英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『確かな今』

「(……いた…………!!)」

 

隠者の庭園の奥にある泉。そこの淵で、ケイジは静 かに座っていた

 

その背中にいつもの騒がしさが微塵もないのを見て 、クローゼはケイジに声をかけられないまま、ゆっ くり近づいて行く

 

「…………今は、出来るだけ一人にして欲しいんだが 」

 

「!……気付いてたなら反応してよ。びっくりした よ」

 

振り向かずにクローゼの接近に気付くケイジ

 

「クローゼか……悪いが今はあまりじゃれる気分じ ゃねぇんだ……一人にしてくれ」

 

全く微動だにせずにクローゼを拒絶するケイジ

 

「…………………」

 

しかし、クローゼも退かない。ここで退けば、何か が二度と戻って来ない気がしたから

 

だからこそ……一歩、また一歩とケイジに近づく

 

そして、背中からそっと抱きついた

 

「あ……」

 

「………前も言ったと思うけど……絶対離れない。離 れたくない」

 

「……………」

 

「ケイジが隣にいてくれたらそれだけでいいの。私 はそれだけで幸せだから」

 

そう言ってケイジの背中に顔を埋める

 

……まごうことなきクローゼの本心。ケイジがリベ ールを立って以来、ずっと抱いていたほのかな想い

 

「………………で」

 

「?」

 

「………何でお前はそこまでして俺に拘る……血も繋 がってない、ましてや身元も得体も知れない。お前 から離れようとするロクデナシに………」

 

その真っ直ぐさがケイジには眩しかった。眩しすぎ て……辛かった

 

ヨシュアでは無いが、自分の暗い部分が晒し出され ているような気がしたから

 

だからこそ離れようと、関わるまいと………住む世界 が違うと自分に言い聞かせてきた

 

………なのに、離れても離れても追い付いてくる。逃 げても逃げても、何度でも見つけられる

 

何故こんな(ロクデナシ) を追って来るのか……それがどうし てもケイジには解らなかった

 

「そんなの、どうだっていい」

 

「………………………は?」

 

「昔の事なんて、私は何があったか知らないし、知 ったとしても私にはどうしようもない。だから私は “今”、ケイジの側にいるのが何よりも幸せなの。だ から私は“これからも”貴方の隣にいたい。ただのク ローディアとして、ただのケイジの側にいたいの」

 

「クローゼ……」

 

クローゼがケイジに回した腕の力が強くなる

 

……離さない。絶対に。

 

そんな気持ちをはっきりと表すかのように

 

そして………ケイジがクローゼの手と自分の手を重ね ようとするが、決心がつかないのか、手を近づけた り遠ざけたりを繰り返す

 

そんなケイジの手を、クローゼは優しく包んだ

 

「…………!」

 

「ケイジが迷った時は、私が手を引いてあげる。ケ イジが悩んだ時は、私も悩む。一緒に笑って、一緒 に泣いて、一緒に怒って……そんな関係になりたい から……」

 

「………………」

 

「過去だけが未来を決めるの?過去が無かったら先 に進めないの?違うでしょう? ………ケイジならもうわかってるよね。だって私にそ う教えてくれたのは貴方(ケイジ)なんだから」

 

そう言うと、クローゼは完全にケイジにその身を預 ける

 

「だから………私と“今”を生きよう。貴方の過去も、 未来も…………全部纏めて抱き締めるから」

 

「……………フッ」

 

「…?……キャッ!?」

 

バッシャーン

 

突然笑みを浮かべたケイジが目の前の泉に飛び込ん だ

 

「…………ぷはっ……もう!いきなり飛び込まないでよ !!」

 

「ははっ………悪い悪い。つい、な」

 

ケイジは泉に浮かんだまま、クローゼに返事をする

 

「もう……」

 

ブーたれるクローゼだが顔は笑顔だった。ケイジに 先ほどまでの暗さが無くなっていたからだ

 

暫く無言がその場を支配する

 

「……クローゼ」

 

「何?」

 

「……教えてやるよ。俺の過去を。お前の知らない 俺の記憶を

 

……………お前の知らない、百日戦没《このよのじごく》を」

 

 


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