英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『意思を貫くということ』

「対極にあるはずの炎まで封じ込める時の氷……やっぱり、リーブさんの聖痕よね」

 

「ええ……リーブさんがケイジさんの命を救うために、そしてケイジさんが私の命を救うために譲ってくれた。それが、この力です」

 

刻印ごと封じ込められた炎の氷の上で、自身の胸に手を置いて感慨深げにそう言うリーシャ。対するティアは先程までの余裕などなかったかのようにリーシャの一挙一動に目を凝らしている。

……今リーシャが封じたフラムルージュはティアの術の中でもかなり上位に位置する術なのだ。それが封じられたという事はティアは詠唱の長い術でしかリーシャにダメージを与えられないという事を意味している。

更に言うなら、今までリーシャを追い詰めていた下級譜術はもう恐らく通じないだろう。ティアに残された戦い方はナイフで牽制しながら上位譜術で叩くという、ティアの好まない物量作戦でいくしかないのだ。

 

「…………」

 

「っ! いきなりですね……」

 

そうと決まれば話は早い。即座にナイフを投擲してリーシャから今まで以上に距離を取る。あわよくばと思っていたナイフは防がれてしまったが大して気にはならない。

聖痕持ち……すなわち守護騎士相手に警戒し過ぎるという事は無いのだから。

 

「(取れる手段は……リーシャのスタミナ切れ狙いか、正面から叩くか。ただ、前者は限りなく無理に近い。その前に時の氷で私の術が全部封じられて押しきられる。だけど今のリーシャを押しきれる譜術はあれしかない……だったら!)」

 

距離を取ろうと走りながらそんな事を考えるティア。その後ろから逃がすまいとリーシャが追ってくるが、そこはナイフと譜術で牽制し、順調に距離を開いていく。

そして、一直線の道になっている丘を下りた先、左右を岩壁に囲まれた場所でようやくティアはリーシャの方を振り返った。

 

「(道が直線……ティアさんの事だから闇雲に来た訳じゃ無いだろうけど……その真意はわからない。だったら行くしかない!!)」

 

それにリーシャは一抹の不安を覚えながらも、最大速度でティアに迫る。

 

「穢れなき風、我に仇なすものを包み込まん……!!」

 

「我が舞は夢幻、去り行く者への手向け……」

 

ティアの詠唱が完了し、杖に光が纏われる。

しかし、一方のリーシャはまだ気を集め始めたばかり。明らかにリーシャは出遅れてしまっていた。

 

「イノセント・シャイン!!」

 

杖から解き放たれた光の神風がリーシャに牙を剥いて襲い掛かってくる。

……だが、その光景を目の前にしながら、リーシャの表情は尚涼しげだった。

 

「眠れ……白銀の光に抱かれ……封!」

「なっ!?」

 

リーシャの声が響くと同時に、神風が地面から突き出した無数の氷槍に貫かれ、そこから一瞬で氷の中に封じられていく。

それにティアが驚愕の表情を顕にするが、驚いたところで氷の侵食は止まらない。数秒後には神風は完全に封じ込められていた。

そしてリーシャは剣を構え……

 

「……滅!!」

 

一気に剣を突き出したまま高速で突貫する。その際に氷を突き砕きながら進んでいるためか、砕け散った氷がダイヤモンドダストのように降り注いで幻想的な風景を作り出している。

そして、その剣の先は真っ直ぐティアに……

 

 

 

「……読み合いはまだまだね、リーシャ」

 

突き刺さる事は、無かった。

リーシャの剣は後一歩というところで停止しており、そのリーシャの体は丸いリング状の光に拘束されていた。

 

「!? これは……!」

 

「そう。貴女が教えてくれた異世界の術……いや、魔法。確か『リングバインド』、だったかしらね」

 

そう、リーシャを封じたものはどこからどう見ても異世界(ミッドチルダ)の神秘、魔法だった。

 

「貴女が帰ってきた時に話してくれた術が気になったのよ。それであえて譜力で試してみたら上手くいったの」

 

「くっ……!!」

 

「さぁ、耐えてみなさい。……破邪の天光煌めく神々の歌声……」

 

ティアの譜歌がその場に響き渡る。そしてリーシャの足元には巨大で荘厳な譜陣が展開される。

リーシャは必死にバインドを解こうともがき、そして何とかバインドから逃れるが、その時にはもう遅い。

 

「……グランドクロス!!」

 

ティアの渾身の一撃が、裁きの十字架が力を持ってリーシャに襲い掛かる。

リーシャにそれを避ける時間など残されておらず、リーシャは光に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……はぁ……」

 

グランドクロスの光が収まった後、クレーターのようになってしまった譜陣の中心に倒れ伏して動かないリーシャを確認したティアはゆっくり息を整えていた。

 

終わった。その思いが頭に浮かんだほんの一瞬。隙とも呼べないような刹那の安堵。

だが、その一瞬が全てだった。

 

「…………!?」

 

その一瞬を読んだかのような背後からの衝撃。あまりの衝撃に一瞬意識を手放してしまう。

そのまま倒れ伏したティアが見たものは……聖痕を背中に宿したリーシャの姿だった。

 

「……ティアさんらしく無いですよ。あんな簡単に油断するなんて」

 

「な……んで……?」

 

朦朧とする意識の中、ティアは何とか言葉を絞り出す。

 

「? ……ああ、あれは私の氷人形(ゴーレム)ですよ。姿を隠すにはあの時しか無かったですからね」

 

「…………」

 

姿を隠す。リーシャの戦い方の基本だ。

だが、リーシャは戦闘開始した直後は既に姿を現した状態だった。本来の戦い方を出来ない状態に追い込まれていたのだ。

それを、リーシャは見事にひっくり返した。最後の最後に自分本来の戦い方で戦うように持っていったのだ。

 

慣れない戦い方に切り替えたティアと自身の戦い方を貫いたリーシャ。もしかすると、それがこの勝敗の分かれ目だったのかも知れない。

 

そんな事を考えながら、ティアは静かに意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

リーシャvsティア

 

リーシャの勝利

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……………」

 

「むー……クローゼー! 隠れてばっかじゃ勝てないよー?」

 

そして、フェイトの援護が止んだ事はクローゼとシャルの戦いにも影響していた。

ここまでクローゼが優勢に進められていたのはひとえにフェイトのランサーの援護でシャルの銃撃を封じられていた事に起因していたのだ。それがシオンの乱入によって完全に途切れてしまった今、クローゼは一転して防戦一方になってしまっていた。

今は丘から少し離れた、遮蔽物の多い入口外の森で戦っているために何とか被弾0で済んでいるが、同時に反撃も難しい状況のため、クローゼが圧倒的に不利だ。

そして何より不味いのが……

 

「むぅ~~……」

 

シャルが段々と不機嫌になってきている事だ。

普段は天然ながらも常識人なシャルであるが、第二師団という色んな意味での魔窟に長期間いるせいか、一旦癇癪を起こすと手がつけられなくなるのだ。具体的に言えばどこであろうと魔王の切り札をぶっ放そうとしようとする。

……こんな場所であんなもの(SLB )なんか撃たれたら目も当てられない。

クローゼがその最悪の状況を想像してしまって冷や汗を流していた時……目の前の木々が炎の大剣によって一瞬で灰になった。

 

「……………………………………は?」

 

たっぷり間を空けてようやく出した声であったが、それでも何が起きたかわからないのか呆然とするクローゼ。その時間が命取りだった。

 

「あ! 見つけた~!」

 

「あ゛」

 

驚くほどあっさり見つかったクローゼ。それと同時にシャルの双銃が火を吹く。

そして対応がワンテンポ遅れたクローゼは反応出来ない。譜力の銃弾はそのままクローゼに直撃すると思われたが……

 

「密天よ、集え!」

 

「えっ?」

 

突如として大気が集まって壁となり、銃撃を弾く。

 

「全く、駆け付けた瞬間大ピンチとかどこの三流恋愛冒険小説ですか? 何? ピンチになる私可愛いとかそんな人なんです? それとも痛めつけられたい願望? まぁどっちにしろ(わたし)の半径1セルジュ以内に近付かないで下さいます?」

「何がどうなってその結論に行き着いたんですか!?」

 

本当に色々ありすぎて頭がついていかないクローゼだったが、それでも乱入者の言葉は聞き逃せなかったらしく律儀にツッコむ。流石は某マイペース野郎の幼馴染みである。

 

そこでようやく乱入者の方に目を向ける。そこにいたのは、銀髪のショートカットに九本の狐尻尾に狐耳を持った見覚えのある中華服の美女だった。

 

「貴女は……」

 

「嫌ですね~、そんな他人行儀な~。どうも、ご主人の命で援軍のデリバリーに来ました! 狐耳のお手伝いさんでっす!」

 

乱入者の正体はウル(シリアスブレイカー)だった。


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