荒廃した世界の現実譚   作:石持克緒

8 / 11



 お待たせいたしました。石持克緒です。
 長々と書きましたが、とりあえず今回で一区切りとなります。付き合ってくれた皆様、本当にありがとうございます。



 七話目です。






7.プルケ・トゥルエノという男

 

 

 

 目が覚めると夕方だった。窓から射し込むオレンジ色の夕陽が、ミードの白い脚を地味に炙っていた。

 ひりひりと痛む中、部屋を見渡す。

 メスカルは出かけているようだった。寝ぼけ眼でベッドから降り、テーブルに近寄ると、食事と共にメモが添えられていた。

 

 

《少し出かけます。

 ご飯が用意されてるから、起きたら食べてください。

 もしかしたら、今日中には帰らないかもしれません。

 その場合は、先に寝ててください。

 

                     メスカル》

 

 

 走り書きだが綺麗な文字。筆跡と文章だと敬語になる癖から、正しくメスカルが残したものだと分かる。

 

 余白にサムズアップの絵を書き足して皿を手に取り、ソファに座る。

 昼食はカレーライスだったらしい。

 スプーンで掬って一口食べる。美味いには美味いが、やはり冷めていて、味が落ちていた。

 

 

 メスカルがいない。この好機を逃すまいと、ミードはカレーライスをかっこむ。

 プルケの打倒に気が逸れていたが、本来なら今朝は鉄サメを討伐する予定だったのだ。明日は今度こそ、ホロビの森へぶっ殺しに行くだろろう。

 となると、しばらくはハトバに寄ることはなくなる。活動拠点としては申し分ないが、この周辺は酸性雨が降りやすい。バギーのシャシーが痛むとメスカルが嫌がるので、あまりハトバには長居しない習慣があった。

 

 

 済ませなければならない用事がある。さっさと動かなくては。

 ミードはカレーライスをたいらげて、着替えを始める。ゴーグルキャップと迷彩キャミソール、ケブラーグラブにウェスタンブーツ。ガンベルトを腰に巻き、左の太腿と右腰、それぞれに銃を収めた。

 空になった皿を持って扉を開け、カギを閉める。無人だったフロントに皿を放置して外階段を降り、一階へ向かう。

 連絡船乗り場の一階は、受付の横に駐車場がある。ここにクルマを停めるハンターは多くないが、メスカルはその少数派の一人だ。

 しかし隅に停めてあったはずのバギーは、影も形もなくなっていた。どこかに移動させた、というかクルマに乗って出かけたらしい。

 メスカルは車載転送装置(ドッグシステム)を好まない。テンソー病が怖いというより、単にクルマの運転が好きで、少しでも長くハンドルを握っていたいだけだが、今回はその嗜好が幸いした。どこに行ったのかは分からないが、そう早くは帰ってきまい。

 

 

 まずミードは停泊しているスワンに向かった。荷運びの列の脇を素通りしてタラップを上り、酒場に出る。入場料を徴収する係の男はいなかった。客もまばらで見通しがよかったが、長老もいない。では、と階段を上り、甲板へ向かう。

 長老はビーチチェアに座り、ゆったりとくつろいでいた。

 

 

「ようジーサン、とうとうお迎えの時間がやってきたか? こんなとこでくたばってたら、身ぐるみ剥がされてモンスターのエサだぜ?」

「……おお、ミードか。幸か不幸か、迎えはまだじゃのう」

「そりゃよかった。かっぱられる前にあたしの金が回収できる」

「ほっほ、それが用件か」

 

 長老は懐から二つの巾着を取り出す。

 

「配当金は960Gじゃ。ミードの巾着には入り切らんでの、別の袋を用意してやったぞ」

「はいどーも」

「……中身を確認せんでいいのか?」

「重さでいくら入ってるかぐらいは分かる。ハンターとして当然の技術だぜ」

「ワシの知っているハンター達は、誰一人そんな特技は持っとらんかったがの」

「そりゃジーサン、そいつらがヘボいってだけの話さ」

「お主と比べたら、大抵の人間はそうなるか。ところで」

 

 長老はスワンの船首、決闘の舞台だった嘴を指差した。

 

「あそこに貼りつけたカイロ、取り外してもらえんかの。暑くて敵わんわい」

「バレたか。つーか、あたしがやんのかよ?」

「理屈は分からんがプルケを倒すために講じた策じゃろう、あれは。ならば、お主以外の誰がやるというのじゃ」

「誰がやったっていーだろーが。ったく……」

 

 ミードは嘴を仰ぎ見る。

 

「超電磁カイロは一回こっきりの使い捨て、半日以上も効果が続く程のシロモノじゃない。今はまだ熱くても、もうしばらく経ちゃー収まる。そしたら誰でも取り外しに行けるさ」

「そりゃあそうじゃが、原因を作った本人が行うのが、本来の筋というもんじゃないかのう」

「どーせ《燃料の節約だー》とか言って、予熱でbarbecueでもしてたんだろ? 肉焼いたり魚焼いたり、飲みかけのワインでフランベしたりして楽しんだんだろ? それでチャラにしてくれ」

「するわけないじゃろう、そんなこと。みみっちいにも限度があるわ」

「えっ、マジで? あたしなら多分やるぜ?」

「お主はもう少し節度を学ぶべきじゃな」

 

 長老は溜め息をついた。

 

「まあええわい。お主の言う通り、明日には安全に処理できるじゃろうしな。今回は大目に見てやろう」

「Thanks.」

「ワシも儲けさせてもらったしの」

「あんたも中々、いい度胸してるよ」

 

 ミードは肩をすくめてみせた。

 

 

 

 

 

 

 スワンでの用件は済んだので、次に向かう。

 行き先は町外れの工場である。連絡船専用の船着き場、その先にある簡素な建物だ。

 開け放たれた扉からは、焼け焦げた鉄鋼とオイルが入り混じった匂い。それが部屋の内部から放たれている熱気と合わさって、独特の雰囲気を形成している。

 中へ入ると、わずかに汗の匂いも加わった。

 

「……相変わらず風通し悪いな。ここ」

「んん……?」

 

 メドヴーハだ。先程の大胆な着こなしとは違い、しっかりとツナギを着ている。作業中のためだろう、灰色の髪を後頭部でシニョンにし、派手さの欠片もない地味な帽子を被ってまとめている。

 

「……あら、ミードじゃないの。一人?」

「ああ。寝てる間にメスカルがどっか行った」

「ふーん。それでなんの用? 今ちょっと忙しいんだけど」

「忙しいって……コイツか?」

「そっ。明日の朝には引き渡す約束だから」

 

 

 さして大きくはないガレージ。リフトやクレーンといった工場設備に囲まれて鎮座していたのは、一両の戦車だった。

 錆の浮いた赤橙のボディを持つマストドン。

 大砲を装備した砲塔の上に、さらに三連射が可能な三門一対の大砲を乗せ、そのまた上に二門一対の大砲を重ねた戦車。横に長ければ縦にも長いのが特徴で、見た目通り連射力に優れる。

 この辺りでは見ないクルマだ。これだけ目立つのだから、視界の端に入っただけでも記憶に残る。

 

 

「珍しいクルマだな。改造か?」

「いや、修理。車内で火炎ビン落としちゃったんだってさ。それがなぜかロケット花火に引火して爆発」

「誰だよそんな素人でもやらねーようなポカやらかすのは」

「コアントロー」

「ああ……なーる」

 

 ということは、このクルマはラムの持ち物か。肝っ玉の大きさの割に、面白そうなクルマに乗っている。

 

「あのオッサンも大変だな。煙も立たず消火した後から着火して煙を起こすたーよ」

「上手い。座布団一枚」

「……座布団ってなんだ?」

「うっすいクッションみたいなものよ。というか、あんたも中々言い回しが達者ね。意外~」

「よく分かんねーけど褒めてんのそれ?」

「褒めてる褒めてる。めっちゃ褒めてる」

「嘘くせー上にうぜー……」

 

 ミードは面倒そうに髪を掻き分ける。

 

「んなこたーどーでもいーんだよ。世間話をしにきたんじゃねーんだ」

「じゃあ、なにしに来たのよ」

「こうしに来たんだよ」

 

 瞬間、ミードは究極イーグルを抜いた。

 

 メドヴーハも一時期は流浪のメカニックだった女だ。即座に反応し、作業用のウエストポーチへ手を伸ばすが、現役のハンターに敵う訳もない。

 工具に指が触れるか、というタイミングで、銃口はメドヴーハを捉えていた。

 

「ちょ、えっ……なんなのよ」

「さっきの話の続きさ」

「さっきの話? ……プルケのこと?」

「ああ」

「じゃあ銃を向ける必要ないでしょ」

「あんたに嘘つかせないためにな。一番手っ取り早い方法を取らせてもらったってだけさ。まずはその右手の武器を捨てろ。あたしに見えるように」

「……別に口止めされてる訳でもなし。聞きたいってなら話すし、嘘も誤魔化しもしないわよ。まったく……」

 

 メドヴーハはゆっくりと右手をウエストポーチから引き抜き、握っているハイパースパナを落とした。

 

「長くなるかもしれないわよ。座らない?」

「あんたは座っていいぜ。あたしは立ってる」

「その方が自分に有利な状況だから? どの道あたしじゃ敵わないわよ。ま、お言葉に甘えて」

 

 メドヴーハは帽子を脱ぎ、結っていた髪を解く。ガレージの壁に立てかけられていたパイプイスを開き、腰を下ろして脚を組んだ。

 イーグルは未だメドヴーハに向けられたままだ。

 

「まずはあんたの頼まれごとについてだ。あのメモ帳にはなにが書かれてたんだ?」

 

 メドヴーハの手帳には、プルケに関するなにかが記されている。メスカルとの会話で、それぐらいは予想がつく。

 

「……その前に」

 

 しかしメドヴーハは、それに答える前に質問した。

 

「なんで知りたいの?」

「あん?」

「メスカルがあんたに教える必要がないと判断した。だから教えなかった。そうとは考えられないの?」

 

 恐らく――いや、まず間違いなくそうだろう。

 メスカルはミードに対しては、必要以上の情報は伏せる面がある。勿論、それが悪意や害意によるものではないことは承知している。だがメスカルは、その理由をミードに語ったことはない。

 信用はしているし、信頼もしている。しかし、メスカルがなんらかの隠しごとをしているのは事実だ。

 この違和感、疑念を、信頼の一言で拭い切れるほど、ミードはできた人間ではない。

 

「メスカルはあたしの母親じゃねーんだぜ?知りたいと思ったことを知ろうとして、なにが悪いんだよ」

「でも、あんた達って親子みたいよ? 端から見てると」

「そーかあ? そーいやープルケもちょろっとそんなこと言ってたな」

「親子じゃないなら姉妹かしらね。ともかく、メスカルが話したがらなかったのは、あんたに知らせる必要がないと思ったからじゃないの? その上で知りたがる理由はなんだって、聞いてるのよ」

「さっき言ったぜ。知りたいことを――」

「それは理由じゃなくて軽口で、方便よ」

 

 メドヴーハの瞳は、ミードから外れていない。

 

「……確かに。そうだな、軽口ではある。けど別に嘘は言ってねーよ。身内の隠した秘密は知りたくなるもんだろ」

「深入りするとロクな目に合わないわよ」

好奇心は猫をも殺す(Curiosity killed the cat)ってか?強引に話を逸したヤツが言うセリフじゃねーよ」

「……メスカルが触れてほしくなさそーなフインキ出してたから、気を効かせてみたんだけどね~。逆に興味持たせちゃったか」

「それに深入りしようが、どーせなんもなんねーよ。ぶっちゃけ大層な話じゃねーんだろ? ゲロっちまっても問題ねーさ」

「……ま、身内じゃなくて他人を頼るのも成長の証。それを期待して話さなかったってだけかもしれないし。それもそーかしらね」

 

 ツナギのファスナーを下ろす。チューブトップを纏った豊かな胸部は、熱が籠もったせいで紅潮し、しっとりと汗に濡れている。

 

「ふ~、あっつい。 で、なんだっけ。メモ帳の話だったかしら」

「ああ。メスカルはあんたになにを調べさせたんだ?」

「大したことじゃないわよ、想像通りに。昔の決闘について調べただけ」

「内容は?」

「2XXX年の夏、スワンで行われた決闘について」

 

 メドヴーハは言った。

 

 

「《極悪非道》のケン。そして《暴走バギー》のガルシアの戦い」

 

 

「…………」

「あら、どーしたの。難しい顔しちゃって」

「……なんでもねーよ」

「――ああ、ケンが《極悪非道》とか呼ばれてること? そーよね~、普通ケンの称号と言えば《アシッド・キャニオンの英雄》だものね。でもこの決闘は、ケンがそう呼ばれる前の話なのよ」

「いや、んなこと気にしてねーって」

「気にした方がいいわよ。わりと重要なことだから」

「は?」

 

 ミードは顔をしかめる。

 メドヴーハは構わず進めた。

 

「マドの町に送られた一通の電子メール。ケンがそれを受け取った、それがことの始まりであった」

「勝手に口調変えんな。storytellerなんてガラじゃねーだろ」

「いーじゃないの。多分あたしがこーいう役回りなの今回だけよ? 最初で最後だってなら、好きに喋らせなさいよ。それともその引き鉄を引いて殺してみる?」

「それじゃー話が聞けねーよ」

「だったら我慢することね。 で、そのメールの内容、なんだと思う?」

「流れ的に果たし状かなんかだろ」

「正解~。じゃーそれを送ることになった理由は分かる?」

「んなもん知るか」

「《ケンを倒せばグラップラーの幹部にしてやる》って、ガルシアが言われたからよ」

「……ちょっと待て」

 

 ミードは額に手を当てた。

 

「なんでグラップラーが出てくる。二人の個人的なケンカじゃねーのか」

「個人的なケンカではあるけど、背景はちょっと込み入ってるのよ――時系列で説明しましょうか」

 

 立ち上がって、ガレージの隅に置かれた作業机の引き出しを探る。取り出したのは二枚の写真だった。

 

「なんだこりゃ」

「ブロマイド。グラップラー四天王《スカンクス》と《テッド・ブロイラー》の」

「……あんた、こんなのでもイケんのか?」

「さすがに恐すぎて無理よ~、たまたま持ってただけ。出したもの拭えるのに使えるかな~と思って、取っといたの」

「こんな凶悪なツラで拭かれても萎えるだけだろ……」

「ま、それは冗談だけど。関係のある奴らだから、イメージが湧いた方がいいかなって」

 

 そしてメドヴーハはパイプイスに座り直した。

 この間にも銃を突きつけられているのだが、撃たないと分かっていても、普通はこうも自由に動き回れない。気丈な振る舞いだ。彼女も彼女で、ミードには敵わないまでも、荒ごとには慣れているということだろう。

 尋常ではない肝の太さ。しかしそれが有能故なのかどうか、ミードには判断できない。

 

「発端は十年以上も前、グラップラーがマドの町に攻めてきたことから始まるわ。当時、バイアス・グラップラーはアシッド・キャニオン中の脅威でね。なんの罪もない大勢の人々が攫われ、殺されていった」

「《人間狩り》か……」

 

 十数年前。

 世界各地のあらゆる場所に現れるモンスターに人間が怯える中、バイアス・グラップラー軍団という武装集団が、アシッド・キャニオンの平安を脅かしていた。

 破壊、強奪、支配、そして殺戮。悪行という悪行を尽くしていたグラップラーの活動の中でも際立って凶悪だったのが、《人間狩り》と称された、人間の強制的な()()である。

 あらゆる町に武力をもって侵攻し、人間を連れ去る。その目的は主に人体実験と言われているが、詳細は不明だ。生物兵器の製造に使われるだの、単にグラップラーに与する研究者の知識欲を満たす為だの、様々な噂が立っているが、組織が壊滅した今となっては、なにが真実なのか一切が分かっていない。

 結果、大勢の人間が研究の名目で弄くり回され、多くは()()された。この非人道的な行いが収まるまで、非常に長い年月を擁し、無辜の人々は日夜グラップラーの脅威に怯えていた。

 メドヴーハの十代は、グラップラーの活動が最も激しかった時代だ。大規模武装集団の恐ろしさは、心の底まで染みているだろう。

 

「マドが《人間狩り》の対象になったって情報を得た町の人々は、無いお金を掻き集めて、四人の用心棒を雇ったの」

「四人もか。本気だな」

「それもあの頃では、かなり名の知れた腕利きよ。《隼》のフェイ、《鉄の男》アパッチ、《不死身の女》マリア、そして《暴走バギー》のガルシア」

「ふん。で、結果は」

「全滅したわ。四人とも、テッド・ブロイラーにやられたんだって」

「コイツに……」

 

 ミードは手に持った写真に目を落とす。

 青いタイツに身を包んだ筋骨隆々の男だ。炎のように真っ赤な髪をモヒカンにし、両腕に火炎放射器を備えている。

 

「《四天王最強の男》。大物も大物じゃねーか。よくもあんな田舎町に出張ってきたもんだな」

「グラップラーの恐怖をアピールする目的だったんでしょーね。 ともかく、用心棒全員を退けて、グラップラーは町の人間を大勢攫っていったの。主に若い人達を大量に」

「クソッタレにメーワクな話だな。あたしがそん時に居りゃー、全員ぶち抜いてやってたのによ」

「どーだかね。少なくともテッド・ブロイラーはそんなに甘い相手じゃないわよ」

「それこそどーだかね、だ。 まあ、もうくたばった奴のことなんかどーでもいーさ。で?」

「で、この時ケンはマリアの弟子だったみたい。戦いの巻き添えを食って全身大火傷の重傷。生死の境をさまよったらしいけど、幸運にも生き長らえたわ。そしてハンターとして独り立ち、チームを組んで旅に出る」

 

 その後ケンは、まさに《英雄》と呼ぶに相応しい活躍を残す。

 四天王及び組織のトップを倒してグラップラーを壊滅に追い込んだ功績の他、エルニニョ解放ゲリラのヒヌケ同盟に助力し、自らもグラップラーに支配されたデスクルスを解放させた。

 また《海の怪物》U−シャーク、《アリの皇帝》アダム・アント等の討伐にも成功しており、賞金稼ぎとしての戦績も凄まじい。ケンのように成り上がりたい、というハンターも少なくなく、まさに時代を代表する英傑と言えるだろう。

 

「そうこうしてる内に、マドの町にケン宛ての電子メールが送られてくる。それがガルシアからの果たし状だったのよ」

「……てことは、そのガルシアっつーのは、実は生きてたってことか」

「ええ。瀕死の状態のままグラップラーに回収されたんでしょうね。当時、ケンは四天王の一人《スカンクス》を倒していて、幹部のイスに空きができた状況だったわ。グラップラーはスカンクスの後釜にすえる約束で、ガルシアにケンを倒す命令を出したの。暗殺者として、これ以上ないぐらいに改造されてね」

「…………」

 

 ミードは二枚目のブロマイドを見る。

 迷彩服を着た四本腕のサルが、小銃を構えている姿だ。加虐趣味で意地の悪そうな笑みを浮かべていて、いかにも小物らしい。

 この小悪党の後任なのだから、ガルシアの人格も知れたものだ。ロクな奴ではあるまい。

 

「……なーるほど、だから《極悪非道》か。大方、ケンが来るまでに嘘八百並べ立てて、スワン全体をアウェイにしたんだろ。コスい作戦だな」

「コスいには違いないけど、案外バカにはできないものよ。あんたなんか普通に引っかかって怒り狂いそうじゃない」

「んなわきゃあるか。このcool beautyなnymphを捕まえて」

「どー見てもトリガーハッピーなイカれ処女でしょ……」

「やっぱ穴増やすか? ああ?」

「そのまま事実じゃないの……」

 

 メドヴーハは嘆息する。

 

 ミードは銃を宙空へ放り、イーグルを左手から右手へ持ち替える。

 

「そんで。話の流れからすりゃ、どーせケンが勝つんだろーが、んな英雄様の栄光話がなんの関係がある?」

「……これはあたしの推測だけど」

 

 メドヴーハが髪を掻き上げ、汗を手で拭った。

 

「ガルシアとプルケ。多分、同一人物よ」

「……はあ?」

 

 突拍子もなさ過ぎる仮説が飛び出した。

 ミードはいまいちピンと来ず、首を傾げる。

 

「あら、思ったより反応が薄い」

「驚いてはいるさ。ただ、ちょっとイメージが掴めねーだけで」

「根拠ならあるわよ。例えばプルケがサイボーグだったこと。ガルシアも決闘の時には、大分ルックスが変わってたんだって」

「どんな風に」

「病的な細マッチョから、全身機械の厳つ~いマシンに。右手なんかアームガンになってて、全然生身の人間じゃなかったとか」

「……それサイボーグって共通点があるだけで、確定じゃねーだろ」

 

 聞いてみれば、ほとんど確証のない話だった。

 コイツに聞いたのは間違いだったのかもしれない、と思ったところで、メドヴーハは続ける。

 

「他には、バギーに異常な程に執着を見せたこと。どんだけ横暴な奴でも、他人のクルマをぶん取ろうなんてのは滅多にいない。それこそグラップラーでもなければ」

「それはあたしも気になってはいたけどさ。けど、そういう身の程知らずがプルケだったとも言えるぜ。根拠とするには弱いだろ」

「確かに。でも、こうは考えられない?」

 

 そして思いもよらぬ言葉を口にする。

 

 

「あのバギーは元々ガルシアのものだった、って」

 

 

 自分では考えもつかなかった仮説だ。ミードは混乱してきた頭を手で掻き回し、冷静を強いる。

 

「……どーやら、その根拠には自信があるらしーな」

「自信はあるけど、証拠はないわ。相変わらずね」

「いいさ。話してみろよ」

「偉そーね」

「銃向けてるからな」

「……北側に砂漠があるじゃない。あのバギーは、そこに打ち捨てられてたのよ」

 

 メドヴーハの言う砂漠は、ハトバから北に十数キロ離れた場所にある。アズサやバザースカを目指して荒野を駆けると現れる砂地で、そう離れていない西側の森とは違って、全く雨が降らない。

 気候の差異が環境破壊によって極端に現れた土地だ。そんなところで、バギーを見つけたと言う。

 

「昔、行商のトレーラーに乗せてもらって移動した時。遠目からでも分かったわ、クルマが捨てられてるって」

「それを拾ったと」

「ええ。あの時は別件でノボトケまで行かなくちゃいけなくてね。用事が済んだ頃には三日も経ってたから、誰かに拾われてないか心配で心配で。ソッコーでレンタルタンク借りて牽引しに行ったわ」

 

 戦車や装甲車など、戦闘に使われるものに限らず、物資や人間を輸送できる乗り物は貴重だ。

 理由は、旧時代の消費社会のように大量生産できる設備も資材もないからだ。クルマの内部構造や科学的な原理は失われずに伝わってはいるものの、クルマを一から造るとなるとコストが馬鹿にならない。

 だから乗り手のいないクルマは、誰もが我が物にしたいのだ。

 技術者なら走って戦えるようにすれば、レンタルタンク屋が高く買い取ってくれる上、腕を見込まれれば専属のメカニックとして雇ってくれる可能性もある。そうなればこの時代ではかなりの高給取りとなり、ちまちまと日銭を稼ぐ生活から抜け出せるのだ。

 いつの世でも、金は一、二を争う力となる。

 一攫千金にして将来安泰のチャンス。ふいにするなどありえない。

 普段はおちゃらけて奔放なメドヴーハも、例外ではなかった。

 

「それで」

「ここに持ち帰って修理した。大変だったわよ~、大砲も機銃も千切れて消し飛んで。タイヤはホイールがグシャグシャに潰れてまともに回らないし、エンジンとCユニットなんか高熱で熔解してたわ。奇跡的にシャシーだけは損害が軽微だったから、普通に転用できたけど」

「熔解?熔けたってことか?んだそりゃ。ありえるのか、そんなこと」

 

 金属が溶けるという現象は、相応の高温に晒されたということを意味する。ならば当然、それを覆う外装も同じダメージを受けていなければおかしい。

 しかしバギーのシャシーに、目立った傷跡はない。ミードが疑問に思うのも当然だった。

 

「どーも特殊な攻撃を受けたらしくて、内部の損壊はやたら酷かったのよ。で、そーやって解体してる最中に、面白いものを見つけてね。なんだと思う?」

「……話の流れからして、ガルシア絡みのなんかか」

「惜しい。正解は、ケンの私物」

「――はあ?」

「亡くなった母親のペンダント。これが車内に落ちてたの」

 

 メドヴーハは指先の動きで、空中に輪を描く。

 さしものミードも、展開が予想できた。

 

「あんた……まさかこの話、ケンから直接聞いたな」

「御名答~。 ま、もう何年も前の話だけどね」

 

 会ったこともないケンの性格は分からないが、正義感か復讐心か、巨大組織に盾突くような直情的な人間だ。母親の形見なんて大事なものを無くしたとあっては、例えペンダントが湖の底に沈んでいようと、必ず探し出そうとするだろう。

 幸か不幸か、ペンダントはメドヴーハの手に渡った。

 そこにケンが現れ、バギーの来歴を知る。

 

「一週間後ぐらいかしらね。よーやく使えなくなったパーツを全部解して、冶金屋に売っ払おうとした頃に、ここを訪ねてきたの。《英雄》のケンが」

「どんな奴だった」

「金髪で碧い瞳、思ったより小柄で童顔気味だったけど、目つきは鋭くて中々イケメンだったわよ。でも小柄なわりに体つきはしっかりしてて、分かる人間には分かる歴戦の猛者って感じの雰囲気があったわ」

「…………」

「けど残念ながら主砲のサイズは分かんなくてね」

「いらねー情報仕入れようとすんなよ」

「あたし自慢のメリハリボディに堕ちなかったのは流石よね。まあそんなこんなで、ペンダントを返すついでに、色々話をしたのよ」

「…………」

 

 ひたすらに趣味的なことを聞きまくったのだろうが、もう突っ込んでいたら切りが無かった。

 

「あのバギーはグラップラーの本拠地を叩いた時に、爆発に巻き込まれて吹っ飛んだんだそうよ。ケンは吹っ飛んだ際に、バギーからほっぽり出されてポチャったとか」

「よく生きてたな。水面って勢いよく飛び込んだらコンクリと同じ硬さになるんだろ?」

「スピードと角度によるけどね。仮に無傷で生きてても、普通ならモンスターに食われるか食らわされるかで死んじゃうけど。ラッキーなことに、気がついたら岸に流れ着いてたとか」

「悪運の強さも英雄様ってか……んで、バギーはそのまま吹っ飛んで砂漠にに無事着地と」

「幸運通り越して奇跡よね~。 それで、修理代――ていうかパーツ代ふんだくろうと思ってたんだけど、もう必要ないから譲るって言われちゃって。どーして? って聞いたら《自分はもう引退する》《元々自分のものじゃない》《本来はガルシアって奴のクルマだったんだ》って答えたわ」

「……それが根拠か」

「そ。本人の証言だもの、信憑性は確かでしょ」

「テキトーに嘘ついてなけりゃーな。 つまり?」

「《暴走バギー》のガルシアが乗っていたクルマを、ガルシアがグラップラーに拉致られた後、ケンが回収。ケンが決闘でガルシアを破って名実共に自分のクルマにして、グラップラーの壊滅に合わせて廃棄、あたしに譲った。そーいう流れよ」

「…………」

 

 ミードは深く溜め息をついた。

 

「……これ、んな長話する必要あったか?」

「そりゃー纏めちゃえばすぐよ。でも結果論よ、それ。三十秒もない話で、あんた納得できる?」

「……それもそーか」

 

 ミードはようやく、イーグルをホルスターに収めた。

 

「思ってた以上に大した話じゃなくて、なんだかなー……」

 

 期待して聞いてみれば、よくある武勇伝である。それも裏づけのない断片的な継ぎ接ぎの情報で、秘密を解き明かすような興味に引かれていたミードにとっては、消化不良となる結果だった。

 

「メスカルもなんでこんな話を知りたがったんだ……」

「それはあたしもさっぱり。案外メスカルも、単純に気になっただけかもね」

「つっても、わざわざ調べるようなことか?」

「さっきも言ったけど結果論よ。実際は大したことなかったってだけで、すんごい裏がありそうだったんじゃない? メスカルにとっては」

 

 メスカルがどういう考えでこの件の裏を知りたがったのか。それは勿論、本人に聞かなければ分からない。

 しかしメスカルが正直に答えるとは限らないし、そもそも答えてもくれない気がする。

 なにより、ミードはもう飽き始めていた。聞くことは聞いたし、もう帰ろうと考えていた。

 

 だが、メドヴーハにとってはここからが本題だった。

 

「――で、感想は?」

「あん?」

「ガルシアについて」

 

 メドヴーハは質問した。

 

「名うてのハンターとして幅を利かせてたら徹底的にブチのめされた上にサイボーグに改造されて、腹を決めて命令通りに子供を殺そうしたらその子供は自分が乗ってたバギーに乗って名を挙げてて、しかもそんな子供に言い訳もできないぐらいに負けて、運良く生き残ったけどまた勝手に改造されて、後ろ盾もなにも無い状態でソルジャーに転身させられた、ガルシアについて」

「…………」

「恐らく、ガルシアにとってプルケって存在は、あくまでも仮空の人間であって他人。プルケ・トゥルエノは《早撃ちが得意なソルジャー》というキャラクターであって、ガルシアが実は生きていることを隠すための人形でしかない。でも世間は強いプルケを評価し、最速の銃使いと持ち上げる。ガルシアは期待に応えても名誉は自分の手には入らないという自己矛盾を抱え、結果、寂寥感が生まれた」

 

 《暴走バギー》のガルシアはテッド・ブロイラーに敗北し、ケンによって殺された。ここまでの生き恥と死に恥を晒したにも関わらず、誰の仕業か、全くの別人に身体をすげ替えられ、生き長らえた。

 だが生き延びたとはいえ、プルケとしての人生は自身が望んだものではない。

 

 

 ガルシアはハンターだった。

 クルマに乗り、砲を放って敵を倒す者だった。

 

 

 例え自分が自分以上に富と名声を稼いだところで。

 ハンターとしての矜持が満たされることは決してない。

 

 

 無様に散った荒くれ者であっても。

 そのプライドまで消え去りはしない。

 

 

 だから心はさいなまれる。

 

 

 新しい自分であるプルケとして生きていようと。

 その栄誉はガルシア本人のものにはならない。

 バギーで荒野を駆け回って大砲をぶっ放していた生活には。

 以前は感じられた自由には、もう永久に戻れないから。

 

 

「過去に恋い、焦がれ、想い、燻る。かつての名誉を捨てて、別人として生きていても、過去の栄光の輝きは消えない。薄暗い胸の中に、ロウソクのように光り続ける」

 

 気づけばメドヴーハの語り口は変わっている。おちゃらけた雑談混じりのそれではない。

 先程までのだらしなさ、いい加減さを払拭する、真剣な眼差し。

 

「そんな心境でバギーを見つけたとしたら? 装備もカラーリングも記憶とは違う、でもシャシーのフォルムや重厚感、硬い手触り、焼け焦げた炸薬と鉄鋼の臭いにわずかに混じる血潮の香りは、確かにあのクルマを思い起こさせる。これこそは自分の乗っていたクルマ、夢半ばに葬られた相棒だと確信に至り、だから――なにがなんでもバギーを手に入れたくなった、としたら」

「…………」

「そんな《雷鳴(トゥルエノ)》のガルシアを殺した感想を、私は聞いてみたいわ」

 

 

 妖艶な笑みだった。

 魔性と言ってもいい、それぐらいに美しい微笑。語り部なんてとんでもない、彼女は仮面をいくつも隠し持つ役者だ。

 ミードは今、ようやく気付く。

 この女は最初からこの質問をするつもりでいたのだろう。だから宿屋での会話で察しがついた時、ミードが興味を引くような態度を取った。

 ミードはメドヴーハに誘導されていたのである。この質問をするためにメドヴーハは芝居を打ち、説明、解説までしたのだ。

 

 

 湖の波音が、ガレージを満たす。

 ミードが自嘲気味に笑う。

 

「……男ってーのは大変だな。こんな女に言い寄られたら、骨の髄までしゃぶり尽くされるのを我慢してなきゃなんねー。同情するぜ」

「珍しく褒めてくれてどーも。で?」

「期待に沿って答えてやる。簡単な話さ。そんなクソどーでもいーもん抱えてるから、プルケは負けたんだよ」

 

 ミードは言った。

 

「その想像が本当だとして。プルケはガルシアでバギーはガルシアのものだったとして。そんな重てーもん背負って勝負事に勝とうなんざ、甘っちょろいにも程がある。魂の重さは引き鉄の重さだ。いくら奇術で速く抜けよーが、弾が出なけりゃ意味がない」

 

 

 情熱、執心、大義、信条。そんなものは不要だ。

 メスカルはそれらがあるから人は生き残り、強いのだと言う。

 だがミードはそれに全く賛同できない。

 それらは手枷でしかない。強い人間は手枷を上手く利用しているだけであり、つまり不自由の中で振るえる剛腕があるだけにすぎないのである。

 ならば不純物が無い方が強いのは自明だ。殴るも蹴るも、生かすも殺すも思いのままにできるから。

 

 

「プルケはここぞという時に引き鉄が重く、大一番で指が硬くなった。理由は単純、半端なプライドが神経を邪魔したからさ。最初から何も持たなけりゃ――生き様なんざ気にしなけりゃ、もうちっといい勝負になったろーよ」

 

 

 自由こそが暴力の根源だ。

 故にミードは軽く引き鉄を引ける。

 想いは重いだけ。強さにはなりえない。

 

 

「……弱肉強食。強いプルケもあんたよりは弱い、か」

「強い奴が勝って、勝つ奴が生き残る。大昔から変わらねー自然の法則だよ。あたしは最強最速だから、大抵の奴は格下でザコだけどな」

「仕込みが無かったら勝てなかったのに?」

「そりゃヒラの時に殺さなかったプルケの落ち度だろ。勝てる敵はいつでも殺せるって勘違いしたあいつが悪い。つまりザコだ」

「……ま、いいわ。確かに、そーいうのも一つの強さだしね。 じゃ、他に聞きたいことある?」

「んー……」

 ミードは目線を上げて、元に戻す。

「……なんであたしと、こんな話をするんだ?」

「ただの好奇心よ。あんたと同じ」

「猫が死んでも構わないってか」

「猫は飼い慣らしてナンボよ。そーでもなきゃ、メカニックなんてやってられないわ」

「……そーだな、そのとーり」

 

 技術者であり役者であり、そして魔女。それがメドヴーハという女か。

 ミードは得心し、背を向けた。

 

「んじゃ帰るわ。精々、引っ掻かれないように気をつけな。股からヘソまで裂けちまうかもしれねーぜ?」

「大丈夫、月イチで爪切りしてるから。あんたも後ろから刺されないように気をつけるのよ」

「正面からメンチも切れねータマ無しヤローにゃ負けねーっての。それに」

 

 右手を戸枠に当てて、ミードは振り返る。

 無法の世界における自由の象徴、挑発的な空色の瞳。

 真っ赤な舌を出し、左手で中指を立てた。

 

「あたしが死ぬとしたら、そりゃ人類が絶滅した時さ」

 

 

 

 

 

 

 

 ガレージを出て、暗がりの中、対岸の船着き場を眺める。

 物資は搬入し終わったようで、今はまばらに人々が出入りしていた。

 

「……身の程知らずが、この世界に戻ってくるからそーなる。どっかで静かに暮らしてりゃー、少しは長く生きていられたものを」

 

 機械化されたプルケの身体は、湖底に沈んでいるのか。それとも鉄ザメのように、金属すらも食らうモンスターの胃袋に収まって消化中なのか。

 どちらにせよ、プルケもガルシアも消えた。派手に爆発し、水の中でバラバラだ。ホラームービーよろしく、三度蘇る、なんてことはあるまい。

 

 

「……あ、そーいえば」

 

 カシャッサがタマゴ焼き奢るって言ってたっけ。

 確か、特製のソースをかけるとかなんとか。

 

「ふん……」

 

 決闘には勝ったし、賭けにも勝った。祝杯をあげるのは当然だから、酒を飲んでも構いやしないだろう。

 客全員に一杯つけさせてもいいかもしれない。金はあるし、奢っても奢られても気分はいいもので、その時ばかりは店内もお祭り騒ぎだ。店は一番高いボトルを開けて、客はタダ酒を楽しみ、ミードは《いい人》と称賛される。皆笑顔で、酒を飲んで騒ぐだけ。

 

 

 人類皆兄弟、平和ってそんなもんかも。と、ミードは思った。

 

 

「――メスカルも戻ってこなさそーだし。これはしゃーねー、行くしかねーな」

 

 まずはメシ、そして酒だ。

 食って飲んで勝って殺す。それが賞金稼ぎの正しい生き方である。

 

 

 日が落ちて、辺りの建物やテントから、ぽつりぽつりと灯りが灯る。

 そんな町並みの中、大きく光が漏れて、目立っている場所。

 

 ミードは身を翻し、ハトバの酒場を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 メドヴーハは携帯端末を手に取る。

 旧時代の衛星通信で繋がるこの連絡手段であれば、ミードに知られる心配はない。もっとも、ミードに無線を傍受する技術が無いのは分かっているので、要らない配慮ではあるが。

 

 

「――もしもし? 今大丈夫?」

 

 通話が繋がった。

 

「……ええ、予想通り来たわよ。 ちゃんと知ってることだけ話したわ。余計なことは吹き込んでないし、手も出してない。ていうか出したら殺されるわよあたし」

 

 メドヴーハは窓から外を見る。

 

「あっそーだ、あんたもちゃんと教育しなさいよ。敵対してもないのに銃向けられたわよ。 ……え、ウソ。 嫌われてるの? あたし。 えー……」

 

 ミードは見当たらない。もう去ったようだ。

 

「……はいはい。じゃ、今度ハトバに寄ったらあたしのところに来なさい。普段の点検だけじゃ、正確には異常は分からないんだからね」

 

 数度、やり取りを続け。

 

「――じゃーね。メスカル」

 

 メドヴーハは、通話を切った。

 

 

 

 

 

 





用語&解説


・ テンソー病
 ドッグシステムを利用していると稀に罹ってしまう病気。体内の原子構造に異常をきたし、最終的に肉体が消滅してしまうという恐ろしい病。原子安定剤という特効薬があるが、旧時代のものなので入手は絶望的と言われている。

・ マストドン(マンムート)
 マンムートという戦車を改造してくと、性能が上がるにつれてマストドンという系列の戦車になる。作中にある通り連射系の大砲が装備でき、それぞれ「第1ヤマト砲」「第2ヤマト砲」という名称。ここまでくると艦砲にキャタピラくっつけた見た目で、中々ゴツくて面白い。
 ただしこれらは固定武器という装備で、実装後は他の大砲とは交換できなくなる。モンスターの弱点によって装備を変えるといったことができなくなるので、実装は慎重にしたい。

・ メカニック
 職業の一つ。クルマの修理、装甲の補充といったメンテナンスを戦闘中に行える。戦闘面では対マシン系モンスターに特化しており、低確率の即死攻撃、守備力デバフ効果といった特技が魅力。
 ただし装備できる武器が少ない上、体力や守備力等のステータスは低め。かなり打たれ弱く持久戦に向かない為、採用するプレイヤーは少ない。

・ ハイパースパナ
 メカニック専用武器(ATK 110)で、ブーメランのように投げて攻撃する。追加効果として迎撃されず、マシン系モンスターを低確率で即死させる効果を持つ。

・ スカンクス
 序盤に現れる賞金首。賞金は25000G。作中の通り4本腕のサルであり、スカンクではない。ソルジャーの特技を使用するほか、手榴弾を連続で投げつける等、性能は整っているが、クルマに乗っていれば大した敵ではない。
 四天王の末席を務めるが扱いは悪く、他の四天王との会話でも名前すら出てこない。実力も他の四天王に比べると何枚も落ち、単なる数合わせで採用されているようだ。

・ U‐シャーク
 湖に現れる賞金首。賞金は30000G。大砲を乗せたサメで、背が装甲に覆われている。突撃、砲撃、連射砲撃と攻撃自体は普通だが、津波攻撃で命中率を大幅に下げてくるのが厄介。二回も食らうと命中率は0になってしまい、完全に勝ち目がなくなる。またHPが少なくなると逃走するので、短期決戦が望ましい。電気属性が弱点なのでそこを突きたいところ。
 コイツによる被害は大きく、家族を殺された恨みを持つ船長の船に乗って戦闘を行う為、この間だけ船長がパーティ入りする。

・ Cユニット
 コンピュータユニットの略。この機関でクルマの動作制御を行う。これが大破するとクルマは走れなくなるので注意。

・ バギーのダメージ
 砂漠に打ち捨てられたバギーはラスボスの攻撃を受けている。「装甲を通り抜けて搭乗者にダメージを与える音波攻撃」というものなので、シャシーよりも内部の損傷の方がひどいという設定。




 前書きでも書きましたが、とりあえず今回で区切りとします。
 次回の内容は未定ですが、以前名前だけは出てきたクリークを登場させるつもりです。また、その前に小ネタを挟むかもしれません。

 誤字脱字報告、感想等お持ちしてます。




 ※22/08/25 本文を修正
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。