次回から本編に戻ります。突発シリアス注意です。
「さて、それじゃあそろそろお仕事しよっか」
病院に大型導力
「仕事って……今日は支援課の仕事は休みだって聞いてるよ?」
「えと、そういう名目で連れ出せって言われてるから」
「ああ……また、お尻の痛みと戦わなくちゃならないの……」
なのはは親友が明らかにドSに毒されていること、そして自分を助けてくれないという現実を呪う。隣にいたロイドが慰めているが、「フェイトちゃん、どっちかと言えばドMだったのに……」とか結構危ないことを言っている辺り、なかなか危険である。
「と、言うわけで。アルカンシェルに行こうか」
「フェイトちゃん、容赦ねぇな……」
そういうことになった。
ーーーーーーーー
「それで、依頼の内容はなんなんだ?」
アルカンシェルの前に着くと、ロイドが不意に思い出したようにそう呟く。
「えっと、まず始めに導力ラジオの収録があるから、その手伝い。それでその次にドキュメンタリー番組の収録兼記者会見があるから、それの警備だね」
「ラジオの収録と警備?」
「そうだよ」
変わらず笑顔なフェイトが若干恐ろしいものの、ロイド達は意を決してアルカンシェルへと入っていく。
アルカンシェルの中はいつもとは違って音楽も流れていなければ舞台特有の人が跳ね回ることによる微弱な震動もない、とても静かな空間が広がっていた。そして、玄関のカウンターの所を見ると、見知った顔がこちらに駆け寄って来るのが見えたのだった。
「リーシャ」
「いらっしゃい、みなさん」
側まで来ると、フェイトとはまた違う柔和な笑顔を見せるリーシャ。稽古終わりにシャワーを浴びた直後なのか、若干髪が湿っているのが見てとれる。
垂れてくる髪が鬱陶しいのか、リーシャが髪をかきあげて後ろに流す。その仕草がとても色っぽく、ランディはおろかロイドまでが見とれてしまっていた。
ちなみに、シオンは一足早くエリィに目を塞がれている。
「ふんっ」
「痛っ!?」
突然、なのはがロイドの足の小指を的確に踏みにじる。思わずなのはの方を見るロイドだが、当の彼女は拗ねたようにそっぽを向いていた。
「?」
「ふんっ」
「え? 何? 前が見えないんだけど?」
「シオンは見ちゃダメよ。刺激が強すぎるわ」
「……? えと……なんでこんなにカオスに?」
「あはは……リーシャ、ちょっとは気を使おうね?」
「?」
そんなこんなでカオスな状況になりながらも、フェイトがなんとか場をおさめてリーシャを加えた一同はホールに入っていく。
ホールの中は真っ暗で、光が一切入っていない。演劇用のホールなのだから当然と言えば当然なのだが、今は演劇の最中ではない。
そんなことを不思議に思いながらしばらく前へと進んで行くと、一階席に全員が足を踏み入れた辺りで突然スポットライトが舞台に降り注いだ。
「料理が美味しくなったなら」
「野菜の流通も増えてくる」
「「お料理、がんばるぞー!」」
『全員、アウトー』
『『『待てやぁぁぁぁぁ!!』』』
演劇ホールなだけあって、尻を叩く音が大変よく響く。
スポットライトに照らされたのは、エプロンを着たケイジとティオの二人だった。……ただし、ティオは明らかに無気力である。
もちろん、外野に待てと言われて待つ二人ではない。何せ、巷ではドS兄妹の名を欲しいがままにしている二人である。
「はい、本日も始まりましたー『お料理、がんばるぞー』のコーナーです。司会は俺、ケイジ・ルーンヴァルトと」
「ティオ・ルーンヴァルトでお送りします」
「さて、本日のゲストを早速紹介しましょう!」
簡単な挨拶が終わると、舞台袖から誰かがゆっくりと歩いてくる。
「リベール独身料理コンテスト12年連続優勝、リベール料理祭第17回、18回、23回優勝、彼氏にしたい女性士官14年連続優勝の肩書きを持つ……」
ピンと背筋を伸ばし、迷いのない足取りで舞台の中央に向かうその人物は……
「ユリア・シュバルツ准佐です」
そう、ユリアだった。
支援課一同の驚きの声をよそに、ユリアは舞台の中心に立つと、至って真面目な顔で支援課の方を見る。
「全国のアラサー女性諸君。婚期、諦めないで」
『全員アウトー』
「今ここで言うことか!?」
「吹くよ! そりゃあ吹くよ!」
ロイドとシオンがツッコミを入れるが、だからといって罰が無くなる訳でもない。二人仲良くしばかれてしまうのだった。
「さて、ユリ姉。今日のレシピはなんでしょう?」
「ああ。今日は……まぁ、作ってからのお楽しみ、ということにしようか」
客席で尻を押さえている支援課のことなど一切気にしないように番組を進めるケイジ達。その辺りは流石血が繋がっていなくても兄弟姉妹というだけあって無駄に高度な連係を見せる。
「では……まず、鰹節を削ります。ケイジ」
「はいよー」
「そしてその間に白米を器に盛ります。ティオ」
「ラジャーです」
次々と作業は進んでいくが、今出ているのは鰹節とご飯である。ご飯が丼に盛られているので丼ものであるのは間違いないだろうが、まだどんな料理になるかは予想がつかない。
「出来たぞユリ姉」
「お姉ちゃん、こっちもOKです」
「うむ。では……めんつゆを用意します」
ユリアはおもむろにめんつゆを取り出すと、それを開ける。周囲にまさか……という雰囲気が蔓延するが、やはりというか、ユリアはめんつゆをご飯にかけるとその上に鰹節を振りかけた。
「さぁ、ぶっかけご飯の完成だ」
『ロイド、ランディ、アウトー』
「男メシ……っ!」
「休みの日にたまにやるやつ……うおっ!?」
まさかの男メシ完成である。耐えきれなかったのか、二人が吹き出して餌食となってしまった。
「おっと! ここで出ました伝家の宝刀ぶっかけご飯!」
「お姉ちゃんはこれで3年連続優勝しましたからね。味は保障されてます」
『全員アウトー』
『『『料理なめんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!』』』
アルカンシェルに、スパァンという小気味いい音が響き渡った。
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「いったぁ……」
「本当に変化球ばっかりぶっこんで来やがって……」
ケイジ達が撤収した後、すぐにスタッフらしき人達が現れてセットを用意し始める。今では、完全に記者会見場が出来上がっていた。
それからしばらくすると、アルカンシェルの客席に記者達が続々と集まって来る。ロイド達も移動しようとしたのだが、気付いたら周りが記者だらけになっていたために動けなくなっていた。
そして、照明が落ちる。舞台の幕も同時に開くが、中は暗闇でまったく見えない。
『彼が、その人物と出会ったのは、彼が仕事と家庭の間で板挟みになり、精神的に追い詰められていた時だった』
「……ええ、彼には感謝しています。今の私がいるのは彼のお陰と言っても過言ではありません」
ナレーションの後、支援課もよく知っている人物の語り声が流れる。その声は、クロスベルが誇る遊撃士、風の剣聖アリオス・マクレインのものだった。
「アリオスさんの会見……?」
「ドキュメンタリーとしては、確かに色々経験ありそうだけど……」
真面目すぎて、怪しい。一同の心境はそれで一致していた。
だが、予想に反して番組は順調に進んでいく。ナレーションがアリオスと『彼』の関係を語り、アリオスがいかに『彼』に感謝しているのかを感慨深く語る。予想の斜め上な雰囲気に呆気にとられる支援課メンバー。
そして、とうとう終了予定の5分前になってしまう。
「ーーでは、最後にアリオスさんから感謝の言葉で締めくくりたいと思います」
「……私は、貴方に救われました。貴方が私の心の中での英雄です。だから、皆さんにも叫んでほしい、この言葉を」
アリオスはそこで一旦言葉を切る。そして、誰かがーー恐らくアリオスがーー舞台の真ん中に立つと、肉声で皆に「準備はいいか?」と訪ねると、深く息を吸い込む。
「ーーいんじょーーい!!」
『『みっしぃ!!!』』
『全員アウトー』
突然の大合唱の後、舞台の照明が一斉につく。
そこに写し出されたのは、ノリッノリでキレッキレにみっしぃダンスを踊る……顔だけ出るタイプのみっしぃの着ぐるみを着たアリオスだった。
『『…………』』
恐らく、言いたいことは一杯あるのだろう。支援課メンバーで顔を見合わせると、一致していたその言葉だけを紡ぎだす。
『『みっしぃを彼って呼ぶなよ!!?』』
アルカンシェルの舞台に、彼らの絶叫と悲鳴が吸い込まれていった。