英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『愛国』

「おおおおおおぉぉあああ!!!」

 

「チッ、ボサッとすんな!」

 

「きゃ!?」

 

「うおっ!?」

 

大喝と共に突撃してくるモルガン将軍の標的であるエステルとリシャールをケイジが蹴り飛ばす。それによってモルガン将軍のハルバードは空を切って地に突き刺さり、その地さえもが砕けて辺りに破片を撒き散らす。

そんな一撃が直撃していればどうなったか……。それを想像したのか、エステルは冷や汗をかきながらケイジに礼を言った。

 

「あ、ありがと……」

 

「すまない、感謝する」

 

「礼はいいから速く向こうに加勢してこい。流石に二人だけじゃキツそうだ」

 

前者は単純に反応できず、後者はシードの指揮の怖さを知っているがために警戒しすぎて反応が遅れてしまっていた。

だが、ケイジはそんな二人には目を向けず、モルガン将軍を見ながら後ろに親指を向ける。そこにはシードの指揮によってヨシュアとケビンを攻めている王国軍兵士達、そしてもちろんシードの姿があった。

 

「でも……」

 

「……流石に君でも将軍を一人で相手にするのは無茶だ!」

 

「ゴタゴタうるせぇ。そんなに心配なら向こうさっさと片付けて手伝いに来い」

 

目の前で見た将軍の強さに、心配をするエステルとリシャール。あくまで持論を変えないケイジ。そんな中、先に折れたのはやはりヨシュアが気になるのであろう、エステルであった。

 

「……絶対に、やられるんじゃないわよ!」

 

「誰に言ってんだ? 早く行け」

 

「……すまない!」

 

「みすみす儂がそれを許すとでも思っておるのか? 甘いぞ小童共!!」

 

だが、やはりモルガン将軍は甘くない。エステルとリシャールの進路を塞ごうと、再びエステルに向かって突撃する。エステルがかわせば道を塞ぐことができ、避けなければ一人脱落となる。モルガン将軍にとってはどちらに転ぼうと問題はない。……はずだった。

 

「許させるに決まってんだろうが!」

 

「ぐっ……。貴様ぁ!!」

 

その突撃を止めたのは氷の弾幕……ケイジのフリーズランサー。それらをモルガン将軍が凌いでいる間にエステルとリシャールはシードの方へと走っていった。

 

「細々と……ええい鬱陶しい!!」

 

「だったら真正面から斬り込んでやろうか?」

 

「!」

 

フリーズランサーを凌ぎきり、ケイジを探すと既に己の懐に入られていた。そのまま蒼燕を振るうケイジ。だが、そこは『武神』の異名をとるモルガン将軍である。瞬時にケイジの腕を掴んで斬撃を止め、蹴りで距離を取ろうとする。

しかし、ケイジもケイジで甘くない。掴まれた腕を掴むモルガン将軍の腕に白龍の柄を叩きつけ、蹴りに合わせてバックステップを踏むことで蹴りの威力を殺した。

 

「ふん……やるな。流石は『白烏』と言ったところか?」

 

「仮にもリベール最強クラスらしいんでね」

 

どこか楽しそうにハルバードを握り直すモルガン将軍。反対にため息を吐きながら白龍を肩に担ぐケイジ。まるで正反対の二人だが、その身に纏う闘気、オーラは双方共に尋常でないプレッシャーを撒き散らしている。

 

「ふん。所詮は最強『クラス』止まり。儂の敵ではないわ」

 

「なら爺さんは最強なのか?」

 

「当たり前だ。実力がどうであれ、儂は常に儂が最強だと思うて戦ってきた。それこそ新兵の時からな」

 

両者共に睨み合いながらそんな口論を繰り広げる。その空気通りに両者の武器に込められる力は緩むことはない。

これはただ睨み合っているだけではないのだ。情報戦と共に互いに会話で気を逸らさせようとしている。どちらかがほんの僅かでも気を会話に向ければもう一方は即座に仕掛けるだろう。これはそんな水面下の戦いなのだ。

 

「世の中には二種類の人間がいる。片方は、一度決まったことは即座に仕方ないと割りきって行動出来る者。そしてもう一方は最後の最後、行動の直前、下手をすればその行動をしている最中ですらも迷ってしまう人間だ。

……儂は後者だった。後者だったからこそ、儂は自分自身を最強であると決めつけたのだ 」

 

「……自己暗示か」

 

「その通り。そしてその暗示は絶大だった。一心不乱に斧を振るい、気が付けばこの地位と『武神』という異名を手に入れておった。……数知れぬ仲間と引き換えにな」

 

そう語るモルガン将軍の顔はどこか後悔の念がにじみ出ているようで、ケイジには苦しそうに見えた。

 

「……後悔、してんのか?」

 

「まさか。そんなものは奴等に対する侮辱だ。それだけはせぬ。してはならぬ。共に戦い、国を想う一念の元に命を散らした英霊を汚してはならぬ!

……まぁ、変わったのは儂自身だろうな」

 

「何が変わったんだ?」

 

「何……戦う理由が増えただけよ!」

 

突如、モルガン将軍が地を蹴ってケイジに突貫する。しかし、ケイジはそれを読んでいたのかスウェーでかわすと僅かに当たらせた蒼燕にかかる力を利用して回転し、後ろからモルガン将軍の首を刈りにいく。

 

だが、それでもまだ決まり手とはなりはしない。

後ろから迫る刃を、モルガン将軍はしゃがむことで回避する。それと同時に滑り込むように方向転換し、ケイジに向けて再び斧を振りかぶる。だが、その斧を降り下ろさずに将軍は後ろへと飛び退いた。

数瞬後に先程まで将軍のいた場所に地面から火柱が立ち上る。ファイヤーウォール……炎の壁をかわした将軍は今度はその火柱を目眩ましにするように駆けていく。

 

「負けられぬのだ! 国を想って散った友の為に! 『武神』の名を背負った故に! そして何より儂が愛したリベールの為に!!」

 

「……負けられねぇのは俺だって同じだ!!」

 

正面から迫る将軍を、ロックブレイクで空に突き上げる。が、将軍はそれすらも利用して重力を加えた降り下ろしを数瞬前までにケイジがいた場所へと叩き付ける。

砂埃が舞い、視界が完全に塞がれる。その中で将軍は自身にひしひしと向けられている剣気と闘気を感じ、視界が悪い中で無闇に動くのは危険だと考えたのか、身を低くして斧を構えて防御の姿勢をとった。

 

「…………!!」

 

「ぐぬっ……!」

 

そして、その判断は正しかった。刹那の差で、ケイジの渾身の抜刀術がモルガン将軍の()に直撃する。甲高い音を響かせて流れていくケイジの姿を見て、モルガンは即座に反撃に移ろうとするが……立ち上がった瞬間、ケイジと違う方向から剣気が立ち上っているのを知覚した。

 

「奥義……」

 

「リシャールゥゥゥゥ!!」

 

「桜花斬月!!」

 

神速の居合い抜きが、中途半端な体勢で棒立ちになってしまっていたモルガンにクリーンヒットする。

やられた、とモルガンは素直にそう思った。今までケイジがずっと一人でモルガンの相手をしていたところからがすでに囮だったのだろう。それ以降、リシャールはずっと気配を消して潜んでいたのだ。そして、今までにないほどのチャンスが訪れ、モルガンは逸った。逸ってしまった。その瞬間をリシャールは見逃さなかった。

 

体から力が抜けそうになるのを、気合いで込め直す。意識が飛びそうになるのを、根性でどうにか手繰り寄せる。

ーーまだ、逝けない。今のモルガンをこの世界に繋ぎ止めているのはその強い意志だ。

 

「う、おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「「!?」」

 

負けない。負けられない。負けたくない。言うなれば子供の喧嘩のような単純な理由。友の為、国の為と色々言っていたものの、結局モルガンの思いはこの一点に尽きるのだ。

 

モルガンは縦横無尽に斧を振るいながら駆け回る。一見無茶苦茶な動きに見えるのだが、その動きは間違いなく計算され尽くした動きである。リシャールもケイジも全く動くことができず、ただ専守防衛をすることしかできない。

 

機獣乱舞。モルガンを『武神』たらしめたモルガンの最終奥義。触れれば弾け飛び、肉を両断され、その生に終焉をもたらす獣の舞い。

だが……リベールに育て上げられた若い翼は、それすらも越える。

 

「…………!!」

 

「ぐうぁっ!!」

 

止めとばかりにケイジの死角から迫り、斧を振るう。だが、ケイジはそれを見えていたかのように完璧なタイミングでモルガンの斧の横に手を置きながら回り込むように飛び上がり、隙だらけかつがら空きのモルガンの背に一文字の傷を負わせる。

そして、嵐は止み、モルガンは地に伏せた。

 

ふと目をヨシュア達に向けてみると、どうやらあちらも決着が着いたようで、シードが地に膝を着いている。

 

『白烏』と『武神』の戦いは、『白烏』に軍配が上がった。


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