「……という訳や。俺ら全員に心当たりがないのと、『金』って言うたらフェイトちゃんしか思い浮かばんかったんやけど……」
「……………」
帰って来たケビンから事情を聞くと黙り込んでしまうフェイト。その顔色は優れない。今にも倒れそうなほどに青白くなってしまっている
「……どうやらフェイトちゃんで当たりみたいやけど……並々ならぬ事情があるみたいやな」
「……はい」
か細い声で小さく肯定するフェイト
「まぁ、時間は無い訳やない。行く覚悟が出来たらオレかリースに言ってくれや。そこからパーティ組んで攻略するからな」
「……いえ、大丈夫です。すぐに行きましょう」
その言葉に少し驚くケビン
「って言われても顔色悪いでフェイトちゃん。ちょっと時間置いた方がええんちゃう?」
「いいんです。いつかはちゃんと決着を着けなきゃいけないことだから……それが早くなっただけ。それに、伝えたいことがあるから。もう一度……ちゃんと伝えなきゃいけないことがあるから」
そこに“あの人”がいるという確証はない。だがフェイトには何故か“あの人”がいるという半ば確信めいたものを持っていた
伝えなければならない。もう一度。『私は私だ』と
「……そっか。ならオレからは何も言わん。準備出来たら外出る魔方陣の前に集合や。他に行く面子はオレが声かけるわ」
そう言って準備に動こうとするケビン
「あ、ちょっと待ってケビンさん。パーティって五人ですよね?」
「?ああ、せやけど……」
「なら……一人、私が選んでもいいですか?」
ーーーーーーーー
「で、次はこのメンバーか」
金色に輝く碑石の前でリクがそう呟く。碑石の前にはケビン、リース、フェイト、そしてケイジとリクが揃っていた
この碑石も現実では蒼耀石だったはずだが、今は金耀石の碑石に変わっていた
「せや。ホンマはレーヴェとオリビエをと思っとったんやけどな。……何故かレーヴェとケイジは一緒に出られへんみたいやし」
少し前にケビン、リース、ケイジ、レーヴェ、エステルで探索しようとした時、方石が起動しなかったのだ。更には魔方陣まで使えないという始末だった
「ごめんなさいケビンさん。私の我が儘で……」
「いやいや、これは言うなればフェイトちゃんの扉みたいなもんやからな」
しゅんとなるフェイトをケビンが慌ててフォローする
「ま、これも奴らの言う『枷』の一つだろ……で?ケビン。今回のは何なんだ?」
「ああ、そういやお前とリクには言うてなかったなぁ。『これより先は虚ろに呑まれし時の庭。人形と蔑まれし惑いの金閃を伴い、文字盤に手を触れるがいい』や」
それを聞いたケイジは少し考えるような素振りを見せる
「……それで、その時いたケビン、エステル、レーヴェの誰も思い浮かばなかった、と」
「正解や。念のためにオリビエやティータちゃんにも聞いたけどハズレやった」
「んで?フェイト。お前は心当たりがあったのか?」
ケイジがフェイトの方に向きそう聞くと、フェイトはしっかりと頷いた
「うん。詳しくはまだ言えないけど……間違いなく私だよ」
「そうか……」
「……とりあえず、話はそこまでにしとこや。下手したら魔獣が集まって来るかも知れんしな。……フェイトちゃん、その碑石に手ぇ翳してくれ」
「あ、はい」
そしてフェイトが碑石の前に立ち、文字盤に手を翳す
「……ケイジ」
「何だリク?」
「これから先に何があってもフェイトを拒んでやるんじゃねぇぞ?……まぁ、お前に限ってそれは無いと思うけどよ」
「?それはどういう……!」
ケイジの言葉を遮るようにして、五人は光に包まれた
ーーーーーーーー
「うっ……」
「ここは……」
光が晴れると、五人はまるでRPGのラストダンジョンのような怪しい雰囲気を醸し出している館の前に立っていた
「ッ!!」
「……フェイト?」
「………“時の庭園”……」
「?」
「私の……私が、始まった場所……そして、母さんが……」
「………ストップだ。来るぞ…!!」
リースが声をかけるも、自分の肩を抱いて震えるフェイト。そんなフェイトの頭にケイジが手を置いて、フェイトを正気に戻す
それとほぼ同時にケイジ達の目の前に禍々しい魔方陣が出現する
「あまり自分を卑下してはいけませんよ。フェイト」
「そうだよ。もっと自信持ちなっていつも言ってるだろ?」
魔方陣から出てきたのは猫耳と犬耳……否、狼耳の女性二人。フェイトはその二人を見ると驚きに大きく目を見開く
「リニス!?それにアルフ!」
「久しぶりです。大きくなりましたね、フェイト」
「アタシはそんなに久しぶりじゃないけどね」
フェイトに微笑むリニスとアルフ。しかしリニスの手には杖が、アルフの手には籠手のようなものが装備されている
「リニス……」
「……すみませんフェイト。あまり長くは話していられないみたいです」
そう言って杖を構えるリニス
「……そこのツンツン頭や黒髪のニーチャンは気付いてるかもしれないけど……アタシらは本物じゃない。アタシらは分身みたいなものらしいよ。だからフェイト……思いっきりかかってきな!!最初で最後の主従ゲンカだよ!!」
リニス同様、アルフも構えをとる
「リニス……アルフ……」
「伝えたいこと、話したいこと……貴女がその全てをぶつけるべき相手はこの場所の最奥にいます。貴女がそこに辿り着くためには私達を打ち破るしかありません
……選びなさい、フェイト。私達に倒されてこの世界で永遠に空虚を抱いてさまようか、私達に勝って“彼女”への道を拓くか!!」
そう言うと、リニス達の背後から
「……私にも、譲れない想いがあるから。決意があるから。だから……二人共、そこを通らせて貰います」
そう言ってバルディッシュを構えて一人で飛び出そうとするフェイトだったが、ケイジとリースにゲンコツを落とされて思わずその場にうずくまる
「~~!?何するの!?」
「バカ野郎。全部一人でやろうとすんな。……俺らも混ぜろよ。仲間だろ?」
「まだイマイチ貴女の事情はわからない。けど貴女が前に進みたいなら私達は全力でサポートする……それとケイジ。貴方にそのセリフを言われても中身が無い気がするけど?」
「はてさて何の事やら」
そんなケイジとリースのやり取りに、フェイトはクスリと笑ってしまう
「そうだったよね………うん、みんな。私に力を貸して」
『応!』
「……覚悟は出来たようですね。ならば初めから本気で行かせて貰いますよ!!アルフ!」
「おうよ!使い魔の底力……とくとその目に焼き付けなぁっ!!」
アルフが駆け出し、リニスが詠唱を始める
戦いの幕が、上がった