「来たれ爆炎! 焼き尽くせ! バーンストライク!」
「チッ……!」
空から出現した炎弾を、リクは横に転がりながらなんとかかわす。術の効果が切れるや否やすぐさま立ち上がり、干将・莫耶を構えて反撃に移ろうとするが、それを許すほどリタは甘くはなかった。
「黒耀の輝き、快速の槍となり敵を討つ……!」
黒い譜陣を展開し、既にリタは追撃の準備に移っている。
それを見たリクはとっさに干将・莫耶をリタに投げつけていた。
「デモンズランス!」
「
闇の槍が魔力の爆発に呑まれ、辺りが爆風と煙に包まれる。
リタは顔を袖で覆ってその爆風を防いだのだが……
「……案外粘るわね。全く、面倒くさい……」
煙の晴れた視界の先、そこにリクはいなかった。
ーーーーーーーー
「ハァ……クソッ、譜術って……あんなに厄介な、もんだったか……? っ痛……」
物陰に隠れ、先程のデモンズランスかバーンストライクで負ったのだろう腕の傷をアーツで治療するリク。息は荒く、厳しい劣勢であることを物語っているようにその表情は固い。
それもその筈。今までリクがリタと互角に戦えていたのはフェイトの援護でリタの上級譜術が封じられていたからということに尽きるのだ。
上級譜術が封じられていたから、リクの
現にフェイトからの援護が止むとすぐに
「(技術も経験も差は歴然だ。近付こうにも奴の詠唱から発動までのブランクが短すぎる! かと言って俺に近付かなくても使える技は弓位だし、弓にしても向こうに姿を見せるハメになっちまう……。一か八かはあまりにも分が悪い。……打つ手は……!!)」
何かを感じ取ったリクが前に飛ぶ。その直後、つい先程までリクが背を預けていた断層で出来ていた岩壁が吹き飛んだ。
「(な、何だアレ!?)」
「あーもー! さっさと出て来てぶっ飛ばされなさいよ!!」
どこか苛ついた様子で大股でずかずかと歩いて来るリタ。リクは間一髪のところで土煙が晴れる前に今度は墓石の影に隠れていた。……手を合わせて般若心経を唱えながら。
しかし、苛ついたリタにとってそんなものは知ったことではない。この空間が
「(ぬあぁぁぁぁ!!)」
「ほらほら! とっとと出て来いやぁぁぁ!! こっちはティアとシャルの尻拭いしなきゃいけないのよ!」
次々と破壊されていく丘。必死の形相で逃げるリク。憂さ晴らしとばかりに上級譜術を惜し気もなく連発するリタ。一種の地獄絵図がそこにはあった。
「宙に放浪せし無数の……ああ! 面倒くさい! 以下省略! メテオスウォーム!!」
いかにも面倒だと言わんばかりに術を放つリタ。しかし何の因果か隕石の一つが真っ直ぐリクを押し潰すように降ってくる。
勿論全力で逃げようとしたリクだが、右足が動かない。右足を見ると。崩れたのだろう瓦礫の間にリクの右足が挟まっていた。
「……あ、これヤバい……」
迫る隕石を目前に、リクの目の前は真っ白になった。
ーーーーーーーー
リクが目を覚ますと、視界の先には星空が広がっていた。
ゆっくりと起き上がり周りを見渡すが、石碑のような白い彫像が散乱し、かなり遠くにこれまた白い建物があるだけで他には何もない。
そして何より……寒い。とても生物が住めるような環境ではないくらいに。
「ここは……どこだ……? あの世、なのか……」
そう言葉に出した瞬間、リクは全身の力が抜けたように仰向けに倒れる。
思い出すのはリタの言葉
『ーーティアとシャルの尻拭いしなきゃいけないのよ!』
これが指すこと……それは、リーシャとクローゼは勝ったということだ。
「(また、俺だけ何も出来なかったのか。また、俺だけ何の役にも立たなかったのか。
ーー俺は、また負けたのか」
滲み出たのは後悔。虚無感。そして悔しさ。
何故もっと早く自分が弱いことを認めなかったのだろうか。何故もっと早く努力を始めなかったのだろうか。何故、何故、何故……
後悔などするだけキリがない。考えるだけ力が抜けていく。ただ、涙だけが止めどなく溢れてくる。
負けた。ただ、それだけ。されど、それが全て。今回の負けの代償が命だった。ただそれだけのこと。
そして、リクが全てを諦めようとした、その瞬間だった。
『ーーいいえ。貴方様はまだ負けておられません』
「!?」
突然、直接心の中に響いてくるかのように声が聞こえてきた。
「お前は……」
『力を、お望みでございますか?』
リクの言葉には反応を示さずに力が欲しいかと問いかけてくる声。リクはただ目を閉じてその声に答える。
「……力があっても、命がなけりゃどうしようも無いだろうが。使えない力で何をしろってんだよ……」
『先程申し上げましたでしょう? 貴方様はまだ負けておられません。つまり、命を失ってもおられないのですヨ?』
「……!!」
リクの目に、光が戻る。
生きている。まだ負けていない。まだ、勝つ可能性が絶えていない。
何もかもを失ったと考えていたリクの目に力が戻るのには、それだけで十分だった。
『さて、今一度お尋ねします。貴方様は力をお望みでございますか?』
「……ああ」
『それは、何のために?』
「何のため……」
その問いにリクの言葉が詰まる。
……思えば、自分は何で強くなろうとしていたのだろう。
原作キャラと仲良くなるため? ケイジを泣かすため?ただ最強という称号が欲しかったから?
……どれも、何かが違う気がする。少し前の自分であれば迷いなく一つ目を選んでいただろうが。
そして、気付いた。自分の本当の願いに。
「……誰かを、大切な奴らを護るため」
『……おや?』
今気付いた。何故原作キャラに好かれようとしたのか。何故ケイジにアレほどの敵対心を抱いたのか。
「そうだよ、羨ましかったんだ。誰かに大切に思われるアイツが。誰かを大切に思えるアイツが。大切なものを護るために何もかもを投げ出せるアイツが」
前世では、親がいなかった。母は生まれた時に亡くなってしまい、父は事故で呆気なく。祖父母は既に亡くなっていて。
学校では親無しと罵られ、里親には哀れみの目で接しられ、いつしか人との関わりを自ら断つようになり。
その時に憧れたのは、いつも本の中の『主人公』だったのだ。
「誰かに護られるのは別にいい。でも、護られるだけでいたくない。隣に立って、護り護られでいいから……前に進みたい。強くなりたい」
『……それが例え、最強と呼ばれるものでなくとも? 貴方様のお連れ様方のようなオンリーワンでない紛い物でも? 実体の無い幻想であってもでございますか?』
「構わない。最強なんて聞こえはいいけど、実質孤独なだけだ。それに……」
『それに?』
声が尋ねるのに、リクは不適にニヤリと笑う。
「紛い物だろうが幻想だろうが……オリジナルを越えて、実際に生み出せばそれは本物だろ?」
『ーーYES! 貴方様の覚悟受け取りました! そういう事なら、喜んで力を貸すのでございますよ♪』
そして、再びリクの視界が白に染まった。
ーーーーーーーー
「ーー
目前に迫っていた隕石が空間ごと粉砕される。
ーー今のでリタには気付かれた。だが……何も問題は無い!
「……自分で勝手にだが封印してたエアまで使ったんだ。これで勝たなきゃ……本当に負け犬だろうが!!」
そしてリクは詠唱を始める。
ーーI am the bone of my imagine .
《体は幻想で出来ている》
ーーPride is my body, and soul is my blood.
《四肢には誇りを。巡る血には魂を》
ーーI have longed for all bonds.
《ただ、見上げ、憧れるだけの日々》
ーーUnaware of courage . Nor aware of gain.
《勇気無き言葉に、伝わるものがあるはずもなく》
ーーWithout pain not to understand whom. Reach out to someone.
《担い手はここに一人。観客に手を差し伸べる》
ーーI have no regret. Make meaning in this life.
《悲しむ前に、前に進め。それこそが我が信念なのだから》
So, as I pray ーー
ーー『