英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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月の扉『白烏の唄~前章~』

「七番テント!右大腿骨開放骨折!左脇を撃たれて いて血が吹き出ています!内臓に傷はありません! 」

 

「三番テント!右足の至るところを撃たれています !こちらも内臓に傷はありません!」

 

「今はこっちは無理だ!もうじきジェイドとケイジ が終わるはずだから七番優先ですぐ回せ!」

 

「「はい!」」

 

そこは、確かに地獄であった

 

日に日に増す戦没での怪我人。そして治した側から また戦場に戻って死なれるという徒労感

 

………しかし、ここは医療キャンプ、ましてや外科医 療の実験部隊である。例え無駄だとわかっていても 助けなければならない

 

「………手術終了。寝台天幕まで運んで下さい」

 

「はい!」

 

「ケイジくん!!七番テント!急いでくれ!」

 

「わかりました!状況は!?」

 

「移動しながら話すよ!」

 

……止めよう。今はとにかく救える命を救えばいい

 

そう頭を切り替えて、俺は麻酔医についていった

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

レミフェリア公国所属、第三外科医術実践研究推進 部隊

 

それが俺が門戸を叩いた医療NGOのような部隊であ り、今、最も地獄の側にいる部隊であった

 

「…………………………」

 

目の前には帝国人、王国人の区別無く顔に白い布を 乗せられ、地に横たえられた人達がいた。中には俺 と同じくらい……俺より幼い子もいた

 

……また、誰かが死んだ

 

紛争だから仕方ない………そう言ってしまえばそれま でだが…………割り切れない。割り切れない何かが俺 の中でとぐろを巻くようにうねっていた

 

「………やはりここに居ましたか」

 

「ジェイドさん……」

 

声がしたので振り替えると、コーヒーを二つ持って いるジェイドさんがいた

 

「飲みなさい。いくらリベールが温暖な気候だとは 言ってもこの季節の夜は冷えます」

 

「………………はい」

 

そう言ってコーヒーを受け取る……温かい

 

「……割り切れませんか?」

 

「……………」

 

「確かに、この仕事は矛盾だらけです。助ければ、 また戦場に出る。そしてまた怪我をしては死ぬかこ こに運ばれてくる………今度は他の人間(みちづれ)を連れて、ね 」

 

その通りだった。実際何度も何度も怪我をしてはこ こに運ばれてくる人もいる

 

そして、治した人が再び怪我をして、今度は死んで いく人も何人も見た

 

「………正直、私も甘く見ていました。こんな悲惨な 現場だと知っていれば………あなたをこんな場所に迎 えなかったでしょうに」

 

「それは言わないで下さい」

 

これは俺が望んだことだ。他の人に責任は感じて欲 しくない

 

「………ジェイドさんは、どうして医者に?」

 

いきなりの質問に少しポカンとするジェイドさんだ ったが、すぐにいつもの笑みを浮かべた

 

「理由ですか………そうですね、私の場合は『知りた かった』からでしょうか」

 

「知りたかったから?」

 

「ええ。恥ずかしい話ですが………私には『人の死』 というものが理解できないんです。こんな状況にな っても」

 

「!」

 

「ですから……医者の存在についてならリーブに聞 いた方がいいですよ?」

 

「えぇー…………」

 

あの常時酔っぱらいのテンションの厨二野郎に?適 当にはぐらかされそうな気しかしないんだけどな~

 

「そう露骨に嫌な顔をしない。一応あなたの師匠で しょうに」

 

「あのアホから学んだのは外科医術だけです」

 

俺元々薬剤師で通すつもりだったのに……

 

というか執刀医になれる人間が俺とジェイドさんと 厨二だけって鬼畜だと思うんだ…

 

「……とにかく、機会があれば聞いてみなさい。少 しは役に立つと思いますよ」

 

「…わかりましたよ」

 

「ああ、明日は少し早めに起きて下さい」

 

「え?どこかに行くんですか?」

 

「まぁ、行ってからのお楽しみですね」

 

そう意味ありげな言葉を残して、ジェイドさんは去 って行った

 

「……ジェイド」

 

「!……リーブですか。あまり驚かさないで下さい 。心停止するかと思ったじゃないですか」

 

「けろっとした顔で皮肉かます奴がよくいうぜ……… …………で、ケイジはどうだった?」

 

「あなたの想像通りです…………表には出してません が相当参ってますね」

 

「やっぱりか………」

 

「全く……心配なら自分で確かめに行ってどうにか すればいいのに……」

 

「うるせーよ。変人マッド鬼畜眼鏡」

 

「ハッハッハ………リーブはどうやら命がいらないよ うですねぇ」チャキ

 

「ゴメンナサイ。謝りますんでその槍しまって下さ い。マジで」


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