英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『若烏と怒れる女神と急展開』

「…………」

 

残心の状態から戻り、刀を軽く一振りするケイジ。そして地面に倒れ伏すシオン。

それを見た、二人の戦いを見ていた他の仲間たちがケイジの側に駆け寄る。

 

「ケイジ!」

 

「怪我は無いの?」

 

「無い。むしろ怪我なんざする訳無いだろ。俺はシオンの手の内知り尽くしてんだぞ?」

 

「まぁ、なんにせよ無事で良かったです……」

 

「リーシャ、お手」

 

「しませんよ!? というかまさかの犬扱い!?」

 

「あはは……」

 

「ちょっと真面目になったと思ったらすぐふざけるんだな……」

 

「全く……」

 

いつも通りに所々ふざけながら話すケイジに毒気を抜かれるクローゼ達。リーシャは弄られ、フェイトは苦笑い。リクとクローゼは心配して損したとばかりに溜め息を吐いていた。

そして、そんなメンバーを置いて、ケイジは刀を持ったままシオンの近くに寄る。

 

「オイコラバカ弟子。とっとと起きろー。もっかい刺すぞー?」

 

「サーイエッサー! 起きたから! 起きてるから!!」

 

『『……………はいィィィィィ!!?』』

 

何でもないようについさっき肩から腰をバッサリやったシオンを脅すケイジに、これまた何でもないように刀が首筋に添えられる直前に反射的にガバッと起き上がり、座ったまま敬礼するシオン。リクを除く何が起こってこうなっているのかが全くわからない三人娘は少し遅れて絶叫した。

まぁ、そりゃそうだろう。端から見ていれば死んだ人間が生き返ったようにしか見えない。しかも傷痕すら残っていない状態でだ。思いっきりホラーである。

 

「うるせーな、たかがシオンが蘇生したくらいで」

 

「いやいやいや! 普通は蘇生なんてできないからね!? すっごく大事だからね!?」

 

「えーっと……リク? これどういう状況?」

 

「お前なぁ……。ああ、忘れてた。お前はお前で大概天然だったな……」

 

投げやりなケイジに、少しばかりは超展開に慣れているクローゼがツッコむ横で、何故三人娘がポカーンとしているのか心底わからない様子のシオンを見てリクが溜め息を吐く。

戦闘終了早々にカオスな空間が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは僕のスキルというか能力というか……『三度落陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)』って言うんだけどね。物凄く簡単に言えば自動救命能力だよ」

 

三人娘が落ち着いた後、シオンによるネタばらしが始まる。早速というか大元の説明から始めたシオンだが、どうやらイマイチわかりにくかったようで三人娘は頭の上に?マークを浮かべ続けていた。

 

「えーっと……」

 

「簡単に言えば、致命傷を負った時に一日一回だけ自動で治癒するんだよ。だからシオンは首ちょんぱとかトマトがグシャッ的な展開じゃなければ一回だけ生き返れる」

 

「「ああ、なるほど」」

「うう……」

 

リクの補足もあってようやく納得した様子のフェイトとリーシャ。クローゼは痛い話は苦手なのか若干顔色を青くしていたものの、二人と同じように納得はしているようだ。

話は変わるが、実はこの『三度落陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)』こそが、シオンが十代にしてケイジの後継者と言われるまでの実力を持つまでに至った理由だったりする。ケイジは戦場での実戦と騎士団の任務で実戦を積み、その結果今の実力を得たのだが、百日戦没の後に仕官したシオンには実戦を積む機会なんてものはなかった。軍の訓練は当然のことながら生き死にに関わることまではしないし、殺気も感じられない訓練の中で得られる経験など、言い方は悪いがたかが知れている。

そこで役に立ったのがこのスキルだ。シオンはケイジとの鍛錬で文字通りの『殺しあい』をすることで、一足飛びに経験と技術を磨いていったのだ。……まぁ、未だにケイジには一勝すら出来ていないのだが。

 

シオンの説明を聞いて、ほえーと呑気な声を出していたリーシャだったが、その後に何かに気付いたように首を傾げた。

 

「あれ? ということはシオンさんってまだ倒せてないってことになるんですか?」

 

「言われてみれば……」

 

「あははは……とりあえず落ち着こうよ。武器下ろしてくれないかな?」

 

リーシャの疑問を聞いたケイジ以外の全員がシオンに武器を突きつける。シオンは冷や汗を尋常でないくらいかきながら両手を挙げて敵意がないことをアピールする。

 

「じゃあ何でお前はまだここにいるんだ? 他の奴らは光って消えてったんだが?」

 

「ああ、それはね。僕はティアさん達みたいに君達と戦うために呼び出されたんじゃないからさ」

 

その言葉を聞いた瞬間、四人がシオンの肩や腕をガッと掴む。全員が全員少し俯いて表情を見えなくしているために物凄く怖い。握っている力がめちゃくちゃに強いこともその怖さに拍車をかけている。

 

「え、えっと……どうしたの? リク、リーシャちゃん、フェイトさん、殿下?」

 

「……要するに」

 

「私達はあなたの『戦いたい』ってだけの理由で……」

 

「無駄に苦戦を強いられる羽目になったということですね?」

 

リク、リーシャ、クローゼが顔を上げて眩しいくらいの笑顔でシオンに話しかけるが、その笑顔はシオンにとっては恐怖しか与えない。シオンは頬をひくつかせてケイジに視線で助けを求めるが、ケイジはただ無言で手を合わせて黙祷するだけだった。

 

「……ってちょっと!? そんな簡単に部下を見捨てないでよ!!」

 

「諦めろ。俺だって命は惜しいんだ」

 

「少しくらい頑張ろうって気は!?」

 

「惜しい奴を亡くしたなぁ……」

 

「まさかの助ける気皆無!?」

 

そんな中、シオンの右肩の圧力が強くなる。ギギギッと錆び付いた機械のような動きで振り返ると、そこにはハイライトの消えた目でありながら女神と見紛うような笑顔のフェイトがいた。

 

「な、何でしょうかフェイトさん、いや、フェイト様?」

 

「つまり、私とシオンが戦ったのってまるっきり茶番だったんだね」

 

「え゛」

 

六芒星の天眼(ペンタグラムアイズ)盗られたのも、私が負けそうになったのも……全部、全部茶番だったんだね」

 

「いや、負けそうというか完全に負け……!?」

 

シオンの肩にかかる力が更に強くなる。

 

「フッ……ふふふふふふフフフフフフフ……」

 

「あ、あははははは……」

 

「少し、O☆HA☆NA☆SHIしよっか?」

 

「(ああ、短い人生だったなぁ……)」

 

シオンの目の端に、何かがキラリと光った。

 

 

戦いたい ノリで実行 ダメ絶対

~しおん心の俳句~

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「おーい、生きてるかー?」

 

約30分後、ボロボロの状態ですごくスッキリした様子のフェイトに引きずられてきたシオン。ケイジがシオンをつついて生死確認をしているが全く反応がない。ただのしかばねのようだ。

 

「全く、耐久力のない……」

 

「いや、ハラオウンとか殿下の折檻の後に意識保てるのってお前くらいだと思うんだが」

 

「えっと。お話はその辺りにしておいていただきたいんですが……」

 

呆れた目でケイジを見るリクの横に、金髪の、法衣を着た大人しそうな女性が苦笑いしながら立っていた。

 

「「っ!?」」

 

「そ、そんなにあからさまに敵視されるのはショックです……」

 

近くにいたリクとリーシャが咄嗟に飛び退くと、女性は目に見えて落ち込み出す。それに戸惑う四人だったが、その中でケイジだけが溜め息を吐いた。

 

「何してんですか……ミントさん」

 

「うぅ……ケイジくん……私はあなた達を案内しに来たんですよぅ……」

 

涙目の女性……ミントがケイジに泣き付くのをポカーンと見ていた四人だが、ケイジは一人冷静にミントをあやす。

 

「んで、何でミントさんなんです? アンタ戦闘力皆無でしょうに」

 

「えっと……私は戦いに来たわけじゃ無いんです」

 

「?」

 

首を傾げるケイジ達を前に、ミントは持っていた杖を振るう。すると、ケイジとミントの足下に魔方陣が広がった。

 

「!?」

 

「「ケイジ!!」」

 

突然の出来事に咄嗟に手を伸ばすクローゼとフェイト。だが、その伸ばした手は虚しく空を切る。

 

「…………」

 

「ケイジ……」

 

残されたのは、手を伸ばしたまま立ち尽くすクローゼとフェイト、そして唖然としているリクとリーシャ、相変わらずうつ伏せで突っ伏しているシオンだけ。

ケイジの姿は、その空間から消え去っていた。


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