こんにちは、石持克緒です。
少し体調を崩してしまったため、遅れての更新となりました……まあ、普段の更新速度からすれば早い方ではありますが。
ところで、以前「ミードの口調が『BLACK LAGOON』のレヴィっぽい」というようなことを書きましたが、よくよく考えてみると『エア・ギア』の鰐島咢の方が近いことに気づきました。
……だからなんだって話です。
六話目です。
ハトバの町の宿屋は、連絡船乗り場の二階にある。この建物の所有者である老人が、自らの私財を投じて創めた事業だそうで、町の立地の関係上、それなりに流行っている。
《金が有り余っているので社会に貢献しよう》という老人の戯言から始まった経営だが、金持ちのこだわり故なのか、他の町の宿屋とはサービスが違う。宿泊者ごとに個室に通すし、壁も薄板一枚の仕切りではなく防音壁で、利用客のプライバシーを確保している。水道関係も充実し、シャワー、浴槽、洗面台、トイレも完備。ラックやクローゼットも備えつけられ、アメニティグッズすら用意されている。なにより寝具はふかふかのベッドで、強く揺れても軋む音すらしない。
さらに最高級グレードの《プラチナエクストリームスウィートルーム》では、旧時代より伝わる芸術作品が飾られ、蓄音機やエアコン、タペストリーにクラゲの水槽といった、他の部屋にはないインテリアで溢れており、ベッドも大きい上に天蓋つきで、敷物は虎の毛皮と、リッチでゴージャスな雰囲気に浸ることができる。しかも一日三食つきで、モーニングコールも行ってくれるのだ。寝袋一つよこして野ざらしにする上に蚊だらけの宿屋もあることを思えば、完全に異次元で別世界の光景である。
そんな極まった道楽商売の宿屋であるが、ミード達が泊まっているのは《竹の間》と呼ばれている普通の部屋だ。凄まじい成金趣味の部屋に興味はあるが、興味本位で宿泊するほどに稼いではいない。
贅沢は敵、らしかった。
「ねえ、メスカル。そこのVIPルームの廊下なんだけど」
「ええ」
「よくわからない格好した男の人の肖像画が、いくつか飾られてたんだけど、なんなのかしら」
ベッドに腰かけるメスカルに対し、メドヴーハはソファに座っていた。シャワールームからは水が滴る音がしていて、それが今のBGMになっているが、二人はそれを気にする様子はない。
「確か旧時代の、ベースボール? とかいう遊びが上手かった人達の絵なんですって。ノゥモだかニセンイチローだかマッツィンだかジョージマッケンジーだか、そんな名前の」
「誰よそれ」
「私も知らない」
「でしょうね。しっかしダルプッシュ? とやらはイケメンに描かれてたわね~。ぜひご一緒したいもんだわ」
「どこでなにをご一緒するのかは、聞かないでおいてあげる。 で、見つかった?」
「ええ。はい、コレね」
メドヴーハは胸の谷間から手帳を取り出した。
「えーと、ここね。2XXX年の――」
説明しようとしたところで、シャワールームの扉が開いた。
「なあメスカル、このクリーム青臭えんだけど……って、なんでメドヴーハがいんだよ?」
ミードである。濡れた金髪の上にタオルを乗せ、下着一枚で現れた。
「……ミード、少しは慎みってものを覚えなさい。女しかいなくても服は着てくる、いつも言ってるでしょう」
「パンツ履いてんじゃん」
「パンツは下着よ、シャツまで着なさい。メドヴーハもいるんだから、ちょっとは気にしたらどうなの」
「いや、あたしのことは気にしないでいいわよ。かわいい女の子の柔肌見るのも嫌いじゃないし」
「……え、あんた女もイケるクチ?」
「それなりに美形だったら、女でもオーケーね」
「うげー、マジかよ。……え、なに?あんたがちょっかい出すのって、実はあたしを口説いてたって訳? あたしノンケなんだけど」
「……別に女の子ともできるってだけ。恋愛的な相手は普通に男よ、あたしは。 ねえ、メスカル?」
「知らないわよそんなの、どうして私に同意を求めるの……しかも理由になってないし」
「一応言っとくぜ。あたしに手ぇ出そうとしたら、そのデカい乳ねじ切るからな」
「……豊胸手術?」
「ぶっ殺されてーのか。メスカル、銃」
「落ち着きなさい。 あなたも煽らないで」
ミードをなだめ、メスカルはシャツを手渡す。
「さっさとその薬塗っちゃいなさい。軽い火傷でも、放っておくと後で酷いわよ」
「そーいえばなんなの、それ? ちょっと臭いわよ」
「ラジオブロッサムのエキス入り軟膏。大抵の傷に効くわ」
「あー、火傷……ん?」
「なんか文句あんのか」
「ミード、あんた脚を火傷したの?」
ミードは別のソファに座り、軟膏を脚に塗っているところだった。
脚を火傷するというのは、ないわけではないが珍しい。それも一箇所ではなく、足の甲から太腿まで、全体を満遍なく負傷することは滅多にないだろう。
この辺りで火事があった訳でもない。となると、モンスターの攻撃をくらったか。だがミードはさっきまで、スワンの町で決闘をしていた。町の外には出ていない。
つまり、この怪我はプルケとの戦闘の際に負ったものだ。
「でもプルケの武器は銃だけでしょう? 火傷するような攻撃はなかったと思うんだけど」
「そりゃーそうさ、奴さんは鉛玉吐き出しただけだよ。だからこれは……んーと」
ミードはメスカルを見やる。メスカルは溜め息をついて、代わりに話す。
「決闘にあたり仕込みをした結果、勝利と引き換えに、ミードは軽く火傷した。それだけの話よ」
「仕込み?」
「仕込み。というかメドヴーハ、あなた今朝の勝負は見てたのよね。なにか気付かなかったの?」
「あたしはミードの勝ちに財布丸ごと賭けたから、絶対に勝ちますようにって神様に祈ってただけよ。それで精一杯」
「要は気付かなかったんじゃねーか。つか、マジであたしに賭けたんだな」
「儲けさせてもらったわよ~。ミード、愛してるわ」
「あんたが言うと背中がゾクッとするからやめろ……」
あらかた軟膏を塗り終え、シャツを着込む。メドヴーハが残念そうな顔をしたが、ミードは見なかったことにした。
「そもそもだ、プルケ・トゥルエノの得意技はなんだ?」
「早撃ちでしょ?」
「その早撃ちはどれぐらい速い?」
「速すぎて音が弾けるぐらい、って聞いてるけど」
「じゃー今回、音は弾けたか?」
「…………」
プルケの音超えの早撃ちは有名だ。だらりと下げた手が瞬時に跳ね、雷鳴を思わせる轟音を伴いながら抜き放つ。プルケの戦いには必ず起こる現象であり、それこそがプルケをプルケと証明する代名詞である。
しかし、先程の決闘では、プルケの早撃ちは爆発しなかった。
「プルケの早撃ちは音速を超えてない……つまりプルケはなんらかの小細工をしてたってこと? それを見越して、あんた達は手を打ったってワケ?」
「ええ。ま、手を打ったとは言っても、私達も小細工を仕掛けた程度だけど」
「……………………う~ん」
「あんたメカニックな割りに、頭使うの苦手なのな」
「得意分野以外はからっきしよ、残念ながら。図面引いてあるなら別だけど」
「想像しながら仮定の話は苦手?」
「そーねえ。あ、
「そこまで聞いてないから」
「……一家言ってなに?」
「専門家ってことよ」
メスカルはメドヴーハの手帳をひったくった。
「もう、脱線しすぎよ。なに、2XXX年の夏の決闘――」
「ちょ、ちょ~っと待ったメスカル! 流石にそれはダメ! 個人のプライバシーは見ちゃダメ!」
「……じゃあ真面目にやりなさい。なに書いてあるのかは知らないけど、晒されたくなきゃ、まずは役目を果たすのよ」
「は~い、お母さん」
「……破くわよ」
「すみません、それだけは勘弁して下さい」
メスカルは手帳をメドヴーハに返した。
「ってもね~、やっぱり分かんないものは分かんないのよ。ミードが勝った理由も、私にこんなことさせた理由も」
「つーかさ、この
「あの子は多分、相応の報酬を求めてくるから。それに大したことじゃないのよ。ちょっと昔の決闘について調べてもらっただけ」
「昔の?」
「昔の」
「昔のね~。ところで、なんであたしにこんなことを? ヒマだったからよかったけど」
「私に貸しがあるのを忘れたの? 昔、エンジンの改造代金を踏み倒そうとして暴れたバカから助けてあげたじゃない。それを今返してもらっただけよ」
「あ~……あったわね、そんなことも」
すっかり忘れていたようだった。
「とはいえ、パシリぐらいで借りが返せたなら、むしろよかったわ」
「ポジティブね」
「こんな時代だからね。で、どんな小細工なの」
「もう少し考えろよ。それでも技術屋か」
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うじゃない?」
「恥なんて思ってもねークセによく言うぜ」
「慣れる前に習えってのが、あたしのモットーよ。いーじゃないの、教えてくれても。一応働いたし、オチぐらい知っときたいわ」
「はあ……まあ、いいけど」
メスカルは嘆息し、説明を始めた。
「まず、プルケは人間じゃないわ」
「は?」
「正確には純粋な人間じゃない。あの男はサイボーグよ。それも身体の大部分が機械化された、ね」
メドヴーハが驚嘆の声を上げた。
「え~っ、それマジ?」
「マジもマジ、本当に本当よ。第一、思い返してみなさいよ。水没した身体が派手に爆発四散する現象なんて、ただの人間の死体で起こるわけないでしょう」
「――あ~……確かに。言われてみれば、それもそうね」
「まあ、すっげーリアルなアンドロイドもいたりするから、分かんねーのもしょーがねーとは思うけど」
モンスターにも、見た目は人間に近いものも少なくない。アマゾネーターやコピードールがそうだ。特にコピードールなんかは、認識した生物にほぼ完璧な姿で擬態する能力を持っている。人間か人型か、真贋を見分けるのは、熟練のハンターでも難しい。
プルケの皮の下、本質を見抜けないのは、無理からぬ話だ。
「……う~ん、ってことは~」
メドヴーハが腕を組む。玉のように豊かな胸部が強調される。ミードとメスカルよりも大きな膨らみは、確かに揉んだら柔らかそうで、常人にはない母性を主張していた。
「プルケがサイボーグってことは……つまり、小細工はそれに関するなにか?」
「そうね」
「じゃあ、ほとんどのことはありえるか……あっ」
思いついたか、メドヴーハが手を打った。
「磁力。電磁力かしら」
「さすがに、ここまで出ればすぐね。そう、恐らくはそうだと思われるわ」
プルケの早撃ちを考察する場合、早速問題にぶつかってしまう。それは《音速を超える早撃ちは本当に可能なのか》という、根本的な問題だ。
旧時代での早撃ちスピードの世界記録は、約0.02秒とされている。人間のまばたきが約0.1秒程なので、これは驚異的な速度と言える。
そして音が伝わる速さは、秒速340mである。空気中の温度を15℃とした場合、一秒間に340m移動する程の速さだ。
対して0.02秒の早撃ちから算出される速度は、秒速5mから10m程度。明らかに音速より足りない。つまり、例え手首や指先の一部分であったとしても、生身の人間が音速を超えるのは、およそ現実的ではないのである。
仮に超えられたとしても、身体が無事なはずがない。音の壁を破る際の衝撃波は非常に強力で、人体の耐久性能で損傷なく耐えるのは不可能である。これはプルケがサイボーグであっても同様だ。人型の腕では、どれだけ強度と動作性に優れてようと、音速は超えられない。人間の腕は、空気抵抗から逃れられるような形状ではないからである。
ではプルケの音速に近い早撃ちの秘訣は、一体なんなのだろうか。
その答えは《プルケがサイボーグであること》。この秘密に集約される。
「機械の身体なら、駆動部の動作性は人間より優れてるはずだしね。それに電磁力で銃を手元に引き寄せれば、より速く銃を向けられる」
ハンドスピードに限界があるなら、
強化された筋組織と神経系を持ってして腰元に手を伸ばし、手の平から電流を発して磁場を作り出す。磁性体となった
つまりプルケはワンハンドガリルに磁性を持たせ、ホルスターから引き抜くフリをして、手に引き寄せていたと考えられる。
誰よりも速いのは当然だ。一瞬とはいえ腕と同時に銃も動くのだから、倍速で移動しているようなものである。
「でも、メスカル達はどうして気付いたの?」
「理由は色々あるわよ。例えば酒場でミードとやり合った時。音速を超えているはずなのに、周囲に被害が及ぶような衝撃波は発生してなかったとか。疑念を覚えたのはそこからね」
「あたしはプルケの手元が一瞬青白く光ったのを見た。そーいやー、カシャッサも昔、似たようなのを見たって言ってたな」
「私は匂いね。布が焦げたような匂いと、オイルの匂いがプルケからしたわ。思うに、瞬時にガリルに磁気を持たせるには、相当な電力が必要なんでしょうね。その為
「本当に。精進してよ」
「……どういう意味?」
「頑張って、努力して、成長しなさいってことよ」
「へーい」
ミードは後頭部で手を組み、ふんぞり返った。
「まあ、タネが割れりゃーセコくてショボいtrickだけど、実際効果的だよな。現に、誰もプルケに追いつけやしなかった。あたし以外は」
「結局は自分の自慢じゃない。だったら最初から本気出しなさいよ。こんな火傷も負うことはなかったのに」
メスカルがミードの額を叩いた。
「いてっ。 しゃーねーだろ。殺し合いならともかく、単純な性能差で人間が勝てるかよ。それに最終的には勝って生き残ったんだ。むしろ火傷くらいで済んでよかったってもんさ」
「そーね。治るレベルの火傷で済んでよかったわ。 で、スワンの嘴を熱したフライパン状態にした小細工はなんなのかしら。
ミードが言う通り、身体機能で人間が機械に勝てるはずはない。人間が勝つには小細工が必要だ――盲点を探し弱点を突き欠点を補うような、敗走も同然の戦い方が。
しかし、勝てば官軍という言葉もある。勝機があるなら、敗走もまた覇道だ。
メスカルは黒い小箱を、メドヴーハへ放り投げた。
手の平サイズのそれをメドヴーハは両手でキャッチ、ものを確かめる。
「……なるほどね~、《超電磁カイロ》か」
「それをいくつか、嘴の裏に貼りつけたのよ。
磁性を持たせ強くする方法があるならば、逆に磁性を弱め失わせる方法もある。消磁と呼ばれるその一つに、磁性体に熱を加えることがある。
磁性を持つ物質は、一定の温度に達すると、その磁性が消失する。物質内の磁気モーメントは一方向に整列しているが、温度が上昇するにつれて方向が揺らぎ、一定しなくなるからだ。これを旧時代の科学では《キュリー・ワイスの法則》と言い、その時の温度を《キュリー温度》と呼ぶ。
メスカルがプルケの正体に勘づいた時、その対抗策として思いついたのが、決闘の舞台そのものを熱するというものだった。
船首は全体的に金属でできている。氷塊をものの数秒で融かす超電磁カイロなら、短時間で船首を高温状態にできるだろう。次第に空気も熱せられ、それがプルケの銃にも伝わる。それがキュリー温度を超えれば、銃の磁性を弱めるか、失わせることができるかもしれない。
ミード達が深夜、スワンの外側でしていたのは、そういう仕込みだった。
具体的には砲身の長いレイルガンの先端に脚立をくくりつけ、限界まで角度を上げて嘴に近づき、脚立に乗っていたミードが超電磁カイロを設置するという、端から見れば滑稽そのものな行いだった。
地味な作業の割に目立つ姿なため、プルケにバレることだけは避けなければならなかったが、幸いにしてプルケは町の外で野営をしていた。プルケはいち早く舞台に上がりながらも行動を起こさなかったことから、ミードに
「プルケのサラトガスーツやエジプシャンは火や熱に強いから、そう簡単には仕込みに気付かないでしょうし、気付いたところでプルケにはどうしようもないわ。高温の船首に磁性は持たせられないから、船首に貼りついて直接取り除きには行けない。強さのキモを見られる可能性もあるから尚更ね」
「銃でカイロを破壊するのは?」
「できるだろうけど、現実的じゃねーな。位置を確認する必要があるし、その時点で嘴からはかなり身を乗り出してる。そんな状態で撃ったって、マトモに当たんねーよ」
「嘴の上、表から撃つにしても、間に厚い鉄板を二枚も介してる。その上から正確に撃ち抜いて故障させるのは、かなり難しいでしょうね。連射するにしても、そのせいで足場が崩れる可能性は否めない。利口な手段ではないわ」
「う~ん、確かに……」
メドヴーハは唸った。
「……って言っても、銃の金属素材はクロモリかステンレスが大半でしょ? ワンハンドガリルのキュリー温度ってどれぐらいなの?」
「さあ?」
「えっ、分かんないの?」
「分かるわけないじゃない。銃器が磁性体になる状況なんて、旧時代でも想定してないでしょう。私達が行ったのはあくまで《プルケの対抗策》であって、《プルケの攻略法》じゃないわ」
実際、プルケの早撃ちは速度が低下しただけで、ガリルに磁性を帯びさせるのを阻止できた訳ではない。
ガリルに使われる素材のキュリー温度が分からないのだから、どれぐらいの温度で何分以上熱する必要があるのかは不明確だった。
加熱する時間が短くては意味がないし、あまりに長すぎてはミードの皮膚が耐えられない。一応、ミードの脚に耐熱ジェルを塗ったり、神風ハイヒールで接地面積を減らしたり、その上消防服を足のサイズに切り裂いて中敷きにしたりと、プルケに勘づかれない程度に防護策は取っていたものの、それでも不安は残る。
ミードとメスカルは、磁性が失われているはずだという希望的観測に賭けて、策を実行したのである。
勝ち筋は見えるが練習などない、一発勝負のギャンブルだった。
「えー……分が悪すぎでしょ。よく命張れたわねミード」
「そりゃーあんた、プライドの問題だよ。負け戦になろーが、売られたケンカは受ける。コケにされたままじゃ我慢ならねーからな」
「本当に負け戦になりそうだったのに、格好つけるんじゃないわよ。そのままデスペローダーで撃ち殺せばよかったものを、仕切り直しちゃって。しかもデスペローダーじゃなくイーグルで勝負するし。勝ったからよかったものの、あれで負けてたら恥かくどころじゃ済まなかったわよ」
「あ、やっぱあれ打ち合わせしてなかったんだ」
「あんなの提案してたら、当然反対してたわ。負けてたらアラミアちゃんがあの死に損ないのロボットくずれの手に渡ってたのよ? 反対するに決まってるじゃない」
「責めようにも、事後じゃミード死んでるしね」
メドヴーハは伸びをして、ソファに寝転がった。
「……プルケはサイボーグ、か。ふーん。なーるほーどね~、そういうこと」
「……どーした、なんかあんのか?」
「べっつに~。察しがついたってだけよ」
「察し? なんの」
「鈍いわね~。ミード、あんまり他人のことバカにできないんじゃない?」
「んだと」
ミードが握り拳を作る。十代の少女特有の柔らかさがあるが、人を殴ることに慣れている、硬くて荒れた皮膚をしていた。
「ちょっと」
「口からかケツからか選びな」
「いや、なにする気よ」
「内臓抜き出すに決まってるだろ」
「殴るんじゃないの?」
「殴るのはデフォ、その後に
「……メスカル、助けて」
「やめなさい二人共。宿に迷惑がかかるわ」
「私の心配はしないのね……」
メドヴーハは長く細い脚で勢いをつけて立ち上がる。
「ま、知りたいのも知れたし、ここらでお暇させてもらうわ。仕事もあることだし」
「なんだよ、ほっぽってきたのか。つーかさっきヒマって言ってなかったか?」
「大した仕事じゃないのよ。タイガータービンの重量調整ってだけだし……それにメスカルが急いでって言うから」
「言ったけど、すぐにやってくれるとは思わなかったのよ。 悪いわね、今度改造する時はお願いするわ」
「はあ……むしろあたし以外の誰が見れるのよ」
扉から出て、メドヴーハは手を振った。
「んじゃ。 ってそうだ、ミード。スワンの長老が言ってたわ。明日には出港するから、早いとこ配当金取りに来いって」
「あー……そうだった忘れてた。一応あたしの全財産なんだけどな……しまったな」
「そーゆー時もあるわよ。あたしも挿れっぱなしで寝てることなんかしょっちゅうだし」
「そんなことと一緒にすんな……」
「じゃね~」
扉が閉まる。
一気に静かになり、姦しさがなくなった。
「……さて、うるせーのがいなくなったことだし。あたしは寝る」
「そうしなさい。お昼になったら起こしてあげる」
「頼むわ」
ミードはソファからベッドに移動し、うつ伏せに倒れ込んだ。
「おやすみー……」
「おやすみ」
「……あ、寝る前にキスしてくんない? さっきみたいに」
「馬鹿言ってないで早く寝なさい」
「へーい」
ミードは目をつぶり、しかし眠らずに、音を聞いていた。
シャワールームから水音がする。メスカルがシャワーを浴びているらしかった。
ミードは諦めて意識を手放し、寝入ることに決めた。
用語&解説
・ 宿屋
休憩して体力を回復できる施設。ゲーム中では「梅の間」「竹の間」「松の間」の三段階のグレードがあり、「梅の間」に泊まると一定確率で蚊に血を吸われて1ダメージを受ける。また、代金はどこの町でも一律料金。
ちなみに本来ハトバに宿屋はなく、「プラチナエクストリームスウィートルーム」も本作でのオリジナル設定。
・ 野球
「METAL MAX」シリーズには、よく野球に関する要素が登場する。ダンジョンが野球場だったり悪党の間でベースボールカードが流行ってたり、ユニフォームが入ってるタンスの隣からドーピング・タブが発見されたり。
本文中の選手の名前はメージャーリーグで活躍した選手から来ている。誰が誰かは見ての通り。
・ ラジオブロッサム
大きなピンク色の花をつけた植物型モンスター。放電したりバリアを張ったり面倒な敵。ドロップアイテムに「ブロッサムじる」があり、とあるクエストでこれを加工して回復アイテムにしてくれる。
本文中の軟膏には、このエキスが入ってる。
・ アマゾネーター
なぜか逆立ちで登場するハイレグ姿の人型モンスター。鞭で攻撃してくる。
・ コピードール
メイド服を着てガスマスクを着けた様なマシン系モンスター。パーティの内一人をスキャンしてその姿に変身、その味方が装備している武器で攻撃してくる。よって、強力な武装をしていると却って危険となる相手。弱点属性はなし、パワーで押し潰すべし。
・ 世界記録
記録保持者はアメリカのボブ・マンデン。非常に驚異的なスピードで的を撃ち抜く。どれだけ凄いかは動画を見てほしい。あまりの凄さに絶句する。
・ キュリー・ワイスの法則
簡単に言うと「物質の磁気は一定温度以上に達すると磁気が弱まり、やがて消失する」という内容。磁石を火で熱するだけでも観測は可能なので、気になる方は安全に配慮して実験してみてほしい。
・ レイルガン
ATK 695~834の大砲(戦車装備は同じ装備でもレア度が変動し、それによって性能も変わる)。特徴として、敵に迎撃されない。電磁力により超高速で砲弾を射出、猛スピードで攻撃を弾き落としているらしい。
・ 超電磁カイロ
冷え状態(周囲を凍らされ、冷気属性の継続ダメージを被る状態)を解除する戦闘用アイテム。一回だけの消耗品。
・ タイガータービン
クルマ用エンジンの一つ。積載量は25.00tだが、戦車タイプのクルマに装備すると積載量が増加する「戦車ボーナス」という特性を持つ、ゲーム中唯一のエンジン。
と書くと凄そうに見えるが、素の積載量で上回っているエンジンはたくさんある。試用期間は序盤から中盤の初めぐらいだろうか。
一応、次回で今回のお話は一区切りとなります(最終回ではないです)。
誤字脱字報告、感想等、お待ちしてます。