今年も宜しくお願いします
推奨BGM…LINKAGE (水樹奈々)
「……ここが最後の部屋か?」
ケイジが確かめるようにフェイトに聞く
あの後、特に大した障害もなく、五人は真っ直ぐにこの場所……いつも“彼女”がいた部屋の前に辿り着いていた
「うん……間違いないよ。ここがこの空間の終点だと思う」
落ち着いた様子で答えるフェイト。その顔にもはや迷いはなかった
フェイトは一歩前に出て四人に向き直り、全員の顔を見渡す
「ここを越えればこの空間はクリア出来るはずです……力を、貸して下さい」
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「………来たわね」
「……母さん」
扉を開けた先には、黒い髪を後ろに流し、顔を仮面で隠した女性がいた
しかし、仮面以外は何も生前の彼女……プレシアと何も変わらない。フェイトが彼女を『母さん』と呼んだのもそれ故だった
「私は貴女の母親ではないわ……わかっているのでしょう?私が最期まで貴女を拒絶した事を」
「それでも……私が生きているのは母さんのおかげですから」
静かに微笑むフェイト。対するプレシアは仮面のせいか表情が読めない
「……それで?貴女は今更私に何が言いたいのかしら?」
「……私の想いは、あの時と変わりません。私は貴女の娘で、アリシア姉さんの妹……貴女の家族だと。そう言いに来るつもりでした」
フェイトがそう言うと、プレシアはぴくりと反応したが、すぐにため息をついた
「……くだらないわね。言った筈よ。貴女は私の娘ではないと」
吐き捨てるように言うプレシア。しかしフェイトに動揺は一切見られない。ただただ凛と、その場に立っている
「早合点しないで下さい。『そう言うつもりでした』と言った筈です」
「なら、何を言おうとしているの?手早く済ませてくれないかしら」
「今言ったところで、貴女はまともに取り合わないでしょう?」
「なら、どうやって私に貴女の言う事を聞かせようと言うの?」
挑発的なプレシアの言葉に、フェイトは迷わずバルディッシュをプレシアに向ける
「無論……実力で」
「フフフ……アハハハハ!!面白いわね……たかだか18の小娘が大魔導士と呼ばれた私を倒すですって……?」
プレシアは一頻り笑うと、自分の杖を横払いに薙ぐ
「いいわ……ならばかかってきなさい。貴女の未熟な力を、第一の守護者たるこの私に届かせてみせなさい!!」
「確かに私は未熟です……だけど」
フェイトから雷気が溢れ出す
「大切な人達が、私に力をくれる。だから私は負けない……負けられない!!」
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「オイ、本当によかったのか?」
「……………」
リクはケイジに話しかけるが、ケイジはフェイトとプレシアの戦いをじっと見ているだけで答えない
……実は、ここに入る直前、フェイトは四人にある頼み事をしていた
『私一人で戦わせてほしい』、と
ケビンやリクは渋っていたのだが、リースとケイジがフェイト側に付いたために仕方なく認めたのだ
「……たとえ理に至った達人でも、そこら辺に落ちてる木の棒を持った素人に負ける時がある」
「は?」
突然ケイジはそんな事を言い出した
「なぁリク……本当に強い奴ってどんな奴だと思う?」
「?そりゃ色々あるだろ。技量とか、経験とか……」
「違ぇよ」
リクの意見をバッサリと切るケイジ
「……じゃあどんな奴だよ」
「俺はな、心の強い奴だと思う」
「心?」
「ああ。人の意志ってのはバカにならないぞ?どんだけ力が弱くても、どんだけ経験が少なくても……ソイツが腹括った瞬間にはもう強者なんだよ。『窮鼠猫を噛む』ってのはよく言ったものでな……追い詰められて、腹括って、生きて帰る。この世に覚悟決めた奴以上に強い奴なんて存在しない」
過去のトラウマを抉られながら、リニスやアリシアと逢い、そして今この場所にいる
「……今のフェイトが『窮鼠』だってのか?」
リクの言葉にケイジは答えず、ただ親子の戦いを見つめていた
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「……ずっと、気になっていたことがありました」
「……………」
プレシアの放つ無数の魔力弾を巧みに避けながら、フェイトはプレシアに話しかけていた
「貴女は私を嫌っていた……いや、憎んでいた。
「……だとしたら、何だと言うのかしら?」
「どうして、私を側に置き続けていたんですか?」
「!!」
ほんの一瞬だけ、プレシアの手が止まる
「……簡単な事よ。ジュエルシードを集めるため。それ以外に他意はないわ」
「違う。それはあまりにも矛盾してしまっている……ジュエルシードを集めるなら、未熟な私ではなくリニスに任せればよかった」
「貴女は忘れたのかしら?私は病に侵されていた。だからリニスとの契約を破棄したのよ」
「それは確かにそうでしょうね……でも、貴女は科学者だ。科学者は、確率でものを考える」
《Haken Saver 》
プレシアの魔力弾の間を、金色の斬撃が進んでいく
その斬撃の後ろをフェイトは駆け抜ける
「確率で考えるなら、リニスに任せた方が安全で確実だった。貴女の命もその気になればリニスがジュエルシードを集めるまでくらいは容易に延命できた。そのための術式があるのを私は知っています」
「……………」
「だからこそわからなかった。何故リニスではなく私にジュエルシードを集めさせたのか。何故延命術式を使わなかったのか」
「『愛する気がないなら早く捨てて欲しかった』……とでも言いたいの?」
プレシアは斬撃を打ち消そうと雷を放つ。雷は斬撃を相殺するが……フェイトの準備はすでに完了していた
「いいえ……過去の起こってしまった事に対して文句を言っても何にもなりません。私が聞きたいのはその理由だけ。今、ただ一つだけ引っ掛かっているそれを聞いて、私が貴女に決着を付けられれば……」
《Jet Zamber 》
「私は、本当の意味で『貴女という壁』を乗り越えられる気がするから……!!」
巨大な魔力刃がプレシアに襲いかかる
「貴女が仮面を付けているのは、貴女が何かを……心を隠しているから。だから……その
「……甘いわね」
目の前のプレシアの姿がブレて、フェイトが多数のバインドに拘束され、そこにプレシアの魔力弾が襲いかかる
フェイトが斬ったプレシアがいた場所のはるか上空。そこからプレシアはフェイトを見下していた
つまり、フェイトが斬ったプレシアは
「私が本心を隠している……?よくそんな戯れ言を言えたものね。私があの時言った言葉が私の本心……それが全てよ」
魔力弾が次々と炸裂し、爆発する。その上からは異様なまでに巨大な魔力球がフェイトを押し潰すように迫っていた
「私の愛を信じなければ生きていけない哀れなお人形……下らない。アリシアになれないなら、消えてしまえばいいのよ……!!」
そして魔力球がフェイトのいる場所を押し潰して、大爆発を引き起こす。もうもうと立ち込める煙の中、プレシアはただ煙を見つめていた
「私にはアリシアが全てだった……アリシアがいれば他に何もいらなかった。だから、アリシアを甦らせようとした……その過程で出来た失敗作が貴女よ、フェイト。
……アリシアでない貴女に、愛情なんて与えるだけ無駄なのよ」
「ーー知りませんよ、そんなの」
プレシアの背後でフェイトの声がする。とっさに振り返ったプレシアだが、そのまま強い衝撃に身体を吹き飛ばされる
その隙にフェイトはバルディッシュに魔力を集める
「そんな決まり文句は聞き飽きました……私が聞きたいのは私を側に置いたその理由だけです」
「貴女……一体どうやって……」
「簡単ですよ。貴女が知覚できない疾さでバインドを解いた瞬間に離脱しただけです」
フェイトは所々に傷を負っているものの、致命傷にはほど遠いものばかりだった
「そんな無茶な……人が認識できないほどの速度を人が制御できる訳がない!!」
「ええ、前までの私なら不可能でした。でも……今は違う。姉さんが私をより疾くしてくれる」
フェイトは愛しげに自分の瞳に手を被せる
フェイトの瞳には、六芒星の紋様が浮かんでいた
「それは……アリシアの……アリシアの
アリシアの
これがあるから、彼女はレヴィの身体能力を制御し、高速で動けたのだ。それを元々高速機動に適正のあるフェイトが手にすればどうなるか……答えは簡単。より速く、鋭く動けるようになる
今のフェイトの疾さは……もはや音速に近い
「この瞳があれば……私は誰より疾く空を翔べる。姉さんがくれたこの瞳が、私を更に上に導いてくれた!!」
《98……99……100。Breaker,Get Set 》
バルディッシュの機械音がフェイトに準備が整ったことを知らせる
「貴女が抱えた闇も、苦しみも、悲しみも………全部ここで、終わりにするから……!!
だから……貴女の本心を、私に聞かせてください!!」
プレシアは何とか離脱しようとするが、幾重にも掛けられた金色のバインドがそれを許さない
「雷光一閃!プラズマザンバー!!」
《Breaker 》
雷を纏った金色の閃光がプレシアを呑み込む。
その余波が収まり、プレシアの姿が見えてくると……仮面は、消えてなくなっていた
しかし、フェイトは尚警戒を解かない……プレシアの様子がおかしかったのだ
プレシアは何かに苦しむように両手で頭を押さえていた
「……?母さーー」
「うあああああっ!!」
突然の絶叫と共に、プレシアの身体が黒いナニカに包まれていく
「なっ!?」
「ウグォォ……ーーーーーーーーー!!!」
理解できない断末魔のような叫び声を上げ、ナニカがフェイトに飛びかかっていく
瞬時に避けられないと判断したフェイトは防御しようとバルディッシュを構えるが……ナニカの腕はバルディッシュをすり抜けてそのままフェイトの身体に叩き込まれた
「うぐぁっ!!」
「ーーーーーー!!!!」
止めだとばかりに振り上げられる黒い腕。フェイトは反射的に目をつむってしまった……その瞬間だった
「よく頑張ったな。フェイト」
「まぁ、後は任しとき~」
「……悪魔退治は
そんな声が、黒いナニカの叫び声らしきものと共に聞こえる
「ケビン、お前
「その言葉そっくりそのまま返したるわ。ウルがおらんのに
「……大丈夫。そんな時のためにレーヴェから
「「よっしゃ倒れてたまるかァァァァァァァ!!」」
「……あのケビン、可愛いのに」
フェイトが目を開くと、そこには歪な三角形のような紋様を背に浮かび上がらせているケビンと、法剣を構えているリース。そして……背に白銀の翼のような紋様を浮かび上がらせているケイジが、堂々と立っていた