最近固い文学作品ばっかりやってたから、固くなってないか不安でしかたありませんが……
「……願ってもない手合わせだけど、勝負の合間に割り込まれるのはいい気はしないね」
「そいつぁ悪かったな。結界が消えたのがたった今だったんで、いまいち戦況とか気にしてなかったんだわ」
少々非難がましい視線を向けるシオンに、クツクツと笑いながら飄々とした態度で受け流すケイジ。もちろんケイジに反省の色なんてない。ただ、その目だけは一切の感情を映していなかった。
「ケイジ……」
「……下がってろ、フェイト。シオンの相手は俺がやる」
「私も一緒に………っ!!」
膝立ちの体勢から立ち上がろうとするフェイトだが、力が入らないのか、立つことができずにそのまま前にこけたように倒れ込みそうになる。ケイジが受け止めるものの、そこから自力で立つ様子は見られない。
「……え?」
「血ぃ流しすぎだ。そんだけ斬られりゃ無理もないがな」
そう言うと、ケイジはフェイトを優しく広場の隅に座らせる。
「弟子の不始末は師匠がケリをつけるもんだ。ま、ゆっくりそこで待ってろ」
そしてケイジはフェイトの頭を軽く撫で、シオンの方に戻って行く。フェイトにはかける言葉も見つからず、ケイジを見送ることしか出来ない。
「……………」
フェイトに出来ることは、ただケイジの無事を祈ることだけだった。
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「悪いな、待たせた」
「いや、大丈夫だよ」
大太刀……白龍を肩に担ぎ、軽い足取りで歩いて来るケイジに、赤い歪な大剣……
一見するとシオンだけが警戒して臨戦態勢を取っているように見えるが、実際はそうではない。むしろそんなことであればシオンは迷いなくケイジの不意を討っていただろう。実際は、攻めようとしても構えとは裏腹に隙が無さすぎて攻め入れないのだ。
「にしても……お前と戦るのはいつぶりだ?」
「色々あったしね。……多分、一年半ぶりくらいじゃないかな?」
「俺がアルテリアに行く前だったしな……。そんなもんか」
いつものように軽い感じで会話を交わす二人だが、明らかにシオンの様子がおかしい。ただ会話しているだけなのに、剣を持つ手が汗にまみれ、いつもの優しげな笑みはなりを潜めている。
まるで、あらゆる余裕を失ったかの表情で、ケイジを見据えていた。
「……まぁ、話は一旦止めとこうや。ギャラリーも集まって来たしな」
「そうだね……」
視界の端に集まってくるクローゼ達を捉えたケイジがそう言い、右手を前に半身になって白龍をシオンに向けて構える。
対するシオンも、
そして、次の瞬間……二人は、ちょうど広場の中心で剣を交えていた。
「相っ変わらず速いのに単調な動きだなオイ……!」
「仕方ないだろう……速さを求めてたら勝手に最短距離を詰めるようになってたんだからね!」
削りあうような金属音をたてながら、同時に同じ方向へ走り出す。そして走りながらも互いに攻撃の手は緩めない。何合、何十合と剣戟を交わし合いながら広場を走り抜けていき、そして端まで着くと再び鍔迫り合いの状態に戻る。
「へぇ……剣速は速くなったみたいだな」
「毎日毎日、何万回と振り続けてるからね!!」
シオンは力ずくでケイジを弾くと、即座に剣を腰だめに構え、ケイジが地に足を着ける前にそのまま一閃する。
剣閃はしっかりとケイジを捉えた……が、全く手応えがない。
「甘ぇよ」
「幻術……!!」
目の前のケイジがゆらりと歪んだかと思えば、横から刀の一閃がシオンに叩き込まれる。シオンはコピーした
だが、今度は余計な問答などは一切ない。離れるや否や、シオンは剣を構えてケイジに向かって行く。
「氷月!!」
「狙いがブレてる」
「鋭月!!」
「脇が甘い」
冷気を纏った切り上げから、返す刃での切り下ろし。普通の軍人程度ならば反応すら出来ないほどの剣速の攻撃を、ケイジはまるで片手間に稽古を付けているように軽くいなす。
それでもシオンは攻撃を出し続け、ケイジが僅かに体勢を崩したところに隙ありとばかりに渾身の力で叩きつける。
地面から土煙が舞い、一時的に視界が隠れてしまうが、タイミング的にはケイジに避けられるはずがない、と周りを警戒しながらも土煙が晴れるのを待つシオン。
だが土煙が晴れた先に、ケイジの姿はなかった。
「ーー俺はここだ!」
「ガッ!?」
後頭部に物凄い衝撃を受けたかと思えば、その瞬間にシオンは地に叩きつけられていた。
「
「……ケイジクラスの人がそう簡単に飛ぶはずがないって思ってた僕のミスかな……」
口の端から血を流すシオンを、ケイジは冷ややかに見据える。
「……何を焦ってやがんだ? お前」
「……焦ってる? 僕が?」
「以前のお前なら、あんな力ずくの攻めなんざしなかった。あんな無理矢理に勝負を決めようとはしなかった。もちろん、俺はそんなことは教えちゃいねぇ。……お前があんな行動を取るのは何かに焦っているときだけだ」
「…………」
図星だったのか、完全に黙りこんでしまうシオン。少し俯いているせいか、髪の毛の影になってしまってその表情はわからない。
「……ケイジにはわからないさ。明日には故郷がなくなってしまうかもしれない不安なんて。いつ故郷が戦場になるかわからない不安なんてね」
「…………」
絞り出すような声でポツリと呟くシオン。その声は少し震えていて、今にも泣き出しそうな印象さえ受ける。
「お前の故郷は……確かクロスベルだったか」
「うん。……帝国と共和国、それにアルテリアが宗主国になってる……いや、もはや帝国と共和国に占領されてる場所さ。軍を、武力を持つことさえ許されず、あるのは非武装の警察だけ。警察に武力行使が許されるのはかなり限られた状況だけ。更には罪を犯した者を捕まえても、帝国人だから、共和国人だからというだけで無罪放免。市政は民主主義という名目で宗主国達に好き勝手に操られるだけ……。ただでさえそんな状況だったのに、最近は更に悪化してる」
「……………」
「僕はそんな故郷を救いたい! クロスベルは自分達の国だって、自分達の故郷だって胸を張りたい! だからこそ、僕は力を求めてリベールに来たんだ!! 故郷を守るための力が欲しかったから!!」
そんなシオンの独白をケイジは目を閉じながら聞いていたが、やがて目を開くと、
「バカかお前は」
「なっ!?」
ケイジの余りにも配慮のない言葉に、シオンは口をパクパクさせているだけだった。どうやら怒りのあまり、かける言葉すら見つからないようだ。
「そんな力だけ持ってどうするつもりだ? 革命でも起こすのか? 帝国と共和国を相手に戦争でも起こすのか?」
「それは……」
「止めとけ。そんな独り善がりで中途半端な英雄願望は自分も故郷も潰しちまうだけだ」
「だったら……だったらどうしろって言うのさ!? 政治も武力も経済も!! 何もかもを奪われた状態で……一体どうやって独立を勝ち取ればいいんだよ!?」
「…………」
「僕らにはもう……玉砕覚悟で戦うしか道が残されて無いんだよ!!」
懇願するような、何かを吐き出すようなシオンの叫び。けれども、それは同時に子供の叫びのようでいて、また全てに絶望した大人の悲観のようでもあった。
だが、その叫びは、ケイジにとっては幼児の癇癪にしか聞こえなかったようだ。
「……どうやら、本当に周りが見えなくなってるらしいな」
「え……?」
「
そして、ケイジは小太刀を……蒼燕を、抜いた。