久々の更新になります。
バザースカの人々は、遠目に見える他の町や通りかかる船を、どんな気持ちで見ていたんでしょうね。
八話目です。
「――いつの日か伝説のお客さんは来たれり……」
「…………」
「その者、鋼鉄の鎧を纏い、自ら走らずして走るなり……」
「…………」
「それがこの町に古くから伝わる、言い伝えじゃ……」
「いや、あたし客なんだけど」
ハトバの町から北に数十キロ、山間の中に造られたトンネルを抜けた先は、だだっ広い荒野だ。いや、ここに限らず大抵のところは荒野であるから、景観としては珍しくも何ともないのだが、ここは地理的に特別である。
東側には湖が広がり、沿岸の大部分は崖。反対に西側は高く険しい山々に囲まれており、林道や登山道といった通行路は存在しない。岩山をくり抜いてできたトンネルが唯一の陸路であるが、これも十年以上前までは崩落によって通行できなかった。
何よりこんな辺鄙な場所に、わざわざ来なくてはならない理由がない。北部には旧時代に建てられた《博物館》という、ジャンル的にも時代的にも統一感のない収集物を、ただ見せつける為だけに存在する施設があるが、現代でそんな実益にならない趣味を持っている人間はそういない。また、大破壊を越えて残った施設にも関わらず、侵入者を排除するセキュリティシステムは未だ健在であり、その上周辺のモンスターの根城にもなっていて、それが数少ない趣味人をも遠ざける原因になっている。
つまり、ここら一帯は周囲とは隔絶された地域という訳である。現在ではトンネルの崩落も解消し、とりあえずは交通アクセスが確保されたにも関わらず、近寄る人間はいない。
当然、その辺鄙な地域に存在する《バザースカ》も栄えていなかった。
幾棟の小さな建物の中を砂煙が舞う、侘しい雰囲気の町である。
「む? 確かにここいらでは見ない顔じゃが」
「そーだよ、この狭い町じゃ見ない奴。つまり伝説のお客さんだ」
「おお、そうじゃったか。では改めて……」
老婆はわざとらしく咳払いをして、言った。
「あんたツイてるね、掘り出し物が沢山あるよ! ちょっと見ていきな!」
「キャラ変えすぎだろババア」
金髪に空色の瞳の少女ハンター《
田舎を通り越して僻地なバザースカ。ここに人間が訪れるのはかなり稀なことで、事実《お客さん》という存在は、最近まで半ば
四方八方が害敵だらけの日常を生き抜く上で有用な物は、誰もが手にしたがる為に大抵が希少で、そして高価だ。
だが前述の通り、この地域は環境が悪い。どれだけ良心的だろうが、人が来なければ評判は伝播しない。
ならば河岸を変えればいいじゃないか、と普通は思い至るだろう。しかし町の住人は熱意こそあるものの、その熱意は明後日の方向を向いている。
端的に言うと、住人達にとって商売とは
だから町を出るなんて発想に至る者はほとんどいなかった。この狂信的とも取れる売買至上主義社会のおかげで、バザースカは余計に寂れていた。
その割に、というかそれ故に商店は発達していて、中には《何故そんな商売を?》と思う様な、妙な店もあったりする。
この老婆が営む商店では、他の商店では見られない、珍奇なアイテムを取り扱っていた。
日用的で有用な物もあれば、レアはレアだが骨董品が過ぎるガラクタもあり、正に玉石混交といった具合で、この店の存在を知る数少ない賞金稼ぎ達の間では《掘り出し物屋》と呼ばれていた。
向上心の掃き溜めの様な住人達は知る由もないが、この町の数少ない売りの一つである。
「んだよその口調。それも練習のタマモノか?」
「組合の集会で、店員が元気な方が人が来やすいってことになったから……」
「ここまで客が入ってねーってのに、元気一発でどーにかなるかよ」
「……確かに」
「この町に組合があるってーのも気になるが……まーいいさ。久々に客らしい客が来たんだ、何かオススメしてみろよ」
バザースカで一番大きな建物には、いくつかの商店が入っているが、客らしい人間はミードを除いて皆無であった。
ではなぜミードがこんな町にいるのかというと、相棒であるメスカルに着いてきたからだ。
メスカルはこの世に数少ない旧時代に関心のある趣味人で、前々から廃墟と化している博物館には興味があった。バギーのハンドルを握るメスカルは観光に行こうとしたが、逆に助手席に座るミードは一切の関心が無く、面倒臭さから観光に難色を示していた。
するとメスカルは、ミードがクルマを降り、畑に植わったキャベツを眺めている間にバギーを発車させた。つまり、置いてけぼりをくったのである。
高速戦闘仕様である漆黒のバギー《アラミア》は、発進加速性能も悪魔的だ。踏み抜き貫くようにアクセルを吹かし、爆音が鳴った時には、すでにミードのそばにバギーは無く、バザースカから走り去っていた。
ミードが見れたのは、排気ガスと土煙を舞い散らす黒いボディの後姿だけだった。
一気に暇になったミードは、町の商店を冷やかしに来たのである。
「オススメ……まあ、無いわけじゃないのう」
「よし。じゃーそれ見せてみろ」
「買うのか?」
「そりゃー、モノ見なきゃ分かんねーって」
「ふむ……」
老婆はカウンターの下に潜り込み、物品を探す。
ゴトリ、と鈍い音を響かせたのは、妙な形状の回転式拳銃である。
不必要にパーツが大きくて長く、旧時代の銃なのは分かるが、どちらかと言うと前時代的な印象を受ける。特に異常なのはバレルで、目算でも40センチ以上と変に長い。弾丸の飛距離と精度はバレルの長さによるところが大きいが、これではまともにホルスターに収まらないし、抜くのはそれ以上に難儀するだろう。不便極まりない。
銃身は重厚感のあるブラック、シリンダーやグリップ、ハンマーは金色という派手な設えだ。その上で銃全体に猛禽類を思わせる意匠が施されており、さらに銃身には《天上天下唯我独尊》《喧嘩上等射殺上等》、グリップには大きく《漢》と彫り込まれている。
「――んだよコレ、だっさ」
ミードは率直に感想を述べた。
「人呼んで《漢マグナム》、その特別仕様さね。装飾はアレだが気合は入ってるし、射程も威力もそこらの拳銃の比じゃないわの」
「そりゃこんだけデカけりゃそーだろーがよ……バカじゃねーのかコレ造った奴」
「お値段6500Gの大特価」
「高い。1000Gにまけろ」
「駄目じゃ」
「じゃ、いらねーわ」
「……ちっ」
「このバカ銃でground meatにされたくなきゃ言葉を選べババア」
次いで、カウンターに置かれたのは衣類であった。
「…………おい」
「なんじゃ?」
「…………」
「…………?」
銀色に輝く女性用衣類である。サイドベルトとストラップは革製だが、内側に綿でできた生地を縫い合わせており、肌に優しい作りとなっている。対してカップ部分は鋼鉄でできている上、内側はセラミックと綿の二層に覆われていて、耐衝撃性に優れた一品と言えた。
そして、胸部より下に布地は無い。カップとストラップとベルトのみである。
「……下着じゃん」
「うむ」
「ブラじゃん」
「うむ」
「うむ、じゃねーよ何だよコレ。剣と魔法で竜退治に行く話の装備じゃねーか。リアルでこんなもん着る奴いねーよ」
「しかも防御力に優れている代わりに通気性は最悪で、蒸れてしょうがない上に鉄部分が熱を吸収して暑いんじゃ」
「欠陥品じゃねーか」
ついでに言うと大きすぎてサイズも合っていなかった為、購入は見送られた。
老婆は次々に商品を見せる。
鉄製の下駄、ハイレグなアーマー、チェーンソー、愛一文字の古い兜、よく分からない集積回路――多種多様な商品を見せては引っ込める。
よくもまあこんなにガラクタを、と呆れながらも感心していると、老婆は小さな箱を取り出した。
「……これは? 弾薬箱か?」
「そんなわけないじゃろう。欲しいなら満タンサービスにでも行け」
「じゃー何だってんだよ」
「嬢ちゃんを少しは女らしくさせる代物じゃよ」
紙製の蓋を開ける。
中身を確認して、ミードは唸った。
「おいおい、これをあたしに売ろうってか?」
「似合うと思うがの」
「そりゃあたしだからな。ただなー……」
ミードは装飾品の類が好きではない。
正確には、衣類と火器以外が肌に触れていると、落ち着かなくなる。例えば腕時計やペンダントなどを身に着けていると、手首とか首回りとかが、なぜだか気になって仕方がなくなるのだ。
当時、イスラポルトの婦女子の間で流行っていた、ミサンガを手に入れた時のことである。イライラが頂点に達したミードは、その装飾品を引き千切り、地面に叩きつけ、摩擦で分割されるまで踏み捻って、挙句の果てに通行人にむけて発砲した。
最後に関しては、単なる八つ当たりであった。
幸いにして通行人がタイミングよくクシャミをしたので、こめかみに穴が開くことはなかったものの、メスカルにはひどく怒られた。
今のところ、メスカルに全力で殴られたのは、あの時だけである。
そういうエピソードもあって、ミードは装飾品が苦手であった。
別の商品を見るか、と思ったものの、ふと妙案を思いつく。ガラじゃないなと取り止めようとしたが、しかし思いついた以上は実行したい。自分自身にしては珍しく百パーセント善意からの行動だ、早々に諦めるのも気分が悪かった。
ミードは老婆に聞いた。
「ババア、これいくら?」
「2400Gじゃの」
想定よりも高かった。
ミードの所持金は1260G。これは元の所持金の300G(地面に落ちていた小銭を拾ったりして集めた、個人的なへそくりである)に、プルケとの決闘の際に賭けた配当金を加えた額である。しかし、老婆が提示する価格はこれの倍だった。
「ホントにそんな値段か? ババア、値打ちもんだからってボってんじゃねーだろーな」
「そんなわけあるかい。ちゃんと組合で決められた適正価格じゃ」
「組合ってそんなことまで決めるのか……」
思っていた以上に高価な商品。昔ならかっぱらっていて、今なら手を出さない物品。しかしミード本人は興味がなく、必要でもない逸品。
「おいババア――」
1000Gにまけろ。
と、再度言おうとした、その時である。
――――ドガガアアァァンッッ!!
爆発音。
それが砲撃によるものだと気づいた次の瞬間。
ガガガガガガガガガガガガッッ!!
機銃掃射により窓ガラスが砕け散る。
雨粒が水面を弾くように室内に弾丸が飛来し、壁に穴を開けていく。
「Shit――!」
すんでのところで身をかがめて、ミードは弾丸の嵐を回避していた。
右手には、当然のように究極イーグルが握られている。
「ひいぃぃぃぃぃぃ!?」
店主の老婆も、カウンターの裏で身を低くして生き延びていた。
掃射が止むと、スピーカー特有のハウリング音が、バザースカに響いた。
「平和ボケした田舎モンどもに告ぐ! この町は、これからオレたちが牛耳ることに決めた!」
野太い声である。どうやら男性らしい。ついでに言うと、頭は悪そうな印象を、ミードは覚えた。
「今から十数える! それまでにここに住んでる奴らは全員出てこい! 武器は持つなよ! 両手を上げて、ゆっくり出てくるんだ! 逆らったら――」
ガガガガガッッ!!
小銃が乱射される。この建物に被害がないということは、中空を撃ったか。
「――こうなる! 蜂の巣だ! 分かったらさっさと出てこい!」
ミードは口笛を吹いた。
派手にブチかませそうな予感がする。ただの暇潰しだったが、思いもよらずに楽しくなってきた。
発砲の残響の中、予想外のアクシデントに見舞われたミードは、嬉々としてイーグルを回転させた。
用語&解説
・ヴラド博物館
崩落したトンネルの先にあるダンジョン。とある巨大企業の功績を展示している。戦車も展示されており、システムを操作する事で入手できる。元ネタはスペインのプラド美術館と思われる。
・バザースカ
崩落したトンネルの先にある町。北にヴラド博物館がある。大破壊以前は、博物館にくる観光客がターゲットのお土産屋さんだったらしい。本文の通り寂れており、数十年もの間、町から出たことがない者もいる。
・漢マグナム
男性のソルジャーのみが装備できる白兵戦武器(ATK215)。クリティカル率は高いが迎撃されてしまうので、ボス戦では採用されない事が多い。本文中のデザインはワイアット・アープが使用していたとされるコルト・シングル・アクションのバントライン・スペシャル(16インチ仕様)を元にしている。
・鉄のブラジャー
女性キャラと犬が装備できる防具(DEF70)。ステータスの男らしさも大きく下げる。半分ギャグだが、序盤から中盤にかけては中々有用。
・満タンサービス
クルマの装甲、砲弾の補給を専門とする店。ガソリンスタンドのハードバージョンみたいなもの。