英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『第五位』

~五年前~

 

『紫苑の家襲撃』及び“ルフィナの死”より数日後

 

~アルテリア法国・聖杯騎士宿舎~

 

ガチャ

 

「……………こっち向け。ケビン」

 

「……………………………………………………なんや、ケイジか ……」

 

寝台に腰掛けたままピクリとも動かないケビン

 

かろうじて返事は返してくるものの、当然顔は伏せ たまま。そして何より見た瞬間にわかるほどやつれ ていた

 

「…お前メシどころか水すら飲んでないらしいな。 その内死んぢまうぞ」

 

「……………本望や。むしろ…………………今すぐにでも 殺してほしいくらいや…」

 

……………………………殺してほしい、なぁ

 

それを聞いた俺は、無言で刀を抜き、ケビンの首元 に刃を添える

 

「…………………地獄への片道切符だ。死ぬなら勝手に 一人で死ね」

 

ケビンは手を刀に添えるが、その手に力は入ってお らず、自決するどころか手が離れたり添えたりを繰 り返している

 

「…………どうした?死にたいんじゃなかったのか? 」

 

「……………………」

 

「当ててやるよ……死ねないんだろう?自分の手で は」

 

「…………………ッ!」

 

その言葉にケビンは動揺する。分かりやすいな……… …

 

「………その癖して楽になりたいから殺してほしいだ ?調子に乗るな。甘えるな。お前にそんな事を頼む 権利も自由も無い。ましてや俺がお前の願いを聞き 届ける義理もない」

 

「……………………もう…………オレが騎士として………や っていく意味なんて無いんや…………………………それど ころか…………生きてる意味すらも…………」

 

「…ルフィナさんの事は報告で聞いた。けどな……… 上の判断は“不幸な事故”だ」

 

「!!?なんでや!?ルフィナ姉さんはオレが殺し たんや!!オレが…………………この手で……………!! 」

 

「………何にせよ、事故だと判断されたんだ。いい加 減受け入れて前を向け」

 

「…………そんなん…………嘘や………………オレは……オレ 、が………!」

 

「…………自分が生きてる意味を理解してる人間なん ざ一人としていない。だから誰でも迷うし、悩むし 、間違える。それでも、受け入れて前に進むから人 は人であれるんだよ」

 

「………………………」

 

再びうつむき伏せて黙りこむケビン

 

「…ハァ、もういい。それだけヘタレてるんなら遠 慮もいらねぇな」

 

「……………?………」

 

さすがにコレばっかりは簡単には言えない。……相 手を地獄に突き落とすのと同意だから

 

「ーーー従騎士ケビン・グラハム。本日をもって貴 公を“守護騎士(ドミニオン)”第五位に迎える。

 

…これは封聖省による決定事項であり、法王の承認 も降りている」

 

「………………………え…………」

 

「だから…お前が長い間空位だった第五位だったん だよ。よかったな?謀らずも上がお前の生きる理由 を作ってくれたぞ」

 

「……………なんや……それ………」

 

「良かったな?守護騎士昇進、これで俺や総長と同 格だ。………ああ、後渾名は考えとけよ?何か自分で 渾名をつけて名乗らなきゃいけない決まりらしい」

 

「そ、そんな事聞いとるんやない…!なんでオレが ……………ルフィナ姉さんを…………から守れんかったオ レが…」

 

……あんまりコレは言いたか無かったが…

 

「『ーーーそれは特に問題ではない。問題はルフィ ナ・アルジェントが極めて優秀な騎士だったと言う 事だ。聖痕が顕れなかったとはいえ、彼女の問題解 決能力は時に守護騎士すら凌駕していた。その“損 失”に見合うだけの働きを第五位には期待しておこ うーー』

 

…………枢機卿の樽豚閣下のクソありがたい戯れ言だ よ」

 

本当に……何度思い出しても腹が立つ…………人の生命 をなんだと思ってやがる……!

 

「……………………………………………

 

クク…………ハハハ………

 

なんやそれ………

 

なんなんやそれは…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゃはははははははははッ!!」

 

「……………………」

 

俺は黙って目を閉じ、ケビンの言い分を聞く

 

………コイツの場合は、溜めていたモノを一度全部吐 き出させた方がいい

 

「クク………オレが!?ルフィナ姉さんを守りたくて 騎士になったこのオレが!?その姉さんを喰いもの にして守護騎士に選ばれるやと……!?

 

あはは、傑作や!傑作すぎて笑い死んでまうわ!」

 

ひとしきり狂笑(わら)い終えた後、再び顔をうつむかせて 黙りこむケビン

 

「…で?どうする?一応辞退はできるらしいぞ?ち なみに守護騎士拝命を一度だけでもきっぱり断った のは歴代でも俺だけだったらしいが」

 

…かつて俺が文献で読んだ王の話は正確に言うなら 拝命を渋っていた王の国に圧力をかけて半ば無理矢 理守護騎士拝命を“望ませた”らしい

 

つまり………辞退の権利はただの名目。上に目をつけ られた時点でケビンの第五位拝命は決定事項だ

 

「フフ……そうやろうな。“守護騎士(ドミニオン)”第五位………謹 んで拝命させてもらいます。早速今日から仕事回す ように総長に言っといてくれや………ああ、とびっき りハードなやつな」

 

「……そう言っておく」

 

ただ、一つ。俺が言える事は…

 

「ああ、それと渾名の件やけど………

 

“外法狩り”…そんな感じでいく事にするわ」

 

………ケビン、潰れんなよ………

 

ガチャ

 

「コレで良かったんスか。総長」

 

「…………ああ、すまないな、損な役回りをさせて」

 

「………別に。今はそれより早く粛清の下準備を進め てほしいんスけど……流石に今回の件で元々そう長 くない堪忍袋の緒が切れそうなんで」

 

「まぁそう言うな………こっちはこっちで信頼できる 奴等が少ないんだ

 

……………それで、ケビンは引き込めそうか?」

 

「五分五分。狗に成り下がるか、はたまた生き残る かはケビン次第っス」

 

「そうか………」

 

「というか総長の教え子なんだから直接引き込めば いいのに」

 

「バカ言え。そんな目立つ事ができるわけないだろ う」

 

そして四年後、『七耀教会転覆未遂事件』、別名『 聖王の乱』を経て、粛清は完了する事になる

 

そして、セルナート側には、成長したケイジとケビ ンの姿もあったのだった


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