「うん、じゃあ中に入ろうか」
シオンとなのはを縄で簀巻きにした後、フェイトは清々しい笑顔でそう言った。
「いや、あの……まだあまり状況が理解出来ていないんですけど……」
「え? あ。そういえば説明まだだっけ?」
エリィがおずおずと手を挙げて質問するのに、ロイドとランディも同意するように頷く。それにフェイトは首を傾げるものの、すぐに納得した表情に変わる。
「そうだね……簡単に言うと、『笑ったら罰ゲーム』を24時間くらいやってもらうってイベントかな?」
「笑わなければいいのか?」
「うん。原則はね」
「じゃあさフェイトちゃん。笑ったらどんな罰ゲームがあるんだ?」
「うんうん。やっぱり気になるよねー」
その質問を聞いたフェイトはコートのポケットからボタンらしきナニカを取り出すと、躊躇いなく押す。するとお馴染みのSEが流れ出して……
『ロイド、アウトー』
「俺ぇ!?」
「こんの……シスコン変態弟貴族ー♪」
「ぎゃあああああああああ!!?」
コールの直後、某癒し系金髪少女がハリセン……っぽく見える木製バットをロイドのケツにフルスイングする。とてつもなく楽しそうに罵倒しながら。
フェイトは、理不尽な仕置きに悶絶するロイドを手で示しながら、変わらず笑顔を残りのメンバーに向ける。
「……とまぁ、こんな具合にかるーくお尻を叩かれるね」
「「軽く!? どう見ても事件だけど!?」」
「「……いや、前回の見本よりは……」」
「「何があった前回!?」」
と、叫びっぱなしの初参戦メンバーではあるが、逃げられないのは既にわかっている。こうなれば、笑わずに何とかするしかないのだ。そう、二人は腹を括った。
「じゃあ、改めて……中に入ったらスタートだよ♪」
そして二人with簀巻き&悶絶組は、
ーーーーーーーー
「……普通ね」
「……普通だな。何故かデスクがソファがあったはずの場所に5つ置かれているのを除けば」
以上、支援課に入ったエリィとロイドのセリフである。その言葉通り、入り口からすぐのところに名札付きの机が5つ置かれていた。
「ああ……やっぱりか……」
「シオン?」
「みんな。とりあえず机の中を開けて、何か入ってないか調べてくれないかな?」
シオンの早くも疲れた様子をいぶかしむメンバーだったが、大人しくそれぞれ調べてみる。
調べずに24時間耐え続ける、という手もなくはなかったのだが、あの
「……何があった?」
「赤いハンドベルが一つ」
「導力ディスクが2枚ね」
「黒いハンドベルなの」
出てきたのは、シオン、エリィ、なのはの机であった。
「……どうする?」
「……正直、スルーしたいの」
もちろん、そうはいかないわけで。
「仕方ない。ディスクからいこうか」
首を傾げるメンバーを他所に、シオンとなのははため息を連発させながら手際よくディスクを入れていく。
そして、降りてきたスクリーンにはドレスアップしたフェイトが写っていた。
「あれ……アルカンシェルの舞台か?」
「リーシャの伝手まで使ったんだね……」
そんな感想はさておき。しばらくして音楽が流れ出すと、フェイトが歌い出した。
曲は某ブライトなストリーム。完全に元ネタを意識した曲であった。
「う、上手いな……」
「ええ。プロになっても食べていけそうね」
「金払えって言われても文句はねぇな」
フェイトの歌声に手放しで称賛するメンバー達。……まぁ、中の人が中の人だからね。
そして最後のサビが後一節で終わるという時だった。
『弟貴族はー泰斗キッークー♪』
『『…………え゛』』
『ロイド、泰斗キックー』
「だから何で俺ぇ!? ってか泰斗キックって何!?」
見事に犠牲となったロイドが叫ぶ。
そりゃあそうだろう。彼には『弟貴族』という言葉にまるで見に覚えが無いのだ。おまけに罰ゲーム(最上級)である。文句の一つや二つ言いたくもなるだろう。
「説明しよう!」
『『うわぁ!?』』
そんな中、突然白衣を来たケイジが現れる。白衣を着ていることからどうやら病院から直接出向いてきたらしい。というか当直はどうした。
「泰斗キックとは、文字通り泰斗流のキックである!」
『『ふざけんな!?』』
「まぁぶっちゃけジンさんのキックだわ」
「「殺す気か(なの)!?」」
「「「そもそもジンさんって誰!?」」」
「雷神脚ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「ぎゃあああああああああ!?」
あれこれ言っている間に仕置き完了である。
ピクピクしてるロイドを放置して、メンバー達はケイジに詰め寄った。
「何で二回目やるかな君は!?」
「やりたかったからに決まってんだろ」
「O☆HA☆NA☆SHI、しよっか?」
「うるせぇぞ魔法少女(笑)」
「このリア充が!!」
「くたばれ負け犬」
「当直はどうしたの!?」
「ああ、ティアとリタに押しつけてきた」
ーーーーーーーー
その頃、リタとティアは……
「平和ねー」
「そうね。平和ね」
「これだけ平和だと、何か娯楽が欲しくなるわねー」
「そうね。働きっぱなしはストレス溜まるものね」
「「…………………………………あのドS、いつかコロス!!!」」
病院にて、ケイジの残した書類と闘っていましたとさ。
……チームだからこそできる荒業である。
ーーーーーーーー
「……で? 文句は終わりか?」
『『ハイモウイイデス……』』
一方、ケイジの方は詰め寄ったメンバーを全員精神的にボロクソに言い負かしてイキイキしていた。
「……にしても、泰斗流はやりすぎじゃないか?」
「え? ジンさんは快諾してくれたぞ? 『やっと出番が』とか言って」
「早くカルバード編出したげて!」
シオンが電波を拾ったのをスルーして、ケイジは二枚目のディスクを入れる。
そしてスクリーンに写ったのはニットにマフラー、コートという冬の装いをしたクローゼがいた。それと同時にまた音楽が流れ始める。今度はきっと君が来ないと見せかけて……なクリスマスバラードだ。
「また音楽か……」
「まぁそう言うなって」
映像はPVのストーリー仕立てのようになっており、ひたすら待っていて、諦めて帰ろうとしたクローゼのところへケイジがサプライズと共に来る。そして二人が抱き合うといったものだった。
「オイコラ。自慢か? 自慢なのか? 爆ぜろリア充このドS野郎!!」
「お前には言われたくないんだが……」
「「このリア充!!」
「お前らにはもっと言われたくないんだけど!? ……もうちょっと見てろって」
ケイジの言葉に全員が渋々スクリーンに目を向けると、少しずつカメラがズレていっていた。
その先にいたのは……何故かガチ泣きしているオリビエだった。
『きっとランディ泰斗キック』
『全員アウトー、ついでにランディ泰斗キックー』
「だからオリビエはひきょーーうっ!?」
「何でガチ泣ーーにゃっ!?」
「一国の皇子にネタをーーきゃっ!?」
「って何で俺だけ極刑なんーーぐっ!?」
「龍閃脚ゥゥゥゥゥ!!!」
「いぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ランディが若干ヤバめな状態ではあるが、まぁ問題はない。
やはりオリビエは支援課にとってもインパクトが強かったらしい。というよりガチ泣きのオリビエというのが想像できなかったのだろう。
ちなみに、ジンはケイジとハイタッチをすると悠々と去っていった。
「いやー、オリビエ強いな。あらかじめボコボコにして泣かしといてよかったぜ」
「君達それでよく親友でいられるね」
「ほら、よく言うだろ? 『友達はボール』って。蹴り倒して何が悪い」
「いや、よくわからないがそれは絶対違うと思う」
ロイド大正解である。間違っても友達は蹴るものではない。
「……まぁ、早く次を終わらせようぜ」
「あ、ストップ。ランディ、そのベルは鳴らすな」
息も絶え絶えになりながら、早く地獄を終わらせようとしたランディが赤いハンドベルを握るが、それをケイジが止める。
「? 何でだ?」
「詳しくは言えないが……止めとけ。ロクなことにならないぞ?」
どこか焦った様子のケイジに、ランディの口角がニヤリとつり上がる。
ーー間違いない。これはケイジにとって不利になるベルなのだ。
そう判断したランディは、黒いハンドベルにも手を伸ばし、同時に鳴らす。すると、一拍置いてSE が鳴り、そしてコールが……
『ロイド、ランディ、泰斗キックー』
「「……は?」」
訳がわからない、とばかりにランディと、そしてロイドが咄嗟にケイジを見る。そのケイジは、ニヤリと二人の方を邪悪な笑顔で見返していた。
「あーあ。だから言ったのに。それは泰斗キックのショートカットだ。鳴らせばキック。わかりやすいだろ?」
そして、憐れな男二人の悲鳴がクロスベルに響き渡った。
絶対に笑ってはいけないシリーズ法
第二条
理不尽? いいえ、ケイジの趣味です