英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『緋色の力』

「ゲホッ……。何なのよ一体……」

 

リタがメテオスウォームを辺り一面に放った直後、突然巻き起こった砂塵によって、リタは視界を塞がれていた。

 

「(視界がきかないから確証はないけど……いるわね。あの風の中心に)」

 

リタは既に気配でリクの姿を捉えている。攻撃しないのは、ただ単に砂塵が激しいために口と目を開けられないからだ。もし今口を開いたならば先程のように咳き込むことは間違いないだろう。

そうなれば気分が悪くなるだけでなく、譜術も発動できないのだ。

 

……さて、なんにせよ、勝負はこの砂煙が晴れた時。そう思っていたリタだったが、その目論見は脆くも崩れ去ることになる。

砂塵の中心にあった気配が突然動き出したのだ。それも、今までとは比べ物にならない速さで、真っ直ぐにリタへと向かってくる。

 

「(なっ!?)」

 

予想外のことに一瞬硬直したリタだったが、すぐに正気に戻ってリクの動きに合わせて腰に巻いていた帯布を解いてそれを振るう。

中国武術……軌跡風に言うなら東方武術の一つである布槍。高速で振るわれたそれは何かに当たる感触と共に甲高い金属音を響かせた。

そして……二人の接触と同時に砂塵も晴れていた。

 

「……チッ、不意討ちの最速の抜刀術でも防がれんのかよ。しかも布槍。金属音出すとかどんだけ極めてんだよ……」

 

「……何アンタ? 今まで手ェ抜いてたの? 私にケンカ売ってるとみなすわよ?」

 

「いや? 今までも今も変わらず全力だぜ? 俺に力をセーブする余裕なんてねぇからな」

 

砂煙の晴れた先。そこで姿を見せたリクは、銀だった髪を朱……いや、緋色に染め、腰にベルトを回して刀に手を掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(チッ……あれでも駄目か)」

 

一方、リクは内心かなり焦っていた。

今リタに放ったのはリクの知る限り最速の剣技……抜刀術・『葬刃』だったのだ。それが防がれたということは、もはやリタを速さで上回ることが不可能であることを意味している。

 

『何か一つで勝てないことは百も承知でございましょう? なら、全部試してどれかがそれなりに上回ればいい話でございます!』

 

「あぁ、そうだな! 結局いつも通りだってことだろうが!!」

 

どういう訳か、頭の中に響いてくる無駄に丁寧な口調の声に、そう返すリク。

特定の分野で勝てないことなんて初めからわかっていた。だが今は『天よりの幻創(アンリミテッド・イマジン・バース)』がある。今なら五分の戦いができる。

誇張でも傲慢でもなく、ただ純然たる事実として、そのことをリクは感じていた。

 

リクは刀を消し、慣れ親しんだ干将・莫耶を投影して、リタに突貫する。

 

「またその剣!? ただの突貫じゃ私には通じないわよ!!」

 

リタは素早く詠唱を始める。そして、リクとの距離がまだかなり残っている中、その詠唱が完成する。

 

「熱くたぎりし炎、聖なる獣となりて不道を喰らい尽くせ……フレイムドラゴン!!」

 

リタの譜力によって生み出された炎の龍が真っ直ぐにリクに向かって襲い掛かる。

つい先程、リクの防御の切り札であった織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を灼き尽くした炎の龍に対してーーリクは、左手で握った干将で、その龍を斬り払った。

 

「んなっ!?」

 

「ボーっとしてると……」

 

驚くリタをよそに、リクは干将を振った勢いのまま一回転する。

ーーイメージするのは、ケイジのカウンター。相手の一撃をより強く!

そして回転したリクが今度は右手の莫耶を振るうと、そこからリタの放ったものより一回り大きなフレイムドラゴンが出現する。

 

「……タイダルウェイブ!!」

 

だが、いつの間に詠唱を終えていたのか、荒れ狂う大波が炎の龍を呑み込んで鎮圧する。それだけではなく、その余波がリクに襲い掛かってくる。

余波とは言ったものの、水属性最強レベルの譜術だけあってその威力はフレイムドラゴンと同等かそれ以上だ。織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)では防ぎきれないのは間違いない。

 

だが、リクはそれでも詠唱の体勢に入る。

 

「I was the bone of my imagine ……織天廻る七つの神盾(ロー・アイギス)!!」

 

出てきたのは七枚の花弁ではなく、七つの武骨ながらもどこか神聖な雰囲気を醸し出している七枚の盾。それらが次々と組み合わさって一つの巨大な大盾を作り出していた。

 

猛る荒波と戦神の盾が衝突し、その衝撃が空間をも揺るがす。そして波が引いた後には、無傷のリクが緋い髪から水滴を滴らせて佇んでいた。

 

「アンタ……その双剣、さっきまでそんな能力持ってなかったわよね」

 

「……さぁ? 使ってなかっただけかもしれないぜ?」

 

鋭い視線でリクを見据えるリタに対して、ふざけたように茶化すリク。案の定リタの琴線に触れたようで、リタの額に青筋が浮かぶが、何とかリタは怒りを鎮める。

 

「……嘘ね。シスター兼研究者なめんじゃないわよ。アンタの剣に何か能力ついてたならなんとなくわかったはずだもの。今はちょっと剣の形がさっきのと同じだったから気を抜いちゃったけど……」

 

「女神の恩恵でわかりましたーーってか?」

 

「いや、私達(だいにしだん)女神なんか信仰してないし。色々都合がいいから所属してるだけ」

 

「それでいいのか神職者……」

 

薄いどころか皆無だったケイジ達の信仰心にもだが、自分の能力がある程度見破られたことに溜め息を吐くリク。

 

『あらら、早くもネタバレしちゃいましたね~。どうするのでございます?』

 

「(……隠しても無駄な気がするしなー)……ま、いいや。多分大体お前の想像通りだよ」

 

肩を竦めて仕方ないという風に溜め息を吐くリク。その様子にリタはニヤリと口元を歪ませる。

 

「ってことは、アンタの創った剣に何らかの能力を付加する能力、ってことで良いわけね?」

 

「……お前どんだけ頭いいんだよ」

 

事実、リタの言うことはほぼ正解である。

天よりの幻創(アンリミテッド・イマジン・バース)』は無限の剣製によって造り出された武器に特定のスキルを付与する能力である。

例を挙げるなら、先程の干将・莫耶への譜力吸収、増幅反射の能力付与、織天覆う七つの円環(ロー・アイアス)への全角度防御と硬度上昇の能力付与だ。

しかしながらこの能力にはかなり厳しい特徴がある。実はこの能力、無限の剣製と違って錬鉄だけでなく設計から素材の設定まで全てを頭の中で組み立てなければならない。

更に、設定や設計が強力、複雑なものであればあるほど体力、魔力の消耗も激しくなり、計算に頭脳の大半を集中させなければならないため、諸刃の剣とも言えるのだ。

今はケイジとウルのようにリクと頭の中に響く声が役割を分担して何とか使えているが。

加えて、能力を付与するためにはかなり具体的かつ強烈なイメージが必要なのだ。それらが与える精神的疲労は尋常ではない。

つまり、天よりの幻創(アンリミテッド・イマジン・バース)は多用できない。今のリクでは後2~3回が限界であろう。

 

『それで、どうするのでございますか? 打つ手なし、とまでは行きませんが、厳しいことに変わりはございませんヨ?』

 

「(わかってる……賭けになるが、やるしかないか)」

 

『賭け……でございますか?』

 

「(ああ……)」

 

そしてリクは干将・莫耶を消し、無手になる。

 

「(……? 諦めた……? いや、目の光は消えていない……)」

 

リタは警戒体勢に入り、リクの動きを注視する。

……だが、それは悪手であった。

 

「……無罪の剣よ! 七光の輝きを以て降り注げ!!」

 

「!?」

 

リクの足元に出現するはずのない『譜陣』が出現する。そしてその詠唱は譜術の最高峰……上位古代語惑星譜術のもの。……リタが修得出来なかった二つの内の一つだった。

 

「プリズムソードッ!!」

 

「ッ! ヴァイオレントペイン!!」

 

空から降り注ぐ虹色の光の剣と、地から湧き出た黒い闇の槍がぶつかり合い、爆発する。爆煙が辺り一面を包み込み、二人の視界を奪う。

なまじ譜力が一面にばらまかれてしまっているために、リタもリクの気配を探ることができない。文字通り、煙が晴れた瞬間に勝負が決まる。

 

……はずだった。

 

 

「設計……錬鉄……研磨……付与……付与……。全工程完了(オールグリーン)。」

 

『目標捕捉……合いました!! 』

 

「穿て、錬鉄の神槍……実無き幻想を無に禊げ!!」

 

『拍手~♪』

 

偽極・金剛杵(EX・ヴァジュラ)!!」

 

そして、リタの視界は白一色に染められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わったのを空気で悟ると、限界が来たのかリクはその場に仰向けに倒れこむ。

 

「……あ~、もう二度と戦いたくねぇ~……」

 

『それは無理でございますよ?』

 

 

 

 

リクvsリタ

 

リクの辛勝


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