ち方は照準が合わず、正確性を損ねる。どれだけ速く抜こうが、当たらなければ意味はない。とにかく素早く発砲することを目的とした、早撃ち向きだがほとんど使われない撃ち方だ。

 しかしミードは、重い究極イーグルを自在に操る少女である。無理な姿勢であっても、正確に命中させる。これぐらいの無茶、デメリットにはなりえない。

 

 

 では、プルケはどうだ。

 プルケも同様に銃を抜いていた。大振りで重厚なワンハンドガリル。

 

 

 それがニ挺。

 翻したマントの下、右腰と左腰から抜かれた二つの銃口。

 プルケは最速の手腕をいかんなく発揮し、同じく二挺拳銃でミードを仕留める算段だった。

 

「――――」

 

 プルケの作戦はこうだろう。

 プルケは、ミードが二挺用意してくることを看破していたのだ。ハンドスピードで劣るミードが差を埋めるには、手数を増やすしかない。先に命中すればプルケの勝ちだが、仮に外したり、避けられたりした場合、次弾の装填に時間がかからない二挺拳銃の方が有利になるからだ。

 ガリルもイーグルも自動式(オートマチック)だ。44マグナムなどの回転式(リボルバー)に比べると、装填が非常に速く連射に向いているが、両手に一挺ずつ持ち、交互に撃ち続ける方が次弾の射出が速いのは自明だ。装填時間のロスをカバーしているだけで、極々わずかな速度差でしかないが、先手の取り合いを放棄すれば、勝ちの目が見えてくる。プルケの攻撃は、防弾チョッキやセラミックパットで対処すれば、少なくとも致命傷を負うことはないからだ。

 今回の対決では、まず間違いなく先手を取れるプルケの一発さえどうにかできれば、この差が如実に活きてくる。

 プルケが外し、ミードも防がれた状況なら、次弾の発射が速い方が勝つ。このタイミングを確実に捉える目的で、ミードは二挺拳銃を選択したのだろう。

 

 この読みの上で、プルケが取った対策は、単純に自分も二挺持つことだった。

 手数で負けるのなら、こちらも手数を補えばよい。しかも自分には、これまでひた隠しにしていた、二挺同時早撃ち(デュアルファストドロウ)がある。スピードで勝り、攻撃回数でも勝るのなら、プルケに敗北はありえない。

 

「――――」

 

 たが、それでも彼女は笑う。

 悪逆を体現した、爛々とした瞳で、狂人は笑っている。

 

 

 

 

 

 

 ダ・ダァン!!

 

 

 

 

 

 

 銃声が二発。

 勝敗は――

 

 

 

 

 

 

 ――着かなかった。

 

 

 

 

 

 

「……バカな!?」

 

 ほぼ同時に発射された弾丸。プルケの狙いは、ミードの脳天と心臓だった。命中すれば即死が見込める、人間の急所だ。予想通りに先制し、その二点に狙いを定め、引き鉄を引いた。だからミードは、倒れ伏していなければおかしい。

 間違いなく死ぬはずだったのだ。

 

「……取り乱すなよ、情けねーな」

 

 ミードが発射後の銃口に、ふっと息を吹きつける。

 被弾はおろか、かすり傷すらも負っていないようだった。

 

「しっかし、あんたも結構コスいな。早撃ち対決でニ挺同時に打つたあ、反則じゃなくてもイメージ悪いぜ? ま、あたしには全くもって通用しなかった訳だが」

「なぜだ!? クソっ! お前、なにをした!?」

「なにしたかなんて、自分から言うわきゃねーだろ。知りたきゃ地獄で母親に教えてもらえよ、膝枕で乳吸いながらな」

 

 言って、ミードは拳銃をスピンさせる。小振りで薄鈍色、自動式らしい銃身。プルケはその拳銃を見たことがなかった。

 

「……その銃か!? その銃で!!」

「この銃が、なんだ?」

「とぼけるなガキィッ!! お前、今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 声を荒げるプルケ。対してミードは、スピンを止めず、笑いも止めない。

 

「そしてその銃! マシンピストルの類だな!?」

「御名答。つっても、コイツがそれに分類されるのかは、あたしにゃ分かんねーけどな」

 

 ミードは言った。

 

「《デスペローダー》。あたしはコイツをそう名付けた。かの賞金首《デスペロイド》から剥ぎ取ったモンでな、two round burstが可能なのさ」

 

 マシンピストル。

 拳銃程度のサイズでありながら、全自動射撃ができる火器である。

 旧時代の一時期に流行った銃のタイプで、拳銃サイズにしては瞬間的な火力に優れている。反面、凄まじい反動により照準が合わず、その上すぐに弾切れを起こしてしまうので、本来は塹壕戦で使用されていたが、次第に短機関銃に取って代わられてしまう。

 その欠点を補う為に生まれたのがバースト機能である。一度、引き鉄を引くごとにニ、三発の弾丸が発射されるというもので、全自動射撃よりも火力で劣るものの、照準は安定し、弾丸の消費を抑制する。

 

 しかし、あくまでも連射性と安定性を両立しようとした結果、誕生した機構だ。決して早撃ちに適している訳ではないし、プルケがニ挺持っていることを予想していたとしても、対抗策になる訳ではない。

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 けれども、それは現実に起こった。

 ミードが繰るデスペローダー。この組合せが、魔弾の如き奇跡を実現させた。

 

 

「――さて、あたしのスゴ技が炸裂したところで。提案といこうじゃねーか」

 

 まだデスペローダーの銃口は、プルケを捉えている。同様にニ挺のワンハンドガリルも、ミードに向けられている。

 一見すると両者とも手詰まりの膠着状態。だが、まだミードには右腰の究極イーグルがある。

 ここでプルケが発砲しても、ミードは再び撃ち落としてしまうだろう。そしてミードがイーグルを抜き、撃ってしまえば勝負は決まる。

 

「お互い銃を仕舞う。そんでもう一度、純粋な早撃ち対決といかねーか?」

 

 事態はミードに有利であったが、しかし当の本人が状況のリセットを申し出た。

 

「……どういうつもりだ。絶好の機会を捨てるたぁ」

「捨てたところで、すぐに次がくるからな。 なーに、あたしは感情を金で買おうってヤツが嫌いだけど、自分より強いヤツも嫌いでね。特に自分の得意分野で上をいった野郎なんざ、存在自体が許せねーってタチなんだよ」

 

 透明な汗が、額から頬へつたう。

 

「負けたまんまじゃ我慢ならねー。ここらで一丁、ハッキリさせとこーぜ? アシッド・キャニオン最強最速のgunslingerはどちらなのか」

 

 あまりの理由に、プルケは閉口する。今時、そんな幼稚な動機で動ける人間が存在するのか。

 とはいえこの提案、プルケとしては望むところである。

 状況はプルケに不利だ。だが仕切り直せるならば、今度こそ自分が勝つ。

 今回、プルケとミードが競ったのは、デスペローダーが軽量の銃だからだ。通常、自動式は6百gから1Kgぐらいの重さになるが、恐らくデスペローダーは5百g程度か、それを下回る重量だろう。当然、軽い拳銃の方が、速く引き抜ける。

 究極イーグルは約2Kgだ。それを振り回すミードの腕力なら、スピード差は顕著に表れる。現にミードの抜きは、プルケのそれに匹敵していた。

 だが、プルケには秘中の秘とする()()がある。それこそが《雷鳴》の称号を冠するに至れた秘訣であり、プルケをプルケたらしめるものであった。

 能力を全開にしさえすれば、ミードよりも速く抜ける。信仰に近い確信が、プルケにはあった。

 

 アシッド・キャニオン最速の銃使い(ガンスリンガー)は、このプルケ・トゥルエノである。

 

「……いいだろう。誘いに乗ってやる。あの世の果てまでぶっ飛びやがれ」

「That's awesome.」

 

 ミードはデスペローダーをスピンさせて仕舞い、プルケはゆっくりとガリルを収める。

 

 

 お互い、再びスタートラインに立った。先程と違うのは、開始を決める合図はないということだ。

 合図は、二人の呼吸が決めるのだ。息と意思のタイミングが合ったその時、勝負が始まる。

 一流同士の決闘に、無粋な掛け声など不要である。

 

 

 

 

 

 

 どこか遠くで砲撃音と、つんざくような鳴き声がする。 

 

 

 

 

 連絡船のものだろうか、長い汽笛が聞こえる。

 

 

 

 

 戦車のキャタピラと排気音が、荒れた大地を駆け抜ける。

 

 

 

 

 強く風が吹き、風圧がひどく鼓膜を揺らす。

 

 

 

 

 湖面の漣が、スワンの町を緩やかに叩く。

 

 

 

 

 

                    二人が動いた。

 

「――――っ」

「――――ッ」

 

 

 プルケの右手にワンハンドガリル。

 ミードの右手に究極イーグル。

 

 

 銃の重さはスピードに影響する。ならば軽くて連射が効くデスペローダーが、本来は効果的だろう。

 だが、ミードは右腰のイーグルを選んだ。選択の理由は、意地以外の何者でもない。

 

 

 昨夜の屈辱は同じ銃で晴らす。

 絶対にぶっ殺してやる――!!

 

 

 

 

 二つの銃口が向かい合い――

 

 

 

 

ダァン!!

 

 

 

 

 銃弾が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの世の果てまでぶっ飛びやがれって?」

 

 勝ったのは――

 

「残念、あたしには地獄の女神様のキスがついてんだよ」

「……そんな、バカな」

「あたしがこの世界(地獄)でくたばるわきゃねーだろーが」

 

 

 プルケの脳天はドリルで穿たれたように爆ぜ、抉った。

 荒々しく掘削された鉱脈から零れた赤と緑の液体は、朝の日差しを照り返し、宝石を思わせる程に輝く。

 

 

「俺の――オ、レの……」

 

 塗れたエジプシャンからは、まだ声が発せられていた。

 

「お、レっの。バ、……ぎィ」

 

 よたよたとバランス悪く、プルケは後ずさる。

 嘴の先端で尻餅をつき、強い衝撃で跳ねた。

 

「アレ。は…… トハ、 しょか、ラっ……俺の――」

 

 落下。

 仰向けにずり落ちたプルケの身体は、そのまま防波堤の側、水面に叩きつけられて、沈み。

 

 

 

 ドォンッ!!と爆発し、高い高い水柱を上げた。

 

 

 

 汚染された水飛沫を浴びながら、ミードは空を見上げる。

 興奮のピークは一瞬だ。目標をぶち抜き、息の根を止めた瞬間から、熱は一気に冷めていく。

 その感覚、感情の急激な温度差がクセになる。

 人殺しは麻薬よりも甘くて苦く、不味くて美味い。

 

 

 

「――――勝者、《掘削作業》ミード!!」

 

 

 

 宣告と同時に、喝采と怒号が飛んだ。

 ミードはそれを他所に、イーグルをホルスターに収め、額を拭う。

 汗びっしょりのグローブ。思わずため息をついた。

 

 

「Shit……あっちーんだよクソったれ」

 

 

 

 




 用語&解説

・iゴーグル
 人間用のアイテム、というかそういう体のコマンドシステム。装備の確認や車の乗り降り、モンスターデータの一覧など、総合的に行動を選択できる。ゴーグルに様々なデータが表示される設定で、フィールドのマップも確認できる。

・軍艦サウルス
 レインバレーに現れる賞金首。賞金は200000G。艦艇に恐竜の頭部と四肢が生えた生き物で、非常にデカい。また、上位種に「母艦サウルス」「軍艦キング」が存在し、それぞれが軍艦サウルスよりデカい。具体的にどれぐらいデカいか知りたい方は、画像検索することをオススメする。

・「テッド・ブロイラー」
 通称「テッド様」「ラスボスより強い男」。賞金は250000G。火炎放射器を両腕と喉元に装備した男で、2~3回行動、火炎系即死級攻撃&継続ダメージ、物理系即死級攻撃、ほぼ必中の即死攻撃、ターン終了時のHP自動回復、HP完全回復(3回)、目からビームで迎撃という、他の賞金首とは一線を画す性能を有しており、実質最強の敵キャラ。
 「人間狩り」を行う組織「グラップラー」の幹部で、ゲーム中の主人公の育ての親の仇。

・レンタルタンク
 クルマを貸し出してくれるサービス。料金は1回の戦闘で手に入れた賞金の半額✕借りている台数。やたら強力な武装のクルマもあり、お得意様になると買い取りも可能だが、戦闘中に少しでもパーツが破損すると、搭乗者を強制的に放り出し、自動で店に帰還してしまう。使い所はよく考えよう。

・自動販売機
 アイテムを売っている自動販売機。当たりつき。そこかしこに設置されており、台によって販売しているアイテムが違う。たまに「ヤラしい本」「謎のゴム風船」などが売っているが、常に売り切れで購入できない。

・人間パトリオット
 ソルジャーの特技。特定の武器を装備スロットの上部に装備していると、敵の攻撃を低確率で迎撃する。ただし迎撃できる攻撃はDDパイナップルなどの「投げつけられた攻撃」「飛来してくる攻撃」であり、銃撃や斬撃、火炎放射などは迎撃できない。
 ハンターであるミードが、なぜソルジャーの特技が使えるのかは、ゲームシステム上の話なので、ここでは割愛。

・デスペロイド
 エルニニョ北東部に現れる賞金首。賞金は4500G。通常攻撃が2回攻撃で、装備しているのも2連射武器なので、計4回攻撃になる。さらに2連続攻撃も可能で、この場合は計8回攻撃となり、序盤に登場するわりに手数が酷い面倒な敵。
 ドロップアイテムに「デスペローダー」があり、これが上記の「人間パトリオット」に対応している。性能はそのまま2連射武器(ATK 44)。
 作中ではミードが討伐に成功し、アイテムを手に入れた設定。



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