英雄伝説・空の軌跡~銀の守護騎士~   作:黒やん

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『白烏』

「――鳳仙華!――閃華!」

 

鳳仙華でファンゴを薙払い、その隙を閃華で突き、 追加効果によってファンゴを葬る

 

横を見るとどうやらエステル達も終わったようで、 一瞬呆けていたが、すぐにこっちに駆けつける

 

「ば、馬鹿な…私の可愛い番犬達が…貴様ら、よ くもやってくれたな!」

 

エステルもヨシュアも何か言いたげだったが、すぐ にダルモアに向き直り

 

「それはこっちの台詞だっての!」

 

「遊撃士協会規約に基づきあなたを現行犯で逮捕 します。抵抗しない方が身のためですよ」

 

しかし、ダルモアは俯いて震えるだけで返事は無い

 

再度ヨシュアが投降を促そうとしたその時

 

「ふ…ふふ…こうなっては仕方ない。奥の手を使 わせてもらうぞ!」

 

ダルモアが喚き、懐から杖を取り出す

 

あれは…マズい!!

 

「全員早く逃げろォ!!」

 

「え!?」

 

「遅いわ!『時よ、凍えよ!』」

 

ダルモアがそう唱えた瞬間、俺達は金縛りにあった ようにその場から動けなくなる

 

「クソ…まさかそんなモンを持ってやがるとは… 」

 

「ほう…これを知っていたか。賢しい事だな」

 

「な、何なのよこれ!?」

 

「身体が動かない…」

 

古代遺物(アーティファクト)…ゼムリアの遺産。古代遺物一つで国 を滅ぼす物さえある。古の技術の結晶…アレは多分 《封じの宝杖》と呼ばれるモンだ」

 

「そこまで知っていたか…まさかとは思うが七耀 教会の者か?」

 

「…さあな。仮にそうだとして、お前に教える訳 が無いだろう?」

 

「それもそうだ…なら、危険な芽は早めに摘み取 らねばな」

 

ダルモアが再び懐から拳銃を取り出す

 

「なっ…」

 

「拳銃!?」

 

驚くエステルとクローゼ。ヨシュアは無言でダルモ アを睨み付ける

 

「先ずは目障りな小僧からだ…」

 

「や、やめなさい!ケイジに手をだしたら許しま せん!」

 

クローゼが叫ぶが、ダルモアは毛ほども気にかけず に俺に近寄り、眉間に拳銃を押し当てる

 

「どうだ?怖いか?恐ろしいか?今すぐ土下座し て命乞いをするのなら助けてやらん事もないぞ?ま ぁ、《封じの宝杖》で指一本動かせないだろうがな ぁ!ふははははは!!」

 

絶対的優位に立ち、勝利を確信したのか、余裕の表 情で語りかけてくるダルモア

 

「はあ…アホだろお前」

 

「何だと?」

 

「アホかって言ったんだよ。ハゲが」

 

「貴様ァ!口を慎め!この状況を理解しているの か!?」

 

「…むしろお前が理解してんのか?お前の切り札 …ちょっとずつ消えていってんのによ」

 

「何!?」

 

ダルモアが慌てて封じの宝杖に目を向けると、封じ の宝杖の先に黒い雷がついていて、少しずつ、だが 確実に封じの宝杖を消滅させていっている

 

「な、なんだこの雷は!?」

 

「『天照』…ま、アレだ。切り札は最後までとっ ておくもんだよ」

 

ダルモアが顔を上げた時には、既に俺の渾身の一撃 (拳)が顔面に突き刺さっていた

 

「ぐはっ……」

 

「「………(ポカーン)」」

 

「………ってケイジ!早くダルモアを捕まえないと !」

 

「は?…………あ!」

 

完全に忘れてた

 

「…!!思い出した…!黒髪に変質する紅い瞳に ルーンヴァルト姓…かなうわけが無い!!」

 

ダルモアが叫んで逃げ出す

 

どうやら隠し扉があったようで壁が開き、そこから ダルモアが逃げ出す

 

「チッ…」

 

「舌打ちしてないで早く追うよ!」

 

「ケイジ早く!」

 

「わかってるよ…」

 

エステルはとっくにダルモアを追いかけているよう だ…せっかちな

 

―――――

 

隠し通路を抜けると、小さな船着場に出た

 

「あ!ヨシュア!」

 

「エステル!ダルモアは!?」

 

エステルは無言で指を指す

 

その方向を見ると、ヨットに乗って逃げているダル モアがいた

 

「ヨットまで用意してたか…」

 

「良いから早く乗って!」

 

言われて振り返ると、既に三人がボートに乗ってい た

 

「…もちょっと早く声掛けろよ…」

 

―――――

 

「ふう…このままだと、もうリベールには居られ んな…」

 

ダルモアは呟く。何故こうなってしまったのかと

 

秘密裏に孤児院を襲撃し、その罪を目障りな不良共 に押し付け、心優しい市長を演じつつ、何の疑問も 後腐れもなく別荘を建てて大金を手に入れる…

 

ただそれだけ。ただそれだけで借金を返す事ができ る。相手がよければ、浮いた金で相場にリベンジも できる…

 

そう考えていた

 

…あの遊撃士達と一人の男が来るまでは

 

「まさかかの《白烏》(びゃくう)が王立学園の 生徒だったとは…」

 

つい言葉に出してしまう

 

それだけ衝撃が大きかったのだ

 

「やれやれ…奴に見つかったのなら、やはり一度 『奴ら』をたよ…!」

 

ダルモアはそこまで来てようやく後ろの影に気づく

 

「くっ…しつこい遊撃士風情が…」

 

「大人しく捕まった方がいいんじゃねぇか?」

 

「逃がしません…!」

 

「くそっ!」

 

ダルモアはそう言うと、ヨットからマシンガンを取 り出し、ケイジ達が乗っているボートに向けて撃ち 始めた

 

「げっ。マシンガンなんざ持ってたのかよ!?」

 

「任せなさい!」

 

言うが早いかエステルがボートの船首に立ち、棒術 具を回転させて弾丸を弾く

 

「おぉぉー」

 

「ふっふーん!ザッとこんなもんよ!」

 

やたらと胸を張って誇るエステル

 

そしてもう少しでボートがヨットに追いつくという 所で…

 

追い風が吹き始めた

 

「な!?追い風!?」

 

「やべーな」

 

「ヨットは風が吹けばボートより格段に早くなる …このままだと逃げられる!」

 

「あ、あんですってー!?」

 

はい、あんですっていただきましたー

 

「こんな時にボケるな!」

 

「大丈夫だって。絶対…いや、多分。きっと。恐 らく」

 

「…だんだん信用が無くなっていくんだけど」

 

そんな緊張感のない会話をしていた時、不意に大き な影が俺達の上におりた

 

「やっとご到着か…」

 

水上に降り立つは、一隻の飛空挺

 

白き翼の名を冠する純白の機体

 

――アルセイユ

 

「なぁ!?王国軍!?まさか…こんなに早く来れ るはずが…」

 

見る間にダルモアを包囲し、逮捕する王国軍親衛隊 の面々

 

逮捕が済んだ後、全員が船のへりに一列で並び、そ の内の一人が前へ出てくる

 

「…ルーンヴァルト大佐。ダルモア市長汚職の証 拠掴み、ご苦労様でした」

 

「ああ。報告は後日、女王陛下に直接行う」

 

「わかりました。そのように伝えます」

 

ユリ姉と業務連絡を終えると…

 

「た、大佐ぁー!?」

 

ついにエステルが爆発した

 

「そうか…何か引っかかってると思っていたんだ …」

 

「その様子だとヨシュアは俺を知ってるらしいな 」

 

「まあね… ――ケイジ・ルーンヴァルト。リベール女王の懐刀 。百日戦没にて多大な功績をあげ、電撃作戦にも参 加。常に前線に在り続ける姿は味方に希望を、敵に 絶望を与え続けた。その姿から敵味方問わずこう呼 ばれた…

 

《白烏》(びゃくう)…味方を支えし純白き(しろ き)翼を掲げる悪魔、と」


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